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ダンジョンの同居人  作者: まる
ダンジョンと
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行商をやってみる

行商をやってみる





「・・・はぁ」


昨日から溜息を吐き続けている。今は町から南西の村への途中の道である。


自作の薬を通じて、街や村とコミュニケーションを図る予定だったが、町では売れず、ギルドのストックとして卸す事になった。


後は村々を回って薬を売って歩くしかないが、冒険者の巡回で魔物や野獣が減っている以上、村でも左程必要とはしていないと想像がつく。


「・・・はぁ」


情報収集の計画が、頓挫しかかっている。溜息も出ようという物だろう。


南西の村が見えてくる。何度目か分からない溜息を吐いて村に入る。




以前の様に村の代表の家で一泊し、お礼と称する酒を煽りながら商業ギルドでの話をする。


「確かに巡回もあり、魔物や野獣といった物はほとんど見ないな」

「そうですか・・。やはり薬を卸す事で生計は無理ですね」


村での薬の需要を聞いて、想像した通りの結果に肩を落とす。


「物は相談なんだが、薬だけしか取り扱わないのか?」


その姿を見て、代表はふと思った事を聞いてみる。


「どういう事ですか?」

「開拓村は町まで2日という距離だが、何かのために町に行くためには、正直その労力に見合っていない」

「労力が見合わない?」


町に行く目的と、労力が見合わないという事に首を傾げる。


「開拓に掛かる物資は、街から無償で提供されるが、必要な物を街まで取りに行かなくてはならない。肉類や生活雑貨といった物も町に行かなければ手に入らない」

「そうなんですか」

「しかし往復で4日問距離は躊躇して、我慢してしまうんだ」

「なるほど、そういう事ですか」


幾ら巡回があり危険が減っているとはいえ、わざわざ野宿してまで町には行く気にはならないのだろう。


「薬のついでに必要な物を届けて貰えないかと思ってな。行商人も荷物の運搬だけではメリットが少ない様で来てはくれん」


事業として金額や物が決まっており、行商をする旨味が無く、手を出さないのだろう。


「商業ギルドに相談してみないと何とも・・。出来れば薬を売りたいのですよ」

「さぁ、そればっかりは何とも」


この村に着いてからの溜息を聞いて、代表も苦笑いの様子だ。






その足でダンジョンに戻ると、薬卸の件と行商の話を相談する。


『本当に忌々しいわね、冒険者たちというのは』


冒険者のせいで身の危険に遭い、尚且つ薬まで売れないという事態に腹を立てている。

その冒険者のお蔭で、DPの収益が上がる事は棚に置いておくとして。


「まぁそう言う訳で、薬の卸で街と村々を回るのは正直難しい。

ただ代表の言っていた行商であれば、開拓地を回る理由には事欠かない」

『そうね。勿体ないけど薬作りはやめちゃう?』


フェブはせっかく準備した錬金術師仕様の部屋と、倉庫が無駄になってしまうと考える。


「いや当然続けるよ」

『何で? だってほとんどお金にならないんでしょ?』


どうして薬作りに拘るのか、フェブとしては不思議なようだ。


「行商であれば街に拠点があった方が良い。

でも、そうなるとダンジョンに戻るのが、不自然になって目立つと思うんだ」

『あぁ、なるほど。そこまで考えているのね』


当初の町や村々と、ダンジョンの行き来の目的を思い出す。


『でも・・町にも村にもあんまり必要とされてないのよね』

「グッ!?」


もっともな指摘に、既に開拓のコントロールは失敗と感じている。


次々に仕事が舞い込み、働かざろう得ない状況にも、頭を悩まし始めていた。






ガッカリと机に突っ伏していると、別の事をしようと提案してくる。


『落ち込んでいるだけじゃ何も始まらないわ。ゲームで気分転換しましょう』


準備をしてきたのだろう、ダンジョン攻防戦をやろうと言い始める。


「それもそうだな。俺が攻める側で、フェブが守る側ね」

『それはダンジョンとして当然よね』

「目標としてのお宝を用意して欲しいんだが」

『目標? お宝? 何に使うかしら?』


ダンジョン攻防戦とはいえ、模擬戦にお宝は必要ではあるまい。


「そっちはオプションで上位種になっているのに、並みの魔物で叶うわけないだろう?」

『うんうん』


自分の魔物たちを褒められて、すこぶる機嫌が良い。


「それならば、こっちは極力戦闘を避け、目標の奪取に専念するルールにして欲しい」

『ふむふむ。それで目標としてのお宝ね。こちらは全力で阻止すればよいと』


一種の陣取り合戦という事になるのだろう。


『侵入は分かっているから、戦闘準備はいいのよね』

「そうだな。ただし【召喚】は階層で行うから、呼び出して直ぐの攻撃は無しな」

『了解了解』


目標としてフェブの階層の何処かに、DPで出した魔石が隠されている設定にする。

魔石を見つけるか、こちらの全滅で勝敗を決する。


フェブの階層に着くと【召喚】の呪文を詠唱する。今回は付与はしない。


「‐の森。ゴブリン五群れ。【召喚】

‐の森。オーク二群れ。【召喚】

‐の森。コボルド五群れ。【召喚】」

『質を量でカバーしようって所かしら?』

「まぁそういう事だ。」


百を超える魔物を連続召喚するが疲れを見せずに答える。


ストーンゴーレムガードは10体が横一列に等間隔に並んでいる。その先はどうなっているかは見えない。


「それじゃいくぞ」

『かもーん!』


第一回ダンジョン攻防戦の幕が切って落とされる。




急に黙り込むジャニ。


「(オーク隊を両側に中央突破)」

『なっ!?』


黙ると同時に攻撃が開始され驚く。


ストーンゴーレムは物理攻撃と防御は高いが動きは遅い。


ジャニ軍の中央突破には、真ん中近くの2体しか対応できない。ほかのゴーレムは集まろうとするが間に合いはしないだろう。

更にその2体をオーク隊が抑えに掛かる。ゴーレムの斧に倒されていくが、あっさりとその隙間をコボルド隊とゴブリン隊が抜ける。


「(全員散開、各自回避)」

『チッ!』


続けて抜けた魔物たちを散開させる。


サンドゴーレムアクセルは、移動攻撃のスピードは上がっているが、ゴーレムは基本として個別撃破しか出来ない。

足の遅いゴブリン隊が倒されていくが、コボルド隊は抜けて行く。


「(各自回避および突破)」

『此処で食い止める』


岩山ではコボルド隊も行動を制限されるが、回避と突破に専念されては、メタルゴーレムナイトと言えど全滅させるのは難しい。

槍を突いたり振り回すなど行うが、約半分が突破する。


「(各自、目標を探せ)」

『悪いけど、個別に狩らせてもらうわ』


しかし基地にあると思われる魔石を探す時点で立場が変わる。

逃避に専念する分には問題ないが、基地を探し回るとなれば、ホムンクルス隊の魔法と、オートマトン隊の剣で次々と狩られ全滅する。


「お見事」

『うひゃー、危なかった』


上位種が下位種に翻弄されるとは思わなかったのだろう。

もし魔石の位置が分かっていたら、こちらの勝ちだった可能性が高い。


『急に黙ったのは、こちらに手の内を知らせないためだったのでしょ』

「当たり前だ。作戦を教える馬鹿が何処に居る」


急に黙ったのは魔物への指示から、フェブが対策を立てるのを阻止するためだった。


『逃げる敵を捕まえるのがこんなに大変だったとは』

「上位種を傷つけない事を考えると、この方法しかなかったからな」


やっとの思いでダンジョンと魔物を用意出来たのだから、傷付けるのはかわいそうと思ったのだ。


『有難う。何か新しいルールを考えておくわ』

「一方的なのはダメだからな」

『分かっていますよー』


次回までにルールを考えるという課題を持って模擬戦を終了する。






模擬戦が終わると、気分が乗らないが町へ行く準備をする。


「そうだ、テントを出してくれ」

『テント? 何に使うの?』

「ダミーの拠点を準備する」

『拠点? 一応ここに住んでますよみたいな?』

「そうそう」


薬を卸すにしろ行商にしろ、前々から拠点を用意すつもりであった。


「ダンジョンに住んでますとは言えないからな」

『それはそうよね』


人が来ないとはいえ、ここら辺で薬作ってますというポーズは必要となる。




南西の村とダンジョンのほぼ中間あたりで、周りより少しだけ開けた場所を探す。


「(この辺りで良いかな)」


テントを設営し、簡単な仮住まいを作る。

町への移動には四日ほど掛かるので、中間地点として環境を整える事にする。


普通に拠点として生活し必要な物を用意し、傷薬などを作って一夜を明かす。



翌日町へ向かって出発する。町に着くとギルド会館へと向かう。

何故か何時行っても窓口に居るオウグに声を掛ける。


「よろしいですか? ご相談がありまして」

「これはこれはジャニさん。どうされましたか?」


短期間でこうちょくちょく来るようになれば、顔なじみにもなってくる。


南西の村の代表と話し合った事を元に相談を持ちかける。


「南西の村の代表とも話したのですが、やはり薬はあまり必要としていない様です」

「そうでしたか」

「他の村も同じではないかと思っています」

「それは何とも申し上げられませんが」


想像はついていたのだろう、さして驚いた風も無く返事を返す。


「しかし新たな問題として、距離的に開拓に必要な物資を取りに来るのは大変であると」

「ふむ、それは確かに以前からありました」


話が開拓事業の問題へと進むと関心を示す。


「利益的には行商としてメリットが少なく成り手が居ない」

「行商と言うより、運搬業務になりますからね」

「そこで薬を卸しながら、開拓に関する物資の運搬が出来ないかと思いまして」

「ほぉ、なるほど」


薬を卸したり販売したりするついでに、物資の補充を行う事を告げる。


「ただ村としては物資の補充に掛かる費用を支払う余裕はないらしく」

「町で掛かる経費を負担できないかと言う訳ですね」

「そういう事です」


町の代行業務として、成り立たないかと言う相談になる。


「町と村の行商を行いたいと仰る訳ですね」

「いや、あくまでもメインは薬売りなんですが」


オウグの確認に、苦笑いで答える。


流れとしては、月の半分で薬を作り、残りの半分で村を回り薬の卸し、販売、御用聞きを行い、町で仕入れて村に配達するという物である。


顎に手を当て、じっとこちらを見つめながら何かを考え込んでいる。


「もし町でもその費用を出せないとしたら、あなたはどうされますか?」

「薬を卸すついでですから、勝手に村から代行を引き受けますよ」


即答する。最悪は運搬代行を認めて貰えば良い。


「開拓が終了すればどうされますか?」

「・・その時までに、何とか町と村に求められる薬を作れるようになります」


即答は出来なかった。ダンジョンはどうなっているかと言う事にもなる。


「分かりました。少々お待ちください」


オウグは一言断って、席を立ち奥へ引っ込んでしまう。


「(まぁ開拓中だ。街としても経済的な余裕はないだろう)」

「お待たせしました」


左程時間が掛からずに戻ってくる。


「いえ別に」

「あなたがやろうとしている事を、もう一度確認させて頂きます。


開拓に必要な物資の運搬代行

村々との行商

薬の卸し並びに販売


という事で間違いありませんね?」

「そういう事になりますが、村で更に必要な事があれば引き受けますね」


何故確認するのか分からないが、変更はあるかもしれないが間違いない事と答える。


「では全て込みと開拓終了までという期間限定で、月1デナリウスでよろしければ請け負って頂きたいと思いますが如何ですか?」

「・・はぁ!?」


村との行き来のついでの行商が、銀貨1枚の仕事となってしまう。


「先ほどあなたが仰った問題は、こちらでも解決できずに困っていたのですよ」

「でも1デナリウスであればなり手はいくらでも・・」

「行商にしても、新規参入にしても、冒険者ギルドにしてもメリットが少ないのです」

「冒険者ギルドからもですか?」


巡回している冒険者についでに運んでもらえば良いのではと思う。


「一応依頼という形になりますし、ランクの割に労力と報酬が折り合わず」

「そういう事もあるのですね」


冒険者はサービスでは無い。依頼という形を無視すればいずれ自分の首を絞める。


「行商さえ認めて頂ければと思っていたのですからお受けしますよ」

「それでは宜しくお願いします。ギルドカードの変更します」


紹介状はもう不要ですねと返し、行商業と変わったギルドカードを受け取る。




ギルドを出ると直ぐに村々へ挨拶回りを開始する。

西の村から始めて、左回りに薬の素材を調べながら全ての村を寄って行く。


どの村でも行商は歓迎され、一泊の礼の酒類は特に喜ばれた。

薬は殆ど非常用として売れたが、次は必要になったらと残念な結果であった。




南の村の次は東の村、最後に南東の村へ行き、行商になった事を報告する。


「そうか行商をやってくれるか。有難い」

「こちらこそよろしくお願いします。出来れば薬の方も」


他の村でもそうだったが、物品の不足は大きな負担になっていたのだろう。

薬の方もの発言には苦笑いで、必要になればなと他の村と同じ回答を貰う。




「そういえば何処に住んでるんだ?」

「此処から二日ほど言った所にテントで暮らしてます」

「テントか・・」


話しの切れ目に拠点の場所を聞かれる。つくづく準備していて良かったと思う。


「この村に来て欲しい所だが、薬を作り続けたいんだろうな」

「町でもそう言われましたが、薬がメインですからね」


少し困った顔で答えると、思案顔で話を続ける。


「こちらが一段落したら、家を建てに行ってやる」

「え!?」

「いつまでもテント暮らしも無いだろう。俺たちのために行商をやってくれるんだ。村のみんなも協力してくれるだろう」


酔った振りでそそくさと代表の家を出て、話が深く進まないうちに退散する。


余りこちらの方には来て欲しくないと内心思いつつも、笑顔で感謝を伝える。





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