コミュニケーションをとろう
コミュニケーションをとろう
町での情報収集を終えると、ダンジョンに戻り報告をする。
「ただいま」
『お帰り。どうだった? その前に休むの?』
「休ませてくれ」
『了解』
旅の疲れを癒すため、風呂に入り、ベッドで休む事にする。
フェブは別に焦らしているのでは無く、休む事で頭を整理していると理解する。
ジャニは食事の時にふと思った事を聞いてみる。
「なぁ、何で料理を出す事が出来るんだ?」
『さぁ? DPの交換メニューに出ているだけで、何故かまでは分かんないわよ。
そんな事言ったら、武器だって防具、薬、そもそも宝箱だって同じ事でしょ』
「そう言えばそうだよな」
何と無しに思った事を、取り留めも無く話していく。
ただ頭の片隅に引っかかる。ダンジョンは誰が用意しているのかと。
食事が終わり、荷物の整理を終えると本題に入る事にする。
「さってと何処から話すか」
『何言っての・・全部でしょ。まず最初は、目的の冒険者からよね』
「冒険者か・・。冒険者に関しては、ほとんど問題無いと思っている」
『そうなの?』
町で得た開拓地優先で巡回する事、フリーが居ない事などを話す。
『なるほど。そういう事なら大丈夫そうね』
「あぁ、今の所は冒険者は来る事は無いだろう」
今までの情報を照らし合わせて見て、間違いは無いだろう。
『じゃあこれからどうするの?』
「村や町とコミュニケーションを取って行く」
『コミュニケーション? わざわざ何で? 問題解決でしょ?』
冒険者が来ないのに、わざわざコミュニケーションを取る必要が分からないのだろう。
「今の所は、な」
『今の所? 時間があればダンジョン強く出来るし、問題無い様に思えるけど』
「勿論ダンジョン強化はどんどんやって行くよ。より安全を得るためにコミュニケーションを取っていくんだ」
『安全を得る? どういう事かしら? 触らぬ神に祟り無しじゃないかしら』
やはり黙っていれば安全なのに、何故コミュニケーションを取るのか分からない様だ。
「冒険者に関してはな。じゃあ村の開拓はどうなる?」
『開拓には時間が掛かるって言ってたんだし、問題ないと思うわ』
「そうだな。だから念のためという部分になるんだが・・」
やってもやらなくても良いというニュアンスを伝える。
「村や町に有用な薬があれば、こちらの方に開拓は来ないな」
『そう言っていたわね』
「村や町に有用でない薬なら、こちらの方に冒険者は来ない」
『そう・・ね? おーや?』
仮に薬を卸す事になった場合、開拓者は来ないが、冒険者が来てしまう。
「じゃあほどほどに有用ならどうだろうか?」
『えーっと、来たり来なかったり?』
「そのために薬を使って、村や町とのバランスを取ろうと考えている」
薬を供給する事で、開拓と冒険者と上手く付き合って行く事を伝える。
『村や町、冒険者の動きを掴んでおこうと言う訳ね』
「そう。村には有用と感じさせて、町には程々ぐらいと感じさせれば・・」
『こちらには誰も来ないんじゃないかと?』
今の内から町や村、冒険者の行動をこちらでコントロールしようとの考えだ。
「まぁ、これも素人考えだから、計画通りに上手くいく保証はまったく無いが」
『上手くいけば長期において安泰。少なくても情報は手に入る事になると?』
たかが一人の人間が、町や村を動かす事の難しい事も話しておく。
「そういうことだ。全くの無関係の状態からと、僅かでも関わり合いになっておいてからの行動では、後々大きなアドバンテージになってくる」
『そういう意味でコミュニケーションを取るという事ね・・』
長期的な視野での考えに感心し、ジャニのコミュニケーションをについて考える。
「必要なら他の村ともコミュニケーションを取っていくし」
『増やした!? なんで!?』
フェブとしては近くの村の動きや、町で冒険者の情報で十分と考える。
「街の周囲に開拓村が出来ているという事は、近くは無くても他の村がダンジョンの方に開拓してくる可能性はある」
『それはそうだけど・・』
「まずは位置関係を把握してからだけどな」
『そうしてちょうだい・・』
コミュニケーションを取る事は理解するが、次々に増やすジャニに呆れる。
「そのほかにも手は打つけどな」
『はぁ!? まだ何かするの?』
更にダンジョンの安全を高めるための策を用意しているらしい。
「当然だろ。ダンジョンの周辺のネストスパイダーを、街や全ての開拓村にも用意する」
『うーん、見張りって訳ね。やり過ぎな気もするけど』
「他の村は位置関係ではコミュニケーションを取らなければ、他に情報源が無いからな」
『あんまり情報は得られなそうだけど?』
「どの方向に開拓が進んでいるか、人の出入りぐらいは分かる」
『下手にコミュニケーションを取るよりは良いのかしら』
全ての村々を回るよりは、最低限の情報を得られる方法ではないかとフェブも理解する。
「最後が冒険者とのコミュニケーションだ」
『い・い・か・げ・ん・に・し・な・さ・い』
懐に敵を招き入れる真似ばかりする事に、流石にフェブもキレた様だ。
『あなたにはすごく感謝しているわ。
ひたすらワタシのためにと色々な事を考えたり、やってくれたりしてくれて。
言いたくは無いけど、やり過ぎよやり過ぎ。何でかしら、まったく。』
怒りの言葉を黙って聞き、素直に謝る。
「悪い。俺のような魔法系を使う者は、総じて自分を守る事が非常に弱い」
『・・ん?』
急に魔法の話になり、訝しみながらも黙って話を聞く。
「だからパーティを組む。組めないならひたすら準備するしかない。
力が無いなら罠でも毒でも武器でも何でも。だから情報は特に重要なんだ」
『・・・・』
「そうしないと、死ぬだけだ」
『むぅ・・悪かたわよ、言い過ぎたわ』
ジャニは逃亡生活と言っていた。普通に暮らすのだって楽ではない。
知識や高い能力があっても、一人では厳しく限界がある事は誰にだって想像がつく。
「気にするな。キミが悪い訳じゃ無くて、俺が臆病なだけだ」
『・・分かったわ』
自分を卑下している訳では無い。臆病でなくては生きてはいけなかった。
そんな彼の経験則からとはいえ、必要な事なら反対する事は出来ない。
『それで冒険者からどんな情報を取るつもり?』
「それでだな」
同情した訳では無いだろうが、あっさり受け入れた事に笑みを浮かべ話を続ける。
「冒険者にはどんどん働いてもらおうと思っている」
『はぁ!? 何言っての?
いやいや待て待て・・絶対何か企んでる、落ち着け落ち着け』
「企んでるって・・人聞きの悪い」
少し学習した様だ。しかし何となく話す事に悪巧みを感じら取られてしまう。
「まぁ全ての開拓村と町と少しコネが出来たとしよう」
『ええ、いいわ』
「ダンジョンとその近くの村は俺が居るから、魔物を見かけなかったと報告しよう。
逆に遠くの村で、何か異変を感じて逃げてきたと報告する」
『それで?』
「そこで調査したら、何故か魔物が発見されたとしたらどうなる」
魔物が頻繁に来れば、町や村としてはそちらに警戒が向くだろう。
『冒険者がそっちに・・あなた、わっるー』
「どんな想像をしたかは知らないが・・。
時間を置いてまた見つかるを繰り返し、ある一定方向から来ている様だとしたら?」
『そっちの方に何かあると考えるわね』
「開拓村は手薄にしないだろうけど、こっちには警戒が来なくなる」
そうそう上手くはいかないと思うけど、と肩を竦めながら話す。
『でもあなたが疑われない?』
「うん、それが一番不味いから、細心の注意を払う必要がある。
その周辺に居るべき魔物である事、その習性と適合しているとか、期間を十分に開ける事、特定の時期だけとか考えたらきりがないぐらい準備が必要になる」
『でもヤバそうなら止める事』
「そうするよ、約束する」
『忘れないでね、ワタシを守る事が最優先よ。まぁ、あなたも自身もだけど』
「分かってるって」
出来る事ならこんな事はすべきでない。しかし今出来る事は全てやるしかない状況なのだ。
『じゃあまた旅の準備をするの?』
「いや、その前にダンジョンの改築をする」
『本当!? やったー!』
「悪いが俺の部屋だけだ」
『なっ!? 何でよ』
「実際に薬を作る必要があるだろう。その上で足りない分はDPで出して貰う」
『チェッ、そういう事か・・』
ダンジョンの改築と聞いて、更に強化出来るはずがとんだぬか喜びである。
「なぁDPかなり貯まって来たんじゃないのか?」
『そりゃまぁ程々にはね。あなたのはとんでもない事になっているわよ』
恨みがましい声に、苦笑いを浮かべるしかない。そこである提案をしてみる。
「なら、そろそろ自分の階層を作ったらどうだ?」
『えっ!? 自分の階層?』
自分の階層という言葉に、どういう事と言う感じで聞き返してくる。
「うん。自分のDPで階層を買って、自分のDPで魔物を呼ぶ。
最初から最後まで自分で作る、初めての自分のダンジョンだぞ」
『自分だけの階層・・』
「難しければ相談にも乗るし、DPが足りないなら少し分けてやってもいいぞ」
『自分だけのお友達(魔物)・・』
「・・おぃ、聞いているか?」
『自分だけの初めてのダンジョン・・』
「フェブさーん、聞いてますかー?」
『グフフフフッ』
とても気味の悪い独り言と、笑い声を垂れ流して、全く話しを聞こうとしない。
これは話す順番を間違えたと首をガックリと項垂れる。
「だめだこりゃ・・」
『ニャヒッヒッヒィ・・』
壊れる可能性を考えると、叩いて揺すって呼び戻す事が出来ない。
現実に戻って来るまで、頭に響く気味の悪い声に耐えて、待つしかする事が無かった。
かなりの時間がたってから、普通の声が頭に響いてくる。
『はっ!? ワタシのダンジョンは? 何処? 何処にいったの?』
「やっと帰って来たか・・」
『帰って来たって・・・夢?』
「現実になる夢だがな、妄想で満足したか?」
『イヤイヤイヤ。夢でなんか満足しませんて』
ブツブツと頭の中に響く、不気味な笑い声やセリフに辟易したのだ。
「じゃあ取り掛かるか」
『了解』
まずは売り物である薬を作るための部屋の用意から始める。
「出来ればフェブの元の部屋の下あたりに作りたい」
『下に? 元の部屋はどうするのよ』
「もう一回り大きくして倉庫にする。一応、扉同士を繋ぐ動線は確保するけど」
『リビングと同じぐらいで良いかしら?』
「そうだな・・、そのぐらいで。
でこの部屋の下に同じぐらいの大きさの部屋を作って欲しい」
薬作りの部屋と、倉庫のイメージを伝える。
『DP稼ぎ部屋への通路削る? それとも奥にずらす? ずらすなら森と草原の階層への通路が伸びるわね。どうする?』
「えっ!? 自動で伸びるんじゃないのか?」
『自動で調整出来るけど、調整の方法が複数あれば選択しなくちゃいけないのよ』
「結構面倒くさいんだな」
『そうね・・少しは拡張する時の事も考えないとダメね』
「今後気を付けよう」
通路や階段に罠やギミックを仕掛けるのは大切だが、もう少し拡張や縮小の場合を考え無いとせっかくの仕掛けが台無しになる可能性がある。
特にこのダンジョンは部屋と階層が入り混じっているからその傾向が顕著だ。
『薬作りの部屋に、何か必要な物がある?』
「うーん、倉庫の方には棚と、薬を保管する箱があれば一先ずいいか。
薬作りの部屋は棚と作業台ぐらいか」
『一応錬金術仕様ってのがオプションにあるけどどうする?』
「錬金術仕様って、そこまでハイレベルの薬は作れないぞ」
魔物使いの訓練で学んだ薬作りは精々初級レベルであり、かなりの過剰設備になる。
『でも棚とか機材とか十分に揃っているし、消耗品の補充は無いけど、破損品の再生や清掃機能あるよ?』
「ちょっと待て、そこ詳しく!」
再生と清掃機能という聞き捨てならないセリフに反応する。
『錬金術仕様のオプションは、錬金術を行うのに最適と思われる環境にするの』
「ふむふむ、それで?」
『万が一機材が壊てたり、汚れ物がある時は片付けモードにすると元に戻るのよ』
「それはすごいな。DPは掛からないのか?」
『DPは不要よ。ただし片付けモード中は立ち入りが出来ないわ』
「まぁ、それは仕方がないな」
せっかくの掃除中に自分が居れば、同じように余計な物と認識されかねない。
かなり便利なため錬金術仕様で部屋を作ってもらう事にする。
また元コアの部屋は四倍に拡張し倉庫にする。
倉庫には棚を幾つかと、素材を入れて置くための箱をDPで用意して設置する。
薬作りの部屋が完成すると、薬の素となる素材を集めに行く。
「じゃあ素材を集めて行くから、その間に自分のダンジョンの構想を練っておけよ」
『自分のダンジョン・・そっか・・グフフフッ』
自分のダンジョンと言う言葉がキーワードとなって、再び妄想モードへ突入する。
深く溜息を吐くと、先に部屋を作ってもらって正解だったと諦めたように外へでる。
目星をつけて置いた素材の場所へ向かう。
出来るだけ多くの種類を、少量ずつ採取してダンジョンへ戻る。
『やっと帰って来たわね』
「キミもやっと帰って来たか・・」
『うるさい』
自分の事を棚に上げて、言い返されたのでは世話が無い。
『ワタシのダンジョンを作るわよ』
「分かった分かった。で、どんなダンジョンにしたいんだ?」
取ってきた薬の素となる草や実といった素材を片づけながら話を聞く。
『えーっと、やっぱりこのダンジョンに無いのが良いかな』
「無いヤツとなると、環境で言えば海や砂漠になるか」
『・・海。何となくだけど、色々とあとが面倒になりそう?』
「さぁ?」
階層同士の移動や、改築、増設に何か問題が出てきそうな感じがするらしい
「それ以外で、魔物系だと・・精霊や死霊になるか」
『うーん、今一ピンとこないわねぇ』
「そっか? 俺も得意じゃないから、墓場プラス死霊なんかいいと思うが」
『何か・・・嫌』
「そっか・・まぁ分からないでもないが」
苦手分野を補ってもらういい機会と思ったが、お眼鏡に叶わなかった様である。
『やっぱりお手伝いさんが欲しいな』
「お手伝い? まだ覚えていたのか。いいかげ・・ん? お手伝い?」
『なになに? 良いアイデアあるの』
お手伝いという言葉に、何かを考え始める。
「なあ、ゴーレムとはどうだ?」
『ゴーレム? 石とかで出来たごっついヤツの事?』
「そうだ」
『うーん』
あまり乗り気ではない様だが、自分の考えを付け足す。
「最初はそういうので練習して、好みの形に作れないか?」
『形を作る? ・・ゴーレム、ゴーレム・・ホムンクルス? オートマトン?』
「なるほど。そう言うのもありか」
『ふむふむ、いいわね。これにするわ』
お手伝いさんとは言わないが、ホムンクルスやオートマトンならそれに近いだろう。
「環境はどうする? お手伝いなら街並みや屋敷になるのか? 後は軍隊か?」
『!? それ貰うわ。軍隊』
一気にお手伝いから離れて行ったが良いのだろうか。本人が良いなら構わないが。
「ならゴーレム系のダンジョンにしたらどうだ?」
『ゴーレム系?』
「鉱山とか荒地とかで、ストーンゴーレムやアイアンゴーレムの兵に、ホムンクルスやオートマトンの軍隊の基地だな」
『いい。それいいわ』
自分の命令に従う部下たちの姿を思い描いている様だ。
「砂漠があればサンドゴーレムも戦いやすいんだが」
『オプションで荒野の一部に砂漠仕様も入れるわ』
フェブ自身の中で、ダンジョン構想が纏まってきたようである。
更に構想を練りより良いものにするため、時間を掛けて話し合いを続けて行く。