第四十一話
「第四十一話」
人の多い大通り。
そこは誰もが鼻を伸ばして歩いている。
歓楽街と言うらしい。そこでは、女性が男性を勧誘している情景がよく見られる。
珍しくもなんともないその光景に、初めて見るものは戦慄を露にする。
そして、自分もその空気に溶け込むかの如く自分も店へと入っていく。
郷に入っては郷に従え。この言葉をそのまま、はめ込むことができそうな場所だ。
「お、おい!もっと、急げ!」
俺を急かす者が居た。
その者は、早歩きで道案内をしてくれる。
ありがたい限りである。しかし、その顔は迷子の子供を助けているというには荒々しく、子供を攫っているというには親切すぎる表情だった。
「兵士に見つかるなよ。」
「分かっている。ここまでしてもらって悪いな。」
「感謝になってないぞ。言葉と行動が伴ってない。」
俺は、生まれて初めて別の街へ来たので、その光景に見とれていた。
不思議な感覚であった。今までに感じたことのない興奮とでも言おうか。そんな、熱が自分の中に存在していた。
それを見て、主任の男は文句があるらしい。
「良いか?俺はすぐに帰る。これ以上は深入りしない。」
「ああ。分ってる。助かっているとも。」
「本当に口の軽い奴だなぁ………」
主任の男は早く帰りたいと言わんばかりに、ため息をこぼす。
数人の兵士とすれ違うが、俺には気づいていないらしい。
俺よりも真っ青な顔をしたこの男のほうが不審がられている。
「ここだ。この道をまっすぐに行けば、お目当ての宿に到着する。」
「助かった。ありがとう。」
「以外に素直なところあるじゃねえか。」
「何をしている!」
喜びもつかの間。
兵士が不審な二人に気が付いたらしい。
「い、いや、俺たちは!」
さらに怪しくなった。
こういう時は、無視が効果的であるというのに。
「怪しいぞ……あ!このガキ!!」
「お前!!!」
数人の兵士が走ってくる。
さすがにバレたらしい。
「お、おい!クソガキ!俺は関係ないからな!!」
剣を掴み、その哀れな兵士が自分の適正な距離に侵入したことを確認する。
そのまま、二人の兵士の首を落とした。
転がった生首の音は、街の喧騒でかき消されるが、数人の兵士は気づいたらしい。
こちらに近づいてくる。
「じゃあな。助かった。」
「お、おいおいおいおい!?ここでお別れか!?」
「なんだ。」
「なんだじゃない。この生首を見られたら、どうなる!?」
「どうもならんだろ。別に、剣を持っているわけでもないし。」
「居たぞ!ここだ!!!」
「さっきのガキと仲間らしい男が居る!!」
「仲間とかほざいたか?」
「ああ。そう聞こえたな。」
主任の男は極めて笑顔を作り、一言。
「殺すぞ。」
そうとだけ言った。
「悪いが、冗談を言っている場合じゃない。俺は先を急ぐ。ありがとう、助かった。」
「ちょっ!」
主任の男を置いて、その宿へと突入する。
宿は軍人の貸し切りらしい。
全員が武装している。
宿へと侵入してきた異物へ反応する。
「なんだガキ!!」
「こいつだ!!仮面の女と一緒にいたガキ!!」
俺は覚えられているらしい。
有名にはなりたくないものである。
その場にいる全員が俺に向かって銃を向ける。
しかし、この狭さでこの武器が輝かないのは知っている。以前に学習したことだ。
これがエレナの言うラッキーって言うやつか。
バァン!!
バァン!!
バァン!!
俺に向かって数段の弾が飛んでくる。
それが当たることはなかった。
避けることすらもなかった。
単純に当たらなかったのだ。
次は撃たせない。
数人の軍人の懐へと入り込む。
味方の近くへ行かれ、銃を撃つことができなくなった。
そうして、無防備になった数人の首を刈り取る。
死体とは言え、見方を撃つことができないらしい。慈悲深いというより、責任を負いたくないと表現できる。
そうして、その場に居た無防備な軍人たちを蹂躙した。訓練を受けているとは言え、武器を持っていない軍人は手も足も出ない。
案山子というには、あまりに棒立ち過ぎた。
どんな戦場よりも生ぬるい連中だ。
一通り終わって、エレナを探すことに専念する。
階段を見つけ、そこから上がっていく。
どこにあいつが居るのか分からない。
故に、手当たり次第に探していくしかない。
六階建てなのだろうか。
妙に長い階段である。
終わりなど見えないほどに。
随分と歩いた気がする。
息が上がる。それほどに疲れている。先ほどの軍人たちに疲弊したわけではない。
階段を上るのに疲れているのだ。ただの階段でこんなに疲れるわけがない。おかしい。何かがおかしい。
終わりのない階段。外見からは想像もできない、その長さに違和感を覚え始めたところだった。
「……」
馬鹿な俺でもわかる。
『結界』とか言うやつだ。どんな内容なのかは推測できないが、これは間違いない。
現実ではありえないことが行われている。
試しに銃をその場に置いてみる。
ここを何回も通っているのなら、これをもう一度拾えるはずだ。
そのまま歩き出す。
ドアが一向に見えない。それどころか、銃も見えなくなった。
同じところをぐるぐるしているわけではないらしい。では、どうすればいいのか。
簡単な方法を見つけた。
それを思いつかなかった自分が不思議なくらいに簡単だ。
剣を取り出し、力を込める。
その力の乗った剣を壁へと押し付ける。
壁は簡単に壊すことができた。
その壊れた壁の奥に見えたのは開けた空間。
階段に居ても、埒が明かないと思えたので、その空間へと足を踏み入れる。
「ようやく来たのか。僕の勝ちだが。」




