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第九十五話

「第九十五話」


 エヴァンシールが帰ってきた。

 鍵を持って。うんざりそうな顔をして。


「はい、出ろ。」

「助かるよ。」

「黙って行動できんのか。」

「少しくらい良いじゃないか。」

「はぁ………君ら大変だろ。」

「はい。間違いなく。」


 主任がエヴァンシールのセリフに被せる様に言った。

 すでに面接でも受けるような気なのだろう。

 雇用主には肯定しておく。世の常識である。


「証明しろ。」

「ん?何を?」

「まずは君らが本当に有用かどうか証明して見せろ。当然だろ。」

「なるほどね。まぁ良いけど。街に潜伏しているオクトの一掃って感じかな?」

「………」

「了解だよ。行こう、二人とも。」


 エレナが歩き出したので後ろへと続く。

 主任も慌てるように歩いた。エヴァンシールにお辞儀をしてから。


 外は暑かった。

 太陽がお辞儀をしていない、お昼前。それは今まで体感したことのない、外気で汗が噴き出す感覚。


「どうする?」

「まずは情報収集と行くのだろうけど、行く場所は決まってる。」

「どこだ?」

「そんなに焦らなくても大丈夫。昼間は特にやることないから。」

「は?」

「夜にならないと行動できないんだよね。それにお腹空いたでしょ?」

「まぁ、それなりにな。」

「じゃあ、腹ごしらえとでも行こうじゃないか。おすすめのお店があるんだ。」

「よし、行こう。」

「うん。こっちだよ。」


 エレナの案内でとあるお店へと到着する。

 店へと入り、メニューを見た。

 海鮮が多いのか。【フロストホロウ】では滅多に魚介などは食べられなかった。ほとんどが肉であったために、料理の名前を見せられたところで味が想像できない。


「ノアは何にするの?」

「俺は………」

「決められないのなら、決めてあげるよ。」

「……任せた。」

「うん。主任君は?」

「仮面が頼んでくれ。」

「良いよ。」


 エレナは店員を呼び、数点頼んでくれた。

 そして、待ち時間である。


「夜までは一旦休憩かな。寝ておいた方が良いね。」

「ちょっと待て。」


 主任が将来を心配している顔を見せた。

 何が言いたいのか察することは簡単だった。


「俺も行くの?」

「もちろん。と言いたいところだけどね、主任君の戦闘力は皆無だし、居なくても良いのだけど、恐らく今後は協力してもらうことになるだろうから、実戦に慣れる意味で一緒に行こう。」

「ちょ、ちょっと待て。今後は……?」

「うん。少しばかり力を借りることになると思うよ。」

「な、なんで!?」


 主任は身を乗り出して、エレナに問い詰める。


「うちにはノアと言う強力な前衛が居るのに、優秀な後衛が居ないからね。その穴を埋めてもらおうと思って。」

「いやいや、いやいやいやいや!仮面が居るだろ!」

「私が戦闘員になるのは問題ないけど、今後は別行動が増えるだろうし。ノアの戦闘面での相棒が居るかなと思ってね。」

「ちょ、な!?は!?!?」


 主任がこちらを見た。

 鬼の形相である。

 脂汗をまき散らすのはやめて欲しい。


「よろしくな。」

「違う。そうじゃない。こいつを説得してくれ。」

「なぜだ。前も助けてくれたじゃないか。」

「………」

「少なくとも俺より銃の扱いがうまい。後ろは任せたぞ。」


 実際俺も心強い。

 無茶な戦闘方法で怪我が多く、連戦できないことが多かった。

 それを防げるかもしれない。後ろからのバックアップがあった方が立ち回りやすいだろうし。


「………マジかよ。」

「ああ。マジだ。」


 主任は分かりやすく頭を抱えた。

 最近は毎日見る姿勢だ。

 キメポーズの練習中なんだろうか。


 料理が運ばれてくる。

 店員が驚いた顔をしていた。無論主任の顔色のことだろう。


「さぁ、食べようか。」

「ああ。」

「……うん。」


 昼食と呼ぶべきなのか、朝食と呼ぶべきなのか分からない料理を食べ終わり、外へと出る。

 料理は新鮮で、エレナがおすすめするのにも納得できた。


「今日は宿でもとろう。エヴァンシールは寝床を用意していないだろうし。」


 しっかりとした人物に見えたが、意外にもガサツな性格なのか。


「な、なぁ。やっぱり今回は、俺は、休みで良くないか?」

「なんで?」

「いや、その、ほら!帰ったときに部屋が冷たいと寂しいだろ?」

「戦場の方が冷たいから一緒に来て暖めろ。」

「………なんでだ………」


 言い返す言葉を忘れたらしい。

 自分の行動を悔いているのか、恥じているのか。はたまた、情けなく思っているのか分からない。

 ただ、数時間先の自分が銃を握りしめている場面を想像したくないそうだ。

 大変だな。いろいろと。


「うん。ここにしよう。」


 宿で二部屋借りた。


「いや~疲れたね。」

「それにしては楽しそうだな。」


 エレナと俺だけの部屋。

 主任は相変わらず一人になりたいらしい。覚悟を決める時間が欲しいのだろう。

 先ほどようやく諦めた主任は、エレナから手渡された銃を抱きしめて祈るように笑顔を見せた。


「まぁね。ここからが私にとっての本番だからね。」

「もう商人としてのエレナは良いのか?」

「うん。資金は十分だし、純粋に暇つぶしの側面もあったからね。それに、こうして仲間を手に入れることもできたし。」


 エレナは俺に体重を預ける。

 無くなった腕の重さを考えさせられる。


「実は少しホームシックになっていたのかもね。だから、あの『結界』から出るのが怖かった。今も。」

「そうか。そうは見えなかったけどな。」

「まぁね。いつもは仮面をしているし。顔色なんて分からないでしょ?」

「………」


「ヘレナ。」

「………なんで、その名で呼んだの?」


 エレナが俺の方へ顔を近づけた。

 その顔に覆いかぶさった仮面を引きはがすように取った。


「俺は仮面をつけてない方が好きだ。だから、俺の前でくらいは仮面を捨てたらどうだ?」

「………」


 ペルソナと言うらしい。

 人の表面的な人格は作り物で、内面は誰にも見せない。そう、仮面を被ったピエロのように。


 エレナはそれが激しいのだろう。

 レイヴァンやアリセナと話して分かった。

 彼女の見せない顔は、もっと穏やかで、温厚で、内向的なのだろう。

 ただ、それを仮面で隠しておかなければ過去に誓った自分を守れないから攻撃的で、冷酷で、外交的な性格を作り上げるしかなかった。

 仕方なかったってやつだ。誰もが辛い現実に素顔で立ち向かえるわけじゃない。

 彼女の仮面は何よりそれを証明していた。


「………言うようになったね。」

「付き合いが長いからな。」

「そう。」


 エレナは俺をベッドへと突き飛ばし、俺に覆いかぶさってきた。

 そして、無言で顔を近づけ、口を合わせてきた。


 泣きそうな顔と溶けそうな吐息に自分はどうやら酔っぱらってしまったようだった。


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