第六十五話
「第六十五話」
料理が運ばれてきたらしく、タナトスが呼びに来た。
目をハートにして。
エレナはドン引きである。
良い奴じゃないか。幸せになれるぞ。きっと。
エレナから膝蹴りを貰う。
あまり余計なことを考えない方が良さそうだ。
店の中へ再度入っていく。
相変わらず、エレナの警戒は解けない。
タナトスを睨めつけんとする勢いだ。
「ささ、どうぞ!」
「助かる。」
「……アリガト。」
「いえいえ、とんでもない。お口に合えば良いのですが。」
「うん。うまい。」
「……おいしい。」
「良かったです!」
この素直な優男のどこが気に入らないのか、全く分からない。
良いじゃないか。俺が女だったら、イチコロだったぞ。
料理を完食して、話をする。
「ソリアンはどうする。」
「起きないからね。まぁ、宿に連れていくしかないね。彼が居る場所を私たちが把握さえできていれば問題ない。」
「分かった。」
「後は、オクトだね。カメレオンは彼が撃滅したわけだし、残りは、未だに派手な動きを見せていない奴らだけ。」
「オクトなら知っていますよ。」
タナトスは自慢げに言う。
「どこだい?」
「後で案内しますよ。」
「後で……?」
「はい!御供させてください。」
「………ちょっと、考えさせてほしいな。」
引き攣った顔を見せる。
俺は本気の拒絶を見た。
店を出て、宿へと四人で戻った。
部屋には、主任が居た。おとなしくしていたらしい。
「大人数だな。」
「まぁね。事情が変わってね。」
ベッドにソリアンを寝かせる。
「ノアとタナトスに任せようかな。」
「なにを?」
「オクトの件だよ。ソリアンがここに居る以上、ディフェンスは必要でしょ?そこで、攻めと守りを分けるんだ。私と主任君が守り。ノアとタナトスが攻め。どうだい?」
タナトスと一緒に居たくない体の良い言い訳だろう。
良く回る口である。
「ああ。分かった。」
「任せて下さい!」
「よし。じゃあ、作戦開始!」
タナトスが部屋を出て行った。
それに続く。
部屋を出ようとした時に、エレナに腕を引っ張られる。
「おい、いいかg」
胸元に引っ張られて、体を密着させる。
そして、耳元にある口が囁いた。
「気を付けるんだ。タナトスに背中を見せるんじゃない。」
「お前……」
「良いかい?これはおふざけじゃない。マジなお願いだよ。」
「……分かった。」
目を見るといつも通りのふざけた目に戻っていた。
声色と表情が一致していない。
「じゃあ、行っておいで相棒!」
「はいはい。わかったわかった。」
ドアを開けて、外に出る。
待機していたタナトスに手を振って、合流した。
・エレナ視点
「どうした。冷汗がすごいぞ。」
部屋で読書を嗜んでいた主任君が心配の声を掛ける。
それもそのはずだ、久しぶりに恐怖した。いや、初めての感覚。
自分にとって、内面を見通せない人間と言うのは関わりづらいものがある。しかし、あれは不明なんてそんな優しいものじゃない。
もっと、恐ろしい何かを飼いならしている。
「うん。少しね。」
「そうか。あのガキ共に任せとけば大丈夫だろ。」
「えぇ。間違いないと思うけど……」
「どうした。歯切れが悪いぞ。」
「うん。ちょっと、嫌な予感と言うか、良くない結果になりそうでね。」
「……?」
「主任君って戦える?」
「無理無理無理無理無理無理無理…………」
「うん。ごめん。」
「ぜっっっったい、なんもしない!」
「分かっているよ。でも、私も出なくてはいけない。」
「ちょっ!ま、待てよ、ほ、ほら、ガキと添い寝できるように俺が説得してやるからさ!」
「いや、ふざけている場合じゃなくなりそうなんだ。」
「……なにがあった。」
「あのタナトスとか言う、青年。彼の目を見たかい?」
「いや、気にしなかったな。」
「まるで、外見と内面が各々独立しているような、一致していないような、不思議な感覚だった。それに、ノアを見る目が一瞬だけ変わった。」
「………それって。」
「間違いない。彼は、ノアを殺す気だ。」
「そ、そんな馬鹿な、見たか?あの温厚な態度。俺にとっては、剣すら握れないように見えたぞ。」
「外面はね。でも、中身の問題だよ。」
そう。ノア以上に、殺人に飢えているように見えた。
飢えているというのは、正確ではなかったかしれない。もっと、別の何か。例えば、自分の行動を賛美するような、そう、快楽と言うには温過ぎる。
間違いを正すような、捻じ曲がった道を補修するような気概が感じられた。
あれは、獣以上だ。
目の前で『結界』を使わなくてよかった。
おそらく、ノアでは勝てないだろうから。
「では、行ってくるよ。」
「……何か、まじないのような何かをくれないか。」
「もしかして、私に惚れて、寂しいのかい?」
「馬鹿なこと言うな。ここに居ることは、スラムの夜道を歩くなんかよりも危険だ。それに対して、勇気づける何かを教えてくれ。」
「分かったよ。」
自分の鞄が置いてある場所まで行き、一つの袋を取り出す。
「おい……まさか、薬でもキメて、楽になれって言うのか?」
「違うよ。そんなことはしない。これだよ。」
袋に入っていた、仮面を手渡す。
これは、壊れたとき用の、スペアである。
「……これのどこが偉大なんだ?」
「私とおそろいなのが不満なのかい?」
「端的に述べるとそうだな。」
「それは、どんなものでも包んでくれる。例え、嫌な夢であってもね。」
「……これで我慢しよう。」
苦虫を歯ですり潰したような顔。
かなり、不安を感じていることだろう。
しかし、我慢してもらおう。
私は、主任君よりもノアのことが大切であるが、故に。




