第五十一話
「第五十一話」
(昔話―理解者の背信④)
・サーモ視点
「被告は自分が犯した罪の重さを理解できていますか?」
「……はい。」
「では、罪を受け入れますね?」
「……はい。」
「連れていけ。」
納得がいかない。
でも、それは言葉にはできなかった。
ヘルが本を二冊盗んでいった。
一冊はどうでもいい本。何かの伝記である。内容は誰も知らない。
二冊目は、ヴァルモンド家がたいそう気に入っていた地図であった。
これは、女性がしでかした事件であり、大きな問題となった。
軍内部での性差別が激化するほどに。
罪状は以下の通りである。
禁書庫での盗賊。また、裏切り者の逃走を手伝ったこと。
サーモ・ナヴァレンには以下の罰を下す。
サーモ・ナヴァレンの四星から二星への降格。昇格するまでの間、『結界』を使うことは禁止される。
ナヴァレン家の地位の剥奪。貴族ではなくなり、平民へと落ちる。
サーモ・ナヴァレンの父、母両名の片腕切断。
これが、裁判の結果である。
元が貴族であったこと、結界師であることを加味され軍を除籍とはならなかった。
次の日から、ある写真がバラまかれた。
ヘルの手配書である。
生死問わず。この言葉の重みを誰もが理解できるだろう。
それほどに、盗まれた二品は大事にされていた。
しかし、理解はできなかった。
なぜ、あんなもののために彼女は罪を犯したのか。
なぜ、あんなもののために彼女は軍を辞めたのか。
その答えを知る者は居ない。強いて言えば、彼女だけだ。
私は、両親の顔を見ることが出来なかった。
両親はどんな顔をしていたのだろうか。私を見る目は変わるのだろうか。
あの日から故郷には帰っていない。
仕送りをしているだけだ。それ以外の罪滅ぼしを知らないから。
毎日、毎日、毎日。とてつもない暴言を浴びた。
それも当然だ。戦場で溜まったストレスや不安の受け皿が必要であったためだ。
それを甘んじて受け入れた。
二星にまで落ちた私は、戦場で案山子をやらされた。
また、自分はここまで落ちたのだ。
地面に這いつくばって、土の味を嗜んで、水たまりの反射を眺める。
休日などない。友人など居ない。温もりをくれる誰かも居ない。
生きていることは、罪なのだろうか。幸福なのだろうか。
唯一の目標や、家族や、上官を失った私には何が残っているのだろうか。
これのどこが現実なんだろうか。
苦しいなんてもんじゃない。純粋に笑えなかった。
いくつもの戦場を歩いた。
ヴァルモンド家は多くの領土を守るために、戦争をやめられなかった。
それに呼応するかの如く、物資は潤沢にあった。
すべては、軍のため。自分と言う個はないがしろにされて当然である。
私が、二星から三星に戻るまでに五年以上掛かった。
これでも早い方である。
自分には目標ができた。
ヘルに会うことである。
歪んでいることは理解している。壊れた自分を肯定している。
言い訳のはけ口とでも形容しようか。そう。私には、どんなに不格好であっても目的が必要であった。
そうでないと、案山子と表現するには棒立ち過ぎる人形以下の存在へと成り果ててしまうから。
養う家族が居るのだから。
ヘルに会って、自分はよくやったのだと。自分は特別だったのだと。そう言って欲しかった。
相棒……だなんて、図々しいことは言わない。でも、近い言葉が欲しい。
それこそが、自分が登山を志した本当の理由なのだから。
憧れは、罪ではないことを教えて欲しい。




