薬を売りに行こう
薬を売りに行こう
第2回ダンジョン改造計画が続く。
『これで良いわ。ダンジョン作りに取り掛かれるというものね』
「まぁ待てい」
ジャニの薬作りの部屋が完成し、いざ自分の番といったところで待ったがかかる。
『何よ、何か問題でもあるの?』
「大有りだ」
『えぇ!? 何かヤバいことあったっけ?』
早く作りたい、だが失敗もしたくないと簡単に忠告を聞き入れる。
「さっきの失敗をもう忘れたのか?」
『失敗? 何かあったけ?』
自分のダンジョンの事で、ウズウズしていて気も漫ろな返答である。
「自分のダンジョンの事で、気が気ではないのは分かるが・・」
『だから何よ!』
話しが全く先に進まず、イライラ感がどんどん高まってくる。
「拡張するとき色々問題があっただろう」
『っ!? ・・まぁね。覚えているわよ。それでどうするのよ』
ちょっと視線を外して、考える感じが伝わってくる。絶対に忘れていただろう。
「森林と草原の階層の下に1階層、迷宮の階層の上に1階層作ってみよう。
まぁ魔物は【召喚】するつもりは無いが」
『なるほど。それは良い考えね』
部屋と階層での拡張は問題があった。階層と階層での拡張はどうか確認をしておく。
「まず森林と草原の階層の下に、そうだな・・同じもので良いか。作ってくれ」
『了解。・・出来たわよ。どう繋ぐ?』
「やはり階層を増やすと、階層同士の接続方法を考える必要があるんだな」
『ほうほう、勉強になるわ』
当然の事ながら、階層を増やせばどう繋ぐか考える必要が出てくる。
「じゃあ繋ぎは後回しで、先に迷宮の階層の上に、鏡張りの迷宮を作ってくれ。
通路は不定期で壁の位置が変わる仕様で頼む」
『了解、繋ぎは後でやる?』
「いや決ってるから。こっちは迷宮の階層にある、森林と草原の階層からの魔法陣の傍に階段を作ってくれ」
『出口は?』
「不要だ。つまり袋小路のダンジョンという事だな」
先に構想が出来上がっていた階層の拡張を進めて行く。
『了解。森林と草原の階層同士はどうする?』
「えーっと・・。上の階層の崖にたくさんの穴を開けて、そのうちの一つがDP稼ぎの部屋に通じる穴で、他のどれか一つが下の階層への階段に通じている様にしよう」
『残りはダミーね? 下の階層も同じ条件なら追加オプションで、上下を繋ぐ階段へ通じる穴の位置が不定期且つ、ランダムで変わると言う仕様も出来るわ』
「それはいい考えだ、やってくれ」
『了解。・・・良し出来たわ』
トラップを取り入れながら、森林と草原の階層同士を繋いでいく。
おっと危ない危ないと言って、問題となりそうなことを指摘する。
「もし階層と階層の間に、まったく別の階層を入れた場合どうなる? 例えば海とか」
『そっか・・。その場合、物理的につなげられないなら転移魔法陣だけね。
複数のダミー転移魔法陣で、別の場所の魔法陣や場所に飛ばす事も出来るみたい』
「ふむふむ、やはり作る物、作る場所、繋ぎ方は前もって考えておくべきだな」
階層なり、部屋を増築し繋げる場合、前のトラップをどうするか考える必要があると。
「最後に、迷宮へ行く転移魔法陣を、一番目から二番目の階層に移してくれ」
『そうね、それもやっておかなくちゃね』
階層の追加と、階層同士の接続を試す事で、次々と注意点が分かってくる。
「フェブのダンジョンを作る前に、今の経験を生かしてくれ」
『ありがとう。試しとはいえ、やっておいて正解だったわ』
増築の問題点が一段落し、さあダンジョンを作るぞという所で質問をする。
「ちょっと聞いておきたい事があるんだが」
『何よ、まだ何かあるの?』
「階層が増えると移動が大変になるんだが、何かいい方法は無いか?」
『移動? ・・そっか、そういう問題も出てくるか』
ダンジョンを強化するという事は、階層が深く複雑化する事でもある。
『普通はダンジョンのモンスターとか契約者は、ダンジョンの中ならどこにでも移動させられるんだけど、侵入者や協力者であるあなたは無理ね』
「そうだよな。となると新しい階層や、行きたい階層にひたすら歩くしかないのか・・」
階層が深く複雑化した所を、目的地まで延々と歩く事を思いガッカリする。
『そうね・・。無駄になるけど転移魔法陣を、その都度用意するしかないわね』
「おいおい。残したら危ないぞ」
『だから直ぐに破棄するのよ』
「・・なるほど。ちょっと勿体ないが仕方がないか。そうそうある訳じゃないし」
移動と安全を考えると、一回一回使い捨てで転移魔法陣を作るしか無いと諦める。
『解決した所で、そろそろ本題のダンジョン作りに入りたいんだけど?』
「そうだな。俺も薬作りに取り掛かるから、此処にある素材を多めにと、DPで出せる薬類を試しに用意してくれ」
『了解。じゃあワタシはダンジョンの増築に入るわ』
お互いやるべき事の事前準備が終わった事で、それぞれの仕事に取り掛かる。
初級の薬は、旅先で作る事もあり、特に設備が無くても作る事が可能なものが多い。
次々に自分が作れる傷薬などを作成し、自分で作った薬とダンジョンの薬を見比べる。
見た目は遜色ない様に見えるが、鑑定してもらう必要はある。
「(こっちはこれで良いとしても、これはどうかな・・)」
魔物を弱らせるための、毒薬や麻痺毒の入った瓶を指で突く。
「(まぁ見せるだけ見せて・・と。こっちのは絶対不味いよな)」
DPで出して貰った薬類である。
中級の回復薬はまだ良いとして、上級だけでは無く最上級の回復薬や再生薬といった物は特別な設備が必要な上に、かなりの時間と才能が求められる。
町にあるのは精々中級ぐらいまでであろう。
「(こんなの持っていったら大事だよな・・)」
ヤバそうな薬は箱の奥の方へ隠す様にしまう。
「(それと嫌にフェブが静かになったよな・・)」
少し前までブツブツと独り言と不気味な笑い声を響かせていたが、異様なほど静かになったのである。
「(何かあったのか? ちょっと聞いてみるか)。フェブそっちはどうだ」
一抹の不安を感じながらも声を掛けてみる。
『へぇ!? 何? こっちはバッチリよ』
「何か静かだからちょっと気になってな。見せて貰ってもいいか?」
『フフフッ、見たい? 見たいの? 見たいわよね? 転移魔法陣の準備するわ』
「いや、遠慮しておく・・」
遠慮したのに、足元に転移魔法陣現れ、躱す間も無く強制的に移動させられる。
目の前には荒野がが広がっていた。
フェブのダンジョンの階層は二番目の森林と草原の階層の下にある。
森林と草原の階層と同じ様に周囲が崖で囲まれ、一か所だけ穴が開いている。
何か考えがあるのか、階層同士の繋ぎ方を替えた様である。
「ふーん、此処が君のダンジョンね」
『そうよ。まぁ見ていなさい。全員整列!』
フェブの号令に、ジャニの目の前に並ぶゴーレムたち。その姿に訝しむ。
「何か想像していたのとちょっと違うんだが」
『当たり前でしょう。このワタシの精鋭たちなのよ。
まぁ特別に紹介してあげるわ。まず第一エリア荒地担当のストーンゴーレム!』
「俺としてはもっと岩や石ぽいゴーレムを想像していた」
左右に並んだ計10体のゴーレムは、中世の鎧騎士の出で立ちで、全長7キュビット(336cm)程の重装備の鎧と、かなり大振りの片手斧と大盾を装備していた。
『普通のストーンゴーレムに、上位種オプションと、対魔法防御オプション付与したゴーレム、すなわちストーンゴーレムガード!』
「なっ!? なんだよ、そのオプション!?」
『凄いでしょう凄いでしょう』
何百に一体しか居ないはずの上位種が複数体である。
ましてや魔法防御が弱いゴーレムの弱点まで克服されている。
余りの出来事に唖然として言葉が出てこない。
『さぁ次に進んで』
「はい・・」
ストーンゴーレムナイトの隊列の間を進んでいくと砂漠に出る。
今度は全長10キュビット(480cm)程の計6体のサンドゴーレムの隊列である。
『第二エリア砂漠担当のサンドゴーレムよ!』
「うん? これは何か普通ぽいぞ」
『うふふ、核移動と加速オプション付なのよ』
「・・なんだと」
ゴーレムには急所というべき核があるが、それが移動出来るオプションなら、核を壊す事は非常に難しくなる。
更にサンドゴーレムは一撃は大きいが、動きが遅い欠点があり、それを加速オプションで補ってしまったという。
『どう? 凄いでしょう』
「不倒のゴーレムか・・、とんでも無いな」
『名付けるならば、サンドゴーレムアクセル』
「あー、凄い凄い」
自分の事を棚に上げて、あまりのネーミングに投げやりになる。
『さぁさぁ次へ次へ』
「はいはい」
両手でどうぞどうぞというイメージに、溜息と共に返事をして、今度は岩山に出る。
『此処が最終エリアの岩山担当のメタルゴーレム!』
大きさや形は先に出てきたストーンゴーレムナイトに良く似ているが、細身で槍に持ち替え盾も小ぶりだ。数は6体。
「これは?」
『通常のメタルゴーレムに上位種オプションと、対魔法防御オプション付与したメタルゴーレムナイト!』
「わぁー、凄いなー」
『まぁ、そこまでの程で無い訳では無い訳な訳なのよ』
何回も捻った言い方をしているので、何を言っているのかよく分からない。
ジャニとしては褒めた訳では無いので、全く感情が籠っていない事に気付かない。
そして岩山の中腹に出来た基地の傍では、右側に剣をぶら下げた人型、左側に杖を持った人型の魔物が軍服の様な物を着てそれぞれ5体ずつ並んでいた。
『右側がオートマトンの剣士隊、左側がホムンクルスによる術士隊ね』
「何で分けたんだ?」
『オートマトンはやはり機械だからか物理攻撃が得意で、ホムンクルスは人工生命体だけあって知性があって魔法攻撃が可能だったからよ』
「なるほど。良く考えてあるな」
得意分野や特質といった物を伸ばす様に配置されている事には感心する。
「こいつらにはどんなオプションが付けてあるんだ?」
『スキル覚醒オプションとクラスチェンジオプションね』
スキル覚醒オプションは、条件が揃えば必ず発動するオプションで、スキルを覚える事が約束されている。
クラスチェンジオプションも条件が揃えば上位種になる事が約束されているオプションだ。
「うわぁーとんでもねぇ。どんだけDP注ぎ込んだんだよ」
『手持ちのDP全てね。それでもあくまでも可能性なだけだから』
可能性と言うが、条件の有り無しだけで天地の差が付いている。
「・・・手持ち? 全部? 俺の分もか?」
『・・あっ』
調子に乗り過ぎて、言わなくていい事まで口が滑る。
まぁ普通に考えても、これだけのオプションを組み込めば、かなりのDPになるはずだ。
「足りない分だけって言っておいたのに・・。」
『へへへぇ・・、悪いわね』
大して悪びれる様子も無く謝ってくる。
「じゃあ、暇見て魔物たちに攻め込ませてみるか」
『いいわね。軍隊らしく特訓して待つとするわ』
わが軍のデビュー戦ね、腕が鳴るわとかの声を尻目に倉庫へ戻る。
魔法陣を消す事を忘れずに頼んでおく。
ダンジョンの改築が一段落したので、作った薬類と荷物を纏め町へ行く準備をする。
『薬売れると良いわね』
自分のダンジョンが完成したこともあり、ウキウキな感じが伝わってくる。
「程々じゃないと困るんだがな。まぁ最悪、村に一泊のお礼で配ればいい」
『ワタシが出した薬なら、品質は保証するわよ?』
「確かにそうなんだろうけど、ダンジョン産ですとは言えないだろう。きちんと町で品質チェックして貰らった後なら問題は無いけどな」
『うっ!? それもそうね。是非お願いしましょう』
自信を持って送り出す商品が、自分の首を絞める事になりかねない。
前と全く同じ犬系の魔物を三体【召喚】し町へと出掛ける。
衛兵に咎められる事無く魔物を連れたまま町に入り、そのままギルドの建物へと向かう。
中に入り、商業ギルドの窓口に以前会ったオウグがおり声を掛ける。
「薬をお持ちしましたので鑑定して頂けますか?」
「ずいぶんと短時間でお持ちになったのですね?」
前回に訪れてから10日程である。旅をしながらでは考えられない事である。
ギルドカードと薬類を出しながら説明する。
「品質が認められなければ、この町に留まる必要がありませんので」
「なるほど、旅をしながらでも作れる物ですね。お預かりします」
薬類を別の職員に渡し、その間に前回の薬卸の件の話をする。
「実はあの後、商業ギルド長代行に薬卸の件を話しまして、町長や薬屋、雑貨屋とも相談したのですが、巡回のお蔭か魔物や野獣が減り、必要量も減っている状況です」
「と言う事は・・?」
「ただこのギルド会館のストックがほとんどありませんので、保険として準備する事となり、量は多くありませんが月一定数卸して頂く事になりました」
「そうですか! 有難うございます」
前回の話し合いの時からこの結果が分かっていて、淡白な態度だったのではないか。そんな感じが話の流れが受け取れる。
話しの間に鑑定が済んだのか、他の職員から耳打ちされる。
「鑑定の結果、品質に問題はありませんでした。このまま買取いたしますか?」
「その前にご相談がありまして」
「何でしょうか?」
前もって考えていた村の行商の件を話す事になる。
「自生している素材にも限りがあり、開拓の村々を回って集めてみようと考えています。ついでに村に薬を売るのは問題ありませんか?」
「ほう。それはとても有難いお話です。こちらから是非お願いしたい位です」
何だろうか。前回と違い、オウグから非常にうれしそうな雰囲気が感じられる。
「それは良かった。村の位置を教えて頂きたいのが一つと、紹介状をお願いしたい。
それからこれはどうでしょうか?」
「毒・・ですね? 何処でこれを? 何に?」
毒という穏やかでは無い物に、オウグの視線が厳しくなり、入手先や使用目的を確認する。
「旅の中で自衛の手段として、作り方を身に付けました」
「なるほど、そういう理由でしたか」
罠や武器に塗る事で身を守る事はある。旅先なら尚更そうである。
安心した様子で、詰めていた息をそっと吐き出す。
「村に自衛のために卸しても良いかという事ですね?」
「そうです。身を守るための手段を用意する事は必須でしたから如何かと思いまして」
「冒険者の巡回もありますので必要ないと思います。
非常時のために一つという事であれば。その際には必ずこちらにお知らせ下さい」
毒の類は、何に使用されるか分からない為、管理は徹底される。
「分かりました。それぞれの村の代表と話してからという事にします」
「ギルドでは毒類もストックとして買取いたします」
薬類を売ったお金や、薬卸業となった正規のギルドカード、村への紹介状を受け取る。
現在5か所ある開拓村の位置を教えて貰う。
驚いた事に村は出来て間も無いため名前が付いておらず、西の村、南西の村、南の村、南東の村、東の村と呼ばれているとの事だ。
正式な村ではない為、村長では無く、まとめ役は代表と呼ばれているらしい。
まずは此処までこれたお礼を含め、ダンジョンに戻る前に最初の南西の村に寄る事にする。