第五十三話
「第五十三話」
うまい話し方があるらしい。
それはだらだらと話さずに、結論を最初に述べることだ。
そうすることで、途中の脱線を防ぐことが出来る。
俺もこれに倣って結論から話そうと思う。
暇である。この上なく暇である。
馬車で楽しかったのは数日間だけで、その後は暇になった。
当然だ。一日中揺られているだけなのだから。
始めは目新しさにわくわくしていただけで、我に帰れば別に面白くもなんともなかった。
そして、目の前の老害である。
目の前の老害は、ことあるごとにちょっかいを出してくる。
その数は、一日二十回から始まり、最終日辺りには四十回を超えてくるスコアを出してきた。
まったく迷惑である。
「着いたぞ。」
“ヨトヘイム”からおよそ二週間。“ノルドヘイム”へ到着した。
“スノークレスト”よりも温暖な気候で、少し暑いと感じる。慣れない気候では風邪を引きそうだ。
服を一枚脱いでも良いかもしれない。
そんな温暖な気候とは裏腹に、歩いている人々はガラが悪いのが多い。
山賊や盗賊のような可愛い輩など一人も居ない。傭兵。彼らは、金さえもらえればどこへでも駆けつける。歩く戦場とでも表現しようか。
「お腹空いた。」
「じゃあ、ご飯でも食べようか。主任君もどうだい?」
「しゅにんくん……?」
「うん。君のことでしょ?自分の名前を忘れるの?」
「え?あ、ああ。俺も食べるよ……。」
エレナは来たことがあるらしく、おすすめの店へ案内してくれた。
その店で数品頼み、時間を待つ。
「良いかい?この街ではルールがあるんだ。」
「なんだ。」
「それはね、食べる前にお祈りをしなくてはいけないんだよ。」
「お祈り?」
「うん。この地域では森を信仰していてね。こんな風に。」
エレナが手を合わせる。
ルールと言うのなら仕方がない。
俺もそれに倣って手を合わせる。
「そう。それで、感謝の言葉を告げるんだ。」
「どんな?」
「いただきます。ってね。」
「い、いただきます。」
「そうそう。そんな感じ。店員さんから料理が運ばれて着たら絶対にやるんだよ。」
「分かった。」
同じ【フロストホロウ】とは言え、文化が違うのか。
驚いた。地域ごとの文化があるとは知らなかったから。
料理が運ばれてくる。
店員が料理を机に並べたときに、手を合わせて
「い、いただきます。」
そう言った。
しかし、店員は首を傾げて不思議な顔を見せた。
おかしいと思って、エレナの方を見ると、笑いを堪えるのに必死のようだった。
嵌められたわけである。
店員が厨房へ帰っていく。
「おい。」
「っ!!っ!!!な、なんだい?」
「お前……。」
ここが店でないなら、こいつは大爆笑していたであろう。
ふざけた奴だ。
「ふっ。」
「おい。お前、今笑ったか?」
主任も笑いやがった。
まともな大人は居ないのか。
「い、いや、別に。」
「おい。笑ってんだろ。」
「やめなよ。ノア。良いじゃないか。少しくらい笑いがあった方が料理もおいしいよ。」
「お前のせいだろ。」
「ごめんごめん。間違えたんだ。隣の街の話だった。」
二度とこいつを信用しない。
次の街へ行っても絶対にしないことを誓う。
「ノアは純粋だねぇ~。」
エレナが頭を撫でてくる。
「やめろ。」
「いやいや、無理だよ。ちょっと癒されたい気分だから。」
「うざい。」
「はいはい。」
エレナはしばらくやめなかった。
無視してご飯を食べる。
食事を終えると、珍しく仕事の話をし始めた。
それも細かなところまで。
「今回の相手は武器商人。荒っぽい人たちではないから、そんなに手こずらないと思うけど、万が一のことがあるかもしれないからね。私とノアで行ってくるから、主任君は馬車を用意して外で待っていて。」
「分かった。」
「ああ。」
「行くの自体は明日だからね。そんなに身構えなくても良いよ。」
「明日?」
「うん。明日の昼頃だよ。予定通りに到着できたからね。時間はたっぷりあるんだ。」
「そうか。なら、街を散策したい。俺はこの街で暮らすのだから。」
「もちろん。良いよ。じゃあ、私はノアと買い物に行ってくるから。」
「は?」
「良いじゃん。付き合ってよ。」
「……」
俺には、当然のことながら拒否権と言うものがない。
何か言い返しても頓知が返って来るだけだ。
「……分かった。」
「うん。決定。」
「待ち合わせは?」
「この店にしよう。変なところに集まると、迷子の原因になるからね。」
「分かった。また、夜に会おう。」
「うん。主任君は話が早くて助かるよ。」
「……?普通だろ。」
「そうでもないのさ。地図が読めない子もいるし、時間と言う概念を理解できていない子もいるし、全然言うことを聞いてくれない子もいるし。」
「ああ。そうらしいな。」
二人でこちらを見てくる。
一人は非難の視線を。もう一人は納得の視線を。
どりらも違う色の視線を送るが、二人とも失礼である。
「なんだ。」
「別にぃ~。」
「なんでもない。」
「お前ら、失礼だと思わんのか。」
「うん。思わない。」
「全然、思わん。」
「ちっ!」
その場では解散となった。
今から夜まで時間は十分にある。
この時間を使って散々連れまわされるとは思っても見なかった。




