第五十四話
「第五十四話」
買い物である。
初めての土地での買い物と言うのはテンションが上がるものだろう。
目の前の馬鹿と同じように。
「いやぁ~圧巻だね。流石は、【フロストホロウ】でも、有数の都市だね。」
「そうなの?」
「うん。五家の二つが近いのもあるけど、傭兵が居すぎて、悪さが少ないんだ。だから、順調に発展してきた。」
「へぇ~。」
「ノアも意外にノリノリじゃない。何か買ってあげるよ。」
「別にいい。」
「そんなこと言わずにさ。ほら、その剣。ボロボロだよ?」
確かに、剣はずっと使っているからボロボロであった。
しかも、俺は手入れの方法が分からないから、汚れたまま放置する癖がある。
良くないのかもしれない。
「別に斬れればなんでも良い。」
「こだわりが無いのは良くないよ。何か、理想のような物が篭っていた方が良い。」
「そんなもんか。」
「そうだよ。だから、私が選んであげるよ。」
「いや、いい。」
「良くない。私が選んだら、こだわりがあることになるでしょ?」
「なんのだ?」
「私のテンションが上がる。」
「下らねぇ……」
こいつの気分が良くなってどうするんだ。
俺が使う物なんだから俺が選んだ方が良いに決まってる。
「自分で選ぶ。」
「そう?じゃあ、アドバイスくらいに留めておくよ。」
道を歩く。
流石に店が多い。
店と比例して歩いている人の数も多い気がする。
「まずはここだね。」
なんの店だろうか。
大量の本が置いてある。
書店だろうか。
「ここは?」
「本屋さんだよ。ノアにプレゼントしようと思って。」
「なんで?」
「ほら、日頃の感謝だよ。」
「……俺は字なんか読めないぞ。」
「大丈夫。紙も買って字の練習をしよう。文字は読めた方が良い。いちいち店で私に聞かなくても注文できるようになるよ。」
究極のメリットを聞いた。
やる気がでる一言であった。
「良し。勉強するぞ。」
「良いね。じゃあ、買おうか。」
店の中へ入っていく。
どこを向いても本の山。
自分には場違いに感じる場所だ。なんとなく居心地が悪い。
エレナにとっては嬉しい場所なのか、鼻歌を歌いながら本を吟味する。
「ノアには難しい本は向いていないだろうね。」
「なんで?勉強するんだろ?」
「そうだけど、最初から高い目標を設定するのはおすすめしないよ。自分に合ったものから始めないと。」
エレナが本棚から取り出したのは、絵本だった。
「うん。これなんか、どうだい?」
「……これは、子供用の絵本だろ。」
「そうだけど、絵もたくさん載っているし、イメージしやすいと思ってね。」
そうかもしれないが、恥ずかしい。
これをベッドに寝ながら読んでいる自分を想像するだけで顔が赤くなるほどに。
「もう少し、良い本はないのか?」
「我儘だなぁ。良い?ノアは読書を甘く見ているよ。」
「……」
正論である。
言い返す隙がない。
この場で文字が読めない俺が、エレナに意見できるわけがなかった。
「……分かった。それでいい。」
「うん。分かれば良いの。分かれば。ついでに紙も買っておこう。書かなくちゃ覚えられないからね。」
エレナと俺はは本と紙を買ってその店を出た。
また大通りを歩く。
様々な店が点在しているが、どこがなんの店かを把握するのは難しいだろう。
「次はここだね。」
「なんだここ。」
「服屋さん。」
「なんだ。エレナも服に興味があるのか?」
「そりゃね。私も女だからね。それに、ノアだって服が必要でしょ?」
「着替えがあれば良い。」
「そうじゃなくて、これから暖かいところへ行くからね。その恰好では暑いと思うよ。」
そうか。【ニクスポート】へ行くのであれば、この服装は通用しない。
どれだけ暑いのか想像もできないが、エレナの言う通りだ。
「分かった。」
「ノアはセンスが無いからね。私が選んであげるよ。」
「……自分で選ぶ。」
そう言いつつ、店に入った。
「ここは、色々とあるから迷うと思うよ。」
「これで。」
「え?」
店先に並んでいた服を適当に取ってエレナに渡した。
正直、服なんてなんでもよかった。
「これって……?」
何でもないシンプルな服。
無地のデザインに厚めの生地。動きやすそうだし、悩むこともないだろうし。
「はぁ。却下。私が選ぶ。」
「なんでだ。」
「良いかい?服装って言うのはマナーの延長線上みたいなものなんだよ。自分が着たい服を着るのも良いかもしれないけれど、周りを気遣ったものを選ぶべきだよ。」
「どこが不服なんだ?」
「これだと、白すぎて目立つし、返り血も誤魔化せない。それに、この生地は厚すぎる。はっきりと言うけれど、センスがない。」
はっきりとし過ぎである。
もう少しオブラートを学んだ方が良い。
「……じゃあ、お前ならどれを選ぶ。」
「そうだねぇ。まずは一周してから考えるかな。」
エレナの言う通り、その店を一周した。
俺には違いが分からない物ばかりだ。
エレナが熱弁していたが、興味がなかった。
エレナが一枚の服を取り出す。
「うん。私はこれかな。」
「は?」
それは、服と言うには通気性が良すぎる。
こんな格好で出歩くと、風邪をひく。
「寒いだろ。」
「そんなことないよ。【ニクスポート】は温暖だからね。これくらいの軽装でないと、暑いんだよ。」
「そんなもんか。」
「それと、ノアはこれね。」
手渡されたのは、動きやすそうな半袖である。
もし、ここでこれを着ていたなら指を指されて笑われるであろう。それくらいに違和感がある。
育ちの違いだろうか。
こんな奴にセンス云々を言われたくない。
「不服そうだね。」
「……」
「まぁでも、大丈夫だよ。向こうへ行けば私の言っていたことが分かるから。」
エレナは俺の意見をすべて無視してお会計を行った。




