第六十話
「第六十話」
屋根から飛び降り、地面へと着地する。
前回ので慣れたのか不思議と当然の顔ができた。慣れとは怖いものである。
どこかでこの爽快感をもう一度味わいたいなんて言っている器官すらある。
「では、任務開始だ!」
エレナは着地して、すぐに高らかに宣言した。
「なんのだ。」
「まずは、主任君を助けに行こう。その後に、彼らの壊滅を目指す。」
「彼ら?」
「うん。ここでは目立つね。少し歩こうか。」
確かに。ここは、人様の敷地内であった。
物騒な話は他でしよう。
敷地内から外へ出る。
さきほどの衛兵が不思議そうな顔で見つめている。
エレナが「ご苦労!」とか言って、敬礼をしていたが、苦笑にすらなっていない表情でこちらを見ていた。呆れているのだ。
哀れな二人組のことは明日にでも忘れるだろう。いや、そこまで覚えていないかもしれない。
俺だったら記憶から抹消するはずだ。
日陰の道を歩く。
まだ夕方にすらなっていない。だから、少し暑かった。
汗を掻くほどではないが、少し服を脱いでも良いかもしれない。
「では、説明してあげよう。」
「ああ。」
「私たちを襲ってきたのは、ギルドと呼ばれる組合だよ。」
「なんだそれ。」
聞いたこともない組織の名前が飛んできた。
マイナーなんだろうか。
「ギルドはね。正確には組織ではないんだけど、たまたま目的が一致したときのみ、行動を共にしている。なんて言えばいいのかな……仲間意識とかはないんだけど、仲間みたいな?」
「分からん。」
「まぁ、いいや。そのギルドの目的は、ソリアンが作った一つの銃だよ。その銃は画期的でね。手のひらよりも小さいんだけど、殺傷能力はちゃんとある。もちろん、扱いきれる代物ではないけどね。でも、それは勝率を数パーセント左右できる。」
「そんなのいらんだろ。」
「そうでもないのさ。確かにその銃はかなり訓練された軍人でないと使えないだろうね。弾も小さいから真っすぐ飛ばないだろうし、一発しか入らないときた。でも、隠して持ち運べる。そうしたら、ナイフなんて必要なくなる。しかも、」
エレナは手で銃の形を作り、俺の頭に当てた。
「こんな距離なら関係ない。」
「こんなに近づけるわけないだろ。」
「男性はね。」
「は?」
「女性がこの武器を使うんだよ。」
「???」
「まぁ、ノアには少し早いけど、そんな感じだよ。」
「……は?」
「まぁやり方はどうでもいいとして、これを欲しているのがヴァルモンド家だよ。ヴァルモンド家が支配している土地では性差別が盛んでね。それを払拭させる大義名分として女性に暗殺をさせたいんだ。いらない駒だからね。死んでも問題ない。」
「………」
「うん。理解できてないね。」
「いちいち言うな。」
これを決めセリフみたいに使わないでほしい。
馬鹿だと思われる。
「ヴァルモンド家がいろいろな傭兵や武器商人に依頼したんだ。それでギルドが成立した。でも、ソリアンが簡単にそれを手放すわけない。奪おうとしたらしいんだけどね、バックにカーディス家とエヴァンシール家がついているからね。それで難儀していたところに私たちが通ったわけ。」
「そこで奪えば、関係ないってことか。」
「うん。そうだよ。」
「よくできました」と言いながら頭を撫でてくる。
最近は無視する癖が出来てきたが、それによって調子づいている気がする。
ぎゃふんと言わせた方が良いかもしれない。
「じゃあ、主任君を迎えに行こうか。」
「ああ。」
「無事を祈ろう。」
思ってもないであろう言葉が聞こえた。
空耳だろうか。空耳だろう。
そうに違いない。
しばらく歩いた気がする。
なるほど、馬車とは偉大なんだな。この距離を疲れずに移動できる。
あの飽き飽きとした音が、振動が、風が恋しい。
「ここら辺だね。主任君の気配が強い気がする。」
「分かった。」
連れてこられたのはスラム街だ。
家とは言い難い、木造の小屋が並んでいる。
そして、散々散らばったごみの数々。気が滅入りそうだ。実は、俺は綺麗好きなのかもしれない。
こうした景色を見ると、当たり前に嫌悪感を覚える。
“スノークレスト”がどれだけ自分に合っていたのか理解できる。
しばらくごみ溜めを歩いた。
かなり大きいな。これが、栄えている街の裏側か。
光あるところに影があると言うが、何も人で表現しなくても良い気がする。
「ここかな。」
「分かった。」
エレナが指さしたのは、一軒の小屋。
他に紛れて、区別ができない。確かに、これは良い隠れ家になるだろう。
「さぁ、行こうか。夜になる前にはご飯を食べたいね。」
「ああ。そうだな。」
二人でその小屋の前まで歩く。
「今夜は何が良いんだい?」
「何でも良い。」
「そう言うのが一番困るんだよ。」
「じゃあ、エレナは何が良いんだ?」
「私?そうだなぁ……ノア?」
「………」
アホを無視して、扉に手を掛ける。




