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魔法商女カミーユ  作者: ヨコワケデュガリー
To meet is to part(会うは別れの始め)
1/11

パート1

北海道札幌市、豊平川の近くにある

「聖シムカ高校」2年D組の教室では

現代文の授業が行われていた。


「と、いうわけで

なぜ下人の行方は誰も知らないんだ?

二子玉川、言ってみろ」

教鞭を振るうのは生沢昌弘、38歳独身。

このD組の担任だった。

一番後ろの席で寝ている男子がいる。

「おい、寝てんじゃねぇよ」

生沢が男子の前に立つと、教科書で頭をはたく。

「うわっ、何ですか?」

二子玉川陽一、17歳が目を覚ます。

「何故下人の行方を誰も知らないんだ?」

生沢が陽一に聞く。

「えぇ……

捜索願を出してないから?」

陽一が弱気になって答える。

生沢が何も言わずに陽一の頭をはたく。

「違うぞ、多摩川」

「いや、二子玉川です」

陽一が反論する。

生沢はそれを無視する。


昼休み、陽一は教室の後ろで一人の男子と

弁当を食べていた。

「なぁ剣、お前の弁当って美味いの?」

陽一が尋ねる。

「あぁ美味いとも、お前も食ってみろ」

高萩剣たかはぎけん、このクラスに

二人しかいない男子のうちの一人だった。


この学校は一昨年まで女子高だったのだが、

少子化問題の影響もあり共学となった。

しかし、まだ男子の数は少なかった。

特に二年生になって理系クラスであるD組を

選んだのはこの二人だけだった。


さて、二人の会話に戻ろう。

剣の弁当はといえば、白米の上に

ふりかけの如くカルシウムなどのサプリが

散りばめられ、おかずはといえば

野菜サラダやカレイの煮付けといった

老人ホームのようなものだった。

「辞めておくよ」

陽一はその弁当を食べる気にはなれなかった。


陽一が弁当を片付けると携帯を開いた。

未だにガラケーであることを親にバカにされているが、

そんなことは陽一には関係なかった。

陽一たちの隣のテーブルでは一人の女子が

弁当の写真を撮っていた。

「またやってる……」

陽一はそれを横目で見ながら、あるブログにアクセスした。

「あいにゃんのお姫様日記」という名の

そのブログは、一日に20万以上のアクセス数を誇り、

今や日本でもトップクラスの人気だった。

「今日のお弁当はハンバーグ弁当、

手作りのソースが美味しいんだよ」とあった。

「えー二子玉川君、私のブログ

見てくれているの?」

後ろから声がする。

後ろに立っているのはそのブログの作者である

あいにゃんこと、佐津川愛子だった。

陽一が愛子に話しかけられたのはこれが初めてだった。

「まさかこないだ、ブログ荒らしたのって……」

「オレじゃないって」

陽一が即答する。

彼女のブログは問題となる言動も多く掲載され、

そのたびに炎上してしまっていた。

こないだも彼女ははげている校長と教頭がお辞儀を交わしている

写真を盗撮し、「惑星の衝突だよ」などと

茶化して炎上させていた。


「そうね、その株式はすべて売り払っていいわ」

陽一たちの前で電話をしている女子がいた。

長谷見美奈、彼女は世界でも一流のトレーダーとして有名で

毎日何千万円もの株の取引をしていた。

「この世の金は私を中心に動いている」

それが彼女の口癖だった。


陽一はこんな変人だらけのクラスには

剣ほどしか仲のいい人はいなかった。

その剣は現在、教室の後ろで

必死にサンドバッグを叩いていた。

「理想の肉体を手に入れるまでオレは死なない!」

そう叫びながら叩き続ける。


この風景こそが、この2年D組の日常だった。

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