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第六話

「第六話」


 抜き身の剣を相手へと向ける。

 その殺意と勝機が混ざった混沌は、必死に貪欲に健気に彼女の死を望んでいた。


「来なよ。ノア。」

「……」


 一歩目。

 その一歩で大きく前に出る。

 二歩目。

 一歩目とは逆の足で地面へと足跡を残す。

 三歩目。

 足が踏み込んだと同時に抜刀を行う。

 彼女の首めがけて、一直線に。

 完全に捉えた瞬間だった。


 その剣は、エレナに止められていた。

 素手で。

 なんの小細工もない。

 ただの素手。すなわち、身体能力で。

 軽く。本当に軽く。飛んでいる虫を掴むかのように。


「は…?」


 俺が絞り出した感想はこれだけだった。

 これ以外の言語能力が欠如したかのように、頭が真っ白になった。

 勝ちを確信した瞬間から、意識が曖昧になる。

 動揺しているのだ。

 剣に振動が伝わるくらいに震えている。

 こんな気持ちになったのは初めてだ。


「これはノアの大切な仕事道具だからね。安心してね。傷つけたり、折ったりしないから。でも、少しくらいは、いたずらに対するお仕置きが必要だよね。」


 何を言ってる……?

 耳から入ったその音は、脳で噛み砕く前に、どこかへと飛んで行ってしまった。


 小突かれた。

 パンチとは言い難い、その威力は頭に的中した。

 避けることができなかった。

 ただ、指で頭を押されただけの、殺意や必死さがない、ただの小突きだった。

 しかし、それは俺を倒すのに十分だったらしい。

 意識をその場に置き去りにして、自身は後ろへと倒れ込む。

 そこで記憶に鍵がかかったかのように、プツン!と何も見えなくなった。

 思い出せなくなった。

 言い換えれば、気絶したのだ。



 擦りながら目を開ける。

 眠たいわけじゃないのに、体が重い。

 少し、記憶が曖昧だ。


「おはよう。ノア。」


 その仮面を見た瞬間にすべてを思い出した。

 この女に負けたのだ。

 勝負で。しかし、勝負と言うのはおこがましいかもしれない。

 彼女にしたら、ただのじゃれつきの延長戦に過ぎなかっただろう。

 それほどまでに差を感じる。


 見渡すとここはどこかの宿みたいだ。

 一人用の。

 彼女はここに宿泊しているらしい。


「どうしたの?起きた途端、女の子の部屋を見渡して。あ!もしかして、ワンチャンあると思ってる?スケベだなぁ~。」

「黙れ。熊。」

「年齢の次は、それ?」

「どんな手品だ。」


 確かに負けたことは悔しいと感じている。

 しかし、それ以上に彼女の使った手法を知りたい。

 どうしようもなく。


「手品?…あぁ。さっきの?」

「早くしろ。」

「怖。うーん…そうだなぁ……まぁ、いっか!ノアは私の相棒だしね!実は、私は…戦いの天才なの。」

「……」

「間違えた。天災なの!」

「……」

「どうしたの?頭を抱えて。何か面白かった?それとも尊敬をボディーランゲージで表すとそうなるの?」


 こんなのに負けた自分を殺したい。

 ここまでの屈辱を受けたのは初めてだ。

 やはり、彼女にとって俺は取るに足らない相手でしかないと言うことなのだろうか。


「おい。」

「はぁ。だから、エレナだって!良い?相棒になるんだよ?こんなこともできないのなら、相棒はクビにするよ?」

「好きにしろ。ほんとはなんなんだ?」

「ほんとは?どういう意味?」

「はぐらかすな。素手で剣が受けれるはずないだろ。それを才能で片づける気か。」

「あぁ。そのことね。分かった。もっとマシな言い訳を考えるから。少し待って。」

「おい。今、言い訳って言ったよな。」

「……」


 何かを悩んでいる素振りだけを見せる。

 しかし、それは正解を言うのを悩んでいるわけではなく、俺が納得する答えを探している。

 すなわち、言い訳。俺を言いくるめ、正解は隠しておきたいらしい。


「あ!そうだ。実は私は…君の双子の姉なんだ。だから、君の考えていることが分かる。」

「俺の姉は死んだ。」

「……知らなかったとは……。良いかい?君は、実は、貴族の息子で、その貴族h」

「俺の産まれは、ただの村民だ。」

「……君の両親は実は、生きていt」

「俺が殺した。生きてるわけないだろ。」

「……私は、運よく逃げることができた。君を置いていくのは、申し訳なかったけど、そうするしかなかったんだ。本当にごめんね。こんな姉でも、もう一回一緒に住んでくれるかい?」

「おい。」

「はぁ。なんだい?ここからが良いところなのに。」

「お前と俺だと年齢差がありすぎだろ。」

「君ね。あまり人の年齢を憶測で言わない方が良いよ?ノアは私のことを二十歳と言ったじゃないか。仮に私を二十歳としたら、ノアとそんなに離れてないはずだよ?」

「俺は、十歳だ。」

「ほら。」

「十歳も離れた双子なんて居るわけないだろ。」

「……意外に頭が良いね。驚いたよ、我が弟よ。」

「誰が弟だ。じゃあ、俺の家名を当ててみろ。」

「ノアの?そうだなぁ……。せ、セクト?」

「貧乏人に家名なんてねぇよ。」

「だましたのね!?今、お姉ちゃんを!!酷い子ね!?お仕置きをあげるわ!!」

「黙れ!もっとマシな言い訳をしろ!」

「ねぇえ、一回で良いからお姉ちゃんって呼んでみてよ。私も一人っ子だから、憧れで。おねがいだよぉぉ。」


 懇願そうに言う彼女を殺せなかったことを悔しく思う。


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