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第九十八話

「第九十八話」


「お客様が立ち上がりました。これに盛大な拍手を!」

「かはっ………はぁ……はぁ……舐めやがって………。」

「では、第二劇と行きましょうか。開幕いたしましょう!」


 ソーンは俺の姿のまま走ってくる。


『白紙』


 地面に溜まった血を剣で拭い、体へと押し付ける。

 もう、どこに当たったのか感覚すらない。


 一歩踏み出すだけで血が噴き出てくる。


 激痛に耐えながら、走る。

 転びそうなほどにふらふらとする。


 剣がぶつかる。

 単純な力比べ。

 衝突した時間は一秒もないだろう。しかし、それは俺が押し負けるのに十分な時間だった。

 後ろへと後退する。絡まりそうな足運びで。


 ソーンは攻撃をやめなかった。

 二撃目、三撃目………次々と剣術が飛んでくる。

 それをギリギリで交わし、躱す。

 次第に体に擦り傷が増えていく。


『白紙』


 さらに体に文字を刻む。

 立っているのも限界な体には耐えられない負荷だった。

 膝が落ちる。そこに、ソーンが上段から攻撃がやってくる。

 剣で受け、跳ね飛ばす。


「ほう……?なるほどですねぇ。その『結界』力の増強と言ったところでしょうか。お客様にはまだまだ余力があると思われる。これでは次のトリックへと行かざるを得ませんね。続いてのトリックです。」


「なっ!?」


 息をする間もなく、壁へと叩きつけられる。

 今までとは比べ物にならない力だった。


「かはっ……!!」


 限界を疾うに超えていた体には耐えられない衝撃だった。

 体の刻印が一つ消える。

 これは致命傷、即死の攻撃だったことを意味していた。


 バァン!


 主任が発砲する。

 ソーンは軽々とそれを避ける。


「お客様。確かに、お客様は利き腕を失っている状態でこの精度の射撃をするとは恐れ入りました。しかし、素の技量がお粗末と言わざるを得ません。お客様には接戦を演出していただきたく存じます。これでは弱い物いじめをしているように見られるではありませんか。私のショーには、ハラハラとした緊張感が必要だと言うのに。」


 壁に埋まった俺を横目にソーンは歩く。


「……はぁ……はぁ……分かったぞ………てめぇの………トリックが………」


 ソーンは歩みを止める。

 振り返ることなく話を聞く。


「感覚の………誤認………錯覚と言った方が良いか………?」

「はぁ。此度のお客様を抜擢したのは間違いだったのかもしれません。ショーの途中でタネ明かしをしてしまうとは。タネ明かしは最期と相場が決まっているのに。はぁ。ガッカリです。」


 ソーンは殺気をまき散らす。

 次の攻撃で最後になるはずだ。


 つぶれそうな声を精一杯に振り絞る。


「かはっ………主任!合わせろ!!」


『白紙』


 体中に刻印を残す。

 数は数えられない。それだけ適当に、乱雑に描いた。


「来ますか。」

「………ラストスパートだ。」


 思い切り踏み出し、壁まで飛ぶ。

 両側の壁を踏み台にして、跳躍する。

 壁伝いに移動し、数回跳躍するだけで、すぐに残像が見えるほどの速度に達した。


「『結界・道化』」


 乗りすぎた遠心力をソーンへ向けてぶつける。

 それは、地面を凹まし相手をバラバラに解体する勢いだった。

 相手は地面へと転がった。


 地面に突き刺さった剣を見る。

 血の付着した、殺人兵器を。


 走ってくる音だけが響く。


「残念ですねぇ!!それは、お客様ですよ!!」


 そうらしい。俺が攻撃を行ってしまったのは、俺の後衛。主任だった。


 ソーンがそこまで近づいてきた。

 剣を振り上げた風の音だけが聞こえる。


「……ああ。知ってたよ。」


 俺の脇の下から銃口を覗かせた。

 それは、静かに。しかし、大げさに音を立てた。


 バァン!


 不意な一撃に驚く暇もなく、ソーンは額を打ち抜かれる。

 走ってきた勢いと銃によって押し出された勢いが相殺し、地面へと倒れた。

 鈍く、救いがない音だけが周囲に広がっていく。


 それを見ることなく、俺もまた地面へと転がった。


 奴の『結界』は感覚の誤認。錯覚を引き起こすことだった。

 だから、主任がソーンに見えたし、あるはずのない腕力を有していた。


「おい。ノア。」

「………な、、、んだ」

「よくやった。」

「………」


 このまま瞼を落としてしまおう。

 視界が暗くなった。



 暖かい空気。

 それは何かが訪れたように体を包んだ。


「起きたみたいだね。」


 まだ、目を開けていないのにその人物が話しかけてきた。

 目を開けなくても分かった。声の正体が。


「エレナか。」

「ご名答。さすがだね。」

「この距離なら誰だって分かるだろ。」

「そうじゃないよ。彼。アラリック・ソーンの話だよ。」

「………」


 体を捻じって、布団に包まる。


「どうしたんだい?そんなに恥ずかしがるようなことじゃないけど。」

「……また、怪我だらけだ。」

「まぁね。でも、驚きはしなかったよ。確かに、ノアは全身穴だらけの上に疲労で息をしているか分からない状態だった。主任君の方は腕がないし、もはや気力だけで立っている状態だったし。満身創痍以外の何でもなかった。でも、彼を倒せるとは、やはりさすがだよ。」

「有名人か?」

「そこそこのね。戦い方が壮大だから有名になるのに時間はいらない。多対一では無敗。誰も彼の『結界』を知らない。だからこそ、私が殺ろうと思ったんだけどね。私も少々手こずってね。間に合わなかった。ごめん。」

「主任は?」

「先ほどまで真剣に帰るかどうか悩んでから寝たよ。寝言がすごくてね、逃げてきた。」


 ここでようやく目を開ける。

 太陽の明かりが目に刺さる。


「お疲れ。ノア。」


 エレナの全身を視界に捉える。

 前回のように、腕が無いみたいなことは起こっていない。

 これで一安心できた。


「ああ。ヘレナ。」


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