硝子のかお
日常のすぐ隣にある狂気と、静かに浸食してくる恐怖。
本書は、読む者の現実を少しずつ歪ませる、奇妙で不条理な怪異の記録である。
ページをめくる指が、まだ温かいうちに。
その古本屋の隅で見つけた奇妙な小説の題名は、『ガラスの顔』だった。
ページをめくるたび、本の中に奇妙な感覚が吸い込まれていく。物語の主人公は、自分の顔がガラスでできているという妄想に取り憑かれた男。男の皮膚が徐々に硬質化し、冷たくなっていく描写があまりにもリアルで、私は思わず自分の頬に触れた。指先に伝わる感覚が、なぜかひどく冷ややかで、感覚が鈍い。
物語が終盤に差し掛かったその時、文字が歪み、不気味な一行が目に飛び込んできた。
『そして、そのガラスにひびが入る――』
パキィン!
静まり返った部屋に、鋭く高い破砕音が響き渡った。
「あ、本を落とした拍子に、窓ガラスでも割れたのかな?」
そう思って視線を上げた瞬間、視界が不自然にいくつもの破片へと歪み、床に向かってボロボロと崩れ落ちていった。激痛はなかった。ただ、目の前に広がっていたのは、粉々に砕け散った私自身の皮膚と、肉のない空洞だった。
あの日、日常のすぐ隣にある狂気の扉を開けてしまった時から、私の現実も少しずつ歪み始めていたのかもしれません。
本書に収めた奇妙で不条理な怪異の記録は、すべてあなたのすぐ隣にも潜んでいるものです。静かに浸食してくる恐怖に、あなたは最後まで耐えられたでしょうか。
どうか、ページをめくるあなたの指が、まだ温かいうちに、無事こちら側の世界へ戻ってこられることを願っています。
――著者




