クズの言い訳w
※今回、勇者は出てきません。
お仕置き☆方法は決めたのですが、別のことを優先しました。
絶対に掘られてはならない穴が、ここにある!
オレは断固として、何としてもそれを死守しなくてはならない。
何故ならば、こ、ここで押し切られたら『アーーッ』
――『無人島って、オレと兄貴の2人きりだったよな!』(著者不明)
食堂にて。
久しぶりに自分で淹れたコーヒーを飲んでみた。
訳ありで口許が緩いため、今回だけはストローを使っている。
肝心の味は、ばらつきがあり、特に酸味と苦みがえぐい。失敗したようだ。
それでも、先程の『ぐりんぐりんれろんれろん』がようやく終わった安ど感からか、淹れ直すのを思いとどまり、そのまま飲み干すことにする。
現在、パートナーズ全員から適量ずつ集めた体液を、リンゴが何かしらの方法を用いて毛細血管の隅々にまで行き渡らせ、そこから身体の中のどこかの器官を用いた撹拌が始まり、現在、濾して、自分の血液を作成中である。
その間、ヒマなので、ロダンの考える人のポーズのまま、テーブルに置いてあった真っ赤っかが激しく自己主張していた薄い本に目を通した。
気になる内容は――――ある日、美男子と野獣が無人島に流れ着き、救助を待つまでの間にごく自然にと恋に落ちていった。幸せだったある日の夕暮れ、オレがいつものようにアニキのためにとドラム缶風呂の用意をしているところ、襲われた。初めはアニキかと思っていたが、アニキ以上に体臭がきつく、やたらと毛深い両腕を見た瞬間、オレと兄貴以外の生存者がいることを直感で悟り、アニキとの契りを交わした部分をかたくなに守ろうと奮戦するが、野生の力の前にはむなしく――――
薔薇だった。衆道モノとも言う。
誰の趣味でそこにあるのかは不明だが、ヒマにかまけて読了した。
アニキ視点の美男子の大切な部分へのこだわりとアフターケアは勉強になった。
今度、自分好みのショタ勇者が現れたら、やってみようかと思う位に。
今回の、ケン少年の意識を乗っ取っていたチート勇者は27歳の凡人だ。つまらない。だが、実験台としての経験値の肥やしには有効かもしれない。未来のショタボーイへのエスコートに失敗するぐらいなら、あの辺で試してみよう。どうせ、お仕置きをどうするか考えていたことだし、一石二鳥だ。
薄い本を読み終え、コーヒーを飲みほし、いよいよやることがなくなった。
リンゴに念話で終わったかどうかを聞いてみたら、まだまだかかるらしい。
―
「おはようございます、フェゴール様」
朝シャンの香るイサカがいつもの執事服に着替え直して、挨拶をしてきた。
《全裸にシャツをはだけさせただけの、あの恰好は煽情的だった》
「何故、念話で話されるのですか?」
昨晩の萌えポイントを評価したのだが、念話での返答への疑問の方が強かったようだ。
仕方がないので、正直に答えることにする。ただし、律儀に答えるとアウトっぽい気がしたので、ぼかした。イサカの理解力が想像力たくましいことを願っておこう。
《そうだな。昨日攻略した各ダンジョンは、全部、奥の奥に強硬なミミックがいて、普通のピッキングでは開錠が難しかったから、秘蔵のキーピックを用いたスキルを駆使するハメになった。身体全体が復活したばかりもあって、筋肉がこなれてなくて麻痺が残った……理由としてはそんなところだ》
「私のダンジョンはいかがでしたか?」
《そうだなぁ。全体的に狭いものの、奥行きがあり、ミミック前の予期せぬトラップに根を上げるそうになることもあった。ミミック戦は様子見のジャブぐらいではビクともしなかったから、周囲の壁を小刻みにピンポイントな振動を与えたら、ミミックのヤツ、水流魔法の波状攻撃を浴びせてきたな。水没させる気だったんだろうが、飲み干してやったら、白旗を上げたな》
イサカからの返答はなかった。ただ、昨晩のことを思い出したのか頬を赤らめてモジモジしていた。
どうやら心配は全くを以て杞憂だったようだ。
全身が打ち震えるほどの声にならない痙攣のあとの失神は、自分とキミとの秘密だ。
「お、おはよう……」
《どっきゃーん!》
先程、自分が煽情的だと語った、シャツをはだけさせただけの全裸エルフの登場に、思わず心奪われて、つい心の声が漏れた。念話の状態だったので、なおのこと。
「ウィン、朝ですよ。早く服を着替えなさい」
「ふぁぁぁい……」
《ノーノーノーノォ! ウマシオちゃん、行かないでぇ》
イサカに促され、寝ぼけまなこのウィンが素直に踵を返し、この場を立ち去ろうとしていた。
滅多にないウィンの着くずれした姿に焦りを覚えたため、つい誤爆した。
「……うましお?」
《昨晩の水流攻撃、滋味あふれる旨みが堪りませんでした》
もう下手に繕うのも面倒なので、正直に答えておいた。
イサカの雰囲気が急変した気がしたが、いつものことさ。
「ふーーん。……気に入ったんだ。へぇぇ」
寝ぼけまなこのウィンからは、まんざらでもなさそうな視線が。
ナニ、この予期しない脈アリ反応。
一方、イサカは、殺気を器用に黒い刀のかたちへと物質化して、その刃で首筋をヒタヒタとぶつけてきた。一気に刃を引きでもしたら、首筋からドバババッ! とエライことになる予感。
毎度のことだが、イサカの目の前でのろけるのは危険だと分かってはいる。
だが、何故かイサカが近くにいるときに限り、他のパートナーズと向き合う機会が多いので、必然的にイサカの負のオーラをビシバシと浴びることになる。
いや、考え方を変えよう。
自分は、こうやってあえて火中の栗と虎児を得ることによって、非常時の際の胆力を培っているのだ。他のパートナーズはそのために敢えてワザとイサカの目の前に現れるんだな。
くぅぅ、なんて素敵な協力関係。おかげで少々のことでは驚かなくなった気がするんだ。
溢れる感謝への気持ちを隠すかのように、どこかのスーパー野菜人みたいに、腰に力をためて『フンッ』と息を吐くや、気合を入れ直した。
突然の行動にリンゴから怒られたが無視した。
だが、自分の片腕にウィンが身体を預けてくる行為は無視できなかった。
何でかって?
美乳のポッチが腕にツンツン自己主張してきてるからだ。
即座に無心モードに入るとか、自分、堅物で鈍感な主人公やってないので、エロに忠実なスケベ親父よろしくニマニマしてたら、突然、逃げられないように後頭部をホールドアップされた状態でチューが来た。
普段の、エッチは控えめな方のウィンからは考えられないアグレッシブさにされるがままでいると、唇を離した途端、ワンワンと言いそうなおねだりのポーズでさりげなく横たわり始めた。
まるで、昨日の晩のコトをもう一度プリーズ! とでも言わんばかりだ。
普段が真面目なだけにギャップに悶えた。
身体の自由がきき、すぐさま海綿体に血が通うような状態になれるのだったら、望みは叶えられたんだがなぁ。
イサカが黙っていないんだよなぁ。
「ひっ!」
普段、自分にだけビシバシ向けられている殺気がウィンに初めて向けられるや、彼女は恐怖に囚われて、そのまま気絶した。
うむ。やはり、自分は日頃の鍛錬の成果がよく表れているようだ。
崩れ落ちるウィンを待ち構えるように、イサカが支えた。
次の瞬間、シャーと何かが流れ出る音が聞こえた。
ビビったあまり、漏らしたようだ。
とばっちりを受けたイサカの表情もいささかよろしくない。
「飲まないのですか? 美味しいのでしょう?」
《水の質が違う》
「そういう民間医療もあると聞きますが?」
《自分の変態性は認めるが、エッチでのアクシデント以外では厳しいわ。
まぁ、ともかく、後片付けぐらいはするから、ウィン連れて、風呂に入って来い》
「いいえ、この後始末はシグ・ベレッタ・ベネリの仕事です。彼女たちを起こしてきます」
《いやいやいや、時間が経つとカーペットにシミと臭いがこびり付く。イイから、風呂入れって》
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
自分が清掃道具を揃えて事故現場に戻ったころには2人の姿はなかった。
ただ、妙な視線は感じた。
それは、まるで奥の廊下の隅の方でイサカが監視しているかのような気配だったが、構わず、清掃にのめりこむことにした。
そのうち視線は感じられなくなり、メイド服姿に着替えたシグとベレッタと朝の挨拶をした。
カーペットの汚れは洗剤の匂いと効果に上書きされて、以前の面影は消えた。
証拠の隠滅には成功したが、掃除している理由を指摘されたので、『ヒマだったので自分で久しぶりにコーヒーを淹れてみたが、マズ過ぎて吐いた』ということにしておいた。
2人には当然のごとく怒られたが、まぁ、このぐらいは仕方ないな。
―
全員席に着いてからが朝食です――――と、まるで『おうちに帰るまでが遠足です』のパクリのような教訓が、我々には根付いている。
だからか、いつもは医務室で爆睡しているウィンをメイドのシグとベレッタが抱えてくるような感じで連れてくるのだが、今回に限り、ウィンがきちんと起きていて、イサカと一緒に食堂に現れたことが、周囲の耳目を集めた。しかも、2人とも風呂に上がりたてで、いつもの服装ではなく、私服だった。
ベネリが何事があったのかを問いただしそうにしていたので、ワザと、視線の先に空になったコーヒーカップをゆっくりと回すことにした。
主人の無言の呼びかけに、そこは腐ってもメイド長。自身の興味を喉奥に押し込めるや、仕事を優先した。
淹れてもらったコーヒーを味わいながら、周囲を見渡すことにする。
今ひとつ気分のすぐれない女エルフに、男顔負けの対応で体調を気遣う女執事の様子に、何となくオスカル臭を感じ取っていると、ひとり、顔をとろけさせる少女を発見する。
それはベレッタだった。よくよく思い返してみれば、彼女、本来はレズである。
こういった光景は、彼女にしてみればごちそうの様なシチュエーションに違いない。
「ま、ようやくみんな揃ったことだ。メシにしよう」
自分の声掛けにより、ようやく朝食が始まった。
それは、どちらかというと昼食よりの朝食になったが、美味しくいただきました。
とはいえ、今回ばかりは誰かに『あ~ん』して貰わないと満足にご飯が食べられない状況だったので、メイド見習いのカムとチェスターに食事介助をして貰った。
チェスターは普段オドオドしているが、食事介助のときは別人のようにはきはきとした動きでご飯、おかずを食べやすい形に切り分けてくれた。それを、カムが介護命の介護士さんみたく、丁寧に口もとに食事を運び、食べ終わるまできちんと待機し、こちらの僅かな顔の表情で飲み物を用意するなど、いろいろと気が利く。
そこに新郎新婦のイチャラブ食事風景のような、わざとらしいいやらしさがないからだろうか、イサカやモナのチャチは入らなかった。
ご馳走様のあとにありがとうを加え、2人をねぎらった。
―
朝食のあと、『キターーッ!』と顔文字が出てきそうな声が自分の脳内を駆け巡った。
途端に、身体中の血管という血管が心臓から一斉に血液を送り出され、張り巡らされる。やがてそれは循環して、心臓に戻り、何度目かの激しい鼓動を経て、平静を取り戻した。
土気色に見えなくもない肌色に血が漲るや、やや赤みのさした肌を取り戻した。
その手で近くにいたカムとチェスターの髪を撫でてみる。
「温かいっす、マスター」
撫でられてまんざらでもないカムと、頬を赤らめつつ首を縦に振るチェスター。
と、袖を誰かが引いてきたので視点を合わせると、モナがニカッと笑った。
「朝一番のキッスの時間じゃぞ、フェゴール」
一番と聞いて、今回はモナに順番を譲ってもらった。
とはいえ、イサカが絡むとすんなりと納得しないのがモナなので、頬に軽く口づけを交わしておいた。まだ怒りは収まらなかったようで、抱擁を。そして、モナの髪を機嫌が落ち着くまで軽く撫でる。
ようやく落ち着いたのか、心音の鼓動が緩やかになったところで抱擁を止め、モナの表情を視ると、「気が変わらんうちにサッサと用を済ませるんじゃな」と一言。
ありがとう、とこちらもお礼を述べ、イサカの前に移動した。
「今日の復活があるのは、君のおかげだ。ありがとう」
「そんな。私はフェゴール様の執事です。主が危機に陥って何もしないという選択肢が存在しなかった……それだけです」
「見捨てる、という選択肢もあったはずだ。事実、自分はそれだけのことをした」
イサカの対応を見るに、イサカはパートナーズが増えることを望んではいない。だが、初めてイサカと現実世界で暮らしてみて分かったことだが、元死の天使は殺しのプロであること以外、何もできない女の子だった。よって、自分は長い年月をかけて、自分の分身をつくるかのような勢いで、イサカの持つあらゆる才能を万能の領域にまで高めた。ただ、その長い長い修行時代がもとで、自分とイサカの関係は、『キミと僕』から『主と従う者』へと変化し、いまだに尾を引っ張っている。
だが、今は昔と比べると変化している。
その一例として、歌がある。
自分は音痴なので、イサカには歌のことを教えなかった。だがイサカは、自分が歌を聴くと激しい怒りを忘れまどろむことをどこかで知ってから、必死で歌を覚えていた。どうやって楽器を弾くことを会得したのかは知らないが、これまた伴奏も上手い。
芸術&音楽といった感覚系の分野においては、ひょっとしたらイサカには敵わなくなっているかもしれない。だが、それでいいと自分は思っている。
イサカはイサカであるべし。
主人の顔色をうかがうだけの特徴のない存在にだけはなってほしくない。
さて、話がそれてしまったが、パートナーズを増やしまくった件についてだ。
イサカは焼きもちを焼くと本来の女の子の部分が強く出てくる。
モナとイチャついているときのイサカは、執事としての役割を必死に耐えつつも、ぎらついた『嫉妬』を前面に押し出して、存在意義をアピールしていた。
でー、モナが疲れて寝入ったあとの夜のベッドは激しかった。
これを経験して以降、現代日本で暗殺対象として狙われ、襲われ、返り討ちにした女の子を新たなパートナーズとして迎えたときは、内心、ヒャッホイでした。
モナひとりのときでもすごかったのが、今や、モナと見習いを入れて9人にまで増えた。
9人と屋敷に住んでいると、誰か彼かが自分と執事イサカに関わってくる。
もうね、シ〇ブS○Xなんてメじゃないし、〇Pといった複数交友に至ると、いやでも張り合わないと、えんえんお預け状態になるから、もう激しいのなんの。
イサカに飛び火云々をその昔ボロッと漏らしたのは、大体この辺をさす。
「こんなことで贖罪になるとは思えないけれど、復活したての無垢な唇を君に捧げるよ」
自分でも驚きのクサい台詞である。
一方のイサカは、顔を若干そむけ小さな声でごにょごにょと何か言った後、覚悟を決めた顔つきで自分の方へと向き直った。
「いただきます」
イサカの開口一番のセリフに面喰らうのも束の間、自分のネクタイを引っ張り無理やり唇を近付けさせてからの、勢いのあるほとんどしゃぶりつきに近いチューに戸惑いつつも、受け入れた。
思えば、イサカが人目をはばからずにチューしてくるのって、今回が初めてだね。
少しはお互いの壁がまた一つとれたのかな?
いい方に捉えておこう。
一方、食堂で繰り広げられた空気を読まない濃密なチュー行為をえんえん続ける自分とイサカに対し、初めて他のパートナーズ全員が猛烈な『嫉妬』に駆られた――――というのは、本当にどうでもいい話でした。
職場同僚
「せっかく、ファンタジー世界があるんだから、
いい加減、旅立てよ」
わたくし
「日頃の感謝を行動に示さず、テキパキと話を進めろ、と?
そんなん、最後の最後にとんでもないしっぺ返しが来ますよ。
耐えてください。
てゆーか、先輩、彼女に優しくしてますか?
チューして、胸軽く揉んで、数回ツッコんで終了じゃ、
そのうち別れ話が来ますよ?」
職場同僚
「う、うるせー。このメイドキ〇ガイ。ほっとけのホットケーキ」
>場が瞬間冷凍した。
……とまぁ、ここに載せる前にこんな会話になったので、
許可を得たうえで掲載しました。