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第四十八話

「第四十八話」


(昔話-理解者の背信)

・サーモ視点


 私には理解者が居なかった。理解者と表現するのが適切なのかは分からない。なんといえば良いのか分からないが、簡単に言うと、心を許せる間柄の者が居なかった。

 心の通い合った友人。

 尊敬できる良き師。

 切磋琢磨できる同僚。

 どれも叶ったことがない。


 私には悪口が似合っている。どうしようもなく。

 それを否定する手立ても、笑い飛ばす根性も持ち合わせがなかった。

 だから、すべてを甘んじて受け入れるしかなかった。


 惨めに思うことはなかった。それが当然だと思ってたから。

 不幸だとは思わなかった。恵まれた状態を知らないから。

 状況を一変したいと思わなかった。変化を恐れたから。


 女に生まれながら、軍人を志した。

 憧れたのだ。その気高き姿と忠誠心に。

 貴族の家に生まれた。地位は低かったが、両親からは十分な愛情をもらった。

 軍人になりたいと言うと、『結界』について教えてくれた。

 勉学と『結界』、体力作りに幼少期は費やした。


 でも、苦痛はなかった。自分がやりたいことなのだから。

 両親は応援をしてくれていたし。

 周りにはいつも仲間が居たから。いや、居た気になっていた。

 実際は違ったみたいだ。


 軍の学校へと入学すると、女は私しか居なかった。

 入学式では、不思議だと思っていた。

 でも、そのうちに性別の壁へとぶつかった。


 いつも始業のチャイムが鳴り響く。

 それは、授業の開始の合図なんかではなく、壮絶ないじめのスタートの音であった。

 優秀な結果を出すことは許されなかった。

 目立つ行為は許されなかった。

 交友関係を広げることは許されなかった。

 発言権なんてなかった。そういう空気が場を支配していたから。


 次第に手を抜くことが当たり前になっていた。

 誰とも口を利かないことが当たり前になっていた。

 一人で泣くのが当たり前になっていった。


 負けるわけにはいかないと思う度に、足元が重たくなった。

 休日に両親へ会いに行った帰りに泣くようになった。

 自分の疑問がどんどん大きくなった。

 そんな学生生活。


 学生生活が終わると、軍へと配属された。

 配属早々に、戦場へと送られた。

 国境付近では戦争が激化しているから、人員が足りないのだと言う。


 運ばれている車の中で、所属部隊の面々と出会った。

 一人は学生時代からの顔見知りで、いじめの主犯ともとれる人物。

 一人は目から光を失い、やる気に欠けた人物。

 一人は違う学校からの出身者で、緊張している人物。

 一人は仮面をつけ、何を考えているのか分からない人物。


 計四人を乗せた車は、戦場へと走っていった。


「今回から、同じ部隊で働くことになったね。よろしく。」

「よろしくお願いします。」


 と、いじめっ子。


「……」


 無言を貫く、軍人。


「よ、よろしく、お、お願いします!」


 緊張している人物。


「お願いします。」


 と私。


「私は、ヘル。君たちは?」

「俺はカイラム・ハート。」

「……ジュダ・フェイン。」

「ろ、ロウ・アレンです!」

「サーモ・ナヴァレン。」


 挨拶と同じ順番で名前を言う。

 若々しい面子だ。

 年寄りなどいない。珍しいな少数の部隊が、若いメンバーで構成されるのは。


「うん。悪くない面子だと思うよ。私が、この部隊の指揮官をさせてもらう。」


 ヘルと名乗った仮面の女性がこの部隊の指揮官らしい。

 それを聞いてカイラム・ハートが顔をしかめる。


「なんだい?ハート君、何か文句でもあるのかな?」

「いえ、指揮官殿。なんでもありません。」

「いやいや、部隊内でのわだかまりは避けたい。どうか言ってほしい。」

「では、お言葉に甘えて。なぜ、あなたが四星に任命されているのですか?」


 星。それは軍隊内での序列。いわゆる、等級である。

 一から八までの等級が存在する。


 一星。これは、一番下の位で最下級構成員を表している。

 二星。これは、一星から数年経過し、ある程度の昇給がある。仕事内容は一星と何ら変わらない。

 三星。ここからが結界師と呼ばれる者たちだ。軍へ入る前から結界が扱える貴族はここから始まる。

 四星。これは、小隊の指揮を任せられる立場だ。

 五星。これは、小隊ではなく、大隊の指揮官を務める。

 六星。ここからは現場の指揮官ではなく、内部で作戦立案や軍学校で教員を務める。

 七星。軍学校長や、各部隊の最高責任者であり、軍の顔とも言われる。

 八星。最高指導者。つまりは、ヴァルモンド家を示している。


 頭に乗った帽子に星が刻まれている。

 それが、軍での立場を示している。


 ヘルは四星。小隊の指揮官をしているのだから当然だ。

 これにカイラム・ハートは文句があるらしい。


「どういう意味だい。私は指揮官だ。当然のことながら四星以上でないと指揮官にはなれない。それを忘れたのかな?」

「いえ。そうではありません。なぜ、男性の指揮官ではないのか。それを問いています。」

「そういうことね。簡単だよ。」


 この国は、性別の差別が激しい。

 女性には女性の。男性には男性の仕事を割り振られる。

 現状の軍で四星以上の女性は片手で数えられる。


「私は優秀だからね。君たちよりも。ハート君は、三星。つまりは、入隊時に『結界』を扱えることになる。でも、それ以上ではない。」

「なんと?」

「君は教科書で覚えたことがそのまま体現できると思っている質かい?それだと重症すぎて私には説得のしようがないのだけど。」

「なっ!」


 カイラム・ハートが立ち上がる。

 何か言いたげである。

 しかし、言わない。

 軍で上官への口論は認められていない。それを破ることは許されていないのだ。


「なんだい?」


 ヘルは頭の星を指さしながら、嗤う。


「な、なんでもありません。」

「座ってなよ。危ないよ。」


 車の振動に眠りそうになりながらも、進み続ける。


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