犯人を捕まえろっ!
※来年の2月に投稿予定でしたが、ファッキンの神様が降りてきたので、投稿することになりました。今回は、一部、不愉快な表現が入っています。
まぁ、この作品にお上品なストーリーは期待できませんが、念のため、警告しておきます。
一通り、叩かれて、落ち着きを取り戻したイサカに、「お帰り」と声をかけた。
そんなイサカの視線は、早速、彼女に向かっていた。うん、いつものことだ。
「誰ですか、その女の人は」
「姉さんの牙で造ったドラゴントゥースが、自分の精を吸収したら、こんな風になりました」
仕事が終わってすることがないのか、立ったまま舟をこぐ龍娘。
彼女のことなど構わず紹介する自分。イサカの目のふれないところではさり気なく尻を触っておく。
「名前は、メリジェーヌ。つい、うっかりメリージェ☆ンと言いそうになるので、これからはメリーと呼ぶことにするわ。よろしく、メリー」
名前を呼ばれた龍娘がパチクリと目を覚まし、こくんと頷いた。
目元が気のせいか赤かった。む、尻を触ったのがばれている風だ。
「メリー。マスターの嫁。よろ……しく、執事」
「イサカです。本妻のポジションは私が最初です。そこをキチンと押さえていてください」
「アシェラトです。最初の正妻はわたくしです。イサカさん、時系列をお間違えにならないで」
「じゃ、ボクは第3夫人で……いい。愛されれば……それでいい」
ここで揉めるかと思いきや、メリーはあっさりと引いた。
どことなく揉める気満々だったイサカとシェラは毒気を抜かれて、気まずい雰囲気だけが残った。
「よし、自己紹介も済んだし、イサカも元に戻った。
エイミア、バトルフィールドの解除を」
グダグダな空気に巻き込まれるのも嫌なので、青い天使に指示し、結界を解いてもらった。と同時に、スクランブル警報のような物々しいブザー音が我々を出迎えてくれた。
「一体、何があったのです?」
何もない空間に対して、急にタッチパネル操作をするシェラ。
はじめの一突きで、電子の光が宙から発生し、タッチパネル画面がごく自然に出現する。
おおーっ、何だかよくわからんが、SFちっくだ。
「旦那ーァ、聴いてるか?」
「何だ、アンキモ」
シェラが行っている何かしらの操作の途中、アンキモの声を拾った。
思わず、条件反射で聞き返してみた。
「大変だ。何が何だかわからねぇが、現代人エリアの人間たちが暴動を起こしている。
どうすればいい?」
「鎮圧部隊を出動させろ」
「いやそれが、どこからか聞こえる音が原因で、音を聞いた鎮圧部隊までも暴動の仲間入りをした」
「音の特定はできるか?」
「いま、やっているところだ」
「解明次第、データを送ってくれ。それと、今のところ、暴動を働いているのは人間だけか?」
「ああ、人間だけだな。いや、ちょっと待ってくれ」
(ぴんぽらぽんぽんぱらりらぴんば~~♪)
「今、入った情報によると、信仰区と同人誌区の人間は暴動の影響を受けていないそうだ」
んー、何というか、つかみどころのない区域の住人が何の影響もないのか。
どうでもいいが、さっきの変な音は何だ、内線なのか?
「ではアンキモさん、逆に一番影響が深刻な区域は何処ですか?」
「ええっとだな、情報最先端区……ってのが、一番被害が大きいな」
「情報最先端区って、何ですかぁ」
ベレッタが疑問を素直に聞いてきたので、自分が答えることにした。アンキモは忙しいからな。
またもどうでもいいが、自分のさっきの疑問、軽くスルーされたな。
まぁ、いい。ベレッタの質問に答えよう。
「例えば、iPhoneが発売されたら、発売日前に並んでいる人たちいるよね」
「いますねぇ」
「ああいう、初物に非常に弱く、情報に踊らされやすい人たちが集まる区域をさすんだ」
「流行最先端区でもイイんじゃないですかぁ」
「んー。確かに、名称を決める段階でも試行錯誤があったなぁ。結局は、あそこの住人に受けているモノが決して他の住人を巻き込むようなブームを引き起こした試しがないから、今の名称になった由来がある」
「なぁ、フェゴール」
今度はシグが疑問を感じたようだ。何だろう。
「初ガツオも列ができるのか、あそこでは」
「いやー、初ガツオは脈々と受け継がれている風習だから、江戸時代エリアの人たちなら反応するんじゃないかな?」
「江戸時代エリアなら、列ができるんだな?!」
えーっと? シグが目を輝かせて聞いてくる意図がわからない。
とりあえず、コイツは時代劇ファン? なのだろうか。
「旦那ぁ、原因が特定できた。データを送る。なるべく早めに対策を立ててくれ」
「何かするのか?」
「とりあえず、親方衆が現代人エリアの住人たちの侵入を遮断する防壁を展開するようだから、手伝いに行ってくるわ」
「わかった。気をつけろよ」
「合点だ」
アンキモとの連絡が途絶え、シェラが、いつの間にか作戦会議室のように変貌した部屋の中で、自分のパートナーズの何人かをオペレーターとして働かせている。
まぁ、ベネリ、モナ、ラム、メリー以外は真面目だから、性に合っていると云えば合ってるから、自分で率先して働くぶんには何も言わないけどさ。
「この男ですわ」
データの解析が済んだらしく、中央の一番大きなモニターに疲れた顔の中年男性の顔が写っていた。
「ナスカやん」
「誰だよ」
「いやいやいや、それはねーだろ、ナスカだぞ。MAGE&ナスカって言えば、一時期かなり有名な伝説のミュージシャンだったんだぞ」
即答する自分に、シグが珍しく動揺していた。
「ほら、ベレッタ、お前も知ってるだろ」
「知らないですぅ」
「じゃ、マゲナス人形は?」
「あ、あのキモ顔のナスの頭にお侍さんの髪型が乗ってるアレですねぇ。それなら知ってるですぅ」
「ベレッタ、現物持ってるか?」
マゲナス人形……。イメージが湧かないので、ベレッタのを借りて眺めてみる。
彼女の言う通り、確かに表情を持ったナスが侍の髷まげを結っている。
さっきの初ガツオといい、侍マスコットといい、時代劇ファンだったのか、シグは。
「私が持っているのは、自信満々マゲナスくんですぅ。確か、他にも30個ぐらいのバリエーションがあってぇ、当時のゆるキャラ評論家さんが言うには、『大してゆるくもないが、無駄にコレクター魂を刺激する程度のバリエーションがある。考案者は稼ぐ気満々だね』だったですぅ」
「シグ、この人形が出たときの、そのミュージシャンはテレビに出ていたか?」
「いや。全然音沙汰なかったから、カラオケの収入で食ってたんじゃね?」
「ベレッタ、この人形、他のバリエは持ってないのかい?」
「抱き合わせ販売のおまけについていて、しかもランダムみたいでしたからぁ、わたし、この一つしか持ってないですぅ」
「どこかの総選挙アイドルみたいなことをしてるな。だが、無駄金を使わず、割り切った判断力を持っているベレッタはスゴイな」
感心したので、ベレッタの頭を撫でておいた。ベレッタが途端にデレた。
一方、シグの顔色は悪い。イヤな汗がたくさん噴き出ている、とも云う。
稼いだ金をどう使おうが本人の自由なので、細かいことは言わないが、このマゲナス人形のどこにコレクター魂を刺激されたのだろうか。女心と秋の空というか、そういえば秋といえば秋茄子。
「ナスか……ナスカ(場が急速冷凍した!)」
「フェゴール、そのダジャレをやるときは、告知せぃ」
何の下準備もなくなすがままに凍える面々。ダジャレというかただのボヤキだったのだが。
そのなかで、今まですやすや寝ていたドラゴントゥースがようやく目覚めた。
ふあぁぁ、と欠伸をしながら身体を伸び縮みさせ、流れるような動作でストレッチを始めた。
その際、何一つ周囲にはばかる様子がなかった。結構マイペースなコだ。
……話を進めておくか。
「で、そのナスがどうした?」
「ナスカ、だ」
うっかりミスに対し、シグがすかさず訂正を入れてきた。イサカよりも早かった。
うむ。ファンは怖いな。
「繰り返し報告しますけれど、被害が集中しているのは、人間族です。シグさんの反応を見てわかる通り、”伝説のミュージシャン”だった彼を知っている現代人エリアの人間だけが彼の声に反応して理性を失っている――というのが、調査部の見解ですわ」
「声? 歌でも歌ってるのか?」
「きっかけは歌だったそうですけど、現在確認されているキーワードは『わー』で、現代人が彼の声を聴くと何故か『war』に誤変換を起こし、聴いた本人の眠れる闘争本能を著しく刺激し、とにかく隣人を傷付ける仕組みになっていますわ」
「ふーん」
「ふーんって、何でお前そんなに興味がないんだよ」
「なに、単に野郎の声が嫌いなだけだ」
「そういえば、ますたーのiTunesに収録されている歌手って、ほぼ女の人ですねぇ」
「バ○ラは?」
「魂の歌に性別はない。ファイヤー!」
「あら、その割にはシグもベレッタも『わー』を聴いたのに反応がないわね」
イサカが疑問を呈した。
そう云えば……と、その理由を話し始める面々。
「それには、2つの理由が考えられますわ」
「ふむ。聞かせてくれ、シェラ」
「かしこまりました。1つ目は、お兄様の遺伝子情報があなたたちにしっかり作用しているからですわ」
「ああ、確か『魔力無効』だったっけ?」
「正解ですわ、お兄様」
「えっ、このおかしな作用、魔力が絡んでいるのか?」
「しかも、ますたーが正解を言い当てるとかぁ、明日は雨が降るですぅ」
ベレッタ、何気にひどいな。
「で、どうやって、現代人エリアの住人を元に戻すのだ?」
「一番確実なのは、マスターが住人一人一人にぶっすしと刺してくることであります」
「えっ、『刺す』って、あの行為だよな」
提案者の聡子に腰の動きを交えた答えを返すと、彼女が真顔でこくりと頷いた。
「女の子なら『喜んで―』だが、野郎相手は無理だ。それに、現代人エリアの住人は何人だ?」
「約109万人ですね」
ワーオ、さすがは情報最先端区。細かいところも狙ってますねー。
ん? そう云えば、話を戻すようでアレだが、同人誌区と信仰区は正気のままだったよな。
違いは何なのだろうか。
「信仰区に関しては、信仰する神様の加護によります。同人誌区に関しては、大半がピュアな心のまま30代を超えた方が多数いまして、潜在魔法使いや潜在賢者ゆえの蓄えられた強大な魔力が、ミュージシャンの声の魔力を防いでいる模様です」
スゲェ。30代を童貞のまま超えたら魔法使いになるという迷信が、死者の国ではリアル魔法使い&賢者です。転職したらいいのに。
「同人誌に愛を捧げた信者が、大人しく云うことを聞くでしょうか?」
「同人誌区の女神を作成して、信者に語りかければいいのでは? 今回の件をダシにして、いざとなったら女神を守る親衛隊として同人誌区を護る者たちになればいい」
「女は男みたいに単純じゃないんですけど」
「ふーむ。だったら、あの区認定の腐女子には、その腐女子だけのガーディアンが具現化するという特典を付けて、二人三脚で頑張らせたらどうだろう。もちろん、頑張る動機となる(あの区だけにしかない)この不思議現象を可能にするお宝を設置して、盗まれないよう日々見張らせる、とか」
「お前って、くだらないことは良く考えつくよな」
「そうかぁ? 神様を模った仏像が盗まれないように、様々な抵抗勢力に張り合えるようにと、武力を持った僧兵が生まれたように、何かを護るためにはそのためだけの力が自ずと発生するものさ。
これをくだらない、と断じたら、自分と君たちの関係はどうなんだろうな?」
「さっきからシグ相手に何の話をしているにゃー?」
「マスターが……大事……か……という話」
「初めて出会ったときは気持ち悪かったにゃ。わたちが将来を誓った前の人と比べたら……にゃにゃにゃ、比べること自体が参考にならないのにゃ」
「今……は?」
「大事にゃ。わたちがキズモノだとか猫だとかつるぺただとか一切気にしないのにゃ。結局、来なかった前の人よりも断然いいのにゃ。前の人もおんなじことを言ってたけど、……見捨てたりしないのにゃ」
ふと湧いた気持ちがよぎったのだろう、ラムは涙をにじませた。初めは自分で拭っていたが、涙の勢いは止まらず、ベルフェゴールの背中の上に乗っかると、背広で涙をぬぐう感じでワンワン泣き始めた。
猫なのに。
「何なんだよ、ラムは」
「昔のことを思い出したんだろうよ」
「昔……って、プライバシーだよな。興味本位で聞いていいもんじゃないよな」
「だな。ま、ザックリと云えば『ロミオとジュリエット』の最後のシーンで、後追い自殺しなかったロミオを三途の川入口の土手で、ずーっと待っていたのが、ラムだ」
「ザックリとか言うレベルじゃねーだろ。切ないだろうが」
「裏切りの悲しみがまだ心に残っているうちは、しばらくは時折、こういうことが続くだろうな」
「どんな奴か、知ってるんだろう、お前のことだから」
「いや、今回ばかりは魂からの復活で肉体の記憶が残っていない。ここでの用事が済んで帰って来たころに、たまたまラムが出会って、その場に自分たちがいたとき、お仕置きしてやろうと思っている」
「俺にも一枚かませろよ」
んー? やけにシグが乗り気だ。……って、シグだけでなく、他のパートナーズが互いの得物に誓って、そいつに対する復讐を宣言している。
「マスター」
「何だろうか、イサカさん」
「裏切りは大変罪深い所業なのですよ」
「肝に銘じておきます」
うむ。こういう光景を見せつけられたら、パートナーズたちを裏切るなんて考えつかないね。
もちろん、こういう光景がなくても、自分は裏切らないさ。
「そうですか?」
イサカさんが、おかしいですね? とばかりに首を傾げてきます。
訂正。ごめんなさい。調子こいてパートナーズをここまで増やしてごめんなさい。でもでも、自分にとっての一番はキミだから。ね。
「へぇーー、そうだったのですね、お兄様」
と今度はシェラの空気が悪くなった。あー、このお二人さん、常時張り合いますな。だけど、どちらも大事だから、怒るなんてとてもできない。
結局、優柔不断が原因で、怒りがこっちに向いたけど、いつものことさ。
―
「で、ケンカはともかく改善策は考えてくれたのかい、旦那」
アンキモから連絡が入った。マイクが入れっぱなしだったのか、こちら側の痴話喧嘩が筒抜けだったようで、呆れた口調だ。
「マスターの『魔力無効』効果のある成分を抽出した水溶液を作成し、スプリンクラーや空中散布で対応します」
話の輪に加わらなかったウィンが、至極もっともな発言をして、アンキモの苛立ちを鎮めてくれた。
ナイス、ウィン。それと、成分の抽出ってナニ?
「決まってるじゃないですか。マスターのアレを絞り出して、発言通り、『魔力無効』の部分だけの抽出液を暴動中の人間たちに振り撒くのです。上手くいけば、彼らにも『魔力無効』が有効になって、暴動が鎮圧できるであろう、と思います」
というワケで、ですね……と、ウィンが検尿カップのような容器を手渡してきた。
「頑張ってコップ一杯分を絞り出してください」
「簡単に言うが「もちろん、抽出の難しさは理解してます。皆さんのお力添えを借りて、ノルマを果たしましょう」
それ、終わったころにはマジで果ててるね。
「大丈夫ですよ。私が何のためにポーション作成の道を歩んだのかわかっていませんでしたね。
枯れても、これを口移しで飲んでいただければ、マスター秘蔵のエロゲ主人公も真っ青の益荒男魔羅魔羅モードになれますから」
んー。それって、お薬で無理やりにでも奮い立たせて、文字通り、精も根も果てさせるのね。
うっわ、怖いわー。ウィンの薬学応用力、パネェ。
そして、ウチの数寄モノ4人衆(ベネリ、モナ、ラム、メリー)の目が、さらにパネェ。
コップ一杯のノルマを果たした時、どこからか、チーンと鐘を叩く音が聞こえた。
―
しばらくして、スプリンクラー&空中での散布が始まった。
ウィンの予測通り、自分の抽出液成分のアレを浴びた者たちがたちまちのうちに正気に戻った。
大抵の人間が「今まで何をしていたのだろう?」と不思議がるなか、一部の男衆が浴びた水に対してうっとりとした表情を浮かべていて、背筋が凍る思いをした。
あ、ちょっとお前ら、その水をクンクンしないでくれる?
と。
カメラがひとりだけ硫酸でも浴びたかのように、身体中から煙を発してのたうち回る中年の姿を捉えた。
「ウィン、あれは?」
「転生神の加護とマスターの成分が反発しあって起こる現象ですよ。余程仲が悪いのですね」
「ちなみに仲が良いと?」
「加護は更なる力を得て、盾となり、剣となるでしょう」
「なるほど、仲が悪すぎて害悪にしかならない、と」
そもそも、仲良くなる要素がない。
我に返った鎮圧部隊が、ひとりだけ苦しむ男の奇異な光景に、連絡をよこすがアンキモが手を回し、捕縛した。
よしよし。
ようやく今回の勇者様と面会だな。
腕が鳴るねぇ。