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フェゴールとファッキンファンタジー  作者: 伊左坂ぐうたら
第1章 また来たよ、ファンタジー世界編
4/29

医務室にて、女医さんとジョイントジョイント♪

※『ジョイント』の件はウソは言ってないぞ。

 読み手と書き手との間にある想像力の誤差は認めるがな。

  医務室に向かうがてら、ふと思い出したんだが、ベネリは大浴場から出たあとの展開が読めたから、ワザと酔っぱらったふりをしていたのかもしれない。

 おかしいなー? とは一応思ったんだよ。なんてったって日頃、ライカの部屋の一角に設けられた(趣味全開な)ダイニングバーでグビグビと度数の高いカクテルを飲んでいるヤツが、たったビール数缶で酔うわけないわな。

 まぁ、ここは今後似たような展開があった時の経験を積んだと思うことにしよう。





「おーい、ウィン、ウコンはあるか?」


 医務室の扉を開けつつ、後姿のまま振り返らないエルフに目的のブツがあるかどうかを確認してみた。

 エルフは面倒くさそうに僅かな動作で指をさし、自分の欲しがっている物が収納されている冷蔵庫を教えてくれた。


「おー、あったあった『ウコンのパワー』ゲットだぜ」


 つい、いつもの習性で冷蔵庫の扉をバタンと閉めた。

 集中しているエルフの耳がおおきな音に反応して、わずかに震える。


(グビグビビビビ……)


 自分には喉を鳴らすように音を出して飲む習性があり、またもエルフの耳がぴくぴくと震えている。


「……で、空き缶はどこに捨てるんだ?」

「あーーもーー、うるさいうるさい、うーーるーーさーーい! エルフが集中しているところを積極的に邪魔するとか、信じられないんですけど?」


 と、研究服を着たエルフが手足をバタバタしながら文句を垂れてきた。

 こぶりでまるっこい眼鏡ととがったくちびるが何だか可愛い。

 それにしても、ああ、こりゃアレだ、かんしゃく玉の爆発数秒前みたいだな。ミステリー? 確かそういうヤツ。


「そういうときは大体、集中力低下のバッステがかかってるから、これでも飲んで気分転換だ」


 と、自分は冷蔵庫内に伸ばした手から一番近くにあったドリンク剤をウィンに放り投げた。


「さんきゅ♪ ……って、アンタはあたしに何をさせるつもりよ」


 しっかりキャッチしたウィンが、ドリンク剤のラベルを見て顔を紅潮させるや、投げ返してきた。

 自分のほんわか投球と違い、実にキレのいいストレートで、キャッチしたほうの手がわずかに痺れた。ドンだけ怒ってんだ、お前わ。


 問題のドリンク剤にはエルフ語で『一発用』と書かれてあった。

 ふむ。これはアレだな、大切な夜を過ごす際に万が一ナニに元気がなかったときに……とわざわざ説明せずとも顔には出ていたようで、とうとうかんしゃく玉を爆発させたウィンが、身の回りの道具を一斉にこちらへと飛ばしてきた。

 大抵が定規や鉛筆といったソフトなものだが、時折、鉗子やメスといったシャレにならないものまで飛んできたので、終わらせるためにも、彼女との距離を詰めることにした。

 自分の急な反応に対応できずにいるウィンだがとっさに身構えた。悪くない判断だ。こちらはそんな事には目もくれず、視認できない速さを伴った指圧療法でカチコチになっていた首筋から太ももまでを瞬く間にほぐした。

 ウィンの表情が、ほぼ同時に憑き物でも取れたかのようなに上から順に和らいでいった。ついでに緊張感もほぐされたようで、指圧の終了と同時にガクンと糸の切れた操り人形のようにこちら側へと倒れ込んできた。

 自分は、そのまま近くに設置してあるベッドに彼女を寝かしつけた。

 ぱふぱふへの誘惑があったが、タイミング悪くイサカが来室した時に乳をつかんでいる瞬間を目撃されたら……まず間違いなくドス黒いオーラを纏われた状態での死亡遊戯が始まるので、止めておく。

 横になっても型の崩れない美乳の持ち主なので、正直なかなかないチャンスだけに惜しいのだが、血の涙を出してでも、止めておく。





 ウィンは現在、自分の眼球を創り出すため、日夜、研究三昧である。


 眼球というのは、当然目玉である。

 自分は大昔、イサカに一目ぼれした際に眼球を焦がし、以降、ルイに出会うまでのあいだ、地獄の闇よりも深い色合いのサングラスを着用していた。

 眼球のない状態で人通りの多いところを歩けば高確率でガキに石を投げられるため、必須だった。大人が気味悪がる視線はまだいいが、ガキの容赦ない投石行動は『マ・ジ・で』腹立つでぇ。


 ルイに出会って、彼の好意から念願の眼球を手に入れたが、赤と青のオッドアイだった。ルイ本人が自分の目の前で眼球を抜き出し、そのまま移植してくれたのだから間違いない。

 ちなみにルイ本人はその後、姿を消し、次に出会ったときは女学生姿だった。眼球は新しく新調しており、普段は褐色の瞳孔だが、気合が入ると赤く光る仕組みになっていた。ヤンキー漫画によくある『凄みを出したらこんな目になります』みたいな感じだった。

 蛇足情報だが、人間の姿をしたモノ(悪魔以外の存在がいるため)のオッドアイは大変珍しいらしく、本当かどうかは不明だが、特に魔力のこもったオッドアイは【賢者の石】に次ぐほどの貴重な素材とか。


 ルイから貰った時期が中世暗黒時代あたりだったこともあり、結局サングラスは外せなかった。

 その代わり、ルイこと別名悪魔王直々の眼球オッドアイは、旅先で何度か危機を救ってくれた。今にして思えば、あのときのいくつかの窮地に対し、ルイ本人が姿を見せることによって起こるであろう様々な軋轢(例えば、ルイの足取りをつかみたい天使たちの警戒心)を回避するための措置だったのかな、と思っている。上に立つ者ならではの思いやり、といったところか。参考になるね。



 さて、ウィンは何故眼球を創り出そうとしているのだろうか?

 おっと、その前にウィンの紹介をするとしよう。


 ウィンは既述したが、エルフである。

 ベネリが以前経営していたメイド喫茶からの刺客その2である。

 蛇足だが、その1はライカである。その3まであって、それはシグ&ベレッタが該当する。

 そして、彼女だけ2回襲撃してきた。


 一度目は、襲撃というより、初めてのこちら側の世界に適応できず、車の排ガスや化学スモッグに気管支をやられ、玄関先で倒れていた。

 看病したら回復したので、ある程度元気になったところでどこから来たのかを聞きだして、自分行きつけのメイド喫茶がアジトだと知った時は大層驚かされた。

 結局、現実世界の空気の悪さにある程度慣れてから、メイド喫茶まで送り返した。

 悪魔が言うのもなんだけど、悪の組織というのはよほどのことがない限り失敗に不寛容だ。だから、メイド喫茶に戻ることはやめといたほうがいい、と一応アドバイスしたが、本人の意思は固かった。


 後日、空ろな瞳、生気のない表情、着崩したままの衣服にススや泥があちらこちらに付着している状態でふたたび襲撃してきた。

 前回とは打って変わってのただ事じゃない状況に、本人をある方法で蘇生したのち、聞いてみたところ、好きだった勇者カレシのために魔王を命からがら倒した途端、勇者が悪魔の姿になり、新しい魔王として君臨したそうな。そして新魔王はウィンの故郷を人質に、自分の抹殺を持ちかけたという。これが1回目の襲撃未遂時の真相だった。意外とシリアスだったことに驚いたのは内緒だ。だって、玄関先で殺虫スプレーにやられたGみたいにビクンビクンしているエルフを見て、そんなバックボーン、考えつかないよ?


 ウィンからその新魔王の名を聞いてみたが、心当たりはなかった。確か、ペペロンチーノみたいなネーミングだった。現実世界でもゲームの中でデミグラスソースのような魔王がいたから派生っぽい。

 で、その略してペペはしくじったウィンを許さず、彼女の故郷を焼き滅ぼした。信じていた心がズタズタになっていく過程を最大限楽しみ、呆然としたままの身動き一つしなくなるや興味が失せたとばかりに、新魔王に忠誠を誓った新しい取り巻きたちの慰み物に用いつつ、それでもなお僅かに残っていたすがりたい気持ちの芯の部分を発見するや、『もう一度』チャンスを与えたそうな。悪魔の自分が言うのもなんだが、都合の良いチャンスの与え方だな、とツッコまざるを得んかったね。で、これが2度目の襲撃となる理由。

 【儀式】のときに、新魔王の討滅と故郷の復活を約束した。ウィンがいた世界と自分の住んでいた世界に共通点がなかったため、未だ約束は果たされていないが、ペペの情報が入る世界に遭遇したら、頑張らねば。


 どうでもいいが、ぺぺは自分やルイたちとは出自そのものが違う魔族の可能性が高い。つまり、自分らは古代から残る言い伝えや聖書から生まれた存在であるのに対し、ラノベあたりの謂わばポッと出の新興悪魔ということだ。

 そんでもって、新魔王を名乗るならセーフだが、悪魔王を名乗ったらアウトだったな……と。まぁ、新魔王に関してもラノベ界隈ならともかく現実世界では同じ魔族であろうとも名乗るだけ嗤われるのがオチだが。

 先程も触れたように、新興悪魔は古代の言い伝えや聖書を拠り所としないので、存在に深みがないのだ。深みとは筆舌尽くし難い畏怖や恐れのことであり、仮にラノベ界隈で絵柄で人気が出た悪魔がいたとして、ソイツが後世まで世界各地へと伝わるような影響力を持つかというと、ノーである。

 ある作品の専属だった悪魔絵師は、言い伝えのみでどんな姿かも知られてなかった古代の我々のを持ち前のイマジネーションを駆使して、再びこの世に解き放ってくれた。自分は超絶弩級のマイナー悪魔であるが、マイナー悪魔を代表して、ここにお礼を述べておく。





 さて話が大いに逸れたので戻そう。


「えーっと?」

「ウィンがフェゴール様の目を創る理由ですよ」


 そうそう、エルフが悪魔の眼球を創る話である。イサカのフォローが光る。

 というか、ウィンの紹介が思った以上に長かったせいか、イサカに自分の居場所を知られた。別に知られても困るようなことはしていないので、イサカの登場には感謝である。

 うむ。やはり乳を触らんでよかったよかった……とも。


 早い話、悪魔王の眼球を元の世界へと戻るための触媒魔法に使用して、失ってしまった。

 悪魔王レベルの魔力ですら元の世界に戻れないとなると、これは名前すら明らかになっていない転生神の力が半端ないレベルということになる。

 ちなみに触媒魔法を提案し、実行したのはマモンだ。

 マモンのことは後述するとして、彼女の勧めに従い、自分らは前の世界【ホワー】をすて、この世界【ホワイ】を訪れた。


 初めて訪れたときのことは今でも忘れられない。

 血のような夕日を背景に、名もなき平原に突如現れた自分らに対し、事前情報でも得ていたのか【伝説の勇者】という職業名の少年少女たちが拍手喝采で迎え、伝説の勇者であることを示す【伝説の武具】をこちらに誇示してニタニタと笑い、殲滅せんっ! とばかりに襲撃してきたからね。


 あるラノベによると、子供のわずかな力でも引き金を引くだけで屈強な大人が殺せる威力を持つ現実世界の銃とは違い、ファンタジーでの銃は持ち主のレベルに応じた強さしか発揮できず、低レベルが発射した弾の弾道は遅く、威力もレベルに応じた火力設定になっているのが常識らしい。

 その常識で高レベルかつ人畜無害の村人とバトッた場合、銃弾を命中させることすら難しく、万が一、ラッキーショットがあったとしても低レベルの攻撃力ではたとえライフルの弾でさえ肌が切れたらいい方だとか。

 あのときの自分のレベル(8)の状態では、普通ならば、レベル50で転職可能な伝説の勇者たちを倒すという話自体が、どだい無理ということらしい。

 少年少女の残忍きわまる笑顔はその辺を踏まえてのことだった。


 幸い、ファンタジー世界であるにもかかわらず、銃の威力は落ちていなかった。

 当時はそんなラノベ(もといファンタジー)の常識すら知らず、攻めてきた相手に遠慮なく鉛玉を撃ち込んでいた。

 そういえば、状況が劣勢になった途端に『話が違うじゃねーか、ゴラァ』みたいな慟哭を天に向かって叫んだ少年がいたな。

 大人モナのバレットM82が頭蓋骨にクリティカルヒットして、残る肢体もバラバラに吹き飛んだが。

 あれは、そういうことを含めて嘆いていたのか……と、戦闘の後始末を終えて、ライカのダイニングバーでスマホをいじっていた時、気付いた。

 ガンナーが主人公のラノベがあって良かった。思わぬ出会いに感謝感謝である。

 まぁ、それはともかく【集った勇者たちの皆殺し殲滅デビュー】という、自分たちらしい異世界への挨拶になったのは確かだな。


 実はこのデビュー戦で自分はそれほど活躍できなかった。

 目を失ってあまり時間が経ってない状況で異世界に来たものだから、空間認識に手間取った。

 聴覚嗅覚その他器官を総動員して、モノクロの世界観から近づいてくる何かに発砲するのが精いっぱいだった。かつて目を失ったとき、『普通の人』と変わりなく生活していたが、それもある程度の時間をかけた周囲への空間認識があっての話だ。あのように急にすべてが目まぐるしく動く状況下では経験に基づく『カン』で対処するしかなかった。

 戦いが終わってから、改めて目の重要性を再確認した。

 そしてそれをだれに頼もうか決めかけていた時、ウィンが名乗り出た。


 ウィンは一般的なエルフと比べ、弓の扱いが上手かったが治癒魔法を苦手としていた。具体的にはレベル50前後の割には中級魔法までしか習得していなかった。

 今までは長所の弓術を伸ばす方向に全力を費やしていたが、自分との関わり以降、同じパートナーズの一員である聡子との何らかの遣り取りののち、治癒魔法に限らず、医療方面への才能を開花させた。

 今では、錬金術も熟練の域へと達し、先程の『ウコンのパワー』やスタミナポーションといった各種回復剤を量産してくれる、頼れる後方支援型である。


 眼球の再現レベルがどれほどのものかはわからないが、『フェゴールに適合した眼球を必ず創るから待ってほしい』と言われ、信じることにした。

 あれから2年経過したが、自分は未だに信じつづけている。

 信じることを握手で求めたときに、確かな意思をもって握り返してきたのを感じ取ったのだから。



 もう一度、眠りこけるウィンに視線を向けたあと、『ハァイ、お元気ですか~~皆サン♪』と無駄にテンションを上げた聡子先生が自分の腕を胸でガッチリロックした後、挨拶のチューをしてきた。

 それはそれは艶めかしくぬっとりとモナのキスよりも長く続いた。

 傍のイサカの雰囲気が我慢の臨界点を超えるくらいに。

 いたたたた! イサカさん、つねるのに飽きたからって、関節は止めて、めないで。


(くそぅ、結局こうなるんやったら、ウィンの乳揉んどくべきやった)


 エロいことが顔に出ていたのか、空気を読んだイサカのDDTが無遠慮に決まる。大した意味もなく大理石にした床に後頭部を打ちつけられ、もんどりうっていると、今度はジャイアントスイングをやり始めた。で、ブン投げられて四つん這い状態でビクンビクンしてます。

 自分に自己修復能力があるのを知っているので、立てるようになるまでは待ってくれるんだけど、その後、まだまだ続くのだろうか。

 というか、いつベネリから格闘技を学んだのよ、イサカさん。


 ああ、自分、この世界でも何度仮死状態経験するんやろ。


「自業自得だろ?」


 はい、シグちゃん、その通りであります。

※次回は『女教師・聡子先生と僕のいけない秘密レッスン』をお送りします。

 タイトルは事前に変更となる場合があります。

 過剰な期待はおやめください。


2014/03/20 軽い見直しで表現のおかしい点を修正。

2014/03/24 指摘された表現力のおかしい点を修正。

2014/03/28 読み直しで気付いた点を修正。

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