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第七十九話

「第七十九話」


・ノア視点


 宿へと到着する。

 ドアを開け、腰を落ち着かせる。


「いやぁ、大変だったね。眠いでしょ?」

「そうだな。眠い。」


 確かに眠いはずだ。なぜなら、昨日はあまり熟睡できなかったらしいし、戦い詰めだった。

 それなのに、どうしてだろうか。まったく眠くない。

 目が冴えている。頭もピンピンしている。


「私は少しでも早く眠りたいよ。」

「分かった。」


 ベッドへと移動する。

 そこへ横になる。

 その光景をエレナは不思議そうに覗いていた。


「?」

「ノアって変わったね。」

「なにが?」

「いや、前までは一緒に寝ることに対してかなりの抵抗を感じていたはずなのに。」

「……慣れただけだ。」

「そうは見えなかったけどね。」

「……じゃあ廊下で寝る。」

「いやいや、私は嬉しいと言っているんだよ。」

「………」


 エレナもベッドへと入り、狭くなる。

 エレナの腕に自分の頭を乗せ、エレナの方へと接近する。

 見上げれば顔面が視界を覆うほどの距離、お互いの吐息が耳に当たる距離、心音が聞こえる距離。


「そうだ。答え合わせならぬ、解説が必要だったね。」

「なんの?」

「エラ・セレニスとソリアンの件だよ。後で教えてあげると約束したでしょ?忘れたの?」

「……なんだったんだ?」

「ソリアン……いや、ソアート・セレニスは元セレニス家当主だったのさ。エラ・セレニスの実父でね、セレニス家の武器を横領して貧困地域に配っていた。」

「……は?」

「分からないって顔をしているね。まずは、ソアートの話から。ソアート・セレニスは嫁の病気を治すための特効薬を探しに行ったときに貧民街に訪れたのさ。そこで目にしたのは、自身が売った武器で蹂躙され、支配されている人々の姿だった。そこで正義心が灯ったのだろうね、嫁への特効薬を忘れ貧困層を助けて回った。もちろん、奥さんは助からなかった。家へ帰るとソアートは悲しみの前に救世主のような働きをするようになった。貧困層の自衛手段として武器を横流しすることにしたのさ。それで勘当。」

「ソアートにとって嫁は大事じゃないのか?」

「大事だったさ。でも、そんなことよりも自分の不始末で危機にさらされている人々を放っておけなかったのさ。」

「……」

「次にエラ・セレニスの話。エラ・セレニスは幼い頃に母を失った。父は仕事に熱中した。でも、父からはしっかりと愛情を受け取っていたらしいね。エラ・セレニスは父のことを好いていた。でも、ある日父は勘当されたんだ。エラ・セレニスには分からなかっただろうね。だから、長い時間を使って調べ上げた。父について。母について。そこでエラ・セレニスは父にもう一度会いたいと思うようになった。それどころか、父と共に暮らしたいとさえ思ってた。でも、それを許す者が居なかった。」

「ソアートがエラに送った箱はなんだった?」

「あれの中身は、推察でしかないけど手紙だったのだよ。」

「手紙?」

「うん。結婚の祝福のね。でも、それを見たエラ・セレニスは揺らいでいた心を決めた。父との再会をね。だから、婚約を破棄し父と共に逃避行を行った。」

「……セレニス家はどうなる。」

「それは問題ないと思うよ。セレニス家は、ソアートが勘当されてからソアートの弟が当主になった。ソアートの弟は、エラのことが邪魔だったからカーディス家へ嫁ぐように計画したのさ。」

「でも、不利なんじゃないのか?カーディス家は五家だろ?」

「うん。そこが不思議な点でね。カーディス家は乗り気じゃなかったんだ。恐らくではあるけど、カーディス家は愛人的なポジションを用意していたんじゃないかな。だから、損害的な物はない。それどころか、浮気の証拠みたいな彼女が消えて済々している人もいるくらいさ。」

「愛人……?」

「うーん、そうだ。日中はメイドとかで暮らしてもらって、夜のみ会うくらいの関係かな。セレニス家はエラを排斥したかった。カーディス家はおもちゃが欲しかった。たまたま意見が合致しただけだよ。それを破棄されてもカーディス家は怒らないだろうね。」

「じゃあ、セレニス家はこのまま何もなかったように生活できるわけか。」

「うん。そうだよ。」

「エレナがこれにこだわった本当の理由はなんだ。」

「私は、家族の形を知りたい。どんな形になっても直せるというモデルケースが欲しかったんだ。だから、強引ではあったけどこの件に突っ込んだ。」

「モデルケース?」

「勇気と言い換えても良いね。どっちにしろノアには少し難しい話だよ。ほら、寝よう寝よう!」


 頭を布団の中へと入れられ、視界が暗くなる。

 確かに小難しい話を聞いたら眠たくなってきたかもしれない。

 このまま体温に安心を感じて、眠ってしまおう。


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