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第九十一話

「第九十一話」


「はいは~い。ご飯にしましょ。」


 台所から出てきたアリセナが歩いてきた。

 料理を持って。


「レイヴァン。手伝ってくれる?」

「すまない。任せきりで。」

「良いのよ。賑やかなのは好きだから。こういうのも久しぶりだしね。」

「助かる。」


 レイヴァンとアリセナが机に料理を並べる。

 その料理は誰もが喜ぶようなガッツリとしたものではなく、病人や怪我人を労わった優しいものだった。


 レイヴァンとアリセナが楽しそうに会話しているところを見ると、自分の両親について思い出す。

 二人も今頃はこんな話をしていたのだろうか。

 この状況は自分が奪った命の重みを再認識する贖罪とでも言うのだろうか。

 どこかむずがゆい。


「さぁ!召し上がれ!」


 アリセナが作ってくれた料理を口へと運ぶ。

 優しい味付け故に、食べた瞬間に体が吸収していくのが分かる。昨日の夜は何も食べなかった為に、空腹だったのだ。


 エレナは慣れない左手のみを器用に使って食事をしている。

 夢でも見ているかのような儚い視線だった。


 食事を食べ終えるとエレナは話があると言って俺を部屋へと呼んだ。

 部屋へ到着すると主任がすでに居座っていた。


「どうした主任。」

「隣の天使に聞け。」

「……?」

「いやぁ、父さんがね、店を続ける理由が無くなったって言うからさ、主任君に新しい仕事をあげようと思って。」

「な?笑えるだろ?」

「ああ。そうだな。」


 そういう主任の目はまったく面白みに欠けていた。

 真顔である。それもかなり真剣な。

 包帯で動きずらさそうな体を椅子へと預けている。立っていられないのだろう。


「主任君には引き続き運転手を任せようかな。」

「ああ。断りたい。」

「うん。無理だね。」

「……はぁ。」

「君はオクトの幹部を殺したわけだし、今更転職活動に励んだところで無駄だと思うよ。」

「別に誰にも見られてないだろ。」

「さぁ?どうかな。」


 エレナの最も得意な話術である。

 相手に選択肢を与えず、自分にとって都合のいいように相手を納得させる。


「……分かった。でも、約束しろ。」

「何をだい?」

「見捨てるな。治療しろ。尊重してくれ。」

「もちろん。今度はもっと元気の出る言葉にするよ。」

「……ノア。」

「なんだ?」

「仲良くしような。」

「ああ。」


 主任はエレナを諦めたらしい。

 これ以上話しても苛立つだけと確信したらしいのだ。


「これから【ニクスポート】を移動して、エヴァンシールに会いに行く。」

「いよいよか。」

「うん。五家の内で最弱の家系だけど私たちが今、最も適している家系だよ。ここでの交渉がうまくいけばかなりの額が稼げるようになるよ。それはもう想像もできないほどのね。」

「待て。」

「なんだい?主任君。あまり話を遮られるのは好きじゃないんだけれど。」

「何当然みたいな顔でとんでもねぇ話を進めてんだ?」

「大丈夫。エヴァンシールとは知り合いだからさ。」

「は?」

「昔世話になったことがあってね。だから、ある程度の話は聞いてくれると思うよ。」

「……ノア。」

「なんだ。」

「この話は信用していいのか?」

「知らん。」

「そうか。………帰りたい。」


 天を仰いでそう言った。


「ルートは……」

「後にしてくれ。今は空気が吸いたい。」

「そう?じゃあ、地図にしておくよ。」

「もういいか?」

「?どうしたの、ノア。何か予定でもあった?」

「ああ。ちょっと。」

「そうなんだ。良いよ。あとは主任君に地図を渡すくらいだから。出発の日付も決めておくよ。」

「分かった。」


 部屋を出て、ある場所へと向かった。

 そこには目的の人物が皿洗いをしていた。


「レイヴァン。」

「ん?ノア君か。どうした?もう、お腹が空いたのかな?」

「いや、話がある。少し来てくれ。」

「構わないが……これが終わった後でも良いかな?」

「良いわよ。レイヴァン。ノア君に付き合ってあげて。」


 一緒に皿洗いをしていたアリセナが背中を押してくれた。


「そ、そうか?じゃあ。」


 レイヴァンを連れて庭まで移動した。


「どうしたのかな?ノア君。」

「………俺に剣を教えてくれ。」

「………」

「お前、とんでもなく強いんだろ?だから、俺に剣を教えてくれないか?」

「………すまない。俺は、もう、剣を………」

「俺は強くなりたい。先の結界師との戦いで痛感した。俺はこれ以上通用しない。だから、強くなりたいんだ。」

「………剣は人を殺すんだよ。奪った命は帰ってこない。それを理解できているかな。」

「ああ。俺は戦場で生きてきたからな。だが、これ以上お荷物になるのはごめんだ。主任が居なきゃ死んでた。エレナが居なきゃ死んでた。俺は、二人を護衛するのが性分なはずなのにだ。だから、強くならなくちゃいけない。」


 しばらくの長考。

 レイヴァンはかなり迷っている風に見える。それほどまでに凄惨な過去があるのだろうか。


「………分かった。でも、約束してほしい。これは俺の、ただの願望であり、欲望であり、エゴだ。だから、変なことを言ってしまうが、なるべく殺しをするな。向かう者以外は殺さないでほしい。平和を謳歌している人々に危害を加えないと約束してほしいんだ。」

「分かった。」

「………じゃあ、始めようか。」


 レイヴァンは乗り気ではない。

 しかし、俺がこれ以上無能を演出するわけにはいかないのだ。


 レイヴァンは物置らしきところから木で作られた剣を取り出す。

 訓練用だろうか。

 ほぼ新品なところを見ると、一応置いておいただけのオブジェか。


 レイヴァンは俺に剣を渡し、距離を取って構えた。


「俺は剣を教えたことも、教わったこともない。だから、我流でも良いかな?」

「ああ。なんでもいい。あんたの強さを伝授してくれ。」

「分かったよ。行くね。」


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