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第九十七話

「第九十七話」


「『結界・道化』」


 ソーンの手元に剣と銃が出現する。

 隠していた物を取り出したのではなく、何もないところから出現したのだ。


「さぁ!共に盛り上げましょうか。」

「主任。」

「あ、ああ!」


 主任は銃口をソーンに向け、俺は剣をだらりと下に下げソーンに向かって歩く。

 ソーンもにやにやとしながら歩いてくる。


 お互いが間合いに入った。


「今回のお客様は過激なご様子だ。」

『白紙』


 剣に力を込める。

 俺が今放てる最速の抜刀。首を狙い一撃で決めようとした。


「では、最初のトリックです。」


 剣は空ぶった。

 あの至近距離で外すはずがないのに。


「なっ!?」


 呆気にとられ、一瞬だけ気を抜いてしまった。


 バァン!


 発砲音で我に返ることができた。


「おい!ノア!大丈夫か!?」


 主任が発砲したようだ。

 しかし、痛みがあるのは俺だった。

 正面から発せられた弾丸は俺の脇腹を貫通する。


「かはっ………」


 貫通した穴からは血が溢れ、口からも血が流れ出る。

 正面をゆっくりと見る。


「次のトリックです。」


 主任だ。間違いなく主任が居る。

 後ろにも視線を送ると、これまた阿保面の主任が立っている。


「………なるほどな。」


 変装。厳密には違うのだろうが、この一瞬では『結界』の内容を暴くことができない。


「お、俺が居るぞ………。」

「いやいや、俺こそが本物だ。」


 一方は余裕がなく、一方には余裕がある。

 この差だけで、どちらが本物か分かる。


 余裕のある方へと向き、突進する。


「単純すぎたかな?」


 ニヤリと笑った主任を叩き切る。

 右腕を切り落とし、首目掛けて剣を振る。


「やめろ!ノア!俺だ!!!」


 首元に届いた剣を咄嗟に止める。


「は……?」


 その真剣な顔を見ると、確信が持てなくなった。


 バァン!


 後ろから弾丸が飛んできて、左肩を貫いた。


「っ!?」

「味方同士で戦ってしまうとは盛り上げ上手なお客様だ。」


 不吉な笑みを浮かべ、銃口をこちらに向けた主任が立っていた。

 間違った……?

 俺が斬った方の主任を見ると、あまりの痛みに悶絶していた。

 無くなった右腕を力いっぱい抱きしめ、出てくる血をふさごうと必死だった。


「っ………っ!!!………はぁ………っ!!」

「主任………?」

「はぁ………はぁ………はぁ………」


 慣れていない痛みを噛みしめるように呼吸を行っている。

 もう、周囲の言葉が聞こえないほどに痛みだけに集中していた。


 バァン!


 さらに飛んできた弾丸は俺の右太ももを貫いた。

 力が抜け、膝をついてしまう。


「残念でなりません。ご協力いただいたお客様はもう限界のようだ。今夜のショーは短くなりそうです。」


 睨みつけるように後ろを振り返ると、


「なっ!?」


 俺が居た。

 背丈も、声も、剣もすべてが同じ。

 開いた傷も全く同じだ。あふれ出る血の量も。


 カチャリ。


 後ろを向いている内に、正面から銃を構えた音がした。

 恐る恐る正面を向きなおす。


 主任が俺に向かって銃を突き付けている。


「主任………?」

「ノア。後は任せろ。こいつを殺せば………。」

「ま、待て!主任!」


 バァン!


 反射で右に避けたが、弾丸は耳を抉り取った。


「っ!!」


 耳がキーンとなる。

 この距離で銃の発砲音を聞いたんだ。聴覚がイカれてもなんら不思議ではない。

 避けた衝撃を支えきれずに地面へと転がる。


「このッ!!!」

「待て!!主任!!」


 主任と目が合う。

 視線が泳ぎ、まるで薬物でもやっているような目つき。

 正常な視界をしていないだろう。


 バァン!


 一発の発砲。

 それは胸のあたりを切り裂くように侵入して、体の中で暴れた。


 一瞬で理解できた。

 壊れてはいけない器官が壊れたのだと。生命が危うくなるのだと。


 見たことのない血の色。体が危険信号を発している。

 視界が歪む。その場に倒れてしまう。

 だんだんと意識を捕まえられなくなる。ふわふわとした感覚。


「ノア………?」


 主任がようやく正気に戻ったのか………。

 だが、、、


「これで閉幕とは。此度のショーは盛り下がってしまいます。それでは困りますね。ギャラリーが発狂するほどの、嘔吐するほどの、風邪をひくほどの熱狂的なショーでなければならないというのに。やれやれですね。」


 足音がする。

 見えなくなった視界とは裏腹に、耳がよく聞こえる。

 正確な場所まで分かる。


「ノア………ノア!ノア!!」


 体が揺れていることだけ分かる。

 もう体の痛みも引いたのか、主任が元気になっている。いや、ハイにでもなっているのだろう。

 自分の重症加減が分からなくなるほどに。


「しかし、もう一方のお客様は協力的だ。誰もが涙し、共感し、目を逸らしたくなるような悲劇を演じてくれていますね。これはこれは、大変に結構なことです。」


 ある程度近づいてきたソーン。

 その場所は分っていた。


 目も見えないのに立ち上がる。

 激痛の中、気合だけで立ち上がる。


「ノア!?」

「後衛………察しろ…………かはっ………」


 生き物が住み着きそうなほどの水たまり。

 それは、すべて血液でできていた。


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