第五十五話
「第五十五話」
「武器までは買えなかったね。」
「エレナがちんたらやってるからだろ。」
すでに集合時間になっていた。
主任との待ち合わせはさきほど訪れたお店だ。
両手には大量の服の入った袋を持っている。
この状況を見れば説明は不要だろう。
俺の隣を歩いている自称乙女が服屋を見るや否や、その店に突入し、俺を着せ替え人形のように扱った。
年甲斐もなく、「可愛い~」なんて呪文を放っていたが、それに対して俺が苦言を呈すると、空かさず次の服を持ってくる。
その結果この服の量である。
誰がこんなにも着るのだろうか。
「仕方がないね。久しぶりにゆっくりと買い物ができたんだから。これに、テンションが上がらない私じゃないよ。それに、これだけ買えばどの気候にも対応できるし。」
「毎回こんなに持ち歩くのか?」
「まぁ、そうなるね。」
「俺は持たんぞ。」
「えぇ~そんな~酷い~」
「うぜぇ。」
集合場所へと着いた。
「意外に早かったね。」
「遅いと置いて行かれると思って。」
「そんな酷いことしないよ。私は、ノアが待ち合わせ場所に来なくても、半日待ったこともあるし。」
「大変だな。おもりも。」
「まったくだよ。」
大変だったのはこっちである。
俺が地図を読めないのを理解した上で、印の付いた地図を渡しやがった。
そして、集合場所が分からない俺を放置して陰で笑ってやがった。
その悪魔みたいな行動で、俺は二度とこいつと出かけないと誓った。
「宿へ行こうか。荷物も重いし。」
「そうだな。」
三人で宿へと向かった。
ここで議論である。
「いらっしゃいませ。」
「二部屋貸してください。」
「かしこまりました。どうぞ。」
「はい。主任君。」
エレナは主任に鍵を渡した。
「ありがとう。」
「行くよ、ノア。」
「行くぞ。主任。」
二人が別方向へ声を掛けた。
睨み合い。静寂の中では、激戦が繰り広げられる。
「主任君。君は、一人で良いね。」
「ああ。」
「主任。一人だと、襲われたときに対処できないだろ。」
「あ、ああ。」
「ノア。いい加減にしなさい。」
「こっちのセリフだ。」
「すまん。二人とも。」
主任が神妙な、恥ずかし気な顔で言った。
「なんだい?」
「なんだ?」
「俺……一人じゃないと寝られないんだ……その……神経質で……。」
おっさんの赤面ほど、見たくないものはない。
と言うことで二人部屋である。
エレナが真面目な顔で勧誘していた。
疲れていたので、早めに眠る。
エレナは相変わらずの態度である。
「じゃあ、手はず通りに頼むよ。」
「分かった。馬車で待っとけばいいんだろ。」
「そ!緊急用のね。」
朝食にがっついている。
こんな話を聞く必要はない。
「ガキには説明しなくていいのか?」
「うん。ノアにはアドリブが似合っているからね。それに、話をしても無駄だし。」
「ああ。大変だな。」
「まったくだよ。こんなに言葉の補足がいらないのは久しぶりだね。君とは気が合いそうだ。」
「やめろ。冗談じゃない。お前らと一緒に居たら、俺も命を狙われることになるだろ。」
「残念だなぁ。主任君が居たらノアと同室になれるのに。」
「そんなにもガキと一緒に寝たいのか?」
「そりゃね。ノアもその方が安心するでしょ?」
「……」
「ほら。」
「なんも聞こえんかったぞ。」
「それは、君の心が汚れているからだよ。」
俺も心が汚れているのだろうか。何も言っていない。
それとも、こいつは妄想と会話ができるほどに沈んでいるのだろうか。どちらでも構わないが、是非今後は身の振り方を考えて欲しい。
「じゃあ、出発するぞ。」
「うん。」
「ああ。」
食事を終えると、武器商人のところへ向かう。
馬の足音だけが響く。
しかし、この乗り物には飽きた。
当然だろう。何日も乗り続けたのだから。
今更この心地よさが、新鮮で楽し気なものだとは感じない。
乗る前はわくわくしていたのに、勝手ながら飽きたのだ。
「エレナ。」
「ん?なんだい?」
「ここから主任の声が聞こえるか?」
「ん~、そうだねぇ……かなり声を張らないと聞こえないと思うよ。どうしたの?」
「聞きたいことがある。」
「主任君には内緒で?」
「ああ。」
「なんだい?」
「どうして、主任が必要だった?」
単純な疑問だ。
馬車に文句を言っているわけではない。
純粋に必要ないからだ。
「ああ。そのことね。まぁノアには良いか。彼の条件は新しい職場を見つけることだったよね。」
「そうだな。」
「そこがミソでね。私のツテはもう少ししないとこの街に到着しない。」
「は?」
「来るには来るんだけどね。時間が掛かりそうだから。」
到着?
知り合いがこの街に居るんじゃないのか?
「どのくらいで到着する予定なんだ?」
「それほど時間は掛からないと思うよ。数日後には会えると思う。」
「......来ないとか言う可能性は?」
「それはないかな。主任君との約束だしね。そこまで私は悪党じゃないよ。」
数々の悪事をしてきた後にこの言葉を吐くとは良い根性してる。
いや、そもそも罪悪感とか言うやつをどこかに置いてきたらしい彼女は他人の営みを理解できないのか。
「なんだい?その非難に満ちた視線は。」
「いや、別に。」
「ノアが心配するようなことではないよ。」
その付け加えられた一言が一番怖い。




