冒険者を調べる
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『薬作りによるダンジョンには誰も来ないぞ作戦が失敗した訳ね』
「なんだその名前は・・。まぁその通りなんだが」
ダンジョンに戻って、南東の村人が拠点に家を建ててくれる話しへのコメントである。
『どうするの? こっちに開拓が向かてくるんでしょう?』
「今からその覚悟はしておくべきだな」
此処まで話が進んでは辞める訳にはいかない。となれば次に打つ手を考えるしかない。
「DPで本とか出せるか?」
『出せるけど、どんな本が欲しいの?』
「薬学に関する物かな」
『薬作り、まだ諦めて無いのね』
溜息のような一言と一緒に、薬学や薬のレシピなどの本を何種類か出てくる。
ぱらぱらとページを捲って内容を確認する。
町でも話したように、中級の薬を作れるようになるのがまず一つだ。
『薬って簡単に作れるの? 薬師とか錬金術師にならないと出来ないじゃないの?』
「誤解があるようだから説明するが、どんな職業でも薬は作ることが出来る」
『へぇー、そうなんだ。じゃあなんで職業があるの?』
昔に聞いた適正職という仕組みについて、話をしてやる。
「職業には、大きく専門性と安心感の二つがあるんだ。
専門性は、その道に長く深く携わっている人と、偶にしか作らない人とでは、どちらの質が高くなるのは分かるだろう?」
『それは長く深くの人でしょう』
努力はその人を裏切らない。天才などほんの一握りだ。
「安心感というのは、例えば盗賊と錬金術が薬を売りに来たらどっちを買う?」
『盗賊ってそれ盗品じゃ・・、そういう事か』
本当にその人が作ったのか、品質は大丈夫かといった保証が安心感になる。
「人には適正職って言うのがあって、それを第三者、普通はギルドが保証する」
『変わった仕組みなのね』
「そうしないと訓練をしていない剣士や魔法使いで溢れてしまう。自分の身を守るためには必要な事なんだ」
見知らぬ他人同士がパーティを組むには、ある程度の基準は必要と考える。
『人間? 冒険者? 誰かは知らないけど、嘘までついて馬鹿なのかしら?』
誰かに保障されないと人間を信頼出来ない。その考えに全く理解できない様だ。
「・・否定できないな。とは言え、てっとり早く相手を信頼する術があると言うのは、悪い事ばかりでは無い思うけどな」
『自分の努力を第三者に、公平に認めて貰うという事よね・・』
うーん、と技術力の証明は便利、それをしないと人を騙すとブツブツと呟いている。
しばらくフェブの中で賛否論が繰り広げられている間、薬学の本に目を通していく。
自分の中で決着がつかなかったらしく、別の事で相談を持ちかけられる。
『薬以外には考えているの?』
中級の薬が出来る様になるのを、待つだけでは芸が無い。
「しばらくは様子見になるな。薬の勉強して、行商して、情報収集用の魔物呼んでと」
『魔物で情報収集の必要性ある? 今更?』
町と各村を回る事になったのだから、魔物による情報収集は不要であろう。
「もう単純に冒険者の警戒だな」
『警戒?』
「今どこに居るのか? 実際どういう動きをするのか? って感じ」
『ふーん』
フェブの指摘通り、村の監視や警戒はもはや不要ではあるが、冒険者を知る上では、多少なりとも役に立つのでは思っている。
『打つ手無いなら、相談があるんだけど』
「なんだ?」
『DP貸して欲しいの』
「借金の申し込みか・・。何に使うんだ?」
借金をしてまで、DPを使った買い物の理由を問う。
『今の所、あなたはすべき事が無くなっている』
「まぁそうだな」
『反面ダンジョンの方に村人の目が向きつつある』
「そう考えておいた方が良いだろう」
『それならば借金をしてでもダンジョンを強化した方が良いと考えたの』
「なるほど」
ジャニに苦労させるだけでなく、自分も何かできないかと考えたのだろう。
少しの間首を左右に倒しながら、何かを思案すると驚きの提案をする。
「良し。生活費を撤廃して、DPを共有財産としよう」
『えぇっ!?』
守銭奴のように思っていた彼の口からの言葉とは、到底思えなかった。
『一体どうしたの? 何か悪いものでも食べた? 拾い食いは良くないわ』
「俺を一体なんだと思っているんだ?」
『お金にがめつい人かな?』
「・・・・」
ジト目でフェブを睨み付けると、口笛を吹いて目を逸らすイメージが伝わってくる。
「DP稼ぎが成功したら、生活費制は止めるつもりだったんだからな」
『そうだったの!?』
「上手く行き過ぎたのに、換金の手段無いし、宝箱効率悪いのが本音」
『うわぁ・・、やっぱりお金なのね』
結局お金じゃないかと思われてしまう。少しは甲斐性を見せて置かないとは言えない。
「無駄遣いしなければ、何に使ったって構わないけど、ある程度は残しておけよ」
『了解』
ニコニコと笑顔の感覚と、さぁダンジョン強化よと張り切っている。
こっちは行商に精を出すかと、旅支度を始める。
「えっ!? ちょっと・・そんなに」
「すまんな、かなり減らしたつもりなんだが」
南東の村に入り、一応薬の入用を確認した後、行商の御用聞きの時である。
グレートバーナードは運搬用の魔物では無いし、それでも大型ではあるので、そこそこ荷は詰めるが、荷車でも無ければ持ち運べはしない程の物量であった。
「何で・・、こんなに必要なんですか?」
「いや、その場その場で代用品探してたんだが、ちゃんとしたものが来るならと」
前の東の村でも同じような事があったので、悪い予感はしていたのだ。
「一旦ご依頼は受けますが、先に町の方へ報告した方が良いですね。
他の村もこれと同じような状況でしょうから・・」
「そうだな、多分似た様な感じだろう」
まずは開拓に必要な物だけを請け負う。深く溜息を吐くと町へ向かう事にする。
商業ギルドの窓口に居るオウグに、笑顔で要求品リストを渡す。
「何ですか、これは?」
「ですから東と南東の村2か所の開拓に必要な物資です」
羊皮紙に書かれた要求品のリストと、数を見ても笑顔を崩さず質問してくる。
「何でこんなに必要なんです?」
「同じ質問をしましたよ・・。ずっと我慢して来たようです」
「そのまま我慢を続けて欲しい所ですが、そうもいきませんね」
開拓は町を挙げての事業だ。此処で物資をケチれば町と村の関係が悪くなる。
二人は頭を抱える。一人はこの量の準備、一人は運搬である。
「とりあえず他の三つの村を回ってきます」
「出来るだけ用意しますが、直ぐにはこの量は無理があります」
他の三つの村を回り、町へ戻ってくると、やはりとんでもない数になっていた。
「全部揃えるのは無理です。発送の調整はこちらでしますので運搬だけお願いします」
「荷車を使わず、この三体で運べるように調整して頂ければ助かります」
今用意できる分を五つの村に分けて、運搬のためもう一往復ずつ村々を回る。
今回用意出来た分だけだが、各村を回り町へと戻って報告する。
「本当に助かりました。かなり無理をさせていたのでしょう」
「薬の素材を集める余裕がありませんでしたよ」
「最初の内だけです。軌道に乗ればスムーズにいくと思いますよ」
当てに出来ない慰めをオウグから貰う。しばらくは大変な荷物運びになりそうだ。
半月後に来る約束をして、薬を作りにダンジョンへ戻る事にする。
おっとその前にと、薬屋と雑貨屋に立ち寄る。
「中級の薬の作り方を教えて欲しい? 知っているなら主都から取り寄せん」
「そうですか・・。どうやって作れるようになるのでしょうか?」
「薬を作れるやつの所に弟子いるするか、学校かなんかで学ぶんじゃねぇのか」
「なるほど。有難うございます」
薬を作る前に、中級の薬の事を聞いておこうと考えたのだが、情報を秘匿しているのか、余り教えて貰う事が出来ない。
思ったほど薬の情報は得られず、町を出て拠点経由で、ダンジョンへと帰る。
『いやー、大変だったんだ。ご苦労ご苦労』
「その割には、えらい笑い声なんだが」
町と村での出来事を話すと、ゲラゲラと大笑いされてしまう。
『しかも魔物を【召喚】してくる余裕すらなって』
「仕方ないだろう、本当にそんな余裕なんて無かったんだ」
村々を回わったのに、冒険者を監視する魔物を呼ぶ事を忘れていた。
「行商で何度か回るんだ。いつでも出来るだろう」
『まぁ、必要性も緊急性も少ないからね』
既に村の監視では無く、冒険者への警戒だけなので余裕がある。
『でも収穫はあったんでしょ?』
「あぁ。街では中級以上の薬は作れない。技術を隠していれば別だけど、こっちで作れるようになれば当初の目的は達成出来るだろう」
『ふーん。行商と薬って、天秤に掛けられなくなったのね』
「どういう意味だ?」
嫌に意味深な発言と、困った子ねという感じに不安を覚える。
『あなたが言った事よ? 忘れたのかしら?
中級の薬が出来れば、町に必要になる。冒険者はこちらに来ないかしら?』
「・・来るかも?」
『今回の行商はどう? 行商は村の人たちに必要になると思う。開拓がこちらに来ないと良いけど?』
「家を建てに来るって・・」
どちらもダンジョンに近づいてくるというショッキングな結果に、思考も体も固まってしまう。
中級の薬は本来、初級という名前だった。
当初は旅先なので、質の良くない、限られた環境、機材で作られた初級薬を劣化薬と言っていたのだが、元初級薬を中級薬、劣化薬を初級薬へと名前が変わった経緯がある。
中級の薬は環境と機材と素材とレシピがあれば、誰にでも出来るという事である。
「はぁ・・、そうだよな元々は初級の薬なんだもんな」
目の前に出来上がった中級の薬たちを見て溜息を吐く。
『どうするの? 中級の薬が出来ましたって売っちゃう?』
「・・初級だろうが中級だろうが、村としては薬を必要としていないんじゃないかな。
そもそも拠点のテントでは中級の薬を作るのは難しいだろうし」
今の自分のやっている事が、完全に裏目に出ている事に落胆を隠せない。
『なら残された手は一つ、出来る事をするのみ。冒険者とのコミュニケーション』
「それはそうなんだが・・」
此処まで裏目に出ると、何をやってもダメな気がしてしまう。
『ダメならダメとはっきりさせて、次考えましょう次』
「そういう考えもありか・・」
溜息を吐くと尻を叩かれながら、冒険者との接触を考える事にする。
次回の行商までという時間を使って、拠点で生活を充実させる。
ネストスパイダーを【召喚】し警戒網の展開、素材集め、中級の薬の勉強を進めていく。
上級の薬も本を出して貰って作ってみたが、結果から言えば惨敗であった。
流石に薬師や錬金術師と言った職業の意味が分かる代物で、素材の多さ、工程の複雑さ、精密さ、品質管理、器具の扱い、その他、片手間にやれる物では無かった。
半月後、再び村々を回りながら、ネストスパイダーを【召喚】し警戒させる。
冒険者に関して得られた情報はどの村も同じで、専属の冒険者はランクCが5名、ランクDが3名、ランクEが4名の計三つのパーティである。
他の二つのパーティと比べると、ランクDのパーティは乱暴な感じで、他が森の奥まで巡回するのに、村の周りをうろついているだけらしい。
町に入って村からの依頼品を購入しながら、冒険者の情報を集める。
手に入る情報は村とほぼ同じで、他の二つのパーティが良すぎるという言葉もあり、ランクDのパーティの態度が悪いのか、冒険者としては普通なのか判断が付かない。
後はギルドへ行って情報を集めるしかないかと考え足を向ける。
ギルドでまずの村一つ分の配送品を受け取る。前回の依頼された分の納品が終わっていないので、村から要求品を受け付けるのは断っている。
「やっと前回の要求された分は納品出来そうですね」
「これで一息つけます」
本来は村々と町の往復は一度だけの予定なのだが、各村に運搬する荷物が多すぎて、町と村を一対一で往復しながら、各村に要求品と依頼品を納めている状況だ。
最後の東の村の荷を積み込み終わるとと、冒険者ギルドへ話を聞きに行く。
窓口に座っていた女性職員に声を掛ける。
「すみません、冒険者について聞きたいのですが」
「冒険者ですか? 冒険者登録という事でしょうか?」
至極もっともな質問に違うと答え、目的の趣旨を話す。
「いえ違います。町の専属の冒険者の事を聞いておきたいと思いまして」
「町の専属の冒険者? どういう事ですか?」
何故、専属の冒険者について知りたいのかその意図が分からない様である。
「最近行商を始めまして、村の人が村から出る事はあると思いますか?」
「? ほとんど無いかと思いますが?」
何を聞きたいのか分からないが、とりあえずわかる事は答えてくれる。
「村々を回る行商人は、自分以外は現在おりません」
「それで?」
「私が町と村で他の人と出会う場合、冒険者でなければ、盗賊か犯罪者の類ではないかと思うのです」
「なるほど。見分けるために専属の冒険者の事を知って置きたいという事ですね」
「そういう事です」
行商をやる上で見知らぬ人との出会いは、必ずしも良い物ではないのだ。
「分かりました。簡単に説明させて頂きます。
現在、専属パーティは三つ。ランクCが5名、Bが3名、Dが4名となっております。
ランクCの方々は、町長の古くからの知り合いで、他の二つは開拓事業の専属を募集した際に名乗りを挙げられた方々です」
その情報からだけでは、人相風体が分からない。
「何か見た目で分かる特徴とかありませんか?」
「そうですね・・。特に似顔絵はありませんし、装備も必ず同じものとは限りません。
一番はお会いして頂くのが良いのですが」
「そうですか。日々巡回されている様ですし、盗賊や犯罪者に出会う事は無いでしょうから、追々お会い出来ればと思います」
礼を言って席を立ち、グレートバーナードたちの所へ戻る。
後ろから声が掛かり振り向くと、珍しい事にオウグからであった。