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フェゴールとファッキンファンタジー  作者: 伊左坂ぐうたら
第2章 死者の国で、アルマゲドン
25/29

ラム、河川敷で記憶を取り戻す。

 こちらの個人的な用事は済んだので、帰るだけとなった。

 いつのまにか、シグと所長が研究施設にていろんなパーツを見て回っていた。


「ねぇねぇ、所長さん。この大きな塊は何ですか?」

「ほっほっほ。そいつは機密事項に触れるから教えられんが、すごく大事な部品じゃな」


 そういえば、先ほどからシグの視線がこのすごく大きな金属の塊をチラリチラリと見ていたが、気になっていたのか。

 まぁ、気になるよなぁ。特に知らない人からすれば、メタリックなウンコを横に伸ばしたかのようなオブジェだし。

 ドワーフ所長もこちらの顔色を窺っているし、あの場に駆けつけたほうがよさげだ。


「なぁ、フェゴール。あんたならこの金属の塊が何かを教えられるんじゃないのか?」

「まぁ、しゃべることはできる」

「おいおい、お前さん」


 あっさりとゲロるとドワーフ所長が慌てて釘を刺してきた。

 それを片手で制し、自分はシグに訊ねてみた。


「どう教えてやるか? わかりやすい方にするかね。それとも難解な方?」

「分かりやすい方に決まってるじゃん」

「じゃ、国防にとってとても大切なパーツとだけしか教えられん」

「な、なんだよ、それ。試しに難解な方は?」


 情報が少なすぎてムッと来たシグが突っかかって来たので、ドワーフ所長に視線を送った。

 心得た、とばかりに口元を緩めたおやっさんが、念仏のような専門用語バリバリの英会話のような……まぁ、すこぶる難解な言葉ばかりをあえて取り出してしゃべり始めた。


「もういい、もういいよ。あんたらがしゃべりたくないという気持ちはよく伝わったよ」


 両耳を押さえ、やや涙目のシグ。そこまで追い詰めるつもりはなかったのだが。


「すまないな。だが、どこであのクソニートが聞き耳を立てているかわからん。秘密は最後まで守らないと意味がないんだ。理解してくれ」

「クソニート? 誰のことだよ、それ」

「自分が敵対している相手さ。本人は全知全能神・YHVHとかほざいとるが、自分から言わせれば、元の世界の大半の信者が熱心に祈りをささげていても何の仕事もしないアホにしか見えん。それこそ、我々の目の届かないところで何をしているのやら。これをNEETと呼ばずして何と言う。

 だから、全知全能神クソニート(笑)と自分たちは呼んでいる」


 自分の説明に押し黙るシグ。

 理解を要しているのか、ナウローディング中っぽい反応。いや、フリーズ中か?


「ぷっ、なんだよ、それ」


 ようやく理解が追い付いたかと思えば、口元を手で隠しながら忍び笑いをしてきた。

 少年のような容姿をしているが、そこは女の子。人前で噴きだすのは難しいか。

 まぁ、コロコロと感情の変わる子ではある。見ていて飽きないからいいが。


「じゃあ、どのぐらい状況が危なくなったら教えてくれるんだ?」

「タギリロン、滅亡寸前の危機かなぁ」

「このウンコにそんな秘密が!」

「こんなバカバカしい形状だからこそ、かえって敵の目がごまかせるんだよ」

「まぁまぁ、お二人さん。熱くならないならない。はい、ドゥドゥ」


 ドワーフ所長の権太な腕に仲裁され、別の研究員からフルーツ牛乳を振る舞われた。

 ペットボトルではない、あえて瓶詰めのフルーツ牛乳である。

 自分は腰に手を当てグビリッと一気に飲みきり、シグは両手で瓶を大事そうに抱きかかえてコクコクコクと飲んでいる。


「………………」

「………………」

「……悪かった。確かにカッとなっていたな」

「……オレだって、秘密を知りたい一心でムキになってたよ。ごめん」


 飲み終えて、冷静さを取り戻したこともあり、自分とシグは握手を交わして仲直りした。

 そして、この話題にはこれ以上触れないよう、そそくさと研究室を後にした。





 帰りがけ、行くときにも寄った『イムさんのコンビニ』に入り、コミックスコーナーを覗く。

 第1話から1億PVを叩きだした空前絶後のファンタジーチーレム小説『幻界突破』の1巻目が並んでいた。


「イムさん、これ、面白い?」

「イム~」


 イムさんの表情は険しい。

 シグから言わせれば普段の表情と全然見分けがつかないらしいが、ここは長年の付き合いであろう。何となくだが、まとうオーラみたいな言葉にできない部分からニュアンスが伝わってくるのだ。


「なぁ、どんな話の内容なんだよ」

「えっとだなぁ。ある大手のアイドルグループに所属している挫折知らずのイケメン主人公が、野外コンサートで新作CDの販促を兼ねた番組の収録中に雷に撃たれたのをきっかけに異世界にトリップする」

「何だか胡散臭いまでによくできた話だな」

「まぁまぁ。で、彼、トリップしたのに気付かず、王宮で自慢の美声バラードを歌いきり、王様やお姫様のハートを一瞬でガッチリと掴んで、何の苦労もせずに王様から美人の姫をもらい、いきなり王様の地位まで譲ってもらうのな」

「え?」

「で、ようやく異世界に来たことを実感するんだが、姫からこの世界における現状をキッチリと聞いて、『自分には魔王を倒せるだけの力はない』とイケメン主人公は自覚し、同時に『そんな面倒くさいことは下々に任せて俺は全世界の姫君を後宮に集めて、ウハウハハーレムを築くんだぜっ!』と宣言して、召喚された国の財力をフルに用いて、実行に移す」

「…………」

「途中、こんなクソ王様に従ってられっか! と義憤に駆られたいろんなキャラクターが出てくるんだが、凄腕暗殺者に絶世の美人を差し向けるからたらしこまれ、返り討ちに遭ってしまう。そして、その美人暗殺者もイケメン主人公のヒロイン候補となって、日常生活にてくだらない会話を繰り広げる役回りを得る。

 そんな内容が2回続いた後に、更なる強大な敵対勢力の存在をにおわせたところで1巻目の内容はおしまいさ」

「お前さ、これ、面白いと思った?」

「いや。むしろ、どこが? と聞きたいな。だが、この小説の版権を抱えるナローからすれば、10代後半の性春真っ盛りな読み手の心をがっちりと掴んだ作風が人気の証だから――ということであらゆるメディアを利用して販売に躍起になっている。経済新聞の肉桂が小欄でわざわざ取り上げるまでにな」

「けっ、くだらねぇ」

「まぁ、人気の根拠はともかく要は『売れてナンボ』の世界だからなぁ。くだらないとかそういうのはどうでもいいのさ」

「じゃあさ、フェゴール。お前のラノベのおススメは何だよ」

「ええっ、ら、らら『ラノベ』って何かな、初めて聞いたよ~~」

「ウソこけ。お気に入りのエロ本を見ているときみたいに目じりを下げながら読んでいる作品があるだろうが」


 シグ、さりげなく肘で脇腹をチクチクやる。もう少し力加減を覚えるべきだ。地味に痛い。

 まぁ、教えるぐらいなんてことはない。

 よって、スマホを開いて、ナローにアクセスし、お気に入り登録を見せる。


「ああ、これだ。『蒼戦士』。

 おっさん世代には染み入る文章でな。思わず何度も読み返してしまう。他にもいろいろあるんだが、まぁ、騙されたと思って一度読んでみな。じわりじわり来るぞぉ」

「……ああ、わかったよ。顔、近い近い」


 シグに指摘されて、自分がスマホ片手に胡散臭い笑顔を振りまくキャッチセールみたいなことをしていたことに気付かされた。

 スマホを懐におさめ、ふと、コンビニのガラス窓から空を見た。

 きれいな夕焼けに心を奪われた。



 イムさんのコンビニを後にして、さらに歩むと河川敷の原っぱにてラムが体操座りしている姿を目撃した。

 歌でも歌っているのか、やたらと「なーなー」と声を出している。

 ふと。

 「みぃみぃ」と可愛い声で泣く、ミカン箱の子猫をイメージしてしまった。


「おーい、ラム。何しているんだーー?」


 少し距離があったので、大声を出してしまった。

 それにラムが、ことさらビクッと身体を震わせ、「ニャー! 思い出したのニャー!!」と自分に張り合うかのような大声で叫んだ。


「どうした、いきなり」


 駆けつけて、なおも震えるラムに構うと「ニャン」と爪を伸ばした腕を振るってきた。

 とっさに避けたが、上半身のシャツがきれいに裂けた。


「ニャニャニャ、思い出したのニャ。あたちはノースホワイトタイガー族のお姫様だったのニャ!」


 突然の発言に、脳みそがフリーズ。そして、再起動後の自分とシグは……


「「ニャんだってーー!!」」


 と、息ぴったりでした。

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