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フェゴールとファッキンファンタジー  作者: 伊左坂ぐうたら
第2章 死者の国で、アルマゲドン
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前門の虎、後門の狼

 翌朝。

 具体的には正午前。

 夜明け前まで飲み明かしたため、酔い醒ましに軽く一眠りをしていたときのこと。

 誰かが自分を起こしに来た。

 現在、両方の眼球がないこともあり、第三者を怖がらせてはいけない意味も含めてサングラスをして眠っていたこともあって、本当に誰が起こしに来たのかわからなかった。

 まぁ、シグちゃんかラムの二択しかないわけだが、声掛けが一切無かったのが不思議だった。こちらの身体を揺さぶるだけで、自分からの反応がないことにお困りのようだった。


「そこの君、私を起こしたければ、チッスである」


 どちらであるか的を絞るにも、酒の影響か、まだまだ頭が働かなかったので、冗談半分で唇を尖らせた。シグちゃんなら蹴飛ばしてくるだろう。ラムだったら、爪で引っ掻いてくるだろう。そうして、自分はようやく現実の厳しさと共に真に覚醒するのだ。

 だが、その第三者は真面目さんだった。震える身体を無理して己の唇を近づけてきた。先に不規則な乱れを生じている鼻息が、相手の緊張感を知らせてくる。いや、もうここまでお膳立てされたら戴くのみである。ガバーッと相手を抱き寄せてチュウチュウしてやった。もちろん、相手が激しく抵抗してくる。わかる。別段好きでもない相手が執拗にチュウチュウしているのだ。さぞかし、背筋がゾワゾワしていることだろう。胸の奥底から沸き上がる恐怖心に押し潰されそうになっていることだろう。しかし、息継ぎなしでなおもチュウチュウして、相手の根負けを誘導した。

 ようやく呼吸ができるようになり、むせこみながらも呼吸をする相手をよそに、自分は立ち上がった。

 何故か。

 覚醒を果たし、正常稼働するようになった嗅覚と聴覚が告げてくる。

 昼間から堂々とハレンチ行為に勤しんだ悪魔を撲滅せん、と蹴りと爪を駆使する乙女たちが近づいてくることを。



 ラムの親父さんに会いに行く前に、犬獣人が仲間になった。

 名前はワフーちゃん。本名ではないようだ。

 ロムパイアさんの奥さんが説明するに、馴染みの行商人が行き掛けに拾った孤児で、不憫に思った奥さんが彼女を買い取り、今まで小間使いとして育て、ゆくゆくは村の誰かのもとへと嫁がせようとしていた、と。

 それが昼御飯前の自分のディープチッスが原因で、すっかりなついてしまった。脳幹に二発じゃなくて、快楽物質を送り込みすぎたようだ。刷り込みというやつが起きてしまった。

 そういうわけで、責任をとることとなり、ロムパイアの奥さんに慰謝料を払い、ワフーちゃんを手に入れた。


「これからよろしくな、ワフーちゃん」

「わ、わふー!」


 上機嫌の犬獣人。反比例して、冷たい眼差しの猫と美少女だった。

 悪いな、二人とも。これは、もう病気なんだよ。


 ■□■□


 気を取り直して、ロムパイアさんの案内のもと、ラムの親父さんのところへと向かう。

 親父さんの居場所は、少し丘を上ったところにあるバラ園だった。

 バラ園に囲まれるように中央に親父さんが寝泊まりしているのであろう、木造平屋の一軒家があった。

 チョキチョキチョキと剪定せんていバサミで庭木を調整しているような音が聞こえたので、そちらへと向かった。

 何やらショボくれた感じの白い虎獣人が、作業に打ち込んでいた。


「パパなのニャ?」


 その姿を見て、思わず口に出したラム。

 思い出の父親像と幾分かのズレがあったのだろう。


「んー?」


 何だか懐かしい声を聴いたなーっといった感じで虎獣人が振り向く。

 目が飛び出るほど驚いた顔を見た。

 数秒間、時が止まった。

 よろよろとおぼつかない足取りでラムのもとへと近寄る親父どの。


「マァマ~~」

「ハ○チ~~」


 ……みたいなモーションの涙の抱擁が始まった。


「会いたかったのニャ。まるで夢のようなのニャ」

「娘よ、それは吾輩も同じ気持ちなのジャ」


 とまぁ、こんな感じで互いにもう離れ離れにならないぞ、という意思確認が受け取れるかたい抱擁が再度行われた。

 シグちゃんとワフーちゃんが涙ぐんでいた。

 ロムパイアさんはズズッと鼻頭に熱いものがこみ上がっている模様。

 自分?

 懐中時計で抱擁の時間を計っている。5分超えたら、自分の用事を済ませるつもりだからだ。


 5分後。

 今だ、ニャアニャア言っている二人のもとへと近づき、手を鳴らす。

 突然の柏手の音に、父娘が自分に凝視の視線を送る。

 この空気を邪魔する、空気の読めねぇヤツは誰じゃ! みたいな空気があった。


「感動の再会のところすみませんがね、お義父(とう)さん。娘さんを僕にください」

「シャア!!」


 すっかり活力の戻った、物騒なレベルの大きな爪による引っ掻き攻撃がやってきましたよ、と。

 まぁ、予想通りだったけどね。

 で、引っ掻き攻撃を避けるべく、バックステップを取ろうとして、壁にぶち当たった。

 まさかのワフーちゃんが、顔を真っ赤にして自分の背中をポカポカと叩いている。

 あ、アレか。

 つい先程、ワフーちゃんを買い取り、色目を使ったその後のラムへの結婚宣言にお怒りなのね。

 ここでサイドステップで避けたら、ワフーちゃんに勿論、当たるだろう。

 相手の引っ掻き攻撃は獣人区元最強のパワーを誇る。最悪、死ぬかもしれん。

 なので。

 受け止めよう。久々の物理攻撃をこの身で受け止めて、ワフーちゃんを守ろう。


 ワフーちゃん。

 おじさんはクズかもしれないが、身内には優しい悪魔のつもりだ。

 だから。

 最悪、こちらの予想を上回る攻撃力で自分が死にそうになったら、どうにか助けてほしい。

 それでは、また会おう。

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