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ダンジョンの同居人  作者: まる
ダンジョンと
16/40

VS不良パーティ

VS不良パーティ





今月の行商を終え、拠点で薬の素材整理、食事を済ませ一息つく。


「(気鋭の新人たちは、いつもより村の近くを巡回か・・

手を抜くような人たちじゃないし、俺を疑っているようにも思えなかったが)」


村を監視しているネストスパイダーでは、どう動いているかで精一杯だ。


知性の低い魔物は、何となく分かる位の念話と鳴き声で伝えてくるので尚更だ。


「(魔力代謝変換だけでなく、知性付与も出来ないかな・・)」




リトルウルフから狩りで獲物を捕らえたと連絡がある。


(グルゥ)

「(お疲れ様、じゃあ南西の村に移動して。えっと南西って・・、どう伝えれば・・?」

(グゥルゥ?)


知性の低い魔物に、遠距離での命令にこんな難点があったのかと思い知らされる。






村から急ぎ戻った古株組の報告を受け、町では村々へ警告の使いを走らせる。

三つのパーティが揃うと、緊急の対策会議を始める。


「西の村で犬、狼系の魔物の群れと思われる狩りの痕跡を見つけた」

「悪り。キチッと調べきれずに戻っちまって」


古株組に気鋭の新人組が謝罪する。


「限られた時間では仕方がない。気にするな」

「はん。これだから甘ちゃんたちはよ」

「何もしなかった者が言えるセリフでは無い」

「はぁ!? 俺らがサボったって言うのか」


直ぐに行動に移すさなかった不良組を、一睨みで黙らせる。


「対応手順に従って、村々には警戒するように伝達済みだ」


開拓村では常に危険が伴うため、万が一の対応方法が決められている。


「狩りには三匹程と思われるが、実際の群れの大きさは不明だ」

「移動したのか、周辺ではそれ以外の痕跡を見つける事が出来なかった」


移動している魔物を追跡するのは、容易では無く後手に回り易い。


「お前たちの報告を聞こう」

「俺たちの調査した方では、特に何らかの痕跡は見つけられなかった」

「俺様たちの方も特に変わった事は無かったぜ」


対応手順に沿って、今後の方針を決めて行く。


「手掛かりが少ない。今出来る事は、巡回の時間を延ばすか、頻繁に回るかとなるが」

「時間を掛けて調査させてくれ。出来るだけ深くまで行きたい」


気鋭の新人の願いに、不良組が噛み付いてくる。


「深くっても、そんなに時間も掛けてられねだろが」


どうも彼らからは、一つの村に長く居ると不都合がある様な雰囲気を感じる。


その最中、ギルド職員が会議室に飛び込んでくる。


「どうした?」

「南西の村の方から魔物を見たとの連絡が!」


奇しくも不良組の巡回したばかりの村であった。


「待てよ、ちゃんと巡回して何も無かったぜ」

「俺たちが行く。お前たちは魔物の移動を考え両隣の村へ向かえ」


古株組が、魔物の移動を懸念して二つのパーティに指示を出す。


気鋭の新人組は直ぐに村へ飛び出して行く。

不良組は、何やら言い訳がましい事を言いながら村へ向かって行った。




古株組が南西の村に着くと、おかしな気配に気付く。


「おいおい、これに気付かなかったのか?」

「此処まで近づいていなかったかもな」

「いくぞ」


直ぐに魔物の気配を追って森の中へ入っていく。




「威嚇だけして。攻撃されたら倒していいから。あっヤバそうなら逃げて」

(グル!)

『冒険者にリトルウルフ見つかっちゃったの?』


拠点からダンジョンに戻ると、ネストスパイダーから冒険者たちが村に入った事、五人組が直ぐに村の奥に向かった事が伝わる。


「まぁ見つかるような位置に待機はさせたんだけど」

『勝てると思う?』

「無理だな。逃げるので精一杯・・って、倒された」

『へぇっ!? もう?』


村の周辺の異常に気付いてから殲滅まで、信じられないスピードであった。


「ネストスパイダーも気付かれてるかも」

『これが冒険者・・。あなたの言ってた事を理解したわ』


実際に見た訳では無いが、ネストスパイダーの情報だけでも凄さを思い知る。




時間短縮のため、リトルウルフの死体を村に持ち帰り処分を頼むと町へと帰る。

三つのパーティが揃うと、結果報告と今後について話し合う。


「五匹は倒したが、その他は不明だ」

「今まで通りのローテーションで巡回、村には引き続き警戒をさせる」


古株組の決定に、気鋭の新人組が口を挟む。


「巡回の時間を増やしてくれ。出来るだけ奥まで見たい」

「駄目だ。一か所に時間を掛けるより、各村を回る事を優先にする」

「・・・了解」


悔しそうな顔をするが、素直に受け入れる。不良組が茶々を入れてくる。


「お前たちじゃどんなに時間を掛けたって、何も見つけられね」

「ならお前たちは動け」

「あぁっ!?」


怒りをぶつけるが、厳しい顔で受け流されてしまう。


「行商人の魔物の助言には直ぐに行動しろ。有益だ」

「分かった」

「ふん。あんなクズの助言に従わなくたって・・ッ、分かったよ」


鋭い視線を受けてしぶしぶと了承する。

三つのパーティのローテーションを確認し、それぞれの役割へと戻る。




不良組は、商業ギルドの窓口を睨み付ける。

オウグがにこやかにほほ笑んでいる。


「あのクソ行商人、俺様たちに恥をかかせやがって・・。思い知らせてやる」






行商で各村を回ると古株と気鋭の新人に、町では冒険者ギルドから礼を言われ恐縮する。


「こんなに礼を言われるような事はしてないのですがね」

「少なくとも被害を出さずに済んだ事に一役買っていますから」


オウグと荷を確認しながら話をする。


「これからもよろしく的な所もあるのでしょう」

「いやいや、勘弁してくださいよ。こいつらが居ないと商売あがったりなんですから、何かあれば逃げますからね」

「それでいいと思いますよ」


商人に戦闘を期待されても困る。それこそ範囲外の仕事だ。期待しない様に釘を刺す。


注文の品々を手に入れると、村へと向かって納品に出かけていく。




最後の東の村で一泊する頃、三人組が東の村に近づく知らせを受ける。


いつも通りに村を出て拠点に向かい、三人組の追跡に時折魔物たちを振り返らせる。


「クソ忌々しい魔物だ。この距離でも気づいてやがる」

「流石に人間と魔物の違いに戸惑ってるみたいだぜ」


ジャニたちが拠点に着くと、そのまま監視をする。外出した隙を狙って火をかける。


途端に一匹の犬の魔物が三人組に襲い掛かり、手傷を負わせ逃げる。




「運搬用だけあって、戦闘はからっきしだったな」

「剣を振り回しただけで、逃げて行きやがった」


傷の治療を行って、去っていく三人組。


それを別の方から見ていたジャニが呟く。


「やれやれこうも事がうまく運ぶとは思わなかったよ。キミもご苦労様」


先程戦闘をした魔物の頭を撫でてやる。




数日後、傷が治りが悪く、全身に違和感を抱きながら戻ると、ギルド会館が騒がしい。

どうやら例の行商人が騒いでいる様だ。受付の女性職員に聞く。


「どうした? なんかあったのか?」

「どうも野盗が現れたようです」

「野盗だぁ?」


気付かれていない事に内心ほくそ笑む。かなり馬鹿にした感じで声を掛ける。


「おめぇよぉ。少し有名になったからって大騒ぎしすぎじゃねのか」

「黙れ、今事情を聴いている」


フンと鼻で笑い肩を竦めると、ヤレヤレと言葉を続ける。


「村から離れて住んでるんだ、野盗にも襲われるさ。そもそも野盗なのかよ」

「黙れと言っている」


不良組の言葉を遮ろうとする古株組をジャニが制する。


「いえ、その通りです。村から離れている以上は自己責任です」

「けっけっ。分かっているじゃねぇか」


ジャニは一応、不良組の言い分が正しい事を認める。


「ただ野盗が居たという事は、村や町に何らかの被害が出る可能性があります」

「だから事情を聞いている。身贔屓では無い」

「はいはい、そうですか」


不良組の小馬鹿にした態度を受け流すと、話の続きを聞かれる。


「では続きを」

「はい。うちの魔物は、他の魔物や野獣を見逃しません。あれだけ近づかせたのは人間だったからだと考えています」

「だからあの魔物どもはぶっ壊れてるんだよ」


ジャニは問題パーティを一度、視線を向け、ムッとしたフリをして話を続ける。


「そうかもしれません。もし近隣で人が死んでいれば確認をしてみて下さい」

「確認とは?」

「魔物の爪に血の跡がありました」

「その傷があれば野盗であると?」


そして爆弾を落とす。


「それから解毒剤を求める人が居れば」

「解毒剤? どういう事かな?」

「爪には対魔物用の毒が塗ってありました」

「!?」


不良組が、それぞれ違う場所を手で押さえ聞いてくる。


「どんな毒だ?」

「魔物には即効性で、傷を塞がりにくくしつつ麻痺させます」

「人間にはどうなんだって聞いてんだよ!」

「何故、そんなに大声をあげられるのですか? それよりどうしてあなた方が口を挟むのですか?」


突然の大声に顔を顰めながら、大声の理由を尋ねる。


「こいつらはぶっ壊れてるんだから、いつ襲われるかわかんねぇだろうが」

「・・人間用では無いのでどのような効果は。似た様な症状だとは思いますが」


ぶっ壊れと言われて怒っているぞアピールの表情で答える。


「チッ、使えね」

「ぶっ壊れと言われるのは心外ですが、専用の解毒剤を冒険者ギルドに一つ、商業ギルドに一つお渡ししておきます。

市販の解毒剤では、どの程度効果があるのか分かりませんので」


そういってそれぞれの職員に解毒剤を渡しておく。


「一人に一つなんだろう? 何で二つしかねぇんだよ。街や村中に配れよ」

「燃えてしまいましたので」


探るような表情で聞いてくる不良組に、にシレッと答える。


「解毒剤の購入者を確認。野盗の警告を各村に通達を」

「リトルウルフに加えて野盗とは。やれやれ」


古株組の指示に、冒険者ギルドの職員が溜息を吐く。


「そんな事を言ってる場合では。俺たちも直ぐに巡回します」


気鋭の新人組が、ギルド職員を窘めると直ぐに出発の準備に取り掛かる。


「後手はやむを得ん。村人を安心させるためにも直ぐに巡回へ向かえ」


古株組も直ぐに行動を起こすが、不良組はしばらく解毒剤を見ていた。




そして野盗の事件は、直ぐに片付いてしまう。


毒の恐怖に負けた、不良組の一人がギルド会館に薬を盗みに入り捕まると、後は残りの二人も芋づる式に捕まる事になる。




町にある雑貨店などを回り、テントを物色していたジャニも呼び出しを受ける。


冒険者ギルドで野盗として、問題パーティの三人組が捕まった事の説明を受ける。


三人は犯罪奴隷となり、主都の方に移され、劣悪な環境での永久労役となる。




ジャニは奴隷落ちした三人の賠償金と、管理していた町長とギルドからの謝罪金、合わせて100アウレウスを受け取る事になった。



アウレウスとは金貨の単位で、主に奴隷や邸宅などの高価な物の売買に使われる。


奴隷は大陸共通で基本価格が決められている。


有用奴隷の上限とされる年齢、60歳から現在の年齢を引いた物に、一年の平均収入を掛けたものである。

これに奴隷商人による希少価値や、付加価値などが加減される。

ちなみにこの計算では、一番安い奴隷で8デナリウスとなるが、これを1アウレウスとしている。




余りの高額に手元に置いておくのが怖くなり、そのままギルドへ預けてしまう。


また商業ギルドの計らいで、火事にあった拠点後に、家を建ててもらえる事になった。

冒険者ギルドから、その間の警備を冒険者が行ってくれる申し出もあった。


そして近隣の村からの助けもあり、わずか数日で新しい拠点が出来あがてしまう。


拠点建築に携わってくれた人たちに礼を言い、彼らを見送る。


最後に古株組が声を掛けてくる。


「迷惑をかけた」

「いえいえ、こんな立派な家まで建てて頂いて」


ニコニコと言葉を交わす中、ズバッと切り込んでくる。


「あいつらの追跡を知っていたな」

「・・ええ、もちろん」


全く表情を変える事無く答えると、古株組たちの相手の目が細くなる。


「何故?」

「嵌めるつもりはありませんでしたよ?」


何故と聞かれて、追跡ではなく嵌めた事を答えると、ホォと相手の表情がニヤリと崩れる。


「自分は生きるためにずっと逃げてきました。

あの時だってずっと隠れていて、多少の事には目を瞑るつもりでした。

流石に火を付けられた時には、痛い目にあってもらおうと思いましたがね」

「殺す気は?」


一言呟くと、ニヤリとした表情が更に深い笑みへと変わる。

ジャニの周囲に居たグレートバーナードが唸り声を上げる。


「ありません。と言うより出来ませんよ。

こちらの魔物は戦闘に不向きで、それ相応の犠牲を払えば可能でしたが、少なくとも魔物は全滅覚悟でしょう。

毒だって、ゆっくり養生すれば、薬なんか不要な物でしたし」

「ふむ」


魔物たちが威嚇する程の殺気が滲み出ていたが、フッと消える。


「今はそういう事にしておこう」

「これ以上は何も出ませんが・・」


そのまま行ってしまう彼らを、表情を変える事無く答え見送る。




古株組は振り返る事なくメンバーに伝える。


「どれだけ伝手、時間を使ってでも調べ上げろ」

「はいよ」




見えなくなるまで見送ると、その場に崩れ落ちる。


「あんなに殺気立たなくても・・。絶対に殺されると思った」


詰めていた息を深く吐き出すと、しばらくその場に寝転んでしまう。


魔物たちが、傍によって心配そうに顔を擦り付けてくるのを撫でる。






新築の拠点は、片付ける物などほとんど無いが、ある程度生活感を出ために、煮炊きなどして、ダンジョンへと向かう。


「かなり時間が経っちまったから怒っているかな・・」


事件に関わる一連で、実に約半月ほど時間が流れていた。


冒険者たちの事で気が重いのに、ますます気が重くなる。


「えっ!?」


ダンジョンへの階段を降り、倉庫となった最初の部屋に入ると美しい女性たちが居た。


「えっ? えっ?」 


揃いの黒のワンピースに、白いエプロン、ヘッドドレス姿である。


「えっ? 何? 何?」


怯え、恐怖、混乱、それでいて喜びのような感情が入り混じり後ずさる。


「「『おかえりなさいませ。ご主人様』」」


左右一列に並んだ10名の、そうメイドさんたちが深くお辞儀をする。


「はぁ!?」





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