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フェゴールとファッキンファンタジー  作者: 伊左坂ぐうたら
第1章 また来たよ、ファンタジー世界編
6/29

オレとアイツと侵入者

※今回は、ベルフェゴールお休み回です。

<視点変更:シグ>


 名もなき平原に、フェゴール(ことアイツ)が建てた家がある。ネーミングセンスはダセェ。

 アイツ曰く『ちょっと規模を大きくした』とか言ってたが、オレは玄関があって、メシ食うところがあって、そのほかは【どこでも○ア】みたいな扉で他の部屋を行き来していた前の世界の家構造の方が良かった。

 何でかって? オレ、メイドだぜ?

 部屋数バカみたいに作りやがって、掃除する身にもなれよっ!!

 まぁ、最近はベレッタとの連携作業がようやく板について、半日はかかっていた掃除が、半日で他の業務もこなせるようになってきた。欲を言えば、あの自称・メイド長がビシッと仕事をしてくれればもう少しオレ等が楽できるんだけどな。

 ヒマさえできれば、風呂入りやがってぇぇぇぇ。これで風呂清掃もオレ等の仕事だったら、そう遠くない日に下剋上を起こすトコロだった。今は、こなした仕事量に応じたご褒美があるから、そこまで不満はなくなったけどな。何だよ、急に顔が赤くなった? ほっとけ!!


 おっと。

 家のことと愚痴を言いにオレが現れてきたわけじゃなかった。

 オレの仕事は【斥候】だ。

 今回のように、アイツの想定外の異常事態に誰よりも早く現場に赴いて、聡子が仕掛けた監視カメラでは伝わらない強敵の実力を見極めるのが、オレの仕事だ。


 勝手口から外へ出て、障害物の役割を兼ねている庭木の影に隠れるようにして、現在白熱中の正門前の乱戦を伺ってみた。

 【乱戦】という表現を使ったのは、アイツがドラゴンの牙で創った3体の【竜牙兵ドラゴントゥース】が侵入者を排除するため、果敢に挑んでいるからだ。

 

 竜牙兵と言えば、一般的な見た目は剣と盾を駆使する人間骨格のスケルトン戦士だ。だが、作成者のアイツは【竜牙】の部分を誤って解釈したらしく、顔の部分がドラゴンになっている。それだけならまだしも、その竜顔のスケルトン戦士は『様々な』ブレスを吐くことができる。

 ドラゴンゾンビが腐敗ガスしか吐けない、というのはまだわかる。

 骨だけの、ブレスを吐くための火袋を失ったドラゴンに生前と同じブレスは吐けない。にもかかわらず、ドラゴンよりもはるかにランクが落ちる、このスケルトン戦士には同じ状況だというのにブレスが吐ける。もうこれチートだろ。それに、たかだか門番にこんなチートとか誰得だよ。


 今、隊長格の竜牙兵が、いまだ煙の払い切れていない激戦地からギュインと距離を詰めてきた侵入者の剣を所持するバスターソードで受け止め、すぐに鍔迫り合いが発生した。

 実力が均衡しているのか、互いに動きがみられないことをチャンスと見た彼の部下たちが、両脇から酸のブレスで侵入者を包むように吐いてきた。

 竜牙兵の連携のとれた行動に頭いいな、と思った瞬間、アイツのドヤ顔が浮かんだ。しかも、ドヤ顔を擦り付けるように近付けてくる幻覚が見えたので、煙を振り払うような所作でドヤ顔を掻き消した。


 一方の侵入者は思わぬ行動にたじろいだのか、鍔迫り合いを中断する。立て続けにブワサァと何かを広げる音を立てて一気に飛び上がった。そのとき、おびただしい量の風が発生し、土煙を完全に払った。

 青い空にくっきりと映った侵入者は、天使だった。報告にあった片手剣を所持していた。

 けど、その表情は冷めていた。以前、2度目の襲撃に来たウィンのように、魂が抜けていた。


 と。

 ほんのわずか、上空の天使に視線が映ったそのほんのわずかの間に、地表すれすれを滑るかのように高速で近づく物体の存在を感知した。

 中央の竜牙兵がバスターソードを盾にするかのように地面に突き刺して、物体の体当たりをさばく。他の両脇の2体は、守備動作が間に合わず、物体の衝撃波をもろにかぶり、後方の正面玄関の方へと飛ばされた。死んで(?)はいないが骨格をズタズタにされ、立ち上がることもままならないでいる。


 隊長格竜牙兵の剣を盾にせざるを得なかった状況を作り出した者も、天使だった。コイツは槍の所持者だった。この槍の天使は剣の天使と違い、鍔迫り合いを行わなかった。

 まるで一瞬のスキを奪えばそれでよい、とばかりにすかさず距離を取った。

 と。

 頭上の剣の天使が、隊長格竜牙兵の頭上から兜割りを仕掛けてきた。

 彼の得物は地面に突き刺しており、そう簡単には抜けないでいる。

 迷いのない剣の鋭い一刺しが徐々に近づいてくる。


 ふと、アイツの悲しむ顔が浮かんだ。

 なまじアイツの物つくりをするときの嬉々とした表情を見てきているだけに、せっかく作ったモノが壊れてしまうであろう瞬間に、そのまま【斥候】でいることができなかった。


 ババン、ババババ……。


 オレは物陰から勢いよく飛び出すや、走り撃ちしながら戦陣の輪に加わることにした。

 兜割り中の天使が、オレの銃撃に軌道を修正されて、深々と剣を沈めさせられるハメになった。

 オレの存在に気付いた槍の天使が、開けた距離を縮めるように再度近づいてきた。

 そこをようやくバスターソードを引っこ抜いた隊長格竜牙兵が剣を一閃する。

 当たればいいな、という程度の振り回しにしか見えないが、実際に当たるとタダじゃすまないその横薙ぎの一撃は、距離を詰める槍の天使のけん制になり、剣の天使には埋まった剣を諦める動機になった。


 2人の天使は上空に浮かび上がると、槍の天使が剣の天使に槍を与えた。

 槍の天使はどこからか杖を取り出して、杖に魔力を宿らせた。


「どうやら、今から第2ラウンドになるみたいだな」


 オレの語りかけに、隊長格竜牙兵は頷いてみせた。

 その妙に人間臭い所作に、アイツの作ったモノらしさ……個性を見出したようで、オレは思わず吹き出した。

 戦いの最中に不謹慎だけどさ。

 でも、そこそこに緊張感が抜けて、戦いやすくなった気がする。

 オレは今まで大事に使っていた相棒と、アイツから貰ったチート銃の2丁拳銃スタイルで構えの姿勢をとると、2人の天使を小指で挑発した。


 相変わらず無表情だったが、殺気が急に膨れ上がった。

 一つ、確信した。

 天使たちは、操られている。

 それを暴き、どうにかするのが今回のオレ等の目的な気がした。


《了解。あなたの勘は良く当たるから、そのプランを採用するわ。

 もう少しでベレッタとモナが応援に当たるから持ち応えておきなさい》


 髪の毛に隠れて見えないイヤホンマイクに情報を送る。

 今回も司令塔はイサカ、か。

 やはり、アイツは……と思いを馳せる間もなく、杖に持ち替えた天使が魔法の詠唱を始めた。

 オレの盾になってくれている竜牙兵がバスターソードを握り直して、槍の天使を迎えうった。

 オレは、持ち前の素早さを駆使して、銃撃と足技を絡めつつ、杖の天使の魔法詠唱の妨害に努めた。

2014/04/05 指摘により、バスタードソードをバスターソードに変更。


※バスタードソード

 トゥーハンテッドソードみたく、縦に細く長い両手剣。

 体格に恵まれない限り、片手で扱うのは難しい。


※バスターソード

 『ドラゴン殺し』とか『喰らうど』とかで有名な、板が剣になったような大剣。

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