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第四十話

「第四十話」


・ノア視点


「あの子供はどこに行った!?」

「分からん。」

「見失った。」

「こっちを探すぞ!!」


 数人の兵士が走っていく。

 自分の存在に気付くことなく。


「おい。」

「なんだ。」

「なんだじゃない。出ろ。」


 俺は、エレナと訪れた馬車の受付へと隠れていた。

 脅して、匿ってもらったわけだ。

 それに対して、この男は苦言を呈したいらしい。まあ、当然か。


 この男は、主任と呼ばれていた者である。

 脅したとはいえ、匿ってもらったことには感謝しなくては。


「助かった。」

「お礼が言えるんだな。驚きだ。」

「当然だ。言える。」

「保護者の姿が見えないが。」


 保護者とはエレナのことである。

 あんなの保護者でもなんでもないことを理解したうえで煽っているのだ。脅してきた仕返しのために。

 大人のくせに情けない。もっと寛容に目覚めてほしいものである。


「悪かった。少し、急ぎだったから。」

「そうだな。急いでいたなら仕方ないよな。いきなり、飛び込んできたかと思ったら、剣を首元へ押し付けて殺すぞと脅してきても、急いでいたんだから仕方がないよな。急いでいたんだものな。」

「ああ。仕方がない。」


 こんな皮肉みたいな悪口をいつまでも聞いている場合じゃない。

 エレナは別行動と言っていたが、何をしろとも言われていない。これは、助けに来いということなのだろうか。

 なんにしろ、一人では馬車を捕まえることなどできそうもないので、エレナを迎えに行くことにする。


「おい。」

「なんだ、クソガキ。」

「さっきの連中の場所に案内しろ。」

「さっきの……?ああ。軍人のことか?」

「呼び方を知らん。ぐんじんと言うのか。なんでも構わないが、案内しろ。」

「お断りだ。絶対にそんなアホな真似はしない。」

「また、剣を押し付けないとだめなのか?」

「今度はそうはいかない。何をされても絶対に断る。」


 頑固な野郎だ。

 しかし、こいつの案内がなければ、目途が立たない。

 どうしても案内してもらわなくては困る。


「どうすれば、案内する。」

「はぁ……。良いか、クソガキ。あれは、【ルメレイン】から【アルカンシア】までの領土を取り仕切るヴァルモンド家の軍隊だ。あんなのに喧嘩を売ったら、この街は一日で廃村以上に壮絶なことになる。あれには、関わらないほうが良い。」

「度胸がないな。」

「煽っても無駄だ。ママがいなくて寂しいなら、その辺でナンパしてこい。」

「あれは母親じゃない。」

「んなことは分ってる。からかっただけだ。いちいち説明しなきゃならんのか。」


 どうすれば協力してくれるだろうか。

 俺の頭をフル活用しても無駄に終わりそうだ。


「頼む。」

「だからな……」


 その哀れな子供を慰めようとしたのか、それとも不憫に思ったのか、良心が傷んだんだの分からないが、主任と呼ばれた男はその硬い口を動かした。


「……分かった。一言だ。一言だけ独り言を言うぞ。よく聞け。」


静かにうなずく。

 それが答えなのか、はたまた、その哀れなガキをどこかへ行かせるための口実なのかは判断できない。

 でも、唯一の手掛かりを失うわけにはいかなかった。


「歓楽街の裏に、軍御用達の宿がある。そこに最近ヴァルモンド家の軍人が入っていくのを見た者がいる。俺が知ってるのはこれくらいだ。とっとと行け。クソガキ。そして、帰ってくるな。」

「分かった。それはどこだ。」


 主任の男の顔が歪み切ったのを見た。

 何かおかしなことを聞いただろうか。


「……今聞こえなかったのか?」

「ん?ああ、歓楽街?の裏に宿があるんだろ?聞いてた。それはどこだ。」

「ああ、この街の地理を知らんのか、ほら、地図だ。」


 大きな紙を手渡される。

 それは地図であると教えてくれた。

 しかし、読めない。それどころか、地図を見るのが数回しかないために、これが地図であると教えられなければ判断できなかった。


「助かる。それで、エレナはどこだ。」

「……?」


 主任の男は不思議そうな顔を見せる。


「は?」

「エレナはどこだ。」

「俺、もしかして、聞き間違いをしたのか……?なんて?」

「エレナはどこにいる。説明しろ。」


 疑問そうにこちらを覗き、何かを理解したかのようにうなずいた。


「そうか。俺の言葉が理解できなかったのか。」

「違う。文字も読めんし、地図も分からんからだ。」


 主任の男は頭を抱えた。

 わかりやすく絶望していた。


「ま、待て。ちょっと整理したい。ということは……」

「ああ。案内してほしい。」


 主任の男は、さらに頭を抱えた。

 そう。言葉で説明しても、無駄で。地図を渡しても、無駄。

 となると、どうするのか。おのずと答えが見えたらしい。


「い、いやいや、俺は行かんぞ。だ、だって教えたんだ。それに、親切に地図まで渡した。そのうえで、現地まで案内する……?無理無理。だって、軍人に目をつけられたらどうなるか分かったもんじゃないぞ。」


 独り言も随分と大きくなったものである。

 心の声が駄々洩れだ。


「頼む。教えてくれないか?」

「く……。」


 大いに悩む。

 その哀れなガキに道案内をしてやるか。

 それとも、無視をするのか。彼の良心と言おうか、常識のようなものが揺らいでいた。


 「いや、いやいやいやいやいやいや、待て待て待て。ちょっとちょっとちょっと。落ち着け落ち着け落ち着け。おれ、は、俺は、俺は!」


 この言い合いはそれほど時間がかからなかった。

 唯一提示された条件が自分と無関係を貫けというものだった。


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