本当の町へ
本当の町へ
『ジャニ、ダンジョンを守るために色々と有難う』
「あぁ、そうか」
『ダンジョンの強化に手を貸してくれて、とても助かったわ』
「そうかそうか」
冒険者が来ると知って、先程から別れの挨拶をするフェブ。
『あなたとは短い間だったけど、とても楽しかったの』
「そうだな」
『誰かに壊されるぐらいなら、あなたにお願いしたい』
「そうかそうか」
それに対して帰ってきて、そのままの荷物を開けて整理するジャニ。
『・・・・』
「・・・・」
粗方荷物の片づけが終わると、今度は荷物を詰め直し始める。
『ちょっと話聞いてるの? ここは涙で別れる場面でしょう』
「いやいや、場面とか言われても」
冒険者の巡回が来るかもと分かってから、フェブは変なお芝居をやっている。
『だって冒険者が来ちゃうんでしょう? だったら少しぐらい付き合ってくれても・・』
「だからって、今直ぐどうこうでもないから」
少しぐらい何なのかはスルーする。ジャニには、まだ出来る事があると考えている。
『あら、そうなの?』
「余裕がある訳じゃ無いけど、まだ出来る事はあるんだ」
ジャニは溜息を吐いて、荷物の準備の手を止める。
「正直どうしたら良いのか分からない。このままじっとしていてもいずれ見つかる。
逆に街や村と接触しても、それは変わらないだろう」
『そうよね』
冷静に今の状況を再確認し、これからの行動を説明する。
「それに状況は良くないが最悪じゃない。まだ冒険者が来ていないからな」
『うーん、同じ様に思えるけど・・』
「キミが生まれてから20日余り、周辺にも人の気配はまだ無い。
まだダンジョンとして、見つかっていないと思っている」
『あら、ずいぶんと楽観的なのね』
冒険者が来ない事と、見つかっていない事を一緒に考える事は愚策である。
「それを確かめに行ってくる」
『もう一度村へ行の?』
「いや、町の方へだ。実際に冒険者たちの情報や動きを見てくる」
『ワタシとしては、今更といった気分なんだけど・・』
フェブとしては、既に手遅れという言葉が、頭の片隅をよぎっている。
「いいか? 今は動いても動かなくても見つかるという結果は同じ状況だ。」
『その通りね』
「ならば動いた上で対策を取るべきだと思う」
『動く事で何か変わるんじゃないかと?』
結果は同じかもしれないが、選択肢が増えれば出来る事が増えてくる訳で。
「そう。まず見つかっているかいないのかで大きく変わる」
『そうだけど、接触を続ければ見つかる事になるじゃない?』
「見つかっていない場合は、隠れようと思う」
『隠れる!? えっ、ぇ!?』
全く言っている事が分からない、理解できないと言う感じで混乱が伝わってくる。
「落ち着け、分かるようにもう一度整理して説明するから」
『お願いするわ・・』
きちんと説明すると言われ、落ち着つこうと努力するフェブ。
「このまま隠れていれば、誰かしらに見つかるだろう」
『そうね・・』
「開拓の村人か、巡回の冒険者かどちらが先か分からないけどね」
このまま開墾が続けば、いずれは見つかるだろう。
「じゃあ危険度はどちらが高い?」
『へぇ!? 冒険者でしょ?』
確かに見つかる話はしていたが、危険度という考えは抜けていたのだろう。
「村人と冒険者、どちらの動きが分からない?」
『冒険者・・ね』
そして村人は開拓が基本で、危険を冒してまでわざわざダンジョンは探さないだろう。
となれば注視すべき対象は、開墾先の安全を真っ先に調べて回る冒険者となる。
「ただ素人考えだから、根本から間違えている事もあり得るが・・」
『それで冒険者の情報や動きを知っておこうという訳ね』
「どう思う?」
『やるべきでしょ』
ジャニの言わんとしている事を理解し、賛成し後押しするフェブ。
『そっか。それで旅の準備を進めている訳ね』
「その通り。出来るだけ急いで町に行って来る」
『はいはい』
村で冒険者の事を探るのは限界がある。となれば町へ出向く他無い。
フェブは村での出来事から、安心してジャニを送り出せるので余裕がある。
今度こそ町へ行くのだが、そのための準備がまたしてもままならない。
今度は新天地を求める旅人なので、特段すべき準備は無いのだが、食糧の宝箱が言う事を聞かず、保存食や非常食がほとんど出ない。
諦めて食材の宝箱から出る物で、保存食や非常食を作る事にする。
お金の宝箱も幾度となく挑戦するが、余り芳しくない。
「やれやれ、もう少し何とかならないか」
『無理ね。それが宝箱の醍醐味でしょ?』
安心してジャニを見守れるので、フェブの舌は俄然動きが良くなる。
「なぁ、保存食とか非常食作るのに役立つ設備無いか?」
『一応あるけど、結局は調理する時間が必要になるわよ』
「そっか・・。困ったもんだ」
直ぐにでも街に出かけたいのに、旅の間の食料が手に入らない。
『なら宝箱から出さなければいいのに・・』
「そうだな・・はぁ!? 何を言っているんだ?」
ぼそっと呟いた一言に、今更と残念な顔を浮かべる。
『食材とか食料、保存食に非常食でしょ? 出せるよ?』
「えっ!? 宝箱は? 何で出せる?」
『へっ!? だって共存するダンジョンもあるのに、食料出せない訳ないじゃん』
「だって宝箱って」
『ワタシ一言も宝箱からしか出せないって言ってないよ? よーく思い出してね』
「えーっと、確か・・・
「ダンジョンに宝箱とかアイテムがあるよな? あれどうやって用意しているんだ?」
『あぁ、アイテムの類ね。あれもDPで交換して出しているに決まってるじゃない』
「アイテムにはどんな物があるんだ?
『武防具に薬、素材、食料、それこそお金だって・・あるわよ?』
と言う話があって、お金をいざ出して貰おうとしたら、
『お金に関しては金貨何枚とか銅貨何枚じゃなくて・・』
『DPでお金入りの宝箱と交換するの』
と言うやり取りが、最初の頃あったよな」
『確かにお金に関しては宝箱で交換って言ったよ。ジャニは自分で
宝箱とかアイテムがあるよな?
ってはっきり聞いてたよね』
「そうだな。・・で?」
『ワタシは、
アイテムの類ね。あれもDPで交換して出している
って言ったわよ』
「どこかでDPで交換する物は、全て宝箱で出てくると、何故か勘違いして
「と言う訳で食料の宝箱を出してくれ」
と言ってから、それ以降全て宝箱で出していると・・。何で教えてくれなかった?」
『きちんと説明してるのに、宝箱で出せって言うからそういうのが好きだと思ってた』
「ンな訳あるか!」
ダンジョン中に絶叫が響き渡り、何で責められなきゃいけないのと大騒ぎであった。
衝撃の事実から立ち直ると、すぐさま街への準備の続きに取り掛かる。
品物を指定して出す方が割高で、宝箱で出す方がDPが安い事は安かった。
それでも残念な結果ではない分、時間的にも精神的にもかなり負担を減らす結果となる。
「じゃあ行って来る」
『お土産お願いね』
「お土産? 何か欲しい物があるのか?」
『お手伝いさんよ? もう忘れちゃったの?』
「却下だ。そもそもそんな金があるか」
『ブーブーブー』
未だにお手伝いさんの事を言ってくるフェブを尻目に、町に向けて旅立つ。
大体の方向と距離は分かるので、鳥系の魔物を【召喚】し確実に調べる。
旅の道中は無駄を一切を省き、最短で町に着けるように進んでいく。
ダンジョンを出て5日で町に到着、すぐさま町の周囲を時間を掛けて調べる事にする。
町の周囲はかなりの高さの石造りの城壁が取り囲み、東西に城門がある。
北側の城門は開かれ衛兵が二名居るが、南側は固く閉ざされている様だ。
人の出入りは北側の城門だけに絞られている。
城門からはそれぞれ道が続いており、南側は少し先で五つに枝分かれしている。
村長が言っていたそれぞれの村へと続く道なのだろう。
「(城壁は高くて中が見えない。城門の隙間から覗こうとすれば目立つ事になる。
やはり中に入ってみるしかないか)」
町の周囲からはほとんど情報を得られず、グレートバーナードを森に待機させて城門へ向かい、衛兵に向かってにこやかに声を掛ける。
「こんにちは。中に入りたいのですが?」
「身分証はありますか?」
「いいえ、持っていません」
「ではどういったご用件で?」
衛兵たちの警戒感が高まる。
「三ノ領から新天地を目指して旅をしてたのですが、ここから南東にある開拓村の代表から、こちらに町がある事を聞いて寄ってみたのです」
「三ノ領から? それにしてはずいぶんと身軽なようだが?」
「村長さんにも言われました。
実は魔物と一緒に旅していて、驚かせないように森の中に隠しています」
「魔物?」
「えぇ。資財全て売り払って、ブリーダーから購入して旅しています。
魔物を呼んでも良いのですが、どうしましょうか?」
魔物と聞いて少し警戒感を緩める。
おかしな様だが、ブリーダーから魔物を買うにはかなりの金額が掛かる。
そのため不審者は、わざわざ騙すために魔物を持つような事は少ない。
そして街への目的と荷物が一致しない場合は、不審者扱いになるのだ。
「なるほど、そうでしたか。お気遣い感謝します。
この町への荷物の運搬に、魔物使う者は居ますから連れて入っていただいて構いません。
ただ身分証が無ければ、10アスを保証金として頂きますが」
「分かりました。長居するようでしたら魔物を呼ぶようにします」
10アスを支払って、町にの中に入る。
町の中に入ると、おのぼりさんの様に街並みや、人の顔ぶれといった物を見て歩く。
商品を見るフリをして物価を調べたり、どのような店があるかを調べて回る。
物価は以前住んでいた事のある町とさほど変わらず、武器防具や薬、雑貨、宿屋、食料品を扱う店など一通り揃っていた。
ギルドに関してはギルド毎の建物は無く、複数のギルドで一つの建物をギルド会館として使用しているとの事で、その建物を教えて貰っておく。
冒険者に関してはほとんど姿を見かける事は無かった。
何処かへ討伐に行って不在なのか、それともギルドか宿か酒場に居るのか不明だ。
一通り街並みを調べると、商業ギルドへと向かう事にする。
ギルド会館に入り、目当ての商業ギルドの窓口へと向かう。
窓口に居る50歳ぐらいの男性に挨拶をして声を掛ける。
「こんにちは。少しよろしいですか?」
「どうぞ、どのようなご用件でしょうか?」
にこやかな笑顔での応対を受ける。
「ジャニと言います。
新天地を求めて旅をしており、近くの開拓村でこちらの町の事を聞き寄りました」
「そうでしたか。ようこそ開拓者の町へ。私はオウグと申します。
この地域の開拓を始めた方が、現在の町長でもあります。
町長は、四ノ領の領主様より命を受けて、開拓事業に携わっていらっしゃいます」
簡単な自己紹介の後、町の簡単なあらましを聞き、自分の希望を伝えていく。
「そうなのですね。私には薬の知識がありますが如何でしょうか?」
「残念ですが、すでに薬屋も雑貨屋も既にありますので難しいかと。
物品の安定と、品質の確保に力を入れているため、今の時点では競合は避けております。将来的には別ですが・・」
新天地を探す上で自分が出来る事と言えば、魔物使いの訓練で培った薬草技術である。
「開拓村の近くに、薬となる草や実といった素材が自生している良い場所がありました。この町に店を開くのでは無く、町や雑貨屋に卸す事は可能でしょうか?」
「なるほど。今は近隣の大きな町から仕入れています。
競合はありませんし、薬の安定供給にも一役買うでしょう」
自分が町に来る理由として、開拓村で喜ばれた薬に関連した物が良いと考えたのだ。
ただオウグと名乗った職員の対応が、淡白な感じである事が気になった。
「今は何も持っていませんが、次回作って持って来ますので、品質に問題が無い様ならば、今の話を勧めたいと思います」
「それで結構です」
「今の状況で身分証を発行して貰えませんか?」
「身分証? ああ登録という事ですね。分かりました、仮と言う形で発行致します」
「助かります」
身分証と言うだけで察して貰えた様子だ。仮と言うのは仕方があるまい。
「あと二点お伺いしたい事があるのですが・・」
「何かご不明な点でも?」
身分証の発行までの時間で、肝心の話を切り出す事にする。
「開拓村の村長さんにも聞いたのですが、開拓する方位です」
「開拓する方位ですか?」
開拓の方位と言う意外な言葉に首を傾げる。
「薬の素となる草や実といった素材が自生している方位に開拓が向くかどうかです」
「そうですね・・。もし卸して頂ける薬の有用性が高ければ、ご相談に乗ります」
「なるほど」
有用性の高い薬を卸す事で、ダンジョンの方角へ開拓しない様には出来そうだ。
「それから開拓村は非常に伸び伸びと働いていました。聞けば冒険者が回っていると」
「そうです。定期的に村々を回って、周囲を巡回し問題に対応します。
他の村で問題が起これば、街で待機している冒険者が対応する事になっています。
冒険者たちで手に負えないと判断された場合、村を放棄し町で防衛します。
その間に主都へ連絡し、対応する軍なり冒険者が討伐に出る事になっています」
「それなら安心して開拓に励めますね」
冒険者の動きの上に、軍まで絡んでいる事を知り冷や汗が流れる。
「では村から離れた場所まで足を延ばして貰えますか?」
「冒険者ギルドではないので何とも言えませんが、正直難しいでしょう。
開拓村が優先であり、個人の都合に対しては動かないでしょう」
「有用な薬であっても?」
「そこまでになると町長の判断が必要になると思います」
冒険者がこちらに来るかどうかの明確な答えは避けられる。
「そうですよね。ご無理言いました」
「いえいえ、ご心配は当然の事でしょう」
誰だって命は惜しい。必死さとして受け止められた様だ。
話の間に身分証が作成される。本物は偽造など防止の細工がされているが、仮の身分証のため特別な細工はされていない様だ。
「身分証が出来た様です」
「有難うございます。次回訪問の際に薬を持参します」
礼を言って身分証を受け取ると席を離れる。
そして冒険者ギルドの窓口へと移動し、女性職員に声を掛ける。
「すみません、ちょっとよろしいですか?」
「はい。どういったご用件でしょうか?」
「この町の近辺に住もうと思っておりまして・・」
「ほとんどお隣ですから聞こえていましたよ。で、ご用件は?」
余り褒められた事では無いが、隣では聞こえても仕方あるまい。ならば話は早い。
「冒険者の方の巡回については?」
「商業ギルドの方もおっしゃっていた通り、開拓地優先ですね」
「フリーの方や依頼を受けて貰う事は?」
「町の専属冒険者が定期的に討伐をしており、フリーの方は依頼が無いのでほとんどいらっしゃいませんね。依頼についてはお受けする事は出来ます」
「そうですか。では今まで討伐された魔物や、巡回の記録などを見る事は出来ますか?」
冒険者についての情報を確認した後、魔物についても聞いてみる事にする。
「どのような事にお使いになるのですか?」
「この近辺にはどんな魔物が居たのか、現在はどんな魔物が見つかっているのか知って置きたいと思いましてl
「そうですか。では資料を準備いたします。
一応持ち出し禁止となっておりますので、別室でご覧いただく事になります」
「分かりました。お願いします」
用意された資料を次々と頭の中へしまい込んでいく。【書庫】さまさまである
開拓当初はかなりの討伐があったようだが、現在は巡回のお蔭かほとんど無い。
短時間ですべての情報を調べ終わると、女性職員に礼を言って今度こそギルドを出る。
そのまま町を出てグレートバーナードたちと合流して、急ぎダンジョンへと帰って行く。
今回の旅で得た大きな収穫を持って。