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第七話

「第七話」


「ねぇ。一回でいいからさ。」

「黙れ。」


 さきほどからうざい老人が絡んでくる。

 いつか泣き顔を拝見したい。


「じゃあ、相棒!作戦会議でもするかい?」

「いい。俺は寝る。」


 布団を被り、目を閉じる。


 その直後に、肩を掴まれ、布団を引きはがされる。


「待ちなさい。」

「なんだ。」

「作戦会議って知ってる?」

「知らん。寝る。」

「良い?私とノアは相棒なんだよ?バディなんだよ!?そんな二人が何もなく、寝る!?そんな恥を絵にかいたようなことできるわけないでしょ!?」

「黙れ。寝る。」

「いいのかなぁ~、私、構ってくれないと、多分暴れちゃうけどなぁ~。」


 こいつが暴れようと俺の知ったことじゃない。

 布団が無くて、少し肌寒いが寝ることにする。

 体に重みがかかる。


「ねぇ。」

「なんだ。」

「起きて。」

「……」

「はぁ。私に負けたくせに。」

「あ?」

「ほら、起きれるじゃん。」


 違う。煽って起こしただけだ。

 これのどこに合法性があっただろうか。


「さぁ!始めようか!」

「うざ。」

「おお!良いね!やる気満々じゃん。」


 今すぐに殴り飛ばしたい。

 こいつに勝てない自分が憎い。


「ノアは興味ないと言っていたけれど、私の職業から発表しようかな。」

「頭のおかしい旅人だろ。」

「残念!違うよ。おしくもない。そして、私は君と違って文字が読める。」

「ちっ!」

「私の仕事はね、薬物の売人だよ。」

「あ、そう。じゃあ、話は終わりだな。寝る。」

「まだまだこれからじゃん!寝ないでよ!ノア!!」

「なんだ。」

「さすがの私でも、そんなに露骨に興味をなくされると悲しいんだけど。」

「俺は、お前の護衛をすれば良いんだろ。」

「そうだけど、ほら、仲間としてさ。ちょっとくらい、良いじゃんか。」

「はぁ。お前はさっきから、何にこだわっているんだ?」

「え…。」

「仲間じゃない。雇用主だ。俺は金を貰って、お前は金を払う。それ以外の関係を結ぶつもりはない。」

「……酷い。」

「あ?」

「酷いよ。ノア……」

「そうか。寝る。」


 横の老害を放って寝る。

 目を閉じると、すぐにでも幻想が迎えに来てくれそうな勢い。

 これほど、外敵が存在しない場所で眠ることができるのはいつぶりだろうか。

 故郷の両親を思い出す。


「うぅ……ぐすん……ぐすん。」


 誰かが泣いている。

 それも近くで。

 誰かを見るまでもない。この空間には二人しかいないのだから。


「うぅ………ぐすん。」

「あぁ!!もう!!悪かったよ!!」


 なんで年下の俺がこんなに気を使わなくてはいけないんだ。

 しかも、完敗した相手に対して。


「なんだ!?なにが目的なんだ!?」

「……仲良くなろうと思って……そう思っただけなのに……」

「悪かったって!何をしたら許してくれるんだ!?」

「一回、お姉ちゃんって呼んで。」

「……は?」

「お姉ちゃんって呼んで。」

「くっ…!…お……お、おねえ、、、ちゃん」

「よし。許した。」


 演技だったのか。

 クソ。何がしたいんだ。


「今後の方針でも決めようか。」

「待て。」

「なぁに?」

「話し合いをするのは分かった。了承しよう。しかし、しかしだ、なぜ俺だったんだ?」


 純粋な疑問だ。

 なぜ、自己の戦闘力だけで完結できるこの女が他人を頼る必要があったのか。

 なぜ、その中で俺のような子供だったのか。

 なぜ、あの場所に俺のような子供が居ることを知っていたのだろうか。


 疑問を膨れ上がらせると頭がパンクしそうなほどにキリがない。

 秘密主義のこいつから正解が聞けるとは思えないが。


「そうだねぇ。これくらいは、言っても良いかな。」

「……」

「顔がタイプだったから。」

「……寝る。」

「ごめんごめん!嘘だよ、嘘!ちゃんと話すから!お願い~寝ないで!!」


 布団を被った俺に泣きついてきた。

 布団を被ったまま、睨み返すように


「すぐに言え。」


そう応対した。


「君を選んだのは偶然だった。必然じゃない。つまり、選んでない。強い用心棒が前から欲しくてね。この街で良い人居るかなぁ、と思ってたら君が野良犬みたいな顔してるから。一回テストしたってこと。」

「“星屑のテーブル”で暴れさせたのは、そのためか。」

「そうだよ。お金は回収できたから良いんだけど、顧客を一人失っちゃったよ。どうしてくれんの?」

「知らん。満更でもない顔してるだろ。仮面の下で。」

「ふふふ、鋭いじゃん。彼は、店の売り上げが芳しくなくて、薬物を料理に入れようと考えたんだ。そこで、私を頼ってきた。だから、一蹴しただけだよ。壊滅に追い込んだ。」

「なんで、子供の俺だった?」

「ああ。それはもっと簡単。大人の用心棒は、期間が長いと私を陥れる算段を立て始めるからね。でも、子供はそんなことしない。精々、君みたいに正面から斬られるくらいのものだよ。そして、教育のし甲斐がある。」


 大体のことは分かった。

 正直、この疑問はどうでもよかった。

 この問いに対してどう答えてくれるかを知りたかった。

 どこが、こいつの秘密のボーダーラインなのかを知るために。


「じゃあ、次は私の話ね。」

「ああ。」

「女の子はおしゃべりだから朝までかかっちゃうかも。」

「好きにしゃべってろ。俺は、キリの良いところで寝る。」

「連れないなぁ。まぁ、いっか。」


 彼女は話す。

 淡々と。

 その口調から、表情から、どれが作り物なのか判別することは難しい。

 嘘か本当か分からない、英雄譚でも聞かされている気分だ。


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