第2の勇者、あらわる。
※警告※
某有名人を茶化したようなキャラが出ますが、
当作品は現実に実在する団体・個人名・その他云々かんぬんと一切の関連性はありません。ご了承ください。
MAGE&ナスカを知っているかい?
音楽番組の放送がにぎわってた頃は、毎週見ない日はないと言われた、伝説のミュージシャンだぜ。
オレの名はナスカ。
今や昔の伝説のミュージシャンだ。
ちょっと少し前までは、過去の人になるのが嫌でいろいろと活動していたんだが、知り合いのクラブのトイレでいつもと違った味を試していたら、いろいろと記憶がぶっ飛んで、今や目の前に神様を名乗るジジイが、オレのサインをねだっているところだ。
まだ、抜けてないのか気分はそう悪くないので、ジジイ相手にサインしてしまった。
しちまったよ。オレのサインは美女専門だったんだがなー。
まぁ、いいか。
「で、爺さん、俺に何の用だ」
「ふむ。そなたに少し頼みがあってのぅ。今から指定する場所に行ってのぅ、活躍してくれればそれでいい。なーに、一世を風靡したお前さんじゃ、向こうにはお前さんを知っている者も多い。決してお前さんが現実世界で味わったような悲劇は起こらんから安心じゃて」
「悲劇とか言うな。俺が悪いんじゃない。オレの歌が理解できないアイツらに問題あり「まぁ、よいではないか。それじゃ、さらばじゃのぅ」」
オレの言い分は神を名乗るジジイによって一方的にかき消された。
そして、ジジイの言う通り見知らぬ世界に連れて行かれようとしている。
ふと、MAGEのことが頭に浮かんだ。
MAGE、先立つオレを許してちょんMAGE。
―
タギリロンに到着した。
タラップを降りる足取りがいつも以上に重い。
一方、ラムとシェラのステップは踏み出すたびに花が咲き誇りそうなほど、軽やかだ。
先程までどっちが先かどうかでもめていたので、まとめて頂いたら、急に仲良くなった。一方、こちらは腰回りに小泣きジジイが憑りついた。悦楽の代償は重かった。身も心も。
いつも以上に人工太陽の日差しがキツく思えた。
自分はふらついた。
いつもならイサカが助け舟を出すが、今回に限って、誰も助けてはくれなかった。
スタミナゲージは既に赤く点滅していて、限りなくゼロに近い。
「どうしたんでぃ、旦那ぁ」
元気がないことに気付いたアンキモが心配して駆け寄ってきてくれた。
「ああ、久しぶりに無理しすぎてな。力が出ない」
「あー、旦那には複数形のパートナーがいるもんなぁ。今日はどのコとどのコだよ」
「新規加入のラムとシェラ」
「は?」
「新しく入ってきた猫獣人(処女)と、自分の妹。少女2人まとめて頂きました」
「この鬼畜」
アンキモは機械人のクセに変な倫理観で自分を投げ捨てた。
その後、何人か知り合いが声をかけたが、似たような行動をとった。
うぅ、求められたから応じただけなのに、なぜなじられるのだ。理解不能だ。
結局のところ、ダメもとで召喚してみたドラゴントゥースの隊長格が自分をおんぶしてくれた。多分、今までのやり取りを知っていてもなお、救いの手を差し伸べる寡黙な戦士に、漢を見た。
――『水連さんの安心亭』にて。
「あら鬼畜なご主人様、ようやくいらっしゃいましたね」
玄関入口に到着するや、ここの宿屋の女将・水連さんが挨拶してきた。
相変わらずの和服美人で、ほのかに漂う梅の香りが鼻腔をくすぐる。
「誰が鬼畜か。シェラのことを言っているんだったら、自分が神様時代の頃は普通だったの」
「そうやって正当化していい時代はとうの昔ですわよ」
「くぎゅ「ま、その言い回しは危険ですわ。第一、男が使うと激しくキモイですわ」
「水連さん、何故、その知識を?」
「あらヤダ、アナタの紹介で訪れたこの新天地。ホント、色んなお客様がやってくるのですよ。そして、私に親切に教えてくれますの。ウフフ、すっかり耳年増ですわ」
「リアル年増のま『カッ!(包丁がそばの壁に刺さった!)』」
フォー! 気分はかの偉大なアーティスト。
あっぶねー。女相手に年齢の話はアウトだったの、すっかり忘れてたよ。
「フェゴール様のお泊り場所は、馬小屋でよろしいでしょうか?」
「いえ、その場所で聖人を産む予定はないので遠慮します」
「まぁまぁ、そんなにご謙遜なさらずとも、寝わらは彼らの足元に用意してますから」
「ああ、つまり、蹴られて死んでこい、と。死者の国でなんて笑えないジョークを」
「おほほ」
「あはは」
……と、しばし談笑しつつ、最後にはどげあく状態になって許しを請いました。
いやー、自分、この国の真の統治者なんですがねー。相変わらずカリスマがゼロだわー。
この日は大人しく風呂に入って、自分一人、軽めの食事を個室で摂って、早く寝た。
そういえば、ドラゴントゥースを出しっぱなしにしていたことに、まどろみの最中に気付いたが、眠気には勝てず、明日、どうにかすることにした。
まさか、この先送りがあんな結末になるとは、思ってもいなかったけどね。
―
オレが歩く。道を行き交う人間どもがオレに反応する。
スマホで俺の姿を撮りたがる連中が押し寄せ、そのうちの一人がオレに声かける。
「あの、ナスカさんですよね? 伝説のミュージシャンの。よかったら、サインください」
「すまないけどね、オレのサインは美女限定なのさ」
どこの馬の骨かもわからん青年に対して、俺はいつものキザな台詞を放ち、伝説級特有のオーラで格の違いを見せる。
「けっ、お高くとまりやがって、このポン中が」
「何だと」
「おい、相棒のMAGEはどうした?」
「え、お前、知らねぇ―の? ナスカが天才肌吹かせて、勝手にコンビ解消したんだぜ」
「マジかよ。2人で歌う『ワー、ワー、ワー』好きだったなぁ。もぅ、聴けないんだな」
「その前に俺ら死んでるから、聴きようがないけどなw」
「言えてる言えてるw」
何だ、こいつら。伝説のスター相手になめた口ききやがって、礼儀というモノを知らない。
それに、みんなして一様に、MAGEのことを聞きやがる。
よし、オレは決めた。ここで歌ってやって、MAGEなしでも充分通用することを証明してやろうじゃないか。
オレは喉を鳴らした後、誰かが聴きたかったとボヤいた『ワー、ワー、ワー』を独唱してやった。
オレの独唱中のアイツらは極めて静かだった。
何だかんだ文句は言っていたが、スターの歌声を前に何も言えなくなる、なんてことは業界ではよくあることさ。ましてや俺は、伝説級。規格外だから、こういう反応になるのは仕方のないことだよ。
そして、クライマックスの『ワー、ワー、ワー』のときのことだった。
それまで静かに聴いていたはずの若者たちの目の色が変わった。
「war」「war」「war」
「war」「war」「war」
「war」「war」「war」
「応仁の乱でござる」
「いやいや、島原の乱であろう」
「源平合戦は如何かな?」
「関ケ原合戦じゃあ、者ども出会え出会え」
「war」「war」「war」
「war」「war」「war」
「war」「war」「war」
「十字軍遠征デス」
「カノッサノ屈辱ゥゥゥゥ」
「百年戦争ォォォォ」
「独立戦争!」
「世界大戦!!」
「war」「war」「war」
「war」「war」「war」
「war」「war」「war」
「ドワーフ VS エルフ」
「悪魔 VS 天使」
「劣等遺伝子 VS 優性遺伝子」
「神に見捨てられたこの国の愚かなゴミクズ VS 神により選ばれた、祝福されし者」
それは、『わー』じゃねぇ『うぉー』だとツッコもうとした矢先のことだ。
『war』の言葉を合図に、オレの歌を聴いたやつが次から次へと戦争絡みの言葉を発し、日本の有名な争いから世界の争い、最後の奴はよく分からないが、このあたりのことを口にするヤツの目は、正直、幾多の修羅場をくぐったオレでもビビったぜ。
ありゃあ、イカれた宗教を信じている者どもの目だった。
もうこの頃になったら、オレの歌を聴いているヤツはおらず、各自、めいめいの携帯武器を手に、隣人同士がリアルガチファイトを実行中だった。
あのジジイ、何が有名になるだ、ウソこきやがって。
オレの歌をきっかけに、争いが加速的に広がっていっている。
クソッ、これじゃ、騙された俺はピエロじゃないか。
あのジジイ、オレをハナから生かす気なかったな。
このままじゃ済まさねぇ。
どこにいるのか知らねぇが、権力者に事情を説明し、オレの待遇を改善しなきゃな。
―
目覚めたら、見知らぬ女が自分の横で眠っていた。
ちなみに全裸ではない。ではないが、ほぼ裸に近いビキニ姿っぽい鎧を着用した女が寝ている。
そばには最近よく見かけるようになったバスターソードが立てかけられていた。
冷静になってよく考えてみた。
多分というより確実に、彼女は眠る前に扱いを保留したドラゴントゥースだろう。
問題は、かの骸骨剣士が何故、目覚めたらパンツァー装備姿で寝息を立てているのか、だ。
さらに考えることにした。
今の自分の状態を確認することが手っ取り早いと思われる。
というのも、何故か昨日よりも今日の方がさらに身体が重かった。昨日は腰回りに小泣きジジイだったのが、今日は身体全体をぬりかべから押し倒されているような気分だ。
そういえば、朝と云えば、パンツのテントだ。
確認してみたら、元気がなかった。どころか、精も根も果てていた。もう少しで赤玉が出てきそうなヤバヤバ一歩手前ともいう。
ここから先は妄想力だが、ラムの受肉を目の当たりにして、彼女は自分の意思を抜きに、抜いて抜いて抜きまくって、強制排出させた神秘の水を浴びるだけ浴びて、受肉化に成功したのだろう。
ああ、こんな状況ね、他のパートナーズに知られたら、新たな修羅の予感しかしない。
イサカなんか、人修羅あたりまでパワーアップしそうだよ。
『終わる世界』なんて、喰らいたくねー。マジ、勘弁。
もうこりゃアレだな。自分のためにも証拠隠滅。
とりあえず、彼女を廊下に転がせておこう。
イサカから尋ねられたら『寝相の悪い女がいたんだろう。言われて初めて知った』か『知らない、知らない、知らない』で知らぬ存ぜぬを通そう。
うむ。
我ながら完璧な作戦だ。
おあつらえ向きとばかりに、今日は机の上にスタミナポーションが置いてある。
早速飲んだ。
メキメキと元気が込み上がる。
思わず、ガッツポーズ。
彼女の温情でパンツ姿だった自分の一番疲れた部分も、つられて起き上がった。
「失礼します。フェゴール様、昨夜はよく眠れ――――」
せっかく機嫌を直してくれたイサカが、室内の状況に目を見張る。
元気あふれる自分の分身、規則正しい寝息を立てる知らない女。
ああ、様々な負の感情を吸収して変貌した、死の女神が怖いぐらいにこやかに微笑んでいる。
『魂マデ砕カレテ消エ入レッ!』
ですよねー。
まぁ、人修羅にまで変貌しなくてよかったよ。
だが、地獄の淵を何度も覗き見させるような苛烈な攻撃の数々には、お腹いっぱいです。ごちそうさまでした。
2015/04/13 読み進めた際の違和感解消の加筆修正。