第五十二話
「第五十二話」
・ノア視点
俺たちは、受付へと顔を出した。
馬車の受付である。
今日こそは馬車を確保しなくてはいけない。
「すみませーん!」
エレナが声を出すが、誰も寄ってこない。
まだ、開店時間でないから?いや、違うだろう。避けられているのかもしれない。
あんな後だ。当然と言えば当然なのかもしれない。
「ありゃ、誰も来ないね。」
「そうだな。」
「誰かが剣で脅したからかなぁ?」
俺の方を見てくる。
非難しているようだ。確かに、俺の落ち度だったかもしれない。
「黙れ。」
かと言って、こいつに謝るのは死んでも御免である。
プライドが許さないから?否、こいつの方がいろいろと迷惑行為を行っているからだ。
「あら、怖い。」
二人で受付の前で待っていると、すごい勢いで走ってきた一台の馬車があった。
その馬車は俺たちの前に止まる。
「おい!!乗れ!!」
「は?」
「なんだい?新手の人攫いかな?」
「早くしろ!!!」
その顔は見覚えがある。
この店で主任と呼ばれた男だ。俺が散々振り回した男。
「訳ありそうだね。」
「ああ!!早く!!!」
「あそこだ!!」
「捕まえろ!!!」
数人の軍人に追いかけられているところだったのか。
これだけ焦るのにも納得だ。
「面白い状況だね。少し、絵でも描きたいくらいに。」
「馬鹿なこと言ってないで乗れ!!!」
「はいはい。行くよ、ノア。」
「ああ。」
馬車の荷台へと乗り込む。
その馬車は、勢いよく飛び出す。軍人たちを撒くために。
もしかして、あれからずっと追いかけられていたのか?大変だなこいつも。
「意外に執着がすごいね。驚きだよ。」
「……」
「なんだい?そんなに人を非難する目で見て。そんなに見られたら、私も我慢できないよ。」
「黙れ。お前のせいだろ。」
「あら、酷い。そんな言い方しなくても良いのにぃ~。」
エレナがニヤニヤしながら近づいてくる。
俺の推察が正しければ、今回の騒動で追いかけられているわけではない気がする。
こいつは以前、自分には賞金が掛かっていると話していた。それの清算に来たのではなかろうか。
そこで、昨日一緒に居た主任の男を捕まえようとしたのだろう。
こいつも大変だなぁ。
「近づくな。」
「あら、夜は大人しいのに。」
「寝てるからだろ。」
「そうかなぁ。寝言が可愛いときあるよ。」
「……」
「それに、たまにキスしても起きないときあるし。」
「……」
「それにね」
「きもい。」
ほっぺたに伸びた手を払いのける。
「あら、心外ね。」
「おい!!お前ら!!」
「はぁ。なんだい?」
「後で話がある。」
「はいはい。話ね。」
しばらく走っただろうか。
初めての馬車は楽しい。いつまでも乗っていられる。
下からくる心地の良い振動で眠くなりそうだ。
そんな素直な子供の様子が気に入ったのか、エレナも嬉しそうだ。こっちを見るな。
そんな馬車は止まった。
主任の男が止めたのだ。
主任の男が運転席から出てくる。
「降りろ。」
「ここで良いじゃないか。」
「ダメだ。降りろ。話をしてから乗れ。」
「はいはい。」
しぶしぶ降りる。
周囲には誰も居ない。
倒してある木の上に座る。
俺の横にエレナ。正面に主任の男だ。
「話って?」
「分かってるだろ。俺はあの街に帰れない。それどころか、ヴァルモンド家に目を付けられた。」
「そうだろうね。あの状況を見る限り君は危ない。」
「そこでだ。お前らを“ノルドハイム”まで送ってやる。だから、新しい職を斡旋しろ。」
「なるほどね。【ニクスポート】に近い“ノルドハイム”で働けばヴァルモンド家から逃げなくても良いわけだ。あそこなら、簡単には手を出せない。」
「ああ。どうだ?悪い条件じゃないだろ。」
「そうだね。良いよ。ツテがあるしね。」
「ほんとか!?」
「うん。約束しよう。私についてこれば、君は新しい仕事をできる。」
「成立だな。」
「しかし、条件を付けさせてほしい。」
「……条件だと?」
不穏な空気が流れる。
この空気の香りを俺は知っている。
芳しくない。すごく。
エレナが条件を出すときは、宜しくない状態のことを表す。
「うん。“ノルドハイム”に着いた後に、少し私の仕事を手伝ってほしい。」
「あ?」
「その後に、仕事を紹介しよう。」
「ちょっと待て。」
この男の言いたいことも分かる。
これでは本末転倒である。荒事に巻き込まれたから街を出るのに、新しい荒事に巻き込まれたら、次の街でも住めなくなる。
これは、どんな馬鹿でも分かる。
「これが飲めないのなら、私は申し訳ないけど協力できない。」
「……馬車はないぞ。」
「そうだね。そうなるけど、仕方がない。歩きながら“ノルドハイム”を目指して、その道中で見つけた馬車に乗るよ。」
両者一歩も引かない。
「……その仕事内容は?」
「武器商人に薬物を売るだけ。」
「……」
主任が頭を抱える。
頼る相手を間違えたようだ。
「……危険は?」
「さぁ?でも、荒っぽいことはノアがやるし、基本的に私が交渉はするから、君はただ見ているだけでもいい。」
「……?」
おかしい。それならこの男はいらない。
どうして、仕事を頼むのだろうか。
「……それでなんで俺がいる?」
「それはやってみてからのお楽しみ。」
「……はぁ。分かった。」
「うん。成立だね。」
二人は握手を交わした。




