第四十九話
「第四十九話」
(昔話-理解者の背信②)
・サーモ視点
戦場である。
ここは絵画でいうところの地獄であろうか。
どこに行っても死体の山。
銃を撃って。撃たれ。銃を撃って。撃たれ。
どれだけの弾が着弾したのだろうか。
どれだけの命を奪ったのだろうか。
どれだけの見えない何かを泣かせたのだろうか。
自分はこんな姿になりたかったのだろうか。
自問自答だけが響き渡る。
水たまりに反射する自分の顔を見る。
それは到底誰かに見せられる代物ではなかった。
どうして……。
自分が憧れた軍人の現実とでも言うのだろうか。
頭から流れる赤い血液で、自分も人間であることを確認できる。
私は、まだ悪魔になどなっていない。
ただの人殺しであった。それは、悪魔などという悪を自認している可愛いものではなく、正義を自称している人であった。
「後退だ!!!」
敵と言おうか、発砲相手と言おうか、そんな形容しがたい人々が下がっていく。
自分たちにも数日ぶりに休みが入った。
鼻から消えない硝煙と血の匂い。
耳から抜けない砲弾と火薬の音。
心から絶え間ない言い訳の数々。
どこに座っても落ち着かない。
「大丈夫かい?」
ヘルが隣に座る。
この人は昇格するために、どれだけの正義を自称してきたのだろうか。
私もこうなるために、どれだけの言い訳を聞けば良いのだろうか。
「疲れているね。大丈夫?」
「は、はい。問題ありません。」
「そう。じゃあ、大丈夫な内に報告を済ませるよ。カイラム・ハート、ロウ・アレン、ジュダ・フェイン。以上三名の死亡が確認された。」
学校時代のいじめっ子が死んだことよりも鮮明にある言葉が浮かんできた。
次は私だ。
「本当に大丈夫かい?かなり、青ざめているようだけど。」
「は、はい。いえ、大丈夫ではないのかもしれません。」
「そうだろうね。正直なのは良いことさ。ここで、本当に大丈夫なら、イカれてる。」
「私は、正常なのでしょうか。」
「うん。正常だと思うね。」
ヘルは私の頭を撫でた。
「君は見たところまだ子供だ。正直に甘えなさい。」
「は、はい!」
かなり心休まる。
これまで、自分に対してこんなに優しくされたことがあっただろうか。
自分のすべてを否定されても進んできた。
これを求めるだけに。
次第に目から水滴が垂れる。
雨というには少なく、涙にしては多かった。
その雫は、地面へと落ちる。感動している。私は。
「そんなにかい?もう少しで、終わると思うよ。これは。」
そんなヘルの予言とでも言える言葉は本当になった。
その日のうちに、戦場はただの国境になり、先ほどまでの出来事が嘘のように静かになった。
帰りの車は二人だけ。
その空間で私は、甘えた。初めて、自分のことを気遣ってくれた上司に。
ヘルの膝の上に頭を乗せて、眠りについた。
その後、部隊は解散になりヘルと会う機会はなくなった。
でも、寂しくはなかった。
認められていると感じるから。また会ったときに、ほめてくれると感じるから。
いくつもの任務を終え、数年が経過した。
屍を通ってここまで歩いてきた。
言い訳がテンプレートと化したときに、私は四星になっていた。
親には自慢げに帽子を見せびらかした。
誇らしく思ってほしかった。だって、あんなに応援してくれていたんだから。
確かに、両親はほめてくれたし、泣いて喜んでくれた。
それと同時に、結婚について聞かれた。
私もそんな年齢になったのだ。
もし、結婚するならば軍を辞めなければいけない。
そうでないと妊娠もできないだろうし、夫も気が気でないだろう。
でも、軍を辞めるとしても、やりたいことが一つだけあった。
ヘルに会いたい。
彼女に会って、自分のことを褒めてもらいたい。
だから、親にはもう少し待ってほしいと告げた。
あと数年。一年でも良い。待ってほしい。
そうすれば私は、思い残すことはないだろう。
また、春が来て、次の春までもが通って行った。
結婚を急かされて三度目の春が来た。
時期八星が決まった。つまりは、ヴァルモンド家の世代交代である。
そこの警備の任を賜った。
ヘルに会えるかもしれない。それだけが楽しみだった。
初めての宮殿。
宮殿にはヴァルモンド家の関係者しか入ることを許されない。
軍での階級は関係ない。
故に、このくらいのイベントごとでないと入ることはできないであろう。
「隊長。」
「どうしました?」
「俺らはこの辺で良いんすか?」
「ええ。この辺りの警備です。二人一組で回りましょう。」
「はい。」
私も小隊規模の指揮官だ。
部下に慕われているかは知らない。
でも、やりがいはあった。
仮面をつけた、者の後ろ姿を確認した。
それを必死に追いかける。




