第八十三話
(昔話―永久の平和を望む者達②)
・レイヴァン視点
「誰だ!?」
後ろの気配へと投げかける。
「僕ですか?」
「……」
どうしようもなく腹が立つ。
いきなりの襲来もそうだが、こんな真似をして平然としているこいつらにだ。
後ろを振り向き、腰に携えた剣の柄を触る。
「僕はフェノル。フェノル・フォージ。申し訳ありません。夜分に失礼を。」
「……」
「私共の目標が見えませんね。知りませんか?耳の長い女性を。」
「……殺す。」
「おっかないですね。しかし、脅威にはなり得ませんね。ほら、手が震えていますよ。」
自分の手元をちらりと見る。
確かに震えている。
トラウマ。過去の出来事。虐殺の末路。その行為が自分を恐怖たらしめていた。
しかし、今はそんなことに構ってはいられない。
殺さなくても良い。ただ、時間を稼げれば。
「人は過去の中で生きている。」
「……?」
「そうは思いませんか?」
なんだ?急に。
頭でも打ったのだろうか。
「過去とは、己を縛っているのではなく、己が生きている場所である。心的外傷を患ってしまった方々は、少しの出来事で動けなくなりますよね。しかし、それはトラウマなんかじゃない。今に夢中になれていないからです。過去にしか存在できなくなっているからですよ。言うなれば、依存している。」
剣を引き抜く。
自分の中の獰猛な野獣を飼いならし、まっさらな手で二人を抱きしめるんだ。
「分かりませんか。残念です。では、旅行すると良いでしょう。過去の自分へと」
助走もなしに、フェノルへと突っ込む。
「『結界・本性』」
なんだ!?
意識が……。
その場へと倒れ込む。
異常な震え。異常な光景。異常な感覚。そのすべてが最大限に危険視号を発している。
「な、なにを……!?」
「いえいえ、僕は何もしていませんよ。ただ、きっかけを送っただけです。」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
流れ出す過去の自分。
鮮明に、まるで自分がそこに立っているかのように。
エルフを惨殺して回り、正義を自称していた頃の自分。
手にはべっとりと血が付着し、足元には死体がかっこしていた。
「悪かった。俺が、悪かったんだ。アルドリア。悪い。俺は、俺は、弱かったんだ。」
頭を守るようにその場にうずくまった。
「頼む。その子だけは、殺さないでくれ。頼む。アルドリア。頼む。その子は……俺の希望なんだ。お願いだ。お願いなんだ。俺が悪かった。」
「みすぼらしいですね。しかし、それこそがあなたのあるべき姿だ。そうして過去の出来事に酔うことで人間の本性は誕生する。」
「アルドリア……頼むよ。やめろ。やめろ!!!!!!!!」
「過去に重い軽いはありません。誰もが背負っているものですから。恥じる必要はありません。僕は、逃げた二人を追います。彼を任せましたよ。二人とも。」
二つの影が近づく。
「はいはい。分かってますって。」
「殺しても良いのか?殺しても。」
「構いませんよ。遊んでも良いですし。しかし、彼はもう壊れそうだ。早めにした方がよろしいですね。ここはあなた方にお任せします。」
「はーい。」
「おう!」
フェノルはどこかへ走っていく。
あの方角は……アリセナとヘレナの逃げた方向だ。
だめだ。そこだけは。ダメなんだ。
必死になって手を伸ばす。
しかし、この手を二人に差し伸べる資格があるのだろうか。
いや、無い。そんな立派な資格は俺にはない。
こんな殺人鬼は居ない方が世のためだな………。
「おい!おっさん。まだ、元気か?」
「乱暴ね。セラン。」
「久しぶりの仕事なんだ。舞い上がるだろ?カリス。」
「それもそうね。フェノルが本命の方へ行っちゃったし、私たちは帰りを待ちましょうか。」
「………二人を……」
「おいおい。やめとけよ。おっさん。無理だって。なぁ?カリス。」
「ええ。そうよ。やめた方が良いわ。だってねぇ?セラン。」
二人は不吉な、不気味な笑みを浮かべた。
「俺たちと」
「私たちと」
「「遊ぶんだから。」」
「『結界・強者』」
「『結界・弱者』」
更なる地獄が始まった。




