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フェゴールとファッキンファンタジー  作者: 伊左坂ぐうたら
第2章 死者の国で、アルマゲドン
21/29

ナスカの処遇

※ファッキンの神様が、またも降臨しました。

 今回は、ちょいとドきつい表現がありますが、ファッキンお許しを。

「なぁ、話を聞いてくれよ。オレは騙されたんだよ。あのじーさんに」 


 裁きの間にて、衛兵たちに引っ張られた中年男がわめくのを止めない。


「うるさい。静かにしろ、クズ勇者が」


 連れてきた衛兵が、腰の抜けた情けない中年男を軽く殴る。

 中年男は腕でとっさに顔を護る……ということもなく、大人しく殴られた。


「ひ、ひでぇ。お前、無抵抗の俺を殴ったよな、どっちがクズなんだよ」

「知らないようだから教えておこう。この国では『勇者様』と称えられてきたヤツは、快楽大量殺人犯よりも罪が重く、扱いもぞんざいで許されるんだよ」


 と説明している間にも、更に数発殴り、横たわる中年男の腹をグリグリと踏みにじる衛兵。

 それはそれは楽しそうだ。そして、周りの衛兵仲間も誰一人、中年男を可哀想だと思わず、「おい、飽きたら俺にその役を回せよ、リンチ、楽しもうぜ」程度の認識である。

 そして、無情なことに、裁きの間には裁判官が現れる様子もない。

 中年男は現代世界の感覚で裁判官に彼らの不当な扱いを糾弾する心づもりでいたが、目論見は外れ、周りの衛兵がリンチ疲れで動きが悪くなるまで、なぶられた。


 ドン、ドン、ドン……。


 不意に太鼓をたたく音が響き、それに伴うようにして裁判官たちが現れた。

 中年男は光を失いつつあった瞳を輝かせて、彼らに衛兵たちの素行の悪さを伝えようとした。

 身体中をボコボコにされていたため、それは酷いものだった。

 ふと目が合った、観衆の一人が思わず目をそむけるぐらいに。

 顎を砕かれて満足にモノを言うこともできなかったが、身体を張って、懸命にアピールした。

 ようやく裁判官のひとりが彼を見据えたが、特に何も言わず、椅子に座った。

 彼が座ったのを見計るように、周囲の裁判官が席に収まった。

 一番偉い裁判官でその対応なのだ。

 中年男のカラ元気はその時点でぷっつりと糸が切れ、うなだれるように崩れ落ちた。



 中年男が次に気づいたころには、魔法陣の中に座らせられていた。

 両手両足をガッチリとした鎖で束縛され、逃げられないように施錠までしてあった。

 場所は見晴らしのいい公園の中央で、大勢の人間が手に何らかの武器を持ち、それで殴ってくるか、持っていない奴は炎だとか氷、雷の魔法で中年男を苦しめた。

 殴る奴は殴りつける手が止まるまで、魔法を浴びせるヤツは魔法が出てこなくなるまで続けてきた。

 監視役みたいなのがいて、スタミナ切れ用に飲もうとするアイテムを使用しようとするとストップをかけてきた。アイテムの使用を認めると、永遠に終わらないから、というのが理由らしい。


 ちなみに中年男は勇者でもなんでもなかった。

 裁判官たちが、気絶している彼に対して施したチェック魔法は勇者反応を示さなかった。

 だが、人間エリアの住人だけとはいえ扇動した罪は軽くない、とのことで、3日間の間だけ、彼を好きなように嬲る権利を住人たちに与えた。

 それが今の状況を生み出した。


 中年男が勇者でなく、ただの中年男な以上、彼らがスタミナ&魔力のあらん限りを繰り出す攻撃力を耐える力はとてもなかった。

 なので、魔法陣が始終活躍していた。一撃が当たる瞬間から彼の身体を一瞬で完治させる魔法が発動し、彼らの攻撃力を耐えさせられた。

 耐える、と云っても今までナイフで切られたこともないような現代人に、ファンタジー世界のナイフ以上の攻撃力が持つ想像もつかない痛みを我慢できるはずもなく、中年男は、身体の傷は瞬間で治るものの、精神をガッツリとすり減らしていき、3日後には、すっかり大人しい廃人として、釈放された。


 釈放されてやって来た次の場所は、王の謁見の間だった。

 そこで近づいてきたスーツ姿の男が、彼の目の前で”猫だまし”を発動させた。

 反応するはずのない感情が彼の心の奥底から湧き上がり、中年男は情けない声を発して驚いた。





「どうだったかね、3日間は」

「アンタは、誰だ」

「ここの国の真の統治者である、ベルフェゴールだ。よろしく」

「お前の国は狂っている」

「いやいやいや、かなり正常。ここは現代世界を含め、前世の知識を持ちながら反則的なステータスを与えられて生まれ変わったヤツ等に虐殺された人々が集まった国だからね。

 すこしでも勇者っぽい、非常識な力を持つ者の存在が蛇蠍だかつのごとく憎まれるのは当然なのさ」

「俺は、じーさんに騙されたんだ。ただの無力な一般人だ」

「まぁたまた。死ぬ前は結構名の売れた有名人だったそうじゃないか、ポン中」

「ポン中じゃねぇ、俺は、ナスカ。伝説のミュージシャンだ」

「まぁ、そうなんだろうけどさ、それよりも死んだ場所はトイレ。男子トイレの座椅子で悦に入った顔つきのまま昇天してるところを踏み込んだ捜査員により発見されたらしいな。良かったなぁ、腕をまくっているところだけで。パンツを下ろしている姿のままだったら、かなり恥ずかしいぞ」


 けちょんけちょんにバカにされて、ナスカは震えた。そして、気付いた。

 今までの厳重な拘束が全くなく、厄介な衛兵もいないことに。

 ナスカは雄叫びをあげると、怒りを込めた拳を目の前のうさんくさい奴に対して振り上げて、距離を詰めた。

 と、胡散臭い男ことベルフェゴールが懐から銃を取り出すや、一切の表情を変えず、2発発射してきた。それは一寸の狂いもなくナスカの両太ももに着弾し、彼はそのまま倒れ込んだ。

 頭からスライディングして、ベルフェゴールの靴底によって後頭部を遠慮なく踏まれ、その勢いを殺された。


「君も大概に学ばないね。一見、警備の緩そうなところに意外な落とし穴があるということに、いい加減、気付いたらどうだ?」

「ギャア! 首筋が熱い。てめぇ、何しやがった」

「うん? タバコの吸い殻を君の首筋にねじ込んだだけだ。根性焼きみたいなことをした、とも言うかな」

「ふざけるな、この糞野郎」

「んー、あの3日間で痛みにそこそこ慣れたようで何より。以前の君なら、根性焼きで気絶してただろうな。フム、合格だ」

「合格って、なんだよ」

「何って、君の処遇だよ。真の統治者権限で、君は生き返ることに決まった。おめでとう」

「オイオイオイ、マジか?」

「ああ。自分はここの国の真の統治者。つまり、一番偉い人物が認めているんだよ」

「だったら、その足をどけろよ。最後ぐらい、キチンとしたお礼が言いたいしな」

「なぁに、偉そうなこと言ってるの。君、最初に衛兵から聞かなかったか?

 君みたいに何かしらの特権意識が強いヤツは、この世界ではゴミのように扱われる、と。

 だから、君との会話はこのぐらいの対応がちょうどいいんだよ」

「ふざくんな、このチン○コ野郎! MFッ!」

「うんうん。殊勝な言葉を口にしても、少し余裕が出れば所詮、この程度だよね。君たちは」


 勝手に納得するベルフェゴール。

 2本目の煙草をふかし、吸い終えると再びナスカの首筋に吸殻を擦り込んだ。

 ナスカは声こそ出なかったが、正気を保っており、首筋から身体全体の震えが伝わっている。

 怯えではない、ガマンからくる震えにベルフェゴールは更なる満足を得た。


 ベルフェゴールは手を挙げた。

 地べたしか見えないナスカには、彼の挙動は一切見えない。

 ベルフェゴールが踏みつけた首筋から離れたのを合図に、ナスカが床に伏している面から魔法陣が出現した。そして、そのまま植物のツタのようなモノが魔法陣から現れ、ナスカの全身を拘束する。


「ああ、そうそう。君が廃人になっていた期間だけどね、いろいろ細工しておいた。

 ①嘘がつけない。

 黙っておいた方がいろいろいいのに、いろんなことを警察にしゃべるようになるよ。

 ②ポン中の効果が抜群に効くようになった。

 どうせ、執行猶予だろうから、真面目になったふりして隠れてこっそりやるだろ? だから、その効果が極限に高まるよう身体のつくりを変えておいた。3日間のリンチの際、君を守るように働いていたあの治癒魔法陣がそれを可能にしたのさ。

 ③ポン中後の副作用にかなり苦しめられるように、体力を底上げしておいた。

 人間の身体って、一定以上のダメージが加わると精神が分断されて、廃人になってでも生き延びようとするんだけど、それが出来なくなっているからね。後日、ヘンなのに拉致されて、拷問を受ける機会が出来たら、より一層それを実感するんじゃないかな。具体的には麻酔なしで手をちょん切られたのに、痛いのに意識が飛ばない、とかね」


 ベルフェゴールの独白に、暴れる形で抵抗するナスカだったが、魔法陣は無情にも執行された。

 ナスカの身体は跡形もなく消え去り、間もなくして、現実世界からナスカが出棺前に棺の中から暴れるようにして生き返ったことがニュースになったという報告が入った。


「後は野となれ山となれ。伝説が更なる伝説を生まんことを」


 本日、3本目の煙草をふかし、ベルフェゴールは、そう呟いたとさ。

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