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ダンジョンの同居人  作者: まる
ダンジョンと
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新しい仲間たち

新しい仲間たち





ジャニがいない間に、フェブはただ一人ダンジョンの強化に勤しんでいた。


晴れてDPを自由に使う事を許され、大量にあるDPにも目が眩み、好きなように階層を増やしては、普通の魔物だけでなくボスクラスまで交換していた。


訓練にも余念が無く、魔物同士を戦わせるなど充実した毎日を送っていた。


そして念願のお手伝いさんの夢を叶えるべく、ついに超高性能なホムンクルスとオートマトンと一体ずつと交換してしまう。

超が付く高性能だけあって、複数の追加オプションとオプションで選べるスキルが格段に増えており、高い戦闘力を持ったメイドに仕上がる。


更にホムンクルスをメイド長に、オートマトンを教育係として、少し性能の劣るホムンクルスとオートマトンをDPで交換し、高い教育を施すに至る。




「なるほど。そういう経緯があったのか」

『驚いた? 驚いたでしょう』


メイド長に差し出された飲み物を受け取りながらそう呟く。

ゲラゲラと笑い転げるイメージが伝わってくる。


「俺も長い事ダンジョンを留守にしていたから文句は言えないが、お前やり過ぎだ」


フェブはサプライズ大成功と喜び、拍手をするメイドたち。


ちなみに飲み物は、ジャニの部屋の台所を使用したのでは無く、自然豊かな別荘地オプションにある、メイド専用の階層の屋敷で用意して、持ってきているとの事だ。


「必要なら使ってもいいと言ったが、無駄使いするなとも・・」

『あなたが戻ってこなかった場合』


イメージが無くとも、真剣さが伝わってくる口調で被せてくる。


『今のままでは、ワタシ一人になった場合、何もできないと考えたわ』

「・・・」

『高性能ならワタシに助言が出来る、ホムンクルスやオートマトンにならないか。

その者たちから教育を受けた者は、助言出来る様になるのではないか。

そう考えたの』

「そっか・・・」


ただ単に浪費したのではなく、長期の不在の中で考えついた方法なのだろう。


『新しく作った階層には、彼らの助言を取り入れてみたものがあるわ』

「悪かったよ。DPは好きなだけ使ってくれ。

結構な臨時収入が入ったから、俺の方はしばらく気にしなくていい」

『・・ありがとう』


長期不在は、DPの所有権を完全にフェブへと移行させる事となった。


実はこのやり取り、フェブがメイドたちと相談して、全てのDPの権利を得るための一芝居だったのだ。

しかし、こうも簡単に騙されるジャニが、あまりにお人よし過ぎて逆に心配になる。






不在の間の出来事を一通り聞き終えると、今度は町や村での出来事を話す。


『つまりダンジョンの最終防衛ラインである、薬作りの拠点まで冒険者と村人に侵入を許した挙句に、更にヤバそうな冒険者にまで目を付けられてしまった訳ね』

「そういう事・・になるか」


他者から改めて聞いてみると、不味い状態が際立っている。


『どうするつもり?』

「うーん。どんな事をしたらいいか考え付かない」


深く溜息を吐くと、良いアイデアがあると話を持ちかけられる。


『ワタシたちの意見を聞いてみない?』

「意見? キミ・・たち?」


そういえばダンジョン作りの際に、助言を貰っていたと聞いた覚えがある。


『あなたたち、何か意見は無いかしら?』

「前提としてダンジョンの強化は継続。外部交渉の助言でよろしいですか?」


ホムンクルスのメイド長が状況の確認をしてくる。


「今までやってきた事を知っているのか?」

『もちろん、話しておいたわよ』

「なるほど。その前提で問題ないよ」


長期不在の際に、今までの事とこれからの事を相談して来たらしい。


「愚策とは存じますが、三つ申し上げます」

「三つ? そんなにあるんだ」

『話してみて』


ダンジョンに作られた魔物が意見を持つ事と、三つもあると言う二重の驚きだ。


「第一に、他方の冒険者と懇意になる」

「むっ・・。続けてくれ」


彼女からの言葉に驚き、深く考え始める。


「次に拠点まで来させないと言う目的は手遅れ。ならば拠点で食い止めます」

「例えばどんな方法で?」

「中級の薬を製造出来る様にします」

「なっ!? それは・・・」


無理と言おうとするが、拠点まで来させるつもりならばと考え直す。


「最後にダンジョンを移動します」

「!? それって」

「出来るだけ村や町から遠い所にダンジョンを作り直します。ジャニ様の部屋を薬作りの拠点の地下に移動し、このダンジョンを放棄します」

「放棄は不味い。魔物たちの大氾濫が起こってしまう可能性がある」


コアによって制御されていた魔物が、自由となってしまえばどうなるか分からない。


「サブコアに管理を目標に、その前に一度でも侵入者があれば放棄という事では」

「そこは、やむを得ないか・・」


彼女たちの思い切った作戦に舌を巻く。


『ニヒヒッ。どう、うちの娘たちは? とても優秀でしょう』


ジャニの驚いた表情に、満足気に頷くイメージが伝わってくる。


「勿体ないお言葉です」

「そうだね。やってみる価値はある」


中級の薬は、冒険者を拠点周辺で留め、開拓も近づけない様に出来るかもしれない。


気鋭の新人パーティと懇意になる事で、より多くの情報を得られるだろう。

コントロールとまで言わなくても、ほんの少しだけ軌道を替えられるかもしれない。


ダンジョンの移動に関しては、拠点から遠ざけるのに越した事は無い。


「確かにこの娘たちは優秀だね」

『そうでしょう、そうでしょう』


褒められてお辞儀するメイドたちを見ながらしきりに感心する。




折角、新たな方針が決まったのだから、時間を無駄にせず取り掛かる事にする。


「俺は中級の薬の勉強をして来ないといけないんだな」

「加えてお調べいただきたい事がございます」

『どんな事かしら?』

「周辺の地理を隈なく調べ、ダンジョンを移動させるに適した場所を策定願います」

「確かに考え無しに移動させる訳にはいかないよな」


ダンジョンの移動と言えば、大きな問題があった事を思い出す。


「しかしどうやってダンジョンの移動先を伝えたらいい?

前言っていたみたいにカンで移動したら大変な事になるぞ」

「その点につきましては、問題が解決されております」

「どういう事だ?」

『ワタシから説明するね。

この娘たちを生む時、オプションでダンジョンの外に出られるって言うのがあったのよ』

「なっ!?」


魔物がダンジョンの外で、コアの管理を受けられると言う事実に驚きを隠せない。


『ダンジョンを出ても、ワタシと繋がっているから正確な位置が特定出来るわ』

「良くそんなオプションがあったもんだ」

『まぁ殆ど偶然なんだけど、拠点との連絡係って出来ないかなーって考えていたのよ。

そうしたら、この娘たちのスキルオプションにあったって訳ね。』


複数のオプションとオプションを増やせる程の高性能な魔物でないとダメという事か。


「そっか。問題が解決しているなら、後は実行あるのみだな」

「僭越ながら、最初にジャニ様のお部屋の移動を考えられた方がよろしいかと」

『どうしてそう思うの?』

「素材集めと称しても、拠点とダンジョンの往復は、いずれ事を露呈させると考えます」

「なるほど。冒険者や村人も拠点に来ているからね」


幾ら回り道をしても、誰かが傍に居ればダンジョンに行きにくくなる。


『それなら、まずダンジョンから出られる魔物を生み出す事が最優先ね』

「直ぐに薬作りの拠点へ向かうから、大至急頼むよ」

『・・今日一日は疲れを取った方が良くないかしら?』


不自然な優しさに、普通なら聞き逃してしまう何かを感じ取る。


「今の間は何だ? まさかDPが残ってないのか?」

『そういう難しい話は分からないかな・・なんちゃって』


かえって怒りを買うような誤魔化し方に力が抜ける。


「今さっき話し合ったように、これからかなりのDPが必要になる。

ましてや放棄する場所に、DPを注ぐ理由はないぞ」

「フェブ様、ダンジョンの強化の際には、私たちにもお声をお掛け下さい」

『はい。すみませんでした』


同居人と部下から突き上げられて凹んでしまう。


「まぁ、それならばお言葉に甘えて休息するとしよう」

『じゃあ出来たら呼ぶから、それまで自由という事で』

「同胞を作る前に、一言お声を頂けます様に」

『はい、分かりました』


再度部下に釘を刺され、項垂れるイメージが伝わってくる。




それから二日後、外出できるオートマトンが生み出された事が伝えられる。

時間が掛かったのは、DPが不足してた訳では無く、メイドたちからまずホムンクルスかオートマトンかから始まり、どのようなオプションにすべきかなど念入りにチェックされたためである。

実に優秀なフェブの部下たちである。


『これは考えていたのと、ちょっと違う・・かな?』


きっちりと意見を言える優秀なメイドたちは、忠実過ぎるようであった。




外出できるメイドを連れて、薬作りの拠点に戻る。


「地下室があるのですね」

「薬作りで地下の部屋が必要になるかもって、作っておいてくれたんだ」

「それはちょうど良う御座いましたね」


部屋を移動する前に、気になった事を聞いてみる。


「一つ聞いて貰って欲しいんだけど、部屋を移動すると元の場所はどうなるんだ?」

「承知しました。確認致します」


そういうと目を瞑り、時折頷いている。


「分かりました。フェブ様のお言葉をですが、

『場所がそっくり入れ替わるから、土の中に移ったなら元の場所は土で埋まるわ』

との事です」

「了解、特に問題は無さそうだね。では部屋移動お願い」

「畏まりました」


手を伸ばして壁に触り、再び目を瞑る。しばらくして目を開けるとこちらを向く。


「部屋の移動が終了しました。此処を2グラドゥス(160cm)程掘って下さい」

「了解。やってみよう」


土の精霊を【召喚】して、指定された距離を掘ると、ポコッと言う感じで穴が開く。


「おぉ! 穴が繋がったぞ。直接部屋じゃなくて階段ごと来たのか」


大急ぎで階段を駆け下りると、フェブに声を掛ける。


「フェブ聞こえるか。こっちは拠点と繋がったぞ」

『ええ、今まで通り聞こえるわ。あなたもご苦労様、こっちに戻すわね』


傍に控えていたメイドに声を掛けると、腰を深く折って一礼している間に消える。


ダンジョンで産まれた魔物は、ダンジョン内を自由に行き来させる事が出来る。


「後はこの穴をどうやって隠すかだが・・」

『そっちはきちんとやっておいてよね』


分かってると、木の板と空箱を出して貰い、塞ぐように置いて一時凌ぎをする。


「このまま近隣の地理の調査と、中級の薬の件を町に話してくる」

『了解。こっちは新しいダンジョンの構成をみんなと相談しておくわ』


ジャニの部屋の移動が終わると、ダンジョンの大移動の準備の開始となる。






中級の薬の勉強の事を相談に、町へ急ぎ足で向かう。

そして町の城門の所で、気鋭の新人パーティとバッタリと会ってしまう。


「よう行商人。そんなに慌ててまた何かあったか?」


冗談でも冗談では済まない挨拶に、苦笑いを浮かべて答える。


「いきなりご挨拶ですね。野暮用がありまして」

「野暮用ってなんだ?」


薬作りの拠点が燃えてしまった時、町や村のみんなに助けられた礼がしたい事を話す。


「野盗の件は、まぁどうにもならない事だし置いておいて。

家を建てて貰ったって言うのは、お前が行商で町や村を助けたからだろう。

みんな感謝してるから手伝ってくれたんだ、気にしなくていいんじゃねの?」

「そうかもしれませんが・・。いいえ、そうではありません。

やはりこの開拓地で時間を割けば、それだけ後々響くと思います。

何か出来る事はお返ししたいと思った訳です」

「うーん、そこまで言うんなら好きにすればとしか言えねぇな」


みんなの感謝にお礼をしたいと言うジャニを眩しそうに見る。


「例えばどんな事をしようと思っているんだ」

「出来るか分かりませんけど、中級の薬を作れるようになろうかと」


中級以上の薬は、主都や大きな町から仕入れている状況だ。


「ほぉ、それは大きく出たな。

でも出来る様になれば、村や町にとって、とてつもない益になるぞ」


非常時に備えての蓄えから、常時手に入るという安心感は大きい


「しかしかなり金がかかるんじゃないのか?」

「野盗の件で臨時収入がありましたから」

「自分のためじゃなくて、村と街のため・・太っ腹だね」


金額の大小では無く、生きていくのに精いっぱいの状態で出来る話では無い。


「そうやってこの魔物たちも買って、此処まで旅してきましたよ」

「そういえばそうだったな」


住み慣れた町を、持っている全てを置いて旅に出る事は容易では無い。

気鋭の新人のメンバーたちも開拓村の出身だから分かる方だ。


「そういやぁ、きちんと挨拶したことが無かったな。

このパーティのリーダーをしているジューラだ。剣士を勉強中だ。他の三人の内二人が同じく剣士で、もう一人が弓士だ。」


リーダーであるジューラから、メンバーそれぞれの紹介を受ける。


「この四名でパーティ『フォール』を組んでいる」


その後、気鋭の新人改め、パーティ『フォール』のメンバーの自己紹介を受ける。


「ジューラさんは、上位職を目指さないのですか?」

「うちらのメンバーにさん付けは要らねよ」

「ジューラはくそ真面目だから、適正職の剣士を極めてみたいんだって」

「なるほど、そういう事ですか」


他のメンバーの会話や、今までのジューラの態度から簡単に想像が出来て笑みが零れる。


「まぁそう言う事でこれからもよろしくな」

「分かりました。これからもよろしくお願いします、皆さん」

「また何かあったらすぐに話してくれ」


そう言うと、フォールのメンバーは村へ巡回に向かう。


彼らを見送ると、中級の薬の話のため商業ギルドへと足を向ける。





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