表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/313

第九十六話

「第九十六話」


「………行くぞ。」


 最もやる気の欠いた主任が小さな声で鼓舞する。

 その声は夜の喧噪の中では、すぐにどこかへ飛んで行ってしまった。


「おい。」

「なんだ。」

「なんだ?なんだとか言ったか?」

「ああ。」

「仮面のアホはどこだ。」

「あいつ別行動だ。」

「………じゃあ、どこへ向かえば良い。」

「知らん。」

「は?」

「知らない。」

「違う。聞こえてる。聞こえてるから聞き直したんだ。そして、理解できないから聞き直す。はぁ!?」


 あの後、エレナは顔を直視できないとか言って窓からどこかへ行ってしまった。

 集合場所を教えてくれなかったので、主任に頼れば良いと思った。

 だが、見当違いだったようだ。二人ともどこへ向かえば良いのか分かってない。


「考えろ。」

「か、考える?何を?」

「エレナの居る場所だ。」

「知るわけないだろ。それに、ノアの方が付き合い長いんだから、ノアが考えた方が良くないか?」

「俺は、前衛だ。考えるのは後衛の仕事だ。」

「え?そ、そうなの?」

「ああ。」


 俺も知らないルールだったが、主任が納得すればなんでもよかった。

 頭を使う作業はやや苦手であるというのもあったが。


「じゃ、じゃあ、そうだな………地図持ってるか?」

「エレナに渡されたやつがある。」

「ちょっと貸してくれ。」


 エレナから貰った地図を主任へと渡す。

 最近は読めるようになってきたが、不安しかないので地図を頼りにする気にはなれなかった。


「そうだなぁ………仮面の奴だったら………エヴァンシールの館とか?」

「なぜそう思った?」

「ヴァルモンド家がエヴァンシール領を狙ってるんだろ?じゃあ、頭を潰すのが手っ取り早い。しかも、仮面はこの期を選んだと言った。それは、近々エヴァンシールが襲われることを指していたんじゃないか?」


 なるほど。理屈にも合っているし、説得力があると思った。


「よし。行くぞ。どこだ?」

「こっちだ。」


 主任が地図を見ながら進む。

 それを後から追う形で歩いて行った。


 夜中と言ってもまだ、人がそこらじゅうに居る。

 賑わっているのは酒屋などだろう。

 家々の明かりは、太陽が沈んだ中では星々のように輝く。一つ一つに暮らしがあり、家族が居り、風景が存在する。


「暑いな……。」


 主任も俺と同様【フロストホロウ】以外の土地を知らないらしかった。

 この土地では似合わない厚手の服をパタパタと仰ぎ、風を体に与えている。


「……あ!」


 角を曲がった時に、ある人物と再会した。

 俺たちを収監した人物。エヴァンシールの軍人だ。

 鍛え抜かれた筋肉に、信じる目。純粋と言う言葉がこれほど似合う人物は居ないだろう。


「さ、」

「……?」

「先ほどは失礼しました!」


 急な謝罪。

 それは、周囲の視線を集めた。

 主任が突然の出来事にあたふたしているので、軍人と主任を連れて路地裏へと隠れた。


「す、すみません。またも、迷惑をおかけして。」

「い、いや、こっちこそ悪かったな。うちの仮面が煽ったりして。」

「とんでもありません。誤認でしたので、謝罪ができてよかったです。」


 爽やかな笑顔。

 自分の過ちを謝罪できる人格者。

 屈強な肉体。

 なるほどイケメンか。


「主任。」


 小さな声で耳打ちする。


「なんだ。」


 主任も俺を真似て小さな声で応対する。


「後ろは任せたぞ。」

「……?あ、ああ?」


 剣を取り出す。


「名乗れ。」

「え?え??え!?」


 軍人は抜き身の剣を見てたじろいでいる。

 いや、軍人の格好をした何かと言った方が適切か。


「墓にはなんて書けばいい。」

「はぁ……めんど。」


 軍人が態度を一変させる。

 目つきも、声も。

 もはや別人である。


「墓にはなんて書けばいいだと?簡単だ、懺悔の言葉を書けばいい。ただし、お前らのだがな。」


 体に張り付けた粘土のようなものがパラパラとはがれていく。

 ただし、完全に素顔が見えるわけじゃない。

 少し、ほんの少しだけ顔の造形だけが浮き彫りになる程度。


「参考までに教えてくれや。なんでわかった。」

「来世では気付けると良いな。自分の欠陥に。」


 答えなんかなかった。

 純粋に雰囲気とでも言うべきものが違っただけだった。

 つまりは勘であった。だから、鎌をかけただけに過ぎない。


「まぁ、良いや。今宵は舞台を行う予定だったからな。ギャラリーが変わっても俺のやることは変わらない。」


 男は大きく息を吸った。

 溜めた空気を吐き出すように叫ぶ。


「さぁ!お集りの皆々様!今宵の出来事に一喜一憂した後と存じます!そこに更なるスパイスはいかがでしょうか!私!アラリック・ソーンがほんの一瞬だけ時間を頂戴し!夜の時間を優雅に飾らせていただきます!」


 およそ路地裏で、二人に向けて発したとは思えない声量だった。

 両手を大きく広げながら、スポットライトを浴びるように。


「ショーというのは!一人では行えません!皆様の力をお借りしたうえで成り立つものにございます!では、今夜のショーではお二人に登壇していただきましょう!」


 俺と主任に手を向けた。


「楽しく、優雅で、残虐な舞台へようこそ。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ