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第九話

「第九話」


 髪の毛がないわりに、自信たっぷりな態度と、高そうな服を身に着けている。

 これがボス。この団体の頭だ。

 眼鏡越しにしか見ることのできないその目は、どこを見据えているのだろう。


「申し訳ない。彼がとんだ無礼を。」

「いやいや、こっちの番犬が噛みついただけですよ。」

「そう言っていただけてうれしく思います。」

「本当のことですけどね。」

「ここは冷えるので中で。」

「はい。失礼します。ほら、行くよ。弟。」

「は?」


 その罰ゲームは生きていたらしい。他人の前ですらも。

 誰が弟だ。

 普通の姉弟は名前で呼ぶだろ。

 それには言及せずに、さっさと入っていった。


 室内はしっかりと手入れされており、清潔というよりも新品という印象を受ける。

 床が光を反射して、明るく感じるほどに。

 何人もの武装した奴と出会った。

 その目には、場数を踏んだだけの自信と根性が刻印されているようだった。

 弱者特有の狂犬感がない。

 しっかりと教育がされている証拠だ。

 各々が自分は個ではなく、一つの集団としての意識がある。

 これは手ごわい。


 案内された部屋は、客間だろうか。

 やはり、異常なほどに綺麗にされている。

 長いソファが対面に置いてあり、真ん中に机が置いてある。

 机の上には、何かを吸ったであろうカスがあちらこちらに置いてある。

 しかし、匂いは全くしない。

 行儀が良いものだ。


 部屋には、俺たち3人と、見張り役なのか4人の男が入った。

 ボスの後ろに2人。

 俺たちの後ろに2人。

 とくになにをすることもなく、立ち尽くしている。


「では、品物を。」

「はい。こちらです。」


 エレナは鞄から、袋を取り出すと机の上に置いた。

 中身を相手に確認させ、了承を得る。

 よかった。今回はちゃんとあるみたいだ。

 そう何度も、戦って、恨みを買い、寝込みを襲われたくはない。


「確かに。おい。」

「はい。ボス。」


 ボスが後ろの護衛に声を掛けると、その足元にあったであろう鞄を机の上に音もたてずに置いた。

 鞄が開かれると、そこには大量の金が入っていた。

 たったあれだけの葉っぱを手渡すだけで、こんな大金が手に入るとは驚きだ。


「あれ…?」


 エレナが声を漏らす。

 何か不手際があったらしい。

 剣に少し手を伸ばす。


「少々、多い気がしますが?」

「ええ。少し、折り入ってお願いがございまして。」

「ほう……?」


 前金を用意しておくとは、相当な厄介事なのだろうか。

 このトラブルメーカーは今日もしっかりと仕事をしに来たというわけだ。

 ご立派なことである。


「お願いを聞いていただけますか?」


 俺たちの後ろに居る人物が刃を何かにあてたのだろう。


 カチン!


 という金属音が部屋中に響く。

 それは重く、場の空気を変えるのに、十分な破壊力があった。

 脅しているようだ。

 もっとも、こんな子供騙しに引っかかるわけがない。


「な、なんて、こと、を!」


 は?

 エレナが声を震わせ、そう言った。

 信じられないほど怯えた目で、ボスを凝視している。


「すみません。どうしても聞いていただきたい案件でして。」

「わ、分かりました……い、命だけは。」


 ボスは顔色を和らげ、声色を変える。

 手慣れたやり方らしい。

 誰かを脅す常套手段か。


 アホらしくて見ていられない。

 そっと視線をずらすと、エレナから肘打ちが飛んできた。

 付き合えということらしい。


「あ、あの!お、弟の初仕事なんです!あ、あまり、派手なことは……」

「とんでもない。人を殺せと言っているわけではありません。ある人物を探していただきたい。」

「わ、分かりました。さ、探します。探させてください!」

「良い報告をお待ちしていますよ。すぐにでも。」


 その気持ちの悪い笑顔は、人を心底見下しているときの目だ。

 完全に舐められたらしい。

 でも、門番はこいつにビビっていた。

 矛盾する気がする。


「ど、どんな人を、お、お探しで…?」

「はい。こちらの人物です。」


 青年と言うには若すぎる。しかし、少年と言うには大人びている。

 何とも表現しにくい、顔だ。

 赤い髪を短くまとめ、その顔には傷が入っている。

 お金を積んでまで探したいとは、相当な重要人物なのだろうか。


「彼を見つけていただいた後には、前金の倍のお支払いをお約束しましょう。しかし、しかしだ。あまり時間がかかり過ぎたり、逃げるようなら、我々は容赦をしない。」

「も、もちろんです!私たち、姉弟にお任せください!」

「ありがとうございます。頼りになるお人でよかった。」

「ほ、ほら、行くよ、ノア。」

「分かった。お・ね・え・ちゃ・ん。」


 背中に立たれた状況で、誰にも見られないように膝蹴りを貰った。

 今日のこいつはバイオレンスらしい。

 人の家族関係を偽るからだ。馬鹿姉貴。

 外へと案内される。


 中での人々の反応はまちまちだった。

 エレナの仮面を見て、怖がる者。

 ボスとの会談を聞いていたのか、見下す者。

 心底興味ない目を向ける者。

 今にも襲ってきそうな、殺意を向ける者。

 どれを見ても、一貫性がない。

 昨日まで他人だった者たちをかき集めたのかと、質問したいくらいに。


 中では感じることのできなかった冷たい空気が迎え入れる。

 いつも歩いている道が広々と感じる。

 ところで、横のこいつはいつまで演技を続けるんだ?

 いい加減にしてほしい。


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