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第三話 豪雨

 学校帰りにそのまま研究所に来ていた。

 戦える機体がある、と言うのはもちろん神機楼の事だ。

 ここ暫く彼女と一緒にいて気が付く、それは彼女は普通のお手伝いロボの原則に縛られていない。

 それと重要なのは多分戦闘用だと言う事。なぜ、戦闘に不向きなお手伝いロボをベースに選んだのかは分からないが……。

 そして恐らくこれはばぁちゃんが作った物だ。

 だから先程は少しキレてしまった訳だが。

「うーん、イカンな、イカン」

 つい尊敬するばぁちゃんを侮辱され、ジェット機並に頭に血が上った。

 受付のメイドロボに用件を伝えて中に入る。

 そう言えば彼女もどこの会社の製品なのか謎なのだ。

 だがこの研究所には試作品を持って来てテストを頼む一般会社も多い。なので彼女もその中の一機だと思う。

 今日は零開発室には行かず、外部武装開発室と書かれた部屋に行く。

 ここはオプションパーツを作っている所なのだが、ただ機械兵士の武器などは許可を取った企業なら機械兵士の武装が開発できる為、ここの普段の業務はパーツの威力やデータを取りだ。

「カノンさん」

「んーー」

 真っ黒な部屋に大量のモニターがありそらがせわしなく動いている。

 そのモニターの前に立っている人物が責任者だ。

「ちょっと、武器を作って貰えませんか?」

 カノンさんは緩慢な動きでこっちに来て顔を相手の息がかかるぐらいに近づく。

 視界を完全に閉ざす前髪のせいでよく前が見えないからだ。

「…………武器?」

 極み付けはボソボソと喋る。

 動きといい喋り方といいラノベにでも出てくる魔女のようだ。

 こんな感じの人が外部武装開発室の室長織部カノンだった。

「ーーと言う訳なんですよ」

 ロボ部と勝負する為に武器が必要な事を話した。

「…………なるほど。彼女を戦わせるのかい?」

 ガクガクと動きが非常に不安定だ。

 そんな不安定な動きで神機楼の回りをグルグルメリーゴーランドよろしく回る。

「……なら、真鉄社製の大剣があるよ。それを強化、特殊加工した物を作ってあげる」

 カノンさんはどこか楽しそうだ。

 普段は退屈だとぼやいているのでちょうどいい退屈凌ぎなのかも知れない。

「お願いします。何時間位で出来ます?」

 指で3を作る。

 多分3時間と言う事だろう。

 神機楼は作業をするカノンさんをじっと見ていた。

 時間に空きが出来たので零研究室で時間をつぶす事にした。

 研究室のドアは音も無く開き中に入る……その後で物凄い音。

 神機楼がドアに頭をぶつけていた。

「大丈夫か?」

 痛いらしく額を抑えながらぶつかったドアを見つめる事、数秒。

「……大丈夫です」

 俺はPCを起動したものの、3時間では中途半端になるだろうと思い、ただモニターを見ている。今表示されているのは神機楼の事だ。

 分かった事は少ないが彼女だけが可能であろう機能が表示されている。

 その神機楼は研究室の中を見て回っている。

「この研究室は見覚えあるか?」

「ない、と思います」

 ない、と言っているが多分記憶がないだけだと思う。

 なぜなら神機楼にはばぁちゃんの良く使うプログラムやシステムで構成されており、ばぁちゃんが作った物だろうと言う事がわかり、必然的にこの研究室で作ったであろう事が想像できる。

 なぜ、戦闘に不向きなお手伝いロボを素体にしたかは分からないが……

「なぁ、お前俺の事どう思ってる?」

 小首を傾げる神機楼。

「ご主人様です。そして私の存在意義は若に使える事です」

「でもさ、俺がマスター登録者だと言っても、お前なら普通にそんな物無視出来そうだがな」

 雑談のつもりだったのだが神機楼は珍しく怒っていた。

「そんな事はしません!!」

 ビックリした。

「私が……貴方がマスターであったらいいなと思うからこそマスター登録出来た……だと思います」

 感情を出して講義する神機楼を珍しく思いながらも自分でマスターを選べるとは……やはり彼女は普通のお手伝いロボとは違う事を改めて感じた。






「……出来た」

 台の上に置かれていのは片刃の大剣だ。

 元々は両刃なのだが軽量化の為に片方は落としたのかも知れない。

「……既製品より軽くて、固くて、切れ味抜群」

「おぉ!」

 俺が感心して見ていると神機楼がその大剣をヒョイと持ち上げる。

「見事な剣です」

 どうやらお手伝いロボにも分かるらしい。

「…………当然の結果」

 カノンさんも満足げだ。

「えぇ、とお代なんですけど……」

「……いらないよ」

 助かったー。実はオプションパーツも結構な値段がするのだ。

 帰り際にカノンさんが、

「……決闘頑張って。八雲君」

「まぁ、俺が戦う訳じゃないですけど」

「……いや、頑張って」

 あの人が意味のない事を言うとは珍しいなと思った。





 決闘当日。

「うわ、マジで来たのかよ」

 ロボット部、部長は最初に会った時と同様のウザさで出迎えてくれた。

 ここは学校の中のサッカーのフィールドに似たオートマキナ専用のバトルフィールドだ。何故校内にこんな物があるかと言うと金髪が寄付と言う形で学校でもオートマキナの練習が出来る様に整備したと雄太が言っていた。

 ご苦労な事だと思う。

 奴にはこれから更に苦労をしょい込んでもらうとしよう。

「若、悪い顔をしていますよ」

「まぁな! 奴には屈辱を嫌と言う程味わって貰うからな」

 普段通りの表情の読みにくい神機楼はこれから戦うと言うのに涼しい顔だ。

 まぁ、ロボなので緊張とかはないのだろうけど。

 金曜がこちらに来る。

「で、戦わせる機体は?」

「あぁ……コイツだ」

 俺は隣の神機楼を指差す。

「……はぁ、オイお前頭大丈夫かよ?」

 こっちは至って真面目なので首を縦に振る。

「オイオイ、瞬殺だな」

 明らかにこちらを舐めてるな。

「ルールはサドンデス。機能停止判定が出たら終了だ」

 オートマキナにはいくつかルールがあって、サドンデスは一番簡単なルールになる。

 あらかじめ、両者に設定されたHPをゼロにする事で勝敗を決するが頭部と胴体部を激しく損傷すると一気にHPがゼロになる事もある。

 スマートフォンやパソコンにロボットの状態などの情報が標準される様になっている。

 オートマキナは基本的に機体の状態をみながらプログラムを換えたりしながら戦うのだ。

「なぁ、マジで神機楼ちゃんを戦わせるのか?」

 隣に居た雄太がバトルフィールドに立っている神機楼を見て心配そうな顔をしている。

「大丈夫だ。まぁ、見てろ」

 神機楼は他のロボットにはない固有空間と言う物がある事が分かっている。

 今回は剣のみだが場合によっては様々な武器を収納して置ける。

 相手の機械兵士は剣が主武器の様だが、背中に銃をマウントしているので遠距離戦も出来ると思われる。

「くくっ、丸腰じゃねーか。今更待ったを言っても遅いけどな。始めるぜ」

 神機楼はメイドロボの標準装備、メイド服の腰辺りから剣を引き抜く。ただしそこには何もない。何もない空間から剣が徐々に姿を現す。

「! 何だよ。どっから剣なんて出したんだよ!」

 向こうは相当驚いたみたいだ。

 金髪ロボ部長が叫んでいる間に試合開始のブザーがなる。

「くっ、瞬殺しろ! マクス!!」

 命令と共にいきなり突っ込んでくる機械兵士。

「うわっ! 高機動型だぞ。八雲」

(高起動型か……)

 高機動型とは装甲を薄くしてエネルギーをスラスターに多く振り分ける事で高速で動ける機械兵士だ。しかし、元々重鈍な為あくまで機械兵士にしては速い方というところだ。

「神機楼! いけるか?」

「問題ありませんね」

 機械兵士が一気に神機楼に近づいて交差する。

 鈍い音が響き、機械兵士の左腕が落ちる。

「おぉ! スゲー。流石が神機楼ちゃんだぜ!」

「クソが! クソが!!フザケンなんよ!!」

 正に怒り心頭と言った言葉が良く似合う。

「マクス、銃を使え。そいつは接近戦しか出来ねぇ!」

(まぁ、普通は気が付くわな)

 相手の銃はマシンガンタイプらしく、小口径の弾をばらまいている。神機楼も近づけない様で大剣を盾にしたり走って回避したりしている。

「? 何だ?」

 神機楼の様子が先程からおかしいのだ。

 何故か相手に対して左に入られると回避が遅れて大剣で防いでいる形をとっている。

 スマートフォンで神機楼の状態をチェックするが異常は見られない。

「ち、スマホではこれ以上は無理か……」

 鞄からノートPCを取り出し、更に詳しく調べる。

「あ……」

 左目のアイカメラは異常はないが電脳のプログラムが破損している事が分かった。

 見えているのに反応が遅れるだ。

 直ぐにプログラムの修復を開始する。

「くっ……」

「Uiii」

「ハハハッ、手も足も出ねぇなぁ!? マクス、そのまま畳んじまえ!」

 少しずつ追い詰められる神機楼。

(後少し……)

「危ない! 神機楼ちゃん!!」

(!)

 パソコンから目を離すと機械兵士が反応が遅れた神機楼にタックルを食らわせようとしていた。

「上へ跳べ!」

「馬鹿が! 上へ跳んだところを狙い撃ちだ!」

 上空にジャンプした神機楼に狙いを定める機械兵士

「よし。もう大丈夫だ。神機楼!」

「!!」

空中で弾丸を切り落とすと着地と同時に一瞬で機械兵士の前まで移動する。

そしてそのまま--

「なっ……」

 頭部センサーを跳ね飛ばす。



 呆気ない終わりに茫然となっていたので謝罪は後日にする事にした。

「先程はありがとうございました。若」

「なんで左の反応が悪い事を言わなかっんだ?」

 神機楼はすまなそうに、

「若のお手を煩わせのも気が引けたのです」

「ハァ、そんな気遣いはいらいつーの。普段俺はお前をこき使うんだからお前は体の調子が悪いとかは遠慮せずに言っていいんだよ」

「ありがとう、ございます」

 珍しく、満面の笑みの神機楼が印象に残った。

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