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宿屋のメリー告白大作戦  作者: ミツキ
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回答者・カルロ&ダニエル 2


__お父さんが私の腕を引いて向かった先は、


調理場。


『少し、大きいかもしれんな』

『リボンを調整するわ』


裸んぼうの私に着せられたのは、少し大きめの水色ワンピースと真っ白のエプロン。


玄関へ、外へ連れ出されてしまうと身構えてしまっていた私に着せられたのは、お母さんとお揃いのエプロン。


『メリー、お前には少し早いかもしれないが、今日は三人でお料理をしよう』


__そっか。うん。そうか。


優しい人達だから、最後に、だね。


『ほら、粉に少しずつ水を混ぜて。

上手だぞメリー、よし、捏ねるぞ』

『そうそう、先を摘まんで一気に剥いてね。ほら、綺麗なお野菜ね』

『村長のブルーノさんからいただいた魚だよ。大きいだろう?』


まな板に乗せられた魚の腹に、包丁の先が滑るように吸い込まれるのを見ながらも、

私は初めて捏ねるパイ生地の感触が楽しくて楽しくて。

お父さんの手が少し震えていた事に気づきませんでした。


その夜は、不恰好な魚形でこんがり焼けた、魚と野菜の具沢山パイを、三人で食べました。


次の日は、お父さんと川で魚釣り。


次の日は、お母さんとオムレツ作り。


その次の日に、庭で鶏を飼うことになり__


__あれ?教会にはいつ戻されるのだろう?

不思議に思いながらも、あと少しだけでも続くのなら、このまま。

あと一日だけかもしれなくとも、このままでいれますように。


楽しいお出かけの日々を止めたのは、

当時の村長。ブルーノじぃちゃんでした。


『待てこら』


今日は森で獲物を狩るぞー!おー!

と繰り出した親子を、投げ網で捕らえた高齢にして俊敏を誇る、村のまとめ役。


『ロバート、お前は宿に戻れ。わしゃメリーに話しがある』

『今度にしてもらえませんか』

『行商の奴等が来る日だろう、忘れてたなバカ者が。帰れ。メリーはわしと婆さんと遊んでおくさ』


渋る父を最初は説得、最後は箒で追いやり、昼までに送って返すとの約束を

決めてからようやく、私だけ村長の御宅に招かれました。


『さぁメリー、紹介しよう、ワシの相棒のニコル。元は猟犬だが子どもを噛むような悪さはせん。ニコル、この子はメリー。初めましてかな?』


『初めまして、ニコル。宿屋のメリーです』


パサリ。

暖炉前で眠っていたのか、尻尾で床を叩いて挨拶を返した犬はとても大きかった。

村にいる猟犬は、細く引き締まった身体の、どちらかというと中型だが、

ニコルは、長毛種の大型犬の中でも特大。がっしりとした頭などは

メリーが両腕で抱えてやっと指先が触れるほど。

そして何より肝心なのは、何かと垂れている、まぶた、目の下、唇から喉にかかる、たぷんたぷんのヒダ。


『撫でてもいい?』

『怖くないならね。さてメリー、ワシは年を取って物忘れが始まってな。

メガネをどこに置いたか探してるのだが、ニコルが知らないか聞いてくれんか』


『ジジィ、ハナシナガイ、メガネシタコトナイダロ、ウソツクナ、ニクキュウサワッチャダメ。だって』


『はぁ…。なるほどなぁ。メリー、

お前さん、ロバートとアンジェラは好きか?そうか。うん。でな、お前さん、配達ってわかるか?』


__配達。そうだな、酒を運ぶ奴等が来るだろ?宿屋はいつ客が来るからわからんから、店に頼んで、金を払って

持って来てもらうんだ。


宿屋の主人自ら、山でイノシシは狩らん。

宿屋のおかみが、山で罠を仕掛けて兎を獲るのも、ない。


あいつらが何故、野生に帰、いや自給自足を始めたのか。お前の為だよ、メリー。


村では子どもの頃から家畜を育て、食う。お前は家畜にまだ会ったことはないだろう?教会は肉を出さないからな。


ロバートはなぁ、お前が飯を食わんのは、牛や豚とも話してたからじゃないかと悩んだのだ。

話したことはまだない?そうか。先に聞けよなあのバカ。


メリー。お前の両親は決して言わないがな、ワシは言うとしよう。

メリー、家畜と話をしてはいかん。

話しかけられても、無視をしろ。


…そう怖い顔をするな。犬や馬、あと鳥は好きにしろ。それは止めん。

人はな、無理に肉を食わずとも生きていける。実際に肉食をしない者もいる。

宗教の戒め、身体に合わない肉もあるだろうし、可哀想だから食わん奴もいるだろうさ。

だがお前は宿屋の娘だ。バカ親の奴等なら、イノシシ肉の専門店ぐらいしでかしそうだがな。

村には、多くの家畜がいる。今後、お前のお友達になるかもしれん動物だ。

お前が、両親がメリーの友達だから殺さないでくれとは言えないのだよ。

…よく考えなさい、メリー。


__村長さんはそれから、私をニコルに跨らせて、宿まで村を周りながら一緒に歩いてくれました。

元猟犬のニコルと一緒なら、家畜達は怖がり話しかけて来ることはありませんでした。


__宿に戻った際、村長は両親に告げたのは、

『明日の朝から、メリーはニコルの散歩をこの老いぼれの代わりにしてくれるとさ』

『そうねぇ、老夫婦と歩くより、ニコルは楽しそうね。村のパトロールをお願いね、メリー』


両親は、村長の奥様と話をしていたようです。

大きなお父さんの肩が落ち、お母さんの綺麗な目が真っ赤で、二人とも

ずっと小さくなってしまったように見えてしまって、私は、私は。


私は初めて。多分、生まれて初めて。

自分が食べたいものを、言いました。


『お父さん!牛の肉がいっぱい入ったシチューが食べたいです!』


「兄ちゃん、これは食育をテーマにした、愛と感動の親子愛の話なの?」


「ただの食いしん坊誕生の瞬間でしょ」


優しい両親の感動話です!

宿よりも私を優先させようとしてくれたのを知って、教会に戻らなくていいと安心できたのですから!


まぁおまけ話としては、

元猟犬のニコルさんが毎朝散歩時に、

(あの尻肉噛り付きたいわぁ、柔らけぇぞあれ。)

と獣目線での説明と解説をしてくれた為、私もいつの間にか「食べ物」として見るようになったのですよ!

牛さん豚さん、美味しい肉になってくれてありがとうなのです!


「貴女達メリーに感謝しなさい。

メリーが食いしん坊に目覚なければ、

イノシシや兎以外には、ヘビがメニューに加わるところだったのよ」


「「ありがとうメリー姉ちゃん」」


ん?



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