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フェゴールとファッキンファンタジー  作者: 伊左坂ぐうたら
第2章 死者の国で、アルマゲドン
22/29

閑話  とある日の衝撃の事実!

 その日の晩、水連さんの旅館に泊まることになった。

 イサカの申し出である。特に断る理由もない。

 主な住処にしているファッキンガムハウスにはどんな建物でもドアを開くスペースさえあれば出入りできるので大して困らない。第一、ここは自分の王国。旅館に飽きたら居城に帰ればいい。もっとも、水連さんの旅館である。飯よし、風呂よし、寝心地よしの三拍子がそろった素晴らしい旅館である。

 特に何のイベントも起きない限りは、ズルズルと滞在するのが今からでも目に見えてしまう。

 ああ、怠惰冥利に尽きる。

 蛇足だが、シェラはアンキモに引っ張られるようにして、仕事場へと戻っていった。ちなみにシェラの仕事は、このタギリロンを治める女王だ。アンキモによると、王の判断が必要な案件が幾つかあるらしい。まぁ、明日にでも顔見せ半分に登城したら、改めて歓迎されよう。今日のところは、優れた宿泊施設で英気を養おう。



「何といっても、肴かねぇ。ああ、日本酒が美味い」


 みんなと風呂に入ったあと、自分は芋の煮っ転がしを味わいながら、酒と一緒に飲み込んだ。

 酒の味と香りが芋の味と混ざり合うや格別な風味となって、思わず唸った。


「美味いだろ」

「うむうむ。やっぱり酒のことならライカだな」

「隊長、乾杯しようぜ」

「そりゃあ構わないが、これで何度目の乾杯だ?」

「細かいことは気にするでない。楽しい酒なら何度でも付き合うべきじゃぞ」

「さすが、モナ。イイこと言うねぇ」

「じゃ、「「「乾杯」」」」


 カチンとグラスをぶつけ合うベネリとライカとモナ。それもそのはずだ。手加減が出来ないほどに出来上がっていた。エルザとエイミアは普段酒を飲まないらしく、ベネリとモナにムリヤリ勧められてダウンしていた。メリーは黙々と飲み、ラムは大虎化していた。猫だけに? 他、ベレッタとシグはほろ酔い加減だ。未成年に飲酒? ”女神様候補だから、未成年じゃないから大丈夫”という設定でどうだろうか?

 聡子とウィンとイサカは給仕に回り、カムとチェスターがダウンしたエルザとエイミアを寝室へと移動させていた。その際、ウィンから解毒剤を処方されていたので、あとで飲ませる役割があるようだ。


「如何でしたか?」


 イサカと視線が合うや、ニコニコと上機嫌に、おもむろに聞いてきた。

 何のことを言っているのかわからなくて、少し間ができたら、イサカのまとう雰囲気が妖しくなる。

 慌てて思い返す。つい先ほどまで、自分たちは用意された料理を食べつつ、ライカの酒知識に基づいて、水連さんに様々なお酒を注文した。そして、その1本1本をまだ残っている料理とともに飲み明かしている途中、イサカがピトッと近づくや訊いてきた。


『マスター、何かお作りしましょうか?』

『えっ、何か作れるの? じゃ、芋の煮っ転がし』


 というやり取りを、今、思い出した。


「美味しかったです。イサカに胃袋掴まれちゃったよ」


 まだそこまで酔ってはいないけれど、酔ったふりをしつつ抱き寄せてみた。

 イサカはどことなくはにかんだ仕種をとるも、大した抵抗もなく自分の胸の内でむしろ上機嫌である。

 内心では(ヨシッ、やったぜ私!)とでも思っているのかな?


《でも、あの煮っ転がし……》

《大半の味付けは、水連さんがフォローしたよね》


 そんな折、聡子とウィンが念話で会話しているのを、たまたまキャッチしてしまった。

 うむ。真相はそんなところだろう。

 昔からイサカの料理は、美味そうな見た目に反して食べると死が迫ってきた。要は、死ぬほどマズい。噛みしめるほどに苦痛が口の中で弾けるとか、何の悪夢だろうか。この辺はさすが元・死の天使……とでも云うべきなのか? いや、現在は死の女神さまか。

 ふとイサカの手料理で一番美味しかったのを思い出してみた。

 川魚を火で焼いて、軽く塩を振った焼き魚。これぐらいじゃないのか?

 水連さんの内助の功に、感謝感謝である。





 腹も膨れたことだし、あとは就寝を残すのみとなった。

 とはいえ、以前の世界でもついやらかしたが、人間と同じ感覚で爆睡すると大罪『怠惰』による惑星消滅のカウントダウンが始まるので、自分だけ仮眠だ。

 仮眠状態だとカウントダウンは起こらないものの、あまり疲労は取れない。それでも、一日に最低約2時間ほどは仮眠することを心掛けている。眠らないでいることも可能ではあるが、どこかでうっかり意識が飛んで爆睡するときが来る。現に前の世界では何度かやらかしていたので、それを防ぐのが目的だ。


「今回の寝ずの番は……モナ。前の世界の終わりのときから皆勤賞モノだな」

「お主はワシの『大切』だからのぅ」


 うむ。本当は『お前はオレの大切』なんだが、まぁ、いっか。大事にされているのも悪くない。


「ネズミの番とかニャら、わたちもやるのニャ」


 惜しい。ひと言多いが、進んで初体験しようとする姿勢は悪くない。加えよう。


「何か……見守るのか?」

「眠っていて、無防備な姿になる自分」

「ならば……任せろ」


 そう云えば、メリーの初登場時は、気絶して昏倒している自分のかたわらに寄り添っていたな。昏倒は仮眠とはまた状態が違うが、大丈夫だろうか、元の世界。


「では、イサカ。自分はしばし、眠る」

「わかりました。後片付けはお任せください」


 手を振って見送る他のパートナーズに返事して、自分は部屋に戻り、横になった。


(じゃーん!)


 すぐさま霊体化して起き上がるや、妙に冷めたメリーの視線と目が合った。


(前回のように意識が飛んでいるわけではないからな。これが普通なんだ)

「にゃ! ますたーが息してないのにゃ」


 メリーに理解を求めるそばからラムが、ひとりバタバタと慌てふためいている。


「大変じゃのう」


 モナがしたり顔でラムの動揺に対応してきた。


「大変なのにゃ! どうすれば良いのにゃ?」

「そうじゃのう。こういう時は、昔から『マウストゥーマウス』が基本じゃ」

「ネズミとネズミ? こんな時に何の冗談にゃ」


 ラムは、さっきからネズミネタだな。そのうち、黒いネズミのことをネタにはしないだろうな。いや、その前に夢の国の存在を知らないか。……ふぅ、取り越し苦労だったか。


「これからモナさんの授業を始めるぞい。ワシの授業は、ただ一つ。実戦あるのみじゃ」


 と、マウストゥーマウスをやってみせた。ちなみにモナ、実戦じゃなくて実践だろ。

 ちなみに授業内容であるが、気道確保まではマニュアルに沿った行動をとっていた。肝心のチューの段階で心臓マッサージをやらず、ひたすらチューばかりしている。


「あれで……正しいのか?」

(いや、本来は心臓マッサージと交互に行って、意識不明者に新しい空気を送り込むのが本来の意義だ。えーっと、ラムの身体を一時的に借りよう)


 肝心の心臓マッサージに関して理解が伴っていなかったので、自分はラムに憑依するや、心臓マッサージを実際にやってみた。そして、チューに夢中になっているモナの首に手刀を当てて意識を刈りとり、代わりにチュー……ではなく、空気を肺に送り込んで見せ、説明通り、心臓マッサージと交互に行ってみせた。


「顔色が悪くなる一方……」

(ラムの身体に憑依することで、霊体のつながりが一時的に消えているからな)

「死んだら……マズい?」

(そうだな。元の身体に戻るから、今度はメリーが正しい『マウストゥーマウス』で、キッチリと蘇生してくれ)


 何の気なしに、自然な流れでメリーがマウストゥーマウスを行った。

 正しい実践方法に沿ったやり方でキッチリと実行したので、自分は息を吹き返した。

 ありがとう、とお礼を述べ、メリーは頷きつつも、口元を手で隠しちょっぴり照れている。

 よくよく思い返すに、何だかんだと3人とチューしたワケで、まぁ、それはそれは有意義な時間を過ごした……と。うむ。悪くない。


「ニャー! わたちの身体を勝手に操って何するのにゃ!」


 ラムが、憑依から解放された途端、いきなり引っ掻いてきた。自分としては、何が引っ掻かれる理由になりえるのか皆目見当がつかない。

 目を白黒させて、ひっかき傷をさすっていると、今度は傷口を舐めてきた。

 ラムとしては、やりすぎたことへのお詫びらしい。なるほど、誰かに操られて動かされると腹が立つものの、自分のしでかしたことへの反省からくる行動なら素直になれる……と。

 うーむ。振り回されてるなぁ。やっぱり、猫獣人は猫の要素が強いなぁ。


「こりゃあ! いきなり人の意識を落としたかと思えば、こんなことをしおってからに!」


 気絶から回復したモナが早速目にした光景は、自分の頬を舐めているラムの姿だった。しかも、自分の意識が回復していて、まんざらでもない表情をしていたので、モナがご機嫌ななめである。

 そこで、メリーが今度は自分の首に手刀を当てて、意識を落とした。


「また……続きをすればいい」

「おお、ぐっじょぶじゃ、メリー」


 メリーの行動に、すぐさま気を良くしたモナは早速、自分を寝転ばせるや、身体を密着させてひたすらチューばかりやり始めた。自分は、またも霊体化して、メリーやラムのところに移動した。


「チューばかりで意識が戻るのかにゃ?」

(ああ、それは、モナとの馴れ初めがアレだったのだよ)

「はにゃ?」「???」


 詳しいことは割愛する(ノクターンだ)が、つたないチューからくる微妙な息苦しさで自分は目覚めた。当時のモナ曰く、これで目覚めた人間は自分だけだったと言っていた。そして、それはつまりワシに興味があるからじゃな、とそれはそれは強引過ぎる結論を出してきた。


「で? 続きが気になるのにゃ」

(えー、それ本気で言っているのか?)


 どんなことにも積極的なラムだとあまりアテにならないので、マイペースなメリーに視線を移す。こちらをじっと見つめて、コクコクと頷いてきた。


「詳しいことはここでは言わないが、要は押し倒して、メロメロンにさせて今のモナの出来上がり」

「あの体型の……まま?」


 あの体型と効かれて、何を言っているのかと思ったが、そう云えば夕食前にみんなと風呂に入った際、モナが自慢げに大人モナの姿になって、いろいろと自慢していたな。

 大人モナの姿は、自分との儀式のあとに変身できるようになったから、当然、本当のことを言わねばなるまい。正直、次の瞬間、地雷を踏んだあとのような展開になるという自覚はある。

 だから、YES!と言いつつ、すがすがしい笑顔でサムズアップしておいた。変態上等じゃん。


「…………」

「…………」

「……ラムが好きなますたーなのにゃ。だから納得なのにゃ」


 2人がシンクロするかのように同時に肯定を示す頷き方をする。

 意外な反応である。現代世界を生きていたシグ&ベレッタとは大違いである。これがファンタジー世界の住人の認識なのだろうか。もっとも、龍人と亜人という少ないサンプルで判断するのは早計だ。あと一人、出来れば完全ファンタジー出身の種族に聞いてみないと納得できない。


 というワケで、念話を飛ばしてみた。送信先はウィンとベネリとイサカだ。エルフとダークエルフと天使だからだ。すぐさま返信が来た。

 ベネリは最初からエロかったので参考にならず、イサカは元天使の名残りからか倫理的にはアウトだが、ファンタジー世界の世界観は現代世界とは違うので、ギリギリセーフみたいな言い方だった。

 ウィンの返信が一番参考になった。


(ファンタジー世界には様々な種族がいます。みんながみんな人間族と同じような価値観を持っていません。何故なら種族ごとに身体や心の発達は一様ではないからです。例えばラムちゃんは猫獣人です。猫獣人は身体の成長がとても速く、5~6歳ぐらいで体格だけなら人間族の18歳前後と同等になれます。あとは経験を2、3年積ませれば大人の仲間入りです。逆に私たちエルフ族は身体の成長こそは人間と変わりませんが、生後20年を境に老化が一度ストップして残りの80年を費やして大人の仲間入りをするための心を鍛え上げます。全てを人間と同じように当てはめて考えることは出来ないのです。イサカさんのおっしゃられた通り、世界観が違います故に)


 なるほど。早い話、ファンタジー世界とはロリ魂天国! というワケか。あくまでも人間以外の種族に限るという話だが。グフフ。


「ますたーが変な顔してるにゃ」

「え……ろい」


 そこ、聞こえているよ。まぁ、何はともあれ、ファンタジー世界って素晴らしいね。

 と、ウィンから追加の返信が来た。


(ちなみに私の年齢は今年で80歳です。エルフは100歳で大人になります。言いたいことは伝わりましたか?)


 人間年齢に当てはめたら、ざっと16歳だと! しかも、はじめての儀式に臨んだ時は16歳未満とな。


(うおおおおおおおっ!)


 つい興奮してしまった。霊体化でこれだから、急いで肉体に戻ってみると、倒木が息を吹き返すのも早かった。そして、そばにやる気満々の幼女が今日も抱き付いてきている。

 いつものことを、今回は猫と龍と一緒にやった。そこに理性はなくただ野獣の如しだった。

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