第七十話
「第七十話」
天井に立っている男。
地面にひれ伏している自分。
この差はなんだろうか。
「見させてもらったぜ。てめぇの『結界』そりゃあ強力だよなぁ?歩くだけで死ぬなんてよぉ。しかしだなぁ、歩かなきゃいいんだろ?そんなの簡単さぁ。」
男はポケットから何かを取り出す。
それは、光に反射して良く見えた。
玉だ。銃弾ほど尖っていない。綺麗な球体。しかし、それを強力だとは感じなかった。
「俺ぁカイラン・スカイ。てめぇが名乗ったから名乗る。世の理は反射だと思わねぇか?」
「……思わない。規則は、神の前では無秩序も良いとこだ。」
「そりゃあ、不運だなぁ?相手がそうするから自分もそうする。相手が考えるから自分も考える。すべては反射だ。てめぇが自分語りをするから俺だってそうする。」
結界師独特の口ぶりだ。
結界師は基本的に人間的な何かを欠落させている。
それが会話にも表れる。だから、嫌いだ。
「反射って言い方は良くないかもなぁ?しかしだなぁ、俺の『結界』はこんな芸当ができるんだぜぇ?『結界・伸縮』」
カイランは手に持っていた玉を投げた。
それはこちらに向かってではなく、適当に。
当然僕には当たらず、壁へと叩きつけられる。
パン!
パン!
パン!
なんの音だ……?
何か、跳ねるような、風を切るような音がそこら中から聞こえてくる。
気を抜いた瞬間に
「っ!?」
肩を何かが貫通した。
その貫通した何かは、威力を失い床へと転がる。
「なっ!?」
それはカイランが投げた玉だった。
質量も、速度も、威力もこんなはずはない。
しかし、人間の皮膚を透過し筋肉を破壊するほどの威力を誇っている。
先ほどの音はそう言うことか。
「どうだぁ?これが『伸縮』。壁や床と言った堅いものを柔らかくできる。でも、それじゃぁ弱いと思うだろう?しかしなぁ、柔らかくしたりよぉ、堅くしたりしてよぉ、そこで波を作るんだよなぁ。それは、海の波みたいなよぉ。それで反射させると、不思議なことにただ転がしただけなのによぉ、銃なんかおこがましいくらいの威力になるんだよなぁ。あとは角度を調整するだけなんだよなぁ。こんな風によぉ!」
カイランは二つの玉を地面へと転がした。
それは、驚くほど早く加速しすぐに目では追えないほどに成長した。
パン!
パン!
パン!
壁に玉が当たる音だけが聞こえる。
この肩では剣を振ることなどできない。
それなら。
残っている方の腕で、剣を投擲する。
それは、当たらなくてもよかった。
相手がよろめいて、足を動かしてくれれば。
「そう来ると思ったぜ。俺が驚いて、動くと思ったか?」
カイランが自分の足元。すなわち天井に手をかざすと、まるでカイランを守るように壁が生えてきた。
剣は、カイランの前に出された壁に刺さる。
「この程度の工夫じゃぁ無理だよなぁ?そら、言うてる間に。」
玉が右足の太ももと横腹を貫通する。
「なっ!?」
立つことが困難となり、地面へと転がってしまう。
「かはっ!」
血を流し過ぎだ。
これでは、死んでしまう。それも簡単に。そこらの虫よりも早く息が絶えてしまう。
仕方がない。神は僕にジャッジを下したんだ。
僕では、勝てないとジャッジを下したというのなら、彼に任せよう。
彼なら、きっと勝ってくれる。
いつも僕にはできないことをしてくれた。
「……た、のんだ、よ…………仕方がなねぇな。」
・カイラン視点
なんだ?死んだと思ったら、立ち上がりやがって。
俺の残弾は六。確実に殺せる。
あいつは、俺が何かアクションを起こさないと『結界』を発動できない。これは、勝った。
「くく……はあぁ。」
ぎょろりとこちらを見た。
先ほどまで虫の息だったとは思えない気迫。
さながら、飢えた肉食獣と言ったところか。
「てめぇだな?タナトスを殺そうとしたのは。」
「あぁ?」
何を言ってる。
ほんの数秒前まで戦っていた相手に言うセリフだと思えない。
気のせいだろうか……顔色が違う。
まるで別人だ。
「あいつを傷つけるのは許さねぇ。天が許さねぇって言ってんだ。だから、お前を瞬殺しても良いわけだよなぁ?」
「アホなこと抜かすんじゃねぇよ。追いやられてんのはてめぇじゃあねえか。」
見下すようにそう言った。
なぜだろう。自分が、自分こそが本質を見えてない気がしてならない。
ゴロゴロ………。
雷か?
いや、そんな悪天候ではなかった気がするが……。
ピカ!
外が光った瞬間だった。
雷がまるで隣に落ちたみたいな衝撃が全身を走る。
「な、なんだってんだぁ!?」
「おい。耳元でしゃべるなよ。生首。」
「……は……な、何!?」
俺の体はどこへ行った!?
手足が動かねぇ!?
それどころか、顎を手に乗せられる!?
「タナトスは天からのジャッジを待つ。俺は、天の代行としてジャッジする。」
だ、ダメだ……意識が………当然か、死んでいるのだから。
「さてと。ノアってガキはどこだろうなぁ?あぁ。そうか。タナトスが二階で、ガキが三階だったか。待っとけ。タナトス。今、あいつを殺してくる。」
意味不明な言葉だけが、空っぽの体に響いただろう。




