第八話 メカニック
トピカを解析に回して数週間。
いきなり事は起こった。
学校で「さぁ、昼飯食うか」と言う時に神機楼が若干慌てた様子で、(普通の人がみると完全無表情だ!)教室に入ってきた。
「神機楼ちゃん、俺の相棒のメイドロボはどんな子がいいかな~?」
友人の雄太が神機楼によっていくが……
「消えろ!」
殴り飛ばされて人様の机を道連れに吹っ飛んで行った。
「大変です。若。トピカが……、トピカが逃げました!」
「!!」
放課後……ではなく昼間。学校は早退したが気にしない事にする。
装備開発室と書かれた部屋に入るとカノンさんはのんびりとお茶を飲んでいた。
「トピカが逃げたってどうゆう事ですか!?」
「そのまんま、言葉のままだよ。逃げた」
ガックリと脱力する。もうちょっとなんか、慌てるとかそうゆう感じでもいいと思うのだが。
詳しく話しを聞くと外部から救出に現れた者がいるらしい。警備用の機械兵士をあさっり倒したと言う。
トピカは戦闘が終わった際に電子頭脳にロックを掛けて起動出来なくしてから研究所に連れて帰った。
流石にバラすのは気が引けて、外部から情報を引き出す為に色々試しているところだった。
トピカの解析で神機楼の事が更によくわかるはずだったのだ。
(まぁ、全く何も分からなかった訳じゃないし、これでよしとするか)
自分の考えに没頭していると袖をくぃくぃと引っ張られる。
「? カノンさん?」
「実は長期出張が決まった」
「えぇぇぇ!!」
カノンさんがいなければ神機楼のメンテナンスが!
正直、俺ではとても無理だ。信頼できる人にしか神機楼を預けたくない。
「なんで、急に!?」
「うん。なんか人手が足りないらしくって。それに京都だからそんなに遠くないよ。それに……京都は出雲先輩がよく行っていた。神機楼の事なにか分かるかも」
じゃあ、行ってくるよーって感じでさっさっと行ってしまった。
「どーするよ?」
「どうしましょう?」
カノンさんはトピカを解析した結果の小型レーダーを神機楼に搭載して旅立った。
「お前のメンテを出来る人を探さないと……」
「問題ですね」
斯くして神機楼を任せられる技師を探索する事になったのだった。
「あ、男性はイヤですので」
「研究所の所長さんはダメなのかよ?」
次の昼休み
「忙しいんだよ。意外に。外部武装開発室はいつも多忙なんだよなぁ」
そもそもカノンさんが異端であり、あの研究所は軍属である為神機楼に装備などを作ってくれる事自体が異常だったのだ。
これからの事を考えていると人影が刺す。
「?」
そこにいたのはなんと……ロボット部部長だったのだ。
「少し話しがある……」
「私も同行してもよろしいですね?」
部長が出てくると、共に神機楼が現れた。レーダー機能が加わったからだろうか、速攻で現れた。
ロボ部部長はかなりやつれた様に見えた。
「で? 何なん訳?」部長はいきなりこちらに振り向き、スライディング土下座をした。
「えぇ!?」
かなりビックリした!
「頼む! オートマキナに出てくれ!!」
「オートマキナ? あぁ、あの大会のことね」
土下座のまま部長は喋り続けている。
「お前達の強さがあればオートマキナも優勝出来る! だから頼む。我が部の人間として戦ってくれないか?」
「う~ん。俺は戦い自体には余り興味がないし……」
(そう言えばこの人お金持ちだったけ)
「わかりました。ただし条件を呑んでくれたら、大会に参加するよ」
やっと顔を上げ怪訝な表情を作る。
「条件とは?」
「メカニックを所望する!! あ、後男はイヤだって」
部長は条件を簡単に呑んだ。そういえば部長は釜山 一馬と言う名前らしかった。
余り興味がないので今後も部長と呼ぼう。
部長から紹介されたのは高級そうなマンションでしかも、最上階。
「はぁーデカイなぁ」
「指定された階は最上階みたいですね。羽黒文となっています」
エントランスで紹介された階と部屋番を当て嵌めて淡々と読み上げる神機楼。集合郵便受けは下の方にある為、背の高い神機楼は腰を曲げて見ているがメイド服から見てとれる腰周りが綺麗だなぁ等とどうでもいい事を考えていると、今度は神機楼に顔を覗き込まれる。
「若? どうかされましたか?」
「あ、いや。何にも。少し、ぼおっとしてた」
神機楼はエントランスの真ん中にあるインターホンを指差す。
最近の高級マンションはこれで中から開けて貰わないと入れない。押し売りや不審者を入れない為だろいが……部長の話しを思いだす。
『彼女、腕は確かなんだが……気難しくて有名なんだ。オートマキナの大会で好成績を残した人物で神倉と同学年だと思う』
と言っていた。果して会ってくれるかどうか怪しいのだ。
どう出るかを考えていると神機楼が呼び出しブザーを押していた。
「ちょ! まだ心の準備が!」
なんてやり取りをしている内にインターホンから若い女の声がする。甲高くてとてもメカニックとは思えないが……
「なに?」
「えーっと、あの釜山さんの紹介で来たんですけどロボットのメンテナンスとかお願いに来たんですが……」
暫く無言が続くが突然に耳にキンキンくる声で返答が来た!
「私は人に会いたくないの! 帰って!!」ガッチャと多分受話器をたたき付けたであろうと言う音と共に通話が終わった。
「無礼な奴ですね……」
「…………そういえば羽黒ってうちのクラスだ。入学式でも顔を見たことないけど」
「ヒキコモリですね」
確かにそうだが、容赦がない。
基本的に蜃気楼は他人には懐かないらしい。
「仕方ない帰ろうか」
「はい」
羽黒文の甲高い声は頭が痛かったが神機楼の低めの声は安心出来る。いずれは必要になるだろうが今すぐに必要と言う訳でもない。安心できる人物を探すとしよう。
いざとなれば田中さんに頼る事も出来る。まぁ、迷惑になるのでこれは最終手段だ。
「お帰り八雲。シンちゃん」
「ただいま」
「ただいま帰りました。奥様」
母さんは神機楼を気に入っているので料理なんかをよく教えているが神機楼はお手伝いロボの分類(一応)なのに家事の能力が完全に死んでいる。
それでも楽しそうにしているが。
「今日はね~エビフライなの。手伝って」
おぉ! 神機楼が露骨に戸惑っている。
「あ、あの奥様。私が手伝うとお皿を割ったり料理を消し炭にしたりするので手伝わない方が……」
母さんは相変わらずニコニコを崩さない。
「大丈夫よ~失敗してみんな上手くなるんだから~それにシンちゃんメイド服じゃないの~」
「それは、そうなんですが」
結局、神機楼は料理を手伝わされていた。皿が割れる音やとても料理とは思えない火の手が上がったとしても俺は気にしない。
お手伝いロボは寝る事が出来る。
生き物の睡眠とは違って電脳の情報整理の為ボディの機能を切っているだけなのだが、実は夢の様な物を見ていると言う研究結果もある。ロボットの電脳、特にお手伝いロボは人とのコミュニケーションの為、複雑で人と同格の人格形成も可能と言われている。
神機楼が現在寝ているので俺は自室でトピカのデータを見ていた。
トピカの能力は推察通りレーダー機能であったがそのレーダー能力は破格と言っていい。予測だと最大時には日本ぐらいなら隅々まで把握出来るぐらいだ。しかしトピカ自体の電脳はハイスペックだが飽くまでお手伝いロボの域はでない。つまりは全力が使えないのだ。
「なんであんな不完全なんだろ?」
それとMP-003と自ら名乗った事について。
最近解析できた神機楼のデータにはMP-000となっていた。
この事は神機楼にも伝えてない。
「神機楼もトピカもばぁちゃんが作ったものだ。でも何の為に?」
トピカは神機楼をレプリカだと言って襲い掛かって来たが神機楼には同じ型式がついている以上何かしらの共通点があるハズ。
「まだ、分からない事だらけだ。でもオートマキナの大会は少し楽しみだな」
部長はパーツ等を無償で供給してくれると約束したので金銭面で心配事がないので気楽だ。
ともかく、第一回戦が数日後に迫っていた。