第五話
「第五話」
店の喧噪の中、二つの剣がぶつかる。
流石に、現役の盗賊は強い。
しかし、戦場を歩いてて来た俺の敵じゃない。
「おらあああああ!」
力の乗りすぎた剣を地面へと叩き落とし、首を切り落とす。
二人目が遠慮なく、踏み込んできた。その場所は俺の範囲内だ。
抜刀の構えに入ったことにも気づかずに進行してくる。
そこを一振り。
一振りだけだ。
その一振りは綺麗にとどめを刺し、人間をただの肉塊へと変貌させる。
仲間が三人もただの小僧に負けたのが理解できなかったのか、その男はそのまま現場の空気に気圧され、気絶してしまう。
正しい判断と言えばそうだったかもしれない。
地面に転がっている男にはまだ意識があるようだ。
「て、、、てめぇ、、、なに、、しや、、がる」
「こいつは俺の獲物兼護衛対象だ。勝手な真似は困る。ナンパは別の人を探せ。」
「おれ、、、が、、、だれだか、、、わかって、、んか?」
「知らん。興味もない。」
「く、、、そ」
腕を失った大男はそのまま眠るように目を閉じた。
この出血なら生きては行けないな。
この騒ぎがあっても、店の雰囲気は変わらない。
さほど驚く光景でもないからだ。
店内での戦闘。それに伴う誰かの死。
それは誰かに語るまでもない当然の行為。
ここでの常識。
富裕層の目がないところでは常識が入れ替わる。
「やるねぇ~ノア。」
「黙れ。おかわりだ。」
「あら。あんなに食べたのに、まだ食べるの?」
「当然だ。運動後は腹が減る。」
「まぁ良いけど。」
次の食事が運ばれてくる。
食事と同時に掃除道具を渡される。
店主は何も言わない。
ここで客と衝突するメリットがないことを理解しているのだ。
「ありがとう。かな?」
「何がだ?」
「助けてくれたことさ。」
「別に助けた訳じゃない。」
「なら、どうして手を出したの?」
「この後に俺と戦うだろ。その時に変な言い訳をされたくない。」
「ふーん。意外に相性良いかもね。」
「……それが遺言で良いのか?」
「ふっ。良いね。その勝つ気満々の目。いたずらしたくなる。」
「……」
早くこいつの首を切り落としたい。
そのことで頭がいっぱいだ。
奪った金で何をするか、考えるだけで腹が減って来る。
「もっと現実的な話をしようよ。」
「あ?」
「怒らないの。もう……。そうだ。私の仕事の話は?」
「興味ない。」
「…私の賞金の話は?」
「興味ない。」
「……私の生い立ちは?」
「興味ない。」
「………私の年齢の話は?」
「興味ない。」
「ねぇ。」
「あ?」
「もっと有意義なお話をしない?」
「お前と?」
「エレナ!もう…名前くらい覚えてよ。」
「何でも良いだろ。」
「ノアのことも、「おい」とか「お前」って私が呼んだら悲しいでしょ?」
「俺が判断できれば何でもいい。」
「今時の子供は好奇心を母親に置いてきたの?」
こいつと何を話せと言うんだ。
出会って半日も経ってない。
そんな他人のことを細かく聞きたい奴なんていない。
そんなことも分からんのか。
「ほら、こぼしてる。」
「……」
「もっときれいに食べなさい。」
「……」
「ああ!もう…行儀悪いよ。」
「うるっせぇよ!!ババア!!うっ…」
今まで詰め込んだすべてが出そうだ。
こいつのパンチ早すぎないか?
反射やっと反応できたくらいだ。
「ねぇ。」
「な、なんだよ。」
「年齢の話はダメって言ったよね。」
「別に良いだろ。気にしすぎなんだよ。」
「そんなこと言ってたら、好きな子に嫌われちゃうよ。」
「そうかよ。」
「なぁに?好きな子でも居るのかな??お姉さんに教えてごらんよ。」
「居ねぇ。」
「まぁまぁ。私は経験豊富だから?子供の恋愛相談くらい乗れるけどね?相談するかい?」
「だから、居ねぇ。」
「そんなに意地張ってないで、名前くらい教えてよ。」
「居ねぇ。」
「もう~我慢しなくていいのに~。」
「聞いてんのか、老害。居ねぇ。」
「次言ったら置いてく。」
「お前も下らんことは二度と聞くな。」
仮面で表情を受け取れないが、ある程度の予想はできた。
楽しんでるだ。
こいつは、何か楽しんでいやがる。
仮面越しではあるが、雰囲気で分かった。
「食べ終わった。行くぞ。」
「あら、勝手なこと。」
店主からもらった掃除道具を、気絶した腰抜けに投げる。
掃除くらいやってから出直してくると良い。
店の外へと出る。
そこは大通りほどではないが、何人かの通行人が居た。
皆、こちらを横目で見ている。
「ノアは私のおごりが好きなのかなぁ?」
「そういう約束だっただろ。」
「もう!ノリが悪いよ。」
「早く構えろ。」
「こんなところでやるの?ギャラリーが多すぎる気がするんだけど。それどころか、ちょっとした大通りなんだけど。」
「これがしきたりだ。早く構えろ。」
「またまた~。嘘が下手だね、ノア君。」
「何?」
「こんなところでおっぱじめたら、私が委縮して、変な小細工を使わないと思ったのかな?」
「ちっ!」
バレてたか。
こいつの馬鹿力には何か秘密があるに違いない。
そうでなければおかしい。
子供とはいえ、座ったままで人を浮かせるほどの力がこの細身に宿っているわけがない。
「良いよ。やろうか。」
彼女の仮面の下はどんな笑みを浮かべているのだろうか。
勝ちを確信している彼女には、どんなトリックが隠されているのだろうか。