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フェゴールとファッキンファンタジー  作者: 伊左坂ぐうたら
第2章 死者の国で、アルマゲドン
18/29

ああっ、死の女神さまっ

「大変ですわ、お兄様……って、きゃああぁぁぁぁ!!」


 自分の部屋に駆けつけたシェラが、あるモノを見て恐怖に駆られ、叫んだ。

 イサカの両手にはプスプスと黒い煙を発した自分の身体と、生温い血と幾ばくかの肉片が周囲に飛び散っていた。ありていに言えば、現在、自分の顔は造形をとどめていない。『潰したばかりのミンチ』という表現が妥当だね。


 いやぁ、今回のイサカの嫉妬心はサイコーだ。

 ハッキリ言って、手加減が出来なくなっている。嫉妬心が莫大な力を産むらしく、嫉妬心に支配されたイサカに軽くはたかれると、ほっぺたの肉が簡単に抉れるのだから。勿論、平常心を取り戻して普通に叩かれた場合は、「パンッ」って軽い音が鳴って、少し腫れるだけだ。正直、この差はスゴイ。

 憶測だが、イサカは女神化の条件を満たしたものの、肝心の試験管役の太古の女神の承認が未だのため、転生手続きが行えず、能力の制御ができないままなのだろう。今までは暴走しないように努めていたのだろうが、自分がイサカのことを考えないでいたために、現状を招いた……そんなところか。

 


「どうしたのにゃ? って、ふにゃにゃにゃ!」


 次いで駆けつけたラムが自分の顔の状態を見て、エクトプラズムをとばした。

 そして、シェラ同様、大人しく横たわった。

 シグ&ベレッタがこれに続き、モナが、殺戮マシーンのごとく未だに平手打ちを止めないイサカに対し、彼女の後頭部を身体全身のバネまで利用して叩きつけて、ようやくイサカの平常心を取り戻した。


 自分には幸い、自己修復能力があるのであまり気にはしていないが、イサカは今の今まで平手打ちを続行していた血塗られた両手を見て、自分を責めているのか、身体を振るわせつつ、その場にうずくまり始めた。

 イサカは真面目な子だ。早速、力の暴走を目の当たりにして、心を弱らせはじめている。

 仕方がないので自分は立ち上がると、イサカの肩に手を触れた。彼女が顔を持ち上げるや、ベレッタ直伝の渾身のストレートを決めて、イサカの顔を一撃で潰し、立て続けにシグ仕込みの蹴り技で全身をボッコボコにしておいた。

 自分の部屋に新たな血がビシャビシャと、壁に障子に畳に机にお茶うけに、ところ構わず飛び散った。


「何じゃ、仕返しか? お主にしては珍しいのぅ」

《いつも通りのチューをしようとしたら多分、反発しそうな気がしたんで、今回は嫌われる覚悟で徹底的にぶん殴ってみました》


 実際、ボコられたイサカは仰向けに転がると、天井の木目でも見て気を紛らわしているのか、すぐさま立ち上がって反撃してくることもなく、呼吸を整えて、理性を保とうとしている。

 だが、そんな抵抗も、自分が変態を辞めない限り、容易く決壊するのは見えている。暴走のたびに無茶をしておとなしくさせるやり方は、周りが大変だし、本人の精神をじわりじわりと苦しめる。

 日頃……というより、今の関係が確定したころからイサカにお世話になっていることだし、たまには、恩に報いよう。

 幸い太古の女神なら、絶賛気絶中だがここにいる。

 さて、その肝心の起こし方だが……。

 はじめ、部屋に設置してあるポットの水を顔にかけて、シェラを起こそうと考えたが、旅館に設置してあるポットは電源が常時入っているのが当たり前なので、今回の場合も当然中身はお湯だった。

 これをぶっかけるのは、勇者以外は気が引けたのでやめた。

 次に外道だが、ズボンのチャックを下ろしてチロロロと出てくる水でやった日には、自分が気絶したときの仕返しが怖いので、却下。

 最後のは……ものすごく疲れるので、なるべくやりたくはなかったが、生活魔法を使うことにした。

 水の魔法は、シグが得意だが彼女も気絶中だ。ちなみに唯一意識のあるモナも魔法を扱うのは苦手なので、やはり今回ばかりは自分が頑張るしかなかった。念のため、モナには水連さんから桶一杯分の水を持ってくるように指示しておいた。


「生活魔法:給水」


 実際に飲むわけではないが、のどを潤す程度ではないかという位の、ほんのわずかな水が手のひらから零れた。自分が想像していた以上に量が少なかった。

 これだけでも一回戦をやり遂げた憔悴感があるのだが、このわずかな量ではまぶたが少し反応するだけで起きる気配がない。当然のことか。

 決意からたった5分で、自分は『困った時は、魔法に頼って物事を解決しよう』などという夢想を諦めた。

 大人しくモナが来るのを待って、彼女から水の詰まった桶を譲り受け、シェラの顔にバシャッと盛大にぶちまけた。



「ぶー」


 思いもしない起こされ方で目覚めを迎えたシェラは、機嫌を損ねていた。

 かつての経験上、こういう状態のときは何を言っても話を聞いてもらえない。

 それでもイサカが大事だから、ダメもとでも起こした理由を伝えておく。


「知りません、そんなこと」


 案の定、むくれた顔つきのまま、プイッとそっぽを向いた。

 モナが頭から湯気を発するほどのかんしゃくを起こしたが、ジェスチャーで制して、シェラにどんなことをすれば機嫌が直るかを聞いてみた。


「そこで寝込んでいる女が嫉妬にもだえ苦しむような甘いキスをください。そうすれば、承認して差し上げますわ」

「ええい、この甘ったれ。イサカがどんなに危険な状態だかわかっておいてからに、虫唾の走るようなことを! 状況が状況でなかったら、ワシがいつもやってもらってることじゃ。フェゴールの妹じゃからて、そのへんは譲るつもりはないぞぃ」


 モナも自分に正直だ。虫唾が走る発言までは良かったが、その後は本心ダダ漏れだ。

 シェラがその発言に『やっぱり!』とでも言いたげな、そして、ジト目での物言わぬ反論。

 いつものように相手をするとループしそうなので、今回は真面目モードを発動させた。


「さぁ、お兄様、ご決断を」

「断る」

「どうしてですか、お兄様」

「自分が、イサカのことを心配している気持ちは本当だ。女神化の手伝いをする条件にシェラとのキスを呑むということは、イサカのことをないがしろにするのと同じだ。

 シェラは知らないだろうが、イサカは、自分が一番苦しいときに真っ先にリーダーシップをとって、自分の命を救ってくれた。

 今度は自分がその役目を果たす番だ」

「ですから、私がお兄様のキスひとつで条件を呑んで差し上げると言っているのですよ」

「その人質を取ったやり口が気にくわんといっておる、シェラ」

「では、どうするおつもりで? 元とはいえ男神に女神化の承認はシステム上できないのですよ」

「誰がそうした仕組みを作ったかは知らんが、それがシステムだというのなら、書き換えればいい。

 《聡子、仕事だ。ハードワークになるだろうからウィンに手伝ってもらってくれ》」





 聡子は、自分の『ハードワーク』というものの言い方から何かしらの推測を立てたのか、ウィンだけでなく他の面々も連れてきた。


「ん? 誰だ、あの女性は。まさかのまさかとは言わせないぞ、フェゴール」


 ライカが女体化したドラゴントゥースを目ざとく見つけ、事実確認を取らせるべく、自分の喉元に愛用のエペを突きつけてくる。

 正直、ゲンナリしたが、徐々に増えてきているパートナーズの責任は自分にあるので、キチンと説明しておいた。ここをうやむやにすると次は不信が芽生える。土壇場で裏切られることの心理的ダメージは筆舌に尽くし難い。ああいう経験は一度で充分だ。


「この格好ににゃったってことは、えっちが目的なんだよにゃ?」

「そうだろうな。だが、今はそんなことをえんえん言い合っている場合ではない。

 システムの書き換えを行って、シェラの態度を改めさせなくてはならない」

「具体的にはどういうことを計画しているんだ」


 エルザの問いかけに、自分は計画の全体像を表現した。


「なるほど。マスターが知り合いの地母神をイサカの体内を用いて召喚し、イサカに憑いた状態で目覚めた地母神と魔法陣内にて戦闘して勝利して、勝利者としての命令で体内の地母神にイサカの女神化を承認させる、と」

「妹ちゃんの条件と比べると、面倒くさいな、コレ」


 自分の説明にベネリが正直な感想を漏らす。

 要はアレだ。召喚獣を従えさせるには、戦って勝って、強さを証明させる……みたいな。

 自分の場合は、承認許可が欲しいから、1度きりの勝利者権限をそれに使うのだ。


「それでしたら、白黒つけるまで解除されない魔法陣を私たちが施しましょう」

「自分が現実世界で体験済みのアレか。アレなら安心だな。よろしく頼む」


 エイミアの申し出を受け付け、早速彼女が魔法陣を展開させる。

 14人がギリギリ入って厳しかったはずの個人部屋が瞬く間に出現した青い障壁によって、ドーム球場ぐらいにまで拡張された。

 突如の展開に、自分と天使2人以外は緊張が走る。


「あー、大丈夫だ。障壁の外に無理して逃げ出さない限りは、高圧電流がこっちくることはないぞ」

「これは、バトル・フィールド。人目に触れては問題がある戦闘を可能にするため、個人を拘束するためだけだった魔法陣を改良し、新たに創られたものです」

「フェゴールが言ったように逃げない限りは、特に危険はない。あとは、戦闘前に勝利条件を設定して、それに準じた状態が訪れるまでは障壁が解除されない、というのが注意点だな」

「例えば?」

「よく設定されているのは、相手に『参った』と言わせるまでは勝利条件が確定しないタイプ。戦闘練習用なら先に3勝したら障壁解除、というタイプかな」

「お主が現実世界で体験しとったのは何じゃ?」

「敵対者の敗北宣言か、死か。エイミア&エルザは前者を選択して助かった。残りは自分が死ぬという未来が見えなかったようだが」

「何で、オレ等のときにはこういうのが起こらなかったんだ?」

「天使の狙いは自分の首か生け捕り。君たちと触れ合っているときはエンカウントしないように配慮されていたんだよ」

「エンカウントって何ですかぁ?」

「エンカウント戦闘の略」

「それに巻き込まれると、何か問題があるのか?」

「若干、時間を食うな。待ち合せとかしているときに出くわすと遅刻確定」

「マスターの遅刻の原因がこんなところで判明しましたね」

「そーいや、そうだな。懐かしいなぁ」


 戦闘に備え、銃の手入れをしながら答えていると、各パートナーたちから謝罪の言葉とハグがきた。

 今さらながらのことに許すも何もなぁ……とは思ったが、赦すことにした。

 おどおどしていたパートナーズの笑顔が見れたので良しとしよう。


「パートナーと触れ合っていればエンカウントは起こらんのじゃろ?」

「そうだな」

「今度デートするときは手をつないで一緒に目的地までいけばいいんじゃなかろうか?」


 モナの提案に、皆、目から鱗が落ちたような反応が起こった。

 そして、一通りモナを持ち上げたあと、何かをイメトレし始めるパートナーの面々。

 特に一部のパートナーは、何を想像しているかは知らんが、悪寒が走った。


「結構、余裕ありますよね、皆さん」

「天使よ、これがうちのパートナーズだ」

「パクりかよ。それとも自慢か?」

「どっちもだ」


 威張ってみたら、2人の天使から剣と槍で殴られた。理不尽だ。





「にゃにゃにゃ、ウチも戦うのにゃ」

「心意気は結構だが、何ができる?」

「爪で引っ掻くか、噛みつくかだけにゃ」

「んー、それだけではなぁ。そうだ、格闘技って知っているか?」

「知らないにゃ」


 胸板2号娘が、何故か自慢げだ。

 仕方がないので、自分は銃の扱いを教えることにした。

 ハンドガンは命中させることが意外と難しいので、小柄なラムでも少しは活躍できるよう、サブマシンガンの取り扱いを教えておくことにした。

 はじめは両手で構えながらの「にゃはははは!」撃ちを。

 筋がいいのか、やがて2丁の構えでサブマシンガンを扱い始めたので、聡子が作ったホログラム兵士を射撃場の的として相手させ、命中率を調査してもらう。

 86%と、自分の初撃ち(54%)のとき以上の高スコアを出した。

 数値を見ても理解できていないようなので聡子が教えると、途端に誰から見ても分かるほどに増長してきたので、自分と軽く実戦訓練することにした。


「実戦訓練は、相手の反撃があるからな。弾がきたら、避けること」

「にゃにゃ~ん。りょーかいにゃ~ん」


 サブマシンガンを両腕でくるくる回して余裕をぶっかますラム。

 シグの実践開始を知らせる笛が鳴り次第、自分のハンドガンがラムのこめかみに向かって火を吹いた。今回の戦闘場所の都合上、周りに障害物が何もないのだ。速射で黙らせるしかなかった。

 次元大輔ほどではないがそこそこの速射程度なら、ラム相手には有効だった。

 訓練用ゴム弾を脳天に浴びたラムが、はじめての衝撃ダメージを浴びて、気絶した。

 ウィンがすかさず気絶回復用ポーションをラムの口元に垂らして、意識を取り戻させる。

 ナイスジョブだ、ウィン。


「ハッ、にゃにが起こったのにゃ?」


 聡子が落ち着いた口調で教え諭すようにして、ラムに負けたことを知らせてくれた。

 今度は誰の目からもまる分かりなほどに、悔しがっている。


「い、今のは油断しただけにゃ。再戦するにゃ」

「銃相手に油断は即死だ。普通は再戦なんてないんだが」

「うるせい奴にゃ。今度は本気にゃ。けちょんけちょんにしてやるにゃ」


 などと、諦めの悪い三下テンプレをありがとう、ラム。

 次は、ベレッタが戦闘開始のホイッスルを吹いた。


「にゃはははは!」


 今度のラムは、戦闘前に振り回していたサブマシンガンをキチンと構え、自分めがけて発砲している。

 サブマシンガンとはいえ、その射撃速度からもたらされる圧倒的弾幕の目の前に立つのは避けたいので、ローリングを駆使してきっちりと回避した。


「にゃにゃ! ネズミ以上にちょこまかちょこまかとうるさいのにゃ」


 ネズミだって、猫が目の前に現れたら全速力で逃げるだろうが。とにかく、射的の的になりたくなかったら、障害物の陰に隠れるか、当てにくい回避行動で距離をとるぐらいしかない。

 本来ならば、パートナーズ特典として弾薬無限効果が付与されているのだが、そこはまだ銃の扱いを勉強して約30分足らずの仔猫。


「にゃにゃにゃ!」


 手持ちの武器が弾切れしたのに気付かず、必死になってトリガーを引いている。

 勿論、特典のことを今教えるわけもなく、射撃体勢を整えるや、まず2丁のサブマシンガンをはたき落とし、最後にもう一度、こめかみを狙い撃ちした。


「にゃにゃ~ん……」


 涙をこぼしながら、頭から床に落ちるラム。

 悔しいだろうな。まぁ、負けず嫌いなところがあるから、上達は早いだろう。

 あとは格闘技等の経験を積ませれば、レンジャーとしての運用が見込めそうだ。

 さて、次こそは、イサカをどうにかしよう。





「それで、イサカの体内に召喚させる地母神の目処はあるのですか?」


 魔法陣の上で寝息を立てるイサカをよそに、ウィンが自分に訊いてきた。


「そうだな。カーリーを呼ぶ」

「カーリーの検索結果が出ました。血と殺戮を好む戦いの女神ですね。

 破壊神シヴァの神妃にして癒しの女神パールヴァディーの対極に位置する、もう一人の神妃として崇め奉られています」

「どうやって知り合ったの?」

「え? 普通、相手の強さを聞くところじゃないかな?」

「とぼけないで。相手が女である以上、なれそめを聞きたくなるのがパートナーズの特権です」


 ええー、何それ。

 これ、逆の立場(例えばシグに彼氏がいた!)だったら絶対教えてくれないよな。

 だが、その場にいる全員の視線には負けて、ボツボツと語ることにする。

 なんせ、軽く500年ぐらい前の話になる。細かいことは憶えていないんだ。


 天使に追われている時代のことだ。

 死海のほとりから逃げに逃げ、エベレスト横断を目指すことになった。

 そこなら天使が待ち構えている可能性が少なかったからだ。

 充分な準備をしたにもかかわらず、横断の途中、極限状態からくる判断ミスが原因で、荷物をクレバスの底に落としてしまった。

 凍える身体を酷使して、洞窟のようなものを探していたが、突然起こった雪崩に巻き込まれ、意識がとんだ。


 次に目覚めたときは、洞窟の中にいた。

 肌の黒い女が身体全身が青く変色していた自分に対し、身体のあちこちを勝手に触れて、生死の判断を行っていた。

 一番敏感な部分を触れられて、思わず身もだえしていると黒い女がお腹の上で踊りだした。

 よくよく見てみると、顔は美人でほぼ裸のいでたちだが、腕が6本あって剣を所持していて、首に髑髏ドクロのネックレスをしていた。

 ふと、せわしく動かす足元の熱で氷漬けだった腹の一部が溶けた。

 その出来事に対し、ジュルリと音の立つようなよだれを垂らしているのを見て、喰われる可能性におののいた。

 次の瞬間、こんな状況にもかかわらず、アレなことを思いついた。

 まず黒い女に名前をきき、カーリーにお願いをして、腹の上でなく腰の上に場所移動させ、あるモノとないモノのこすりつけの我慢比べを提案した。

 カーリーは我慢比べが苦手だと突っぱねたが、喰われたくない一心から、そっちのほうがお互いの身体が温まって、身体が柔らかくなると説明したら、『柔らかくなる=肉がおいしくなる』と勝手に判断したらしく、こちらの思惑にハマった。

 それからあとは、先にぐったりしたカーリーを寝かしつけて、その間に洞窟内に散乱している枯れ木や枯れ草を集めて僅かばかりの毛布を作って掛けてやり、逃げた。

 幸い、吹雪は止んでおり、どういうルートで運ばれたかは不明だが、少しばかり下りたら人里を発見し、たまたま立ち寄った民家から僅かばかりの食料と水を拝借して、飲み食いしながらさらに逃げた。


「というわけで、不発な上にロマンスはない」

「この時は……じゃろ?」


 言い切って無実を証明しようとしたが、勘の鋭いモナがにっこりとほほえんで後日談を求めた。

 そう、あるのだよ、後日談が。


 日本に逃げ延びて、世界各国へと足をのばし、再び日本に戻ってしばらくのことである。

 イサカとモナと地獄の話をしたことがあって、大分県のどこかに『地獄めぐり』で有名な観光スポットがあるという話になり、実際におとずれることになった。

 まずは有名な『血の池地獄』を見に行った時のことである。

 バッタリと出くわした。ご丁寧に人の姿に変装したカーリーと。

 この時は青い肌の旦那さんと神々しい白い肌のもう一人のお嫁さんが一緒で、自分とカーリーとの思わぬ動揺が、旦那さんに疑惑をもたらしてしまった。

 そこで、あの時の不義密通を黙るかわりに1回だけ『なんでもいうことを聞く』という言質を取り、旦那さんがシヴァだということを知った自分が、灰になりたくない一心ででまかせの嘘で何とかやり過ごして、今の今までこの時の言質のことを忘れていた……ということを、思い出した次第である。


 パートナーズの「「ないわー。ありえんわー」」という心の声と呆れを含んだため息が、何とも言えない。


 まぁ、そういうわけであるから、自分はその時の言質を実行に移す。

 各自戦闘準備を充分に取ったうえで、イサカの体内にカーリーの神性を召喚した。

 現物を呼ぶと、いきなり嫁が居なくなったことに不信を抱いた旦那がここまでやってきかねない恐怖があった。

 特に、何もかもを焼き尽くすと言われるシヴァのサードアイなんかこちらからお断りだ。

 なので、カーリーの神性を呼んだのだ。


「我を呼び出す愚か者は誰じゃ」

「あー、はいはい。それ自分」

「ぬっ、貴様はっ! フハハッ、ここで出会ったが100年目。成敗いたす」

「いやいや、それはこっちのセリフ。今日こそキッチリと白黒つけて、いろいろ清算しよう」

「ぬかせっ!」


 自分を筆頭に銃を次々に構えるパートナーズ。

 戦いを見守りつつも、イサカを拘束している魔法陣の監視も怠らないゲートキーパーズ。

 ぼんやりと何をするでもなく、欠伸をしている元ドラゴントゥースだった龍娘。

 独自の魔法結界を張り、中立をアピールするシェラ。

 カーリーは、誰が敵対し、誰が中立化を見極めたうえで、腕6本の剣を振り回しつつ、まずは大きく威嚇した。霊体のような状態の神性とは思えない迫力に、障壁がビリビリと大きく揺れた。


 それで動じる我々ではないのを見て、これから起こるであろう戦いの行く末を想像したのか、愉悦にまみれたろくでもない笑顔をこちらに向けて、体長4メートルの巨躯がやって来た。

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