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ダンジョンの同居人  作者: まる
ダンジョンと
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冒険者に会う

冒険者に会う





オウグにしては珍しく、荷物を確認させて欲しいと言う。


「すみません、どうも在庫の数が合わず、再確認させていただいてもよろしいですか?」

「それは構いません」


それこそ山の様な要求品だったのだ、どこかで抜けが発生してしまったのだろう。


一旦荷物を解くと中身を確認しながら、小声で話しかけられる。


「冒険者ギルドで、冒険者の事を聞かれていましたね」

「ええ、聞きましたけど・・、それが何か?」


やはりと言うべきか、お互いに聞き耳を立てている様である。


「向こうでは表面だけ、もしくは建前だけ話して終わりという可能性がありますので。

噂ですが、3パーティある内の1パーティで良い噂を聞きません」


商業ギルドで分かっている裏事情を話してくれるらしい。


「どんな事ですか?」

「3パーティの内一つは、町長の古くからの知り合いの冒険者です。

かなり信頼の置ける人物で実力も確かな方々です」

「へぇ、古株といった所ですか」


正式なパーティ名があるだろうが、この際古株組としよう。


「そうですね。残り二つの内一つは気鋭の新人といった所で、出身が開拓村だったらしく、開拓事業の専属冒険者を募集した際、に真っ先に名乗りを挙げました」

「なるほど、気鋭の新人ですか」」


こっちもそのまま気鋭の新人組としてしまおう。


「残りの一つですが、どうやらランク上げのため無理な依頼を受け、繰り返し失敗して、そろそろ冒険者の資格停止になろうとした時に、開拓事業の専属冒険者の募集を見つけ飛びついた様です」


開拓事業には危険が伴うにも拘らず、立場を守るために受けたという事か。


「かなり問題があるように聞こえますが?」

「他のパーティとは契約で折り合いが付かず。やむを得ず彼らを雇った様です」


確かに専属とは言え2パーティだけで、開拓地周辺の町や村を見る事は無理だ。


「依頼の失敗を繰り返しを隠しながら、自分たちの実力を見抜けない盆暗どもと言い触らしては、もっと上位ランクになれる存在なんだ、わざわざこっちに来てやったんだと豪語しています」


開拓当初にあったやり取りの事を話してくれる、もう不良組で決定だ。


「以前、冒険者ギルドに行商の代行をお願いしないのか聞かれましたよね」

「ええ、そんな話もありましたが、それが何か?」


いまさらその話に繋がってくるとは思ってもみなかった。


「そのパーティに行商は商業ギルドの役割だ。冒険者ギルドがやるなら、そんなギルド要らないだろう。

配達は低ランクの街中の仕事だ、護衛という依頼ならやってやると言われましてね」

「その時他の2パーティはどうだったんですか?」

「開拓事業でもあるし、村の発展には引き受けてもいいのではないかと」


開拓事業の専属と言う範囲をどう捉えるかで判断が分かれてしまう。


冒険者はサービスでは無い。足並みを揃えないと自分たちの首を絞めるのは確かだ。


「依頼を出すにしても、他の2パーティが受けないように横槍を入れまして、結局折り合いが付かず今に至ります」

「そんな事が出来るのですか?」

「冒険者ギルドの監査に報告すると。依頼に関しては正論でしたから」

「・・・・」


確かに言っている事は正しいのだろうが、どうして他者の邪魔までするのか理解に苦しむ。




話が終わると荷を戻し、村へ向かって出発しようとした時、再び声が掛かる。


会った事の無い50歳代の男性を先頭に五人組で、先ほどの話が思い起こされる。


「すまないが、行商人のジャニ殿で間違いないか?」

「そうですが、あなた方は?」

「挨拶が遅れた。この町で専属の冒険者をしている者で・・・」


もしやと思ったが、予想通り古株のパーティだったようだ。


「あなた方がそうでしたか。是非お会いしたかった」

「ギルドに戻って君の事を聞いた。間に合えばと思って追ってみたのだ」

「それはお手数をおかけしました」


冒険者ギルドから、会いたいと言っていた事を聞いて、わざわざ探してくれた様だ。


「われらが不甲斐ないばかりに、行商を押し付ける形になってしまった。申し訳無い」

「本来は薬を作って売るついでにと考えていたのですが、逆に仕事として成り立って感謝していますよ」

「そう言って貰えれば、こちらとしても肩の荷が下りる」


少し町や村の周辺の最新情報をやり取りして別れる。




町の外に出てしばらく進んで振り返ると、誰に言うでもなく呟く。


「あれでランクCの冒険者・・。冗談じゃない、あんな化け物たち相手に出来るか」


素人でも分かる程の気迫、威厳といった物が滲み出ていた。

会話の最中、おかしな動作や笑顔が作れている自信がなかった。


ジャニの知らない事であるが、専属の冒険者はランクアップが無い。

開拓当初から死線を乗り越えてているいる彼らの実力は、ランクAに近いだろう。




一方、古株のパーティの方でも似た様な事を考え話していた。


「あの行商人、何者だ?」

「二ノ領からの新天地を求めてきたらしい」

「その距離をソロでか? 魔物が居るとしてもかなりの実力があるだろう」


いくら大環状道を使ったとしても、ソロで長距離の移動には相応の力が必要だろう。


「それだけじゃねぇ、自惚れじゃ無いが、俺たちの威圧に笑顔だ」


ジャニも気付いた事だが、挨拶の間に無言の圧力を掛けていた様だ。


「作り笑いだろうさ」

「それでもだ。作り笑いして普通に会話していただけでも大したもんだ」

「調べるかい? 結構時間かかるよ」


あらゆる伝手を使えば調べる事は出来るが、物理的な距離は如何ともしがたい。


「いや。話の限りではそこまででは無い。行商は村々の生命線になるしな」

「尚のこと調べた方が良いんじゃないか?」


村の資材不足は解決したいが、さらなる問題を抱える訳にもいかない。


「一応確認したけど、冒険者登録の抹消無し。犯罪履歴無し。偽名ならわからないが」

「多分偽名だろう」


開拓地に人が集まる事は大歓迎だが、不審者も集まってきてしまう悩みもある。


「それより問題となるのはうちらの方だ」

「そうだな。あの三人パーティどうにかしないと」

「もしかするとあの行商人と一悶着あるかもな」

「悪いと思うが、そうなる事を期待しよう」


新参者の振るい分けとはいえ、巻き込まれる方はたまった物では無いだろう。




物事と言うのは、重なる時には重なる事が多い。

東の村に着くと、ちょうど村を出る気鋭の新人パーティに会う事になった。


「やあ。見覚えが無いんだが、君は誰かな?」


考えてみれば向こうだって、初めて顔を合わせる事になるのだから警戒はするだろう。


「初めまして。新たに行商を行う事になりましたジャニと言います」

「行商?」


行商を始めるまでの経緯を簡単に話す。村長のとりなしもあってスムーズだった。


「悪ぃ悪ぃ。俺たちの代わりなんだな」

「先日も他のパーティとも話しましたが、行商の機会には感謝してますよ」


古株と同じ様に周囲の状況や世間話をしながら、荷の下ろしを手伝ってくれる。

その後、村を出て町へ向かっていくのを見送りながら思い起こす。


「(古株のインパクトが強かったせいか、気鋭の新人はパッとしないな)」


ランクEとCの差なのか、古株が凄いのか、気鋭の新人が弱いのか判断が付かない。


「(悪いけど、ああ言うのばかりなら楽なんだけど・・)」




村の周辺で薬の素材を集め、拠点で二泊ほどしてからダンジョンへ戻る。


『へぇー、良かったじゃない。二つのパーティに会えたんでしょ』

「そうなんだが、気鋭の新人は特段無いが、古株はとんでもないな」


実際に会ってきた感想を告げる。特に古株の存在感について話す。


『監視してるネストスパイダーは大丈夫そう?』

「分からん。気付いていないのか、知ってて無視しているのか」

『ふーん、それほどなんだ。残りの1つのパーティに会いたいわね』


軽い気持ちで言われたが、全力で断らせて貰う。


「冗談じゃない。出来る事ならもう冒険者たちとは会いたくない」

『あは。言っている事をコロッと変えたわね』

「あれはコントロールするとかじゃなくて、手を出したらダメな部類だ」

『ふーん、そうなんだ』


冒険者と接触して、彼らをどうこう出来る物ではないと思い知らされる。

監視用の魔物を変えるか【送還】すべきかもしれないとまで思ってしまう。


フェブとしても、彼の感じた事を軽視するつもりは無い。かなり危険と判断する。


『じゃあこれからどうするの』

「地道に行商と、ダンジョンの強化をしていくしかない」

『様子見って事よね』

「・・そうなるかな」






冒険者を監視している、ネストスパイダーからの情報で面白い事が分かってくる。


五人組は監視範囲外まで、四人組は監視範囲の中位まで、三人組は村の周りだけしか出て行かないとの事であった。


古株と気鋭の新人は能力の差であろうが、不良パーティの方は明らかに手を抜いている。






前回と前々回で各村の要求品が行き渡ると、請け負う品物が落ち着いてくる。


そうなれば、各村を回ってから町へ買い出しや受け取りが可能になる。


御用聞きするため魔物を連れて西の村に入る時、不良パーティに出会ってしまう。


「・・お前何者だ?」

「ただの行商人ですよ。聞いていませんか?」


まったくやる気のない様子で、ただ旅する人間が居たから聞いた感がある。


「行商人? そう言えばギルドでそんな事言ってたな」


そう言うとフンと鼻で笑っていて、乱暴に話しかけてくる。


「商業ギルドの無能どもも、やっと人を雇えたのか。村もいい迷惑だったろうよ」


ギャハハと下卑た笑い声に、引きつった笑みで質問する。


「どういう事ですか?」

「あぁ!? あいつら自分たちの仕事を俺様たちに押し付けて楽しようとしてたのさ。

だから奴らの依頼を潰してやったんだ。守ってやっているのに、ただ同然で使おうとしやがった。おかしいと思うだろう?」


言い分は分かるのだが、自分たちの評価に不満があるのが見て取れる。


「俺様たちの助けが欲しいなら、報酬の他に、酒でも女でも金でも出せってんだ」

「他の二つのパーティはどうなんですか?」


他の二つのパーティの事をどう思っているか聞いてみる。


「あいつらは冒険者が分かってねぇ。命を安く売るようなマネしやがる。俺様たちが悪習を断ち切ってやってるのさ」

「なるほど」


此処が正論の部分で、商業ギルドの依頼に横やりを入れたのだろう。


適当に話を切って、何時もの様に森へ入って素材集めの中、この森に昔からいるリトルウルフを五体【召喚】、ネストスパイダーの監視範囲ギリギリで狩りをするように命じる。


そしてまだ問題パーティの面々が居たので試す事にする。


「代表、素材集めの時、魔物たちが警戒している様子でした」

「警戒? どういう事です?」


魔物たちの生態や行動を知らない代表が事情を聞いてくる。


「よく分かりませんが、他の魔物の気配を感じたようです」

「そうですか。まだ冒険者たちもいますので声を掛けましょう」


代表を伴って冒険者たちに事のあらましを伝えると噛み付いてきた。


「俺様たちが見回った時には何もなかった。大方その魔物が狂ったんだろうよ」

「しかし万が一の事もありますから」

「うるせぇ。お前たちに何が分かる!」


俺たちの言葉に一切耳を貸さず、威嚇すらしてくる。代表も困り顔だ。


仕方ないふりをして、そのまま町へ向かい一通り仕事を終えた後、冒険者ギルドに西の村での出来事を報告する。


冒険者ギルドは、待機していた気鋭の新人を村に派遣し、調査するが何も見つけらない。


ネストスパイダーの報告では、監視範囲内の調査だったため見つけられなかった様である。

リトルウルフに狩りが終わり次第、南西の村の近くへと移動するよう命令をする。




緊急のため町では三つのパーティが揃っており、気鋭の新人の報告を受ける。


「だから俺様の言ったとおりだったろう。あの魔物が狂ってるんだよ」

「せっかくの助言だ。何も無くて良かったと思えないのか」

「何言ってんだか、魔物の事なんか分かりはしえねって」


問題パーティは商業ギルドの窓口へ向かう。


「おめぇの所の行商人がデマ流して、こっちはえらい迷惑だ」

「大変ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」


オウグが腰を深く折って謝罪する。


「二度とこんな事が無いように、しっかり教育しておけ!」


散々文句を言い当たり散らすと行ってしまう。


「そちらにもご迷惑をおかけしました」

「いや、ああいった情報は助かる。何事も無い方が良い」


気鋭の新人組が古株組に話しかける。


「あそこの村、時間を掛けて調査させて貰えませんか?」

「何か気になる事があるのか?」

「あの行商人、俺たちを信頼しているのか、狭く深く素材集めしてるんです」

「詳しく話せ」


歴戦の冒険者の感が何かを訴えるのか、顎をしゃくって詳細の情報を求める。


「同じ場所での採取は、素材を根絶やしにすると、常に別の場所を探して、森の奥深くまで時間の許す限り進んでるらしいんです。魔物の探知能力は人間と比べられません」

「お前たちの調査範囲の遥か先に居た可能性があると言う訳だな」


限られた時間で広範囲となると距離は稼げない。その上で詳細にとなれば尚更だ。


「はい、その可能性が否定できません」

「分かった。俺たちが行こう」


決して気鋭の新人組が手を抜いている訳では無い事は、恥を忍んでの報告で分かる。




直ぐに西の村を訪れると、ジャニが採取したであろう痕跡を追って行く。


「おいおいマジかよ。俺たちの巡回範囲を超えるんじゃないか」

「見た感じほぼ真っ直ぐ来ているから、時間的には左程掛からないだろう」


更に先に進んで行くと、今までとは明らかに違う所を発見する。


「此処だけやに中途半端な感じだな」

「ここまで来た時に魔物たちが何かに気付いて、直ぐに逃げたか」


無駄な戦いは避け、ひたすら逃げに徹する。

生き延びるための手段としては悪くない。


「よし。此処から先は散開して調査する」


左程進まない内に、パーティの一人が何かを見つ、集合を掛ける。


「フォレストコヨーテか、リトルウルフ辺りの狩りの様だな」

「森の奥から出て来たのだろう。獲物が少なければ村を襲うか」


周囲を隈なく調べるが、更なる痕跡を見つける事が出来ず、村へ戻り警告する。


対策を話し合うためにその足で急ぎ町へと戻る事にする。





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