パート1
いつもの昼休み、陽一と剣は向かい合って
弁当を食べていた。
2年D組というこの狭い世界に
二人しかいない男という生物が
教室の後ろで静かに弁当を食べる姿は
いつもの光景であった。
「あっ、思い出した
今日消しゴム使い切っちゃったんだ」
剣が右手に飲むゼリー、
左手にダンベルを抱えながら言う。
「マジで? 消しゴム使い切ったヤツなんて
初めて見たよ」
陽一は少し興奮しながら言った。
「ちょっと買ってくる」
剣がダンベルを下ろして教室を出るべく
扉に向かうと、扉の前で
一人の女子とぶつかった。
「いてて……
ごめんね、怪我してない?」
剣がその女子に話しかけると、
彼女は「大丈夫、
私もちょっとよそ見しちゃってたし」
と笑いながら立ち上がった。
「ご、ごめん……」
照れくさそうに立ち上がると、剣は
購買へと急ぎ足で向かって行った。
「あっ、千恵子ちゃん」
愛子がその女子に向かって手を振っていた。
「誰だろう……」
陽一はそう思いながら、再び弁当を食べ始めた。
弁当を食べ終えた頃、美奈に陽一は
呼び止められた。
「ちょっと、来てもらえないかしら?」
強引に陽一の手を引いた。
陽一は美奈たちが弁当を食べているテーブルに座らされた。
「モノポールというボードゲームをしましょう、
二子玉川君」
机には陽一と美奈の他、愛子とカミーユと
さっき剣とぶつかった女子がいた。
「あぁそうだ、紹介するね」
愛子が陽一に女子を紹介させる。
「彼女は小野田千恵子ちゃん、この学校の
サッカー部の10番なんだよ」
千恵子が陽一に自己紹介をする。
「初めまして、二子玉川君
噂はカミーユから聞いているよ、
エロゲーが好きなんだってね」
「おいカミーユ、変な噂流すな」
陽一がカミーユをたしなめる。
モノポールとはドイツのボードゲームで、
美奈が経営する会社が来年から
日本へ輸入する予定のゲームだった。
このゲームはそのプロトタイプ版で、
日本には一つしかなかった。
ルールはモノポリーそっくりだった。
カミーユは自分のターンのたびに
いい思いをしていた。
土地の交渉に成功し、
ホテルを建てることで宿泊料を陽一たちから
せしめることに成功した。
さらに鉄道会社の経営にも成功し、
カミーユは大金をせしめることが出来た。
一方の陽一は、踏んだり蹴ったりであった。
レンタル料を全プレイヤーに支払わされ、
交渉には失敗、
挙句の果てに刑務所に入れられ、
一番先に破産してしまった。
結局優勝はカミーユのものとなった。
「強いな、カミーユは」
千恵子が感心している。
「あなた、このゲームは初めてらしいじゃないの、
それにしては強すぎるわ」
美奈が悔しそうに言う。
「じゃあこれで終わりだな、オレは戻るぜ」
自分の席に戻ろうとすると、美奈が
陽一の胸ぐらを掴む。
「まさか、罰ゲームの存在を知らないなんて
言わせないわよ」
陽一が怯える。
「ば、罰ゲームって……」
数分後、大量のジュースを抱えた陽一が
教室へ戻ってきた。
「ありがとうねー、あぁそうだ二子玉川君
今度私の練習試合見に来てよ」
ジュースを飲みながら千恵子が帰っていく。