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宿屋のメリー告白大作戦  作者: ミツキ
15/48

メリーと陽気な王都の皆さん


質問「あなたは、メリーの好きな人をご存知でしたか?」


〈王都編〉


回答者・フォード辺境伯爵


__とても可愛らしい砂糖菓子のようなお嬢さんだったね。

そうか。恋をしていたのだね。

私は王宮までの付き添いで、会話を多く交わしたわけではないから、詳しくは知らないよ。




回答者・フォード辺境伯家、家宰


__いやぁもう伯爵はお怒りでした。

私共も出来る限り足止めしつつ、私兵同士の乱闘にならぬように指示を待っていてですね。

くふふ。アホ村長が娘の荷物を持ち出す際に、ちょっとイタズラもしたり、

くふふ。伯爵の追い込みが楽しみですなぁ!


ん?お嬢さんの想い人?はいはい。


「行商人さんに教えて頂いたお店を見て見たいのです」

「行商人さんに教えて頂いたお菓子を見つけました!」


あれだけ繰り返すと呪文ですよ。


まぁ、てっきり、王都で会えると思っていたのでしょうね。

彼は行商中でお会いできないと知った時のお嬢さんは、


涙を浮かべた目がね、こぼれるんじゃないかってぐらい大きく開いて。

下唇噛み締めて。


殿下との謁見や、王妃のサロンで必要な身の振る舞いの説明を聞いていた時は、理解の早い聡明なお嬢さんが、一転、


子鹿。産まれたての子鹿です。


両手足をぎゅっと踏ん張りつつも震え、そして瞳いっぱいの涙目__


しかしですね、さすが我らが主人です。


「村長から話がなかったのかな?彼は遠方で行商中だから、今回のサロン開催期間はとても、王都に戻れ、ない__(涙目に震える子鹿出現中)__が!がっ!

ゴホン。我が領民が今回のコンクールにおいて受賞できたのはとても喜ばしい。

よって、サロンの期間終了後、休日に合わせ、邸宅で身内のみのささやかなパーティーを開き、彼を招待するつもりだ」



もちろん。全員、初耳です。

そして残業決定の瞬間です。

しかし心の内で拍手喝采。


灰混じりの薄水色の瞳が、

微笑みと一緒に彩りを変え、瑠璃色に輝く。


固く閉じた蕾が、花片をほころばせて

花開く瞬間がそこにありました。


さすが、我らが辺境伯さまです。


遠方行商中の商人と、どうやって連絡を取るつもりだとか、

社交シーズンの予定ガチガチですけど、はははーだとか、些細なことです。


…結局、パーティーは開けませんでした。彼女が何度も何度も頭を下げながら邸宅から逃げるように出なければ

行けなかったのは、残念でなりません。


ですが、季節毎に、無記名の絵が届きます。

領地の自然から、街並み、王都で見た光景や、厨房まで。

言葉より何よりの、贈り物です。




回答者・侍女軍団


__

「私不思議なんだけどさ。メリーちゃんから絵が届く時ってさ、鳥じゃん」

「鳥だね。毎回違う鳥だね」

「なんで鳥なの?しかもかなり距離あるよ?鷹でも無理な距離よ?」

「メリーちゃんだからじゃね?」

「不思議ちゃんだもん。不思議でいいんだよ」



「あとガンレット子爵夫人むかつく」

「ウザいよね。奥様メリーちゃんを気に入って行儀見習いで預かりたいって

本気だったのにね」

「え?専属のレース職人でしょ?」

「刺繍の図案デザイナーじゃなく?」

「多芸よね」「メリーちゃんだしね」



「行商人さんと上手く行くといいね」

「行商人さんで無くてもいいから

幸せになって欲しいなぁ」



回答者・王子45歳


__私だな。今回の件は私が悪かった。

あんまり奴が自慢するから、田舎娘の絵手紙だろうと悪ふざけを言うと

奴もムキになって、額縁を作る前のそれを見ろっ、とね。


圧倒した。圧倒されてしまった。


縦90、横180の大キャンパスに描かれた、

紅、紅、紅。

見たこともない秋の景色が、突然現れた。


『大好きな村の秋を、見て欲しい』


伝えたい、想いをそのままに。


私はすっかり興奮して説き伏せてしまったのだよ。ちょうど彼は次の行商先を長距離のものにするか悩んでいて

留守の間に貸せとねだったのは私だ。

王家専属の職人に額縁を作らせる、

留守中、家具屋に預けたと思え。


都の絵画は、宗教や神話をモチーフにした、美しくはあるが生気の感じらぬものが長く主流だった。

この迫力を、ありのままの純粋さを投じてみたい。

膿んだ物しか創り出せない者たちよ、驚愕するがいい!


最優秀賞に選ばれて、私が驚愕。


行商人は不在。最優秀賞作品はオークションにかけられて、売られてしまう。


まずいまずいまずい。


次期国王がコレやっちゃまずい。

借りパクどころの話じゃない。


とにかく慌てて娘を呼び出すと、

娘は展示された絵を見て第一声、


「ありゃ。お荷物になるので見た後は野営の薪にして下さいとお願いしたのに。

そのまま運ばれたのですか。ありゃまぁまぁ」


ほらぁ、裏に切り取り線があるでしょう?

枠材に切り込みを入れてあるので、

簡単に薪になって良く燃えるはずだったのですよぉ。


…なんだこの、ほにゃほにゃとした娘は。行商人に聞いていた人物像はどこに行った?


辺境伯爵に曰く、

連絡の行き違いで行商人に会えると聞いて楽しみにしていたらしく、

自分の絵には一切の執着はないとのこと。


ガンレット子爵夫人がバカな事をしでかした時は、

ここぞ私の出番だと、前に出た。


出品の際に必要な形式上の所有者は王子である私にある。

もちろんオークションで競り落とすので最終的には行商人の手元に戻すと

責任を果たそうとしたのだが、


迷惑はかけられない。行商人の元には戻さないで欲しい。

出品も受賞も辞退する。


「王子さまにお供えするのでトイレにでも飾って下さい!私はお家に帰りますぅぅ!」


………


まずい。非常にまずい。


ガンレット子爵夫人は、自分の子どもだと主張した以外は法を犯しておらず、

理を諭しても黙らせることが出来ないのだ。


そんな中、彼の所属する行商団の代表から、返信がやっと届いた。

代表は、我が親友であり、学び舎で机を共にした学友だ。



『現在王都に向け進行中。顔を洗って待ってろ』


寝ぼけた事をしてんじゃねぇ。

友からの心の叱咤に、意を決した。


何よりも彼女の安全が重要である。

と主張する辺境伯爵に対し、

彼女の望み通り、家に返してやろう。

彼女の気持ちを私は優先した。


__その夜、密かに王都から逃げたしたはずの、彼女の乗る馬車が襲撃されたと

辺境伯から報が入る。


慌てるな、大丈夫だ。こんなこともあろうかと、私は彼女に影をつけている。


ほら、こいつだ……何故お前がここにいる?


__村長確保、少女は単騎で離脱、以後行き先不明。



手紙は届く。

彼の所属する行商団は、秘境の奥地、最果ての離島、あるいは戦地でさえ生きて帰る傭兵の団体でもある。


『残り20日。髪を洗って待ってろ』


剃られる。残り少ない心残りの我が頭髪が、奴らに剃られてしまう。


彼らは独自のルートを使い、情報を得てるのだろう。


そして、かの行商人は、我が親友が溺愛する末の弟である。



__山道に意識を失い、筆舌に尽くし難い様の盗賊団と見られる男達を発見。フォード領の方角。

少女の姿__無し。


とりあえず、ガンレット子爵家に騎士団ごと突入しよう。私も悪いが奴らも悪い。

罪状はムカついたで押し通そう。


騎士団に全力で止められて暴れている最中に、

ようやく待ちに待った吉報が届く。


__生存を確認。健康良好。

__自力解決。無問題。超御機嫌。


なにやらわからんが、無事、領地に辿りついたらしい。

助かった!主に私が!



『残り10日。首を洗って待ってろ』


助からないかもしれない。

何もやってない私は。





…………その頃のメリーと馬車



「ヒンヒン」

「ヒヒン?」


そうですね〜お天気も良いので、

川遊びしましょうね〜




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