アジト
早朝、一台の車が洞窟の中に入っていく。
運転席にはハボルと呼ばれていた中年の男性が、助手席にはジークと呼ばれていた少年が乗っていた。
しばらく洞窟を走っていた車は、広くなっている所で停車する。
「ふぅ、ようやくついたか…おら起きろこの寝坊助が‼」
「ふぁぁぁ…何だよこんな時間に…まだ眠いよ」
そうジークが返すのも無理はない、まだ夜が明けて数時間しか経っていないのだから。
「早く起きねえと置いてっちまうぞ‼」
そう言って、後ろに積んであった荷物を担いで、行ってしまう。
二人が入った洞窟は、途中までは自然のものだったが、途中から舗装された道になり、天井からはランプが下がっている。
そこからしばらく歩いていくと今度はドアが現れた。ドアの横にはボタンがついており、ハボルは迷いもなくそのボタンを押した。
すると機械的な声がどこからか流れてくる。
『合言葉をどうぞ』
この問いにハボルはおどけたように『旅人』と答える。するとドアはその言葉に反応するかのように開く。
ドアの中は幾つものランプで明るくなっており、先程までの薄暗い感じからは一変して少し眩しさも感じるようだった。
「ようハボル、お疲れさん」
中に入ってすぐ右側から声が聞こえてくる、声の主は窓で区切られた部屋の中にいた。
「おうスレイ、今日の当番はお前か?」
声の主であるスレイと呼ばれた人物は、初老の男性で椅子に深く腰かけて、こちらを見ている。
「あぁ、まあな…それよりジークはどうした?一緒だったはずだろ?」
「あのガキなら、まだ車の中で寝てるだろうよ」
「はは、そうか」
「もういるよ…」
二人の会話に目を擦りながらジークが入ってくる。
「おう、お帰り」
「ただいま」
そう言いながらジークは先へと行く。曲がりくねった道を進んで、ある部屋の前に来た。
そこでジークはノックをする。
「入れ」
その返事を聞くとドアを開け中に入る。
入った部屋は事務机とソファぐらいしかない殺風景な部屋だった。事務机の向こうには一人の男性がいた。
「おお、ジーク今戻ったのか?」
「はい、たった今帰投しました」
男性はジークを見ると、顔を綻ばせて声をかける。一方のジークも、先程までの眠たそうな雰囲気は消え、真面目に答える。
「どうだった今回の作戦は?」
「うまくいきました、戦果は敵の司令官を含めて八人です」
「そうか、よくやってくれたな、次の作戦まで時間がある、ゆっくりと英気を養ってくれ」
「わかりました」
先日の戦いの戦果を報告したジークは、部屋を出るため歩き出す。
「そういえば」
ジークが出ようとした時、男性がジークに声をかける。
「なんですか?」
「最近娘が冷たいんだが、心あたりはないか?」
「知りません」
男性は顔に似合わない質問を投げ掛けたものの、ジークは切って捨て部屋を出る。
部屋には肩を落とした男性のみが、残されたのだった。
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