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第一話 蜃気楼

ロボットの技術は革新的に飛躍し、町には様々なロボット達が働いていた。




 今は氷河期である。と言いたくなる様な寒さだ。室内だと言うのに寝るとそのまま死ぬんじゃないかと思う……実際に氷河期は知らんが。

「なぁ、八雲。アーステクノロジー社が新しいお手伝いロボ出す見たいだぜ」

 隣の友人は寒さを感じないのか携帯を見てはしゃいでいる。

 お手伝いロボットは名前の通り人間の生活を助けるロボットだ。

「あそこの会社は高いだろ。後、熱抜けが悪い」

 雄太は携帯を渡して見せてくれる。そこには人と全く変わらないロボットが写し出されている。

 人との区別は耳のアンテナぐらいだろう。

「やっぱり、メイドロボが欲しいぜ!」

「買えよ……」

 途端に肩を落としてため息をつく。

「高級車二台分をか?」

 新品のお手伝いロボの大体の相場だ。

「新品の場合だろ。中古はもっと安い」

「でもなー古い機体は電脳が弱いから単調なんだよな」

 そこでわざとらしく俺の方を向くと「なぁ、お前はプログラムとか得意だろ? 今風に感情豊かになるようにしてくれよ」

 結構長い付き合いなので、話しの流れからこうくる事を予想していた俺は用意していた答を返してやる。

「無理。いくらプログラムを直したって電脳その物の容量が小さいからどうにもならん」

「そうそういい話しはないか。」

「無駄話はそこまでだ神倉。神倉八雲。最近の世界の目立った事答えよ」

 復習に授業時間をかなり割く事で有名な現代社会担当教師は、あろう事か俺を指名して着た。

 面倒だと思いながらも答えない訳にも行かず大人しく答える。

「はい。まずはロボット技術の発達が目覚ましい事だと思います。特に戦争などは死者がぐっと減りました。これは機械兵士が前線に出てくれるからです」

「その通りです」

 俺の説明に満足したのか現社教師は次の獲物の選定に入ったようだ。

 次に呼ばれた奴は結構頭がよかった奴だ。名前は忘れた。

「機械兵士は現代の兵器としてイメージする物だ。では我々の生活面において関係の深いロボットは?」

「えーと。お手伝いロボットです。最近は男女共に結婚後も互いの仕事がある為、出生率が下がっていましたが、お手伝いロボットは高価ながらも人と同じ様に作られているので子供の世話、家の家事全てを変わってくれるので子供などを母親に変わって見てくれるので子供の増加に貢献しているので多いに現代社会の生活面に役に立っていると思います」

 まだ満足げなところを見ると満点に近いらしい。

「見事ですね。よく勉強しています。次は森雄太」

 雄太はマジで! と目で訴えている。

「そのお手伝いロボットの大まかな種類は?」

「あー。メイドロボットと執事ロボット?」

 今度は不満らしい。明らかに眉間に縦皺が寄った。

「それは俗称だろうが! 全く……なら型番は分かるか? 専門的なものじゃなくあくまで一般常識だ。」

 分からないのか汗がダラダラだ。

 前の席なのでカンペを渡してやる。

「あ……! えっとお手伝いロボットの

support(助ける)、女性型が「woman」、男性型が「gent」でSwとSg、です」

「まぁ、常識ですね。他にも人型に限らず様々なタイプのロボットが世界には溢れています。この帝國もロボットの技術の高さが世界でも有名ですね。さて今日の授業はここまでとします。テストにも出すので覚えておくように」

 ホッとして席に座る雄太。





 なんて、学校とは面倒なのだろうか。

 そんな面倒な学校に拘束される一日が終わる。

「八雲、またあそこか?」

 終業のチャイムがなり雄太が寄ってくる。

「まぁな。ライフワークみたいな物さ。授業は興味ないから辛いけど、好きな事は何時間でも大丈夫だ」

「八雲らしいな。ま、頑張れよ」

 雄太と別れて開発室に移動した。




 町には本当に色々なロボットがいる。

 一見ただのゴミ箱だがあれは自分でゴミを分解して土にリサイクル可能な物は新しい物へと作り変えるロボットだ。

 それ以外にも人型から動物型、円盤の様な物まで様々だ。




「メイトロボ?」

 空き店舗を眺めて立ち止まっているメイトロボが目に入る。

 恐らく、彼女の中で矛盾が生じてしまっているのだろう。

 お手伝いロボットは命じられた命令が遂行不可能な場合にフリーズするのだ。

「どうした?」

「! ……?」

 システムの処理が悪くなっているらしく声が出てない。

 メイドロボに紙とペンを渡す。

 それを見てから意図を察したらしくなにかを紙に書き込み始めた。

「なになに。えーとこの場所に在ったハズの八百屋がありません。情報が不足しています、か」

 本来は購入した会社のサポートが取りにきたりするのだが、見かけた以上はしょうがない。

 携帯でその八百屋を検索するが案の定、データではここの土地のままだった。

 お手伝いロボネットは衛星から情報を拾うが最近越したばかりで更新がまだなのだろう。

 幸い俺はその場所を知っていたので簡単な地図と口頭で教えてやると、メイドロボはペコペコ何度も頭を下げて八百屋を目指して行った。

「やれやれ」





 町外れには大きな研究所がある。

 周囲を監視カメラ等の諸々のセキュリティが目を光らす。

 プレートには帝國技術開発室とある。

 この研究所は機械兵士の研究や開発を行っている軍事施設だ。

 証明玄関でIDカードや指紋認証など面倒な手順を踏んで中に入る。

「こんにちは。八雲さん」

 受け付けから声をかけられる。

「どーも……田中さんは?」

 地面に付きそうな黒髪を下の方で束ねている美女。だが人とは決定的に違うところがある。耳だ。お手伝いロボットの特長であるイヤーアンテナ。

 彼女はこの研究所の案内役だ。

「……現在は故障究明の為に第五研究室にいます」

 田中さんとは研究所の社長だ。

 一介の高校生である俺が軍の研究所に入れるのは田中さんのおかげだ。

「なら、ばぁちゃんの研究室にいるって言っておいて」

「了解」

 最低限の返答で了承を伝える。彼女は新しい機体ではないので感情回路はまだ乏しい。




 第零研究室とドアの横に書かれている。

 俺のばぁちゃんはこの研究所の主任と所長を兼任していた。

 しかし、三年前の戦争に機械兵士の現地データを取りに行き流れ弾に当たり死亡した。

 戦争は死亡率が減っただけで完全に死が無くなった訳ではない。

 死んだ、ばぁちゃんにはやりかけの研究があったらしい。

 家族の中でロボットが好きなのは俺とばぁちゃんだけだったので俺は、ばぁちゃんの研究を引き継ぎたいと部下であった田中さんに頼み込んだのだ。

 本来なら軍の機密にあたる研究を一般人である俺に任せられない所たが俺にはばぁちゃん譲りのプログラミングの才能が在った為、田中さんの助手という形で任せて貰っている。

 まぁ、ハード面は凡才な訳だが。

「よーし。今日もやるか!」

 残された研究データは暗号化等で分散化されていて、それを解析するのが今の日課だ。



 ディスプレイキーボードを叩き続ける音だけが響く。

 三時間はやっているが進歩があったかは怪しい。

「…………」

 ドアの開く微かな音がする。

「やぁ、進んでるかい?」

 現れたのは町を歩けば必ず見かけるくたびれたサラリーマン。

 ……ちょっと失礼かも知れない。

 まぁ、頭の薄さを気にしだした、四十代後半のオッサンだ。

 彼がここの所長、田中三郎である。

「う~ん。全然ですね。難解すぎてサッパリ」

「やっぱり出雲主任は天才だなぁ。君も天才だと思うけどまだまだだね」

 出雲と言うのは、ばぁちゃんの名前だ。

「当たり前です。ばぁちゃんには程遠いですよ」

「ところで第五で何やってるんですか? 故障究明って聞きましたけど?」

「う~ん。なんか機械兵士のCPUの調子が悪いみたいで今、職員で原因を調査中だよ」

 やれやれと肩を竦める所を見ると究明にはまだ時間があるようだ。

「おっと! 話し過ぎてしまったね。何時も通り研究所は9時で閉めからそれまでには外に出ておくんだよ」

 じゃあと片手を上げて田中さんは去っていった。

 再び静寂の中で作業を続ける。



 けたたましいアラートが静寂を破った。

「!! なんだ!?」

 何が起きたのかを確認してようと慌ててロビーに出かけたところで電話が掛かってきた。

「もしもし! 八雲君かい?」

「は、はい!」

 普段の怠い感じではなく真剣な声色だ。

「実はさっき話していた機械兵士が逃げ出しててね。研究所の中からは出られない様にしたんだ。だから危ないから捕まえるまで研究室から出ちゃダメだよ。じゃあ」

 用件だけを言うと切ってしまった。

「……ふむ」

 ちょうど休憩をしようと思っていた所にこの事件。

 俺は休憩がてらに研究所の監視カメラにアクセスして研究室のメイン空中投影モニターに表示する。

 かなりの数が表示される中、つや消しの黒いボディを持つ、無骨な鎧が歩いているのが表示されている所がある。

 中世の鎧騎士みたいだが、中に人は入っていない。

「これか」

 この無骨な鎧が機械兵士である。

 ただ目的もなくうろついているだけみたいだ。

「! マズイ」

 奴が入って行っていった場所は研究データの入ったサーバー室だ。

 慌て駆けだす。





 サーバー室では今まさに機械群に腕を振り落としそうなところだった。

「おい! 止めろ!!」

 備え付けの消化器をぶっ放す。

 機械兵士は寒冷地仕様でない限りは頭部が凍結に弱い。

 機械兵士がこちらを向く。

「え!?」

 どうやら寒冷地仕様らしい。

「って冷静に分析してる場合じゃない!!」

 明確なターゲットがなかったので建物を破壊していていたが人が現れ攻撃してきた為、ターゲットを変更したと言う事だろう。

「Giii……」

「ヤバッ!」

 機械兵士はその装甲の厚さから動きが鈍い。

 廊下に出て走る。

 映像で見た時の見た目から武装は取り除いていたと思ってが腕が下に折れ、中から姿を現したのは小型ミサイルだ。

「ッッ! うぁ!!」

 ミサイルは俺には当たらず突き当たりの壁に当たる。

 凄まじい音と共に砂塵が舞う。

「ゲホッ、ゲホッ。くそ」

 煙りが晴れると前が塞がっている。

 ミサイルで壁が壊れたのだ。

 重い音と共に後ろから機械兵士が近付いて来るのが分かる。

 もう武装が残っていないだろうが普通の打撃でも人間には致命傷だ。

「マズイな」

 慌てて近くの部屋に飛び込む。

 ドアにロックを掛けるが長くは持たないだろう。

 実際ドアが軋みを上げている。

 多分、向こうで殴り付けているのだろう。

「携帯は……」

 さっきの爆発の際に落としたらしかった。

 ドアが破壊される前に田中さん達が来てくれればいいが残念ながらドアがご臨終する方が先らしい。

「本当にマズイぞ」

 何か武器か別のドアがないかを探すが、部屋が暗いので分からない。

「電気はどこだ?」

 手探りで探し、スイッチらしき物を発見し、押す。

「ここは……物置きか」

 辺りにはガラクタが散乱している。

 物を避けて奥へ進むと半透明の筒があった。

 お手伝いロボをメンテナンスする際に使う機械だ。見た目はさながら機械的な棺桶と言ったところだ。

 透明パーツの埃を掃うと中に入っていたのは息を呑む程の美女だった。

 メンテナンスツールに入っているのでお手伝いロボだろうがそれを忘れる程に美人だった。

 有名な造形師が作ったのだろう。

「だけど……どこの会社の製品だろう? これだけの物なら見覚えがあると思うんだけど」

 再び派手な音を立ててドアがひしゃげる。

 忘れていたが今は絶賛ピンチだったのだ。

「お手伝い用だってロボットなら少しは時間が稼げるかも」

 早速、メンテナンスツールのコンソールを操作する。

「えぇ!?」

 なんと、起動プログラムにロックが掛かっているのだ。

「……! これは」

 ロックの構造が、ばぁちゃんのデータに似通っている。

「これなら、行ける!」

 ロックを解除しマスター登録をして起動を押す。

 メンテナンスツールのフタが上に向かって開き、女性型お手伝いロボットの標準装備のメイド服を着た彼女がゆっくりと起き上がる。

 そして深紅の瞳をけだるげに開けた。

「ここは……博士? 」

「え? 何?」

 漆黒の長い髪をアップにした頭を振って彼女はこちらに顔を向ける。

「いえ、何でもありません」

 体を起こして立ち上がった彼女は背が高い。旧式たがらかも知れない。

「君にこんな事を頼むのはお門違いだと思うけど、今からここに機械兵士が入ってくる。そいつと戦ってくれない?」

 彼女は一瞬驚いたかに見えが直ぐに無表情に戻る。

「マスターのご命令なら……私の名前は神機楼です。若、どうぞ、ご命令を」

 彼女の言葉が終わると共に凄まじい爆音と一緒にドアが吹っ飛ん来る。

「ありがと。行け! 神機楼!!」

「ミッションスタート!!」

 勢いよく跳び出す神機楼。

 流石にお手伝いロボだけあって俊敏だ。

 機械兵士もターゲットを俺から神機楼に替えたらしい。

 倒せるなんて思ってない。適当に動いて、隙が出来たら逃げよう。

 神機楼に向かって機械兵士が横に殴りつける。

 何と彼女はそれを腕を立てにして受け止めた。

「嘘、だろ?」

 受けて動きを止めたと思ったらそのまま足払いを仕掛ける。

「ダメだ! 寒冷地仕様は足が頑丈なんだ!!」

 二足歩行の機械兵士は自重が重いので足回りは特に頑丈に作ってある。

 当然、足払いなんて物は効かない……しかし次に起こったのは機械兵士が倒れるところだった。

 お手伝いロボは人の家事等を手伝いのが仕事だ。

 断じて機械兵士と戦うなんて芸当は出来ない。

「彼女は一体……」

 機械兵士は元々壊れていたのか倒れると動かなくなった。

 神機楼はそれを無表情に見下ろしていたが「ミッションコンプリート!」の言葉と共にこちらに向かって無表情ながら、どや顔? をするのだった。




 後は大変だった。

 田中さんを初め研究所の人間が物置に駆け付けたのだ。

 動かなくなった機械兵士を見てどうやったのかを聞かれ、彼女が、と神機楼を指指すとみんなそんな馬鹿な、と信用されなかった。

 田中さんだけが神機楼を見て顔色を変えた様に見えたが直ぐに何時も笑顔に戻ったので俺の気のせいだったと思う。

 結局、神機楼は俺の所有物となった。

「せっかく、マスター登録したんだし彼女は君が使いなよ。どーせ、物置に眠ったままだったんだしさ」

 と田中さんが言うので神機楼は俺のお手伝いロボとなった。

 俺自身も彼女には凄く興味がある。

 神機楼は全てにおいてイレギュラーだ。

 ばぁちゃんの研究と併用して彼女の事も調べてみたくなったのだ。

「? 何ですか若」

 ずっと見ていたのを気がつかれたらしい。

「いや、帰ろう」

 神機楼は首を縦に振る事で同意を示した。


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